透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
「ミスティ……ミスト、霧、霞ってことかしら?」
「そうですね。安直かなとは思うんですが、わかりやすいかなって」
「イイネ! アタシもピンキーだし!
「ワイなかま、とは」
「逆に仲間外れになってしまった姉である」
「
ワイワイがやがや、と楽しいお昼の時間が過ぎていく。
「爆豪相手に一歩も引かなかったのは凄かったよなー」
「流石に完敗だったですよ。爆豪くんが真面目にやってくれたおかげで試合になりました」
「爆豪が……真面目……?」
「試合前にチャージとかされてたら、何もできずに爆破されてオシマイでしたし。私が彼の個性を持ってて、絶対に勝ちたいならそうします。まあ二回戦程度で使うような手でもないですけど」
「いやいや、アイツは妹ちゃんのこと甘く見てたって」
「舐められてるのは感じましたねー。……まあリボンで首絞めなんていうズルい手を使ったのはコッチなので」
「素手だときついよねぇ。透明だけだと。せめて遮蔽とか欲しいもん」
「相性で言うと切島くんとか絶対に当たりたくなかったですね。一撃でやられない程度に硬くなられて待たれたら何もできません」
「そうは言うけど、じわじわ粘られたら息切れするかもしれないぜ?」
「狙うならそれぐらいしかありませんねー。目潰しや股間も硬化で防がれるでしょうし……」
「狙いどころがエグイ!」
「尾白くんみたいにパワーがあればなんとかなるんでしょうけど……。一回戦負けとはいえ、プロからの指名もちゃんと来たんじゃないです?」
「おう! 40来たぜ!」
「勝った俺のほうが少ないんだよな。やっぱ地味か……」
「アタシも上鳴に勝ったのに全然少ないよ!」
「俺の方には247も来たもんなー。ヤオモモより来るとは思わなかった。騎馬戦での派手なぶっぱが効いたのかもな」
「一年生だと勝ち負けよりも、やっぱり個性がメインなのかしら」
「雄英つっても、入って一か月程度だとまだまだ素材の味ってことなんだろうなぁ」
「そいえば轟くんと爆豪くん、どっちが指名多かったんです? 指名を集めるならあの二人ですよね」
「トップは轟が4000、爆豪が3000オーバーだったかな?」
「わぁー」
「ちなみに、
「え゛っ」
「流石に霞と取り違えたか何かかもしれないので、相澤先生に確認をお願いしたよ……。同じことができるわけじゃないからね」
「ご、ごめん……」
「妹さんは指名来てないの?」
「数とどこからかは聞いてないんですけど、若干名来たそうです。たぶん2、3ぐらい? でも普通科なんで職場体験には行かないってことになりました」
「そうなんだ」「なんで?」「普通科だと授業あるじゃん」「あ、そっか」
「んー、霞の指名と照らせば、もしかしたら姉妹セットで指名したかわかるかもって思ったんだけどなー」
「あー……。今度、先生に聞いておくね?」
「べつにいーよー。職場体験は指名の無かった人用のリストの方から行こうかなって思ってるし」
昼休みの時間は、おおむね、和やかに過ぎていった。
同日同時間帯、雄英高校教職員用会議室。
根津校長を中心に、ミッドナイト、イレイザーヘッド、ブラドキング、セメントス、13号といった特別編入カリキュラムに関わる教師陣が机を囲んでいた。
昼休み時間に設けられた会議時間は長くない。根津校長は手短に開会の音頭を取ると、早速ミッドナイトに報告を求めた。
「今朝、二人にはカリキュラム卒業内定と、ヒーローからの指名があったことを伝えました」
そして、事前の話し合い通りに職場体験への参加を勧めないことを伝えたこと、伝える前から二人は行く気がなかったことを報告した。
それを受けて、根津校長は「賢明な二人なのさ」と満足気に頷いた。
「それなら予定通りに。相澤くんも問題ないね?」
「はい」
声を掛けられた相澤は了解し、それからふと思いついて、口を開いた。
「すみません、本件とは直接の関係はありませんが……。葉隠姉――葉隠透から彼女宛の指名について、妹との混同ではないかと確認を受けました。それからこちらの判断で指名がなかった生徒用のリストを渡しています」
「ふむ? 確かに双子で同じ個性だからと、ヒーロー科の方を選んだ可能性はあるね。そういうつもりかどうか、あるいは単純に勘違いしていないかを確認するのは構わないさ。リストの方も了承するよ」
「ありがとうございます」
頭を下げる相澤に、根津校長はにっこりと笑顔で手を振って返した。
「二人の編入試験の時期と内容については、また後日、しっかり時間を取るとして、その他の生徒についての報告を」
「カリキュラム生から離脱の申し出を数名受けています。感触としてはもう少し増えるでしょう。残るのは半数を切るかと。そして逆に、途中参加はできないのかという問い合わせも来ています」
「やはり体育祭でレベル差を感じた生徒と、逆にもしかしたらと希望を抱いた生徒が出てきたね」
「人数が減るとなると、授業の体裁を整えるのが難しくなります」
「途中参加を認めようか。いずれにせよ今年いっぱい、三学期までの長期計画だからね。1か月ぐらいはどうとでもなるはずさ。……おや、サポート科の彼も離脱するのかい。授業の成績は良い方だったと思ったけれど」
「サポート科の勉強に専念したい、と言うことでした」
「なるほどなのさ。サポート科でしっかり学んでからでも、ヒーローを目指すのは遅くない」
いくつかの書類と報告を交えながら、順調に会議は進み、確認すべき事項を確認し終える。
「よし、こんなところだね」
「なんとか昼休みの時間で終わりましたね」
「昼飯をかっ込んだ甲斐はありました」
「…………」
「いつもゼリーで済ませてるから関係ないって顔しないで相澤くん」
真面目な空気がほどけた会議室であったが、根津校長が一枚の書類に気づいて動きを止めた。
「――これを忘れていた。いや、あまり考えたくなかったので後回しにしていたんだった」
その一言で、再び空気が引き締まる。
何事かと、教師陣は根津校長に注目した。
「葉隠霞さんに――公安委員会からのスカウトが来ている」
そして放たれた言葉に、会議室は騒めいた。
「公安が? 体育祭で活躍したとはいえ、普通科の生徒ですよ?」
「中学時代から目をつけていた、ということだろう」
「去年の事件、ですか。校長自ら身辺調査を行ったとは聞いていますが」
「そうさ。彼女は去年、
「知名度で言えば、ヘドロ事件が圧倒的ですが、あれはあくまで突発的なヴィラン犯罪。一ルートとはいえ組織犯罪の摘発のほうが、公安並びに警察組織としては評価が高かった……?」
「うん。そして、事件後の対応もまた公安としては都合がいいものだったみたいだ」
「事件後の対応?」
「感謝状を固辞。それどころか事件の立役者であることをひた隠しにした」
ヒーローになろうとする子は目立とうとすることが多い。人気商売としての面もあるので、それは悪いことではない。
しかし公安――ヒーロー公安委員会が求める人材としては不適格だ。
公安の仕事は社会全体の調和を守るために、より人の世の影の部分を支えることが求められる。
その中には汚れ仕事も多くあるだろうし、世間の目に触れてはいけない仕事がほとんどであろう。
必然的に、それは現在社会において知られるヒーローとしての姿からはかけ離れた存在にならざるを得ない。
そうでない仕事は普通のヒーローに依頼すればいいだけなのだから。
もちろん、表向きの仕事と裏の仕事、うまく両立することも言葉の上では可能だろうが、容易いことではない。
「彼女は裏方として活動することに慣れていて、目立ちたがらない。そういうところも公安は良しとしたんだろうさ」
「……いずれにせよ、葉隠に進路を問うには時期尚早です」
「それは同感だね。まずはヒーロー科編入への道筋をこちらで用意しなくては」
「指名についても興味がなさそうで助かったわ」
「良い材料と捉えるなら、編入制度の改革を後押ししてくれる存在が一つ増えた、と言えるかもなのさ。早く彼女をヒーロー科に入れて欲しいと思っているはずだからね」
少し、いや結構緊張しつつも楽しかった昼休み、それから午後の授業を終えて、放課後。
香山先生から「職員室じゃなくて、生徒指導室の方に来てちょうだい」と言われたので、私――葉隠霞は心操くんと二人で向かっていた。
「ということで、週1回ぐらい、お姉ちゃんとお昼することになりました。心操くんもいかが?」
「俺はいい」
「そっかー。まあそう言うかなとは思ってたけど。あ、でも、お姉ちゃんはちゃんと話したいって言ってたから、一回はお願いします。姉だけとか、つけても尾白くんと青山くんまでにするので」
「あー……、わかった」
馴れ合うつもりはない、という態度の心操くんだけれど、私を通じて間接的に姉にも恩があることを理解していた。
私としてはA組やヒーロー科の人たちはいずれ仲間になるかもしれない人たちなのだが、心操くんにとっては今でも後でもライバルというポジションなのだろう。
それでも姉と、騎馬戦で組んでくれた尾白くんと青山くんぐらいなら大丈夫だろう。青山くんは持参した食事しか摂らないらしいけど。
ヒーロー科の話を直接聞ける機会だし、そう距離を取ることも、遠慮することもないのにね。
「生徒指導室、ここかな」
職員室の近くで目当ての部屋を見つけた。念のためにノックして、失礼しますと声を掛けてから扉を開ける。
人の気配はなく、まだ先生は来ていないようだった。
テーブルサイズの机と椅子が四つあるシンプルな部屋を、なんとなくぐるりと回ってから、並んで席に座った。
初めて入る部屋だけど、中学の生徒指導室も似た雰囲気だった。名前と用途が同じだとやはり似通うものなのだろう。
「なんか慣れてるな?」
「雄英だと初めてだけど、中学の頃はちょいちょい入りびたってた。風紀委員の部室みたいな感じで」
一番入りびたっていたのは流石に図書室だけど。図書委員だったので。
しばらくお喋りをしながら待っていると、ドアが開いて誰かがやってきた。
一人は「おまたせ」と我らが香山先生。
そしてもう一人ついてきており、その黒い人影の先生は――相澤先生だ。
きちんと姿を見るのはいつ振りだったか。ミイラ男のようだった包帯は取られていた。
「1年A組担任の相澤消太だ」
知っているとは思うが一応な、と自己紹介をしてくれる相澤先生。
こちらが知っているからという判断なのか、それともヒーロー名は名乗らないのが流儀なのか、抹消ヒーロー『イレイザー・ヘッド』の名前は出なかった。
私と心操くんはびっくりして起立しつつ「葉隠霞です」「心操人使です」と返した。こちらも当然知られているけれど。
そして、相澤先生は私たちを一瞥した後、おもむろに切り出した。
「そして今度、君たち二人の特別授業を担当する」
……特別授業? と私も心操くんも疑問符を浮かべた。
「ちょっと相澤くん、それじゃあわからないでしょう。順を追って説明します」
相澤先生の隣の香山先生は苦笑して、説明を始めた。
「ヒーロー科が職場体験に行くって話はしなくてもいいわね? その期間中、今年の普通科では副教科としてのヒーロー科授業を集中的に行います。主に午後にまとめて。内容はヒーロー情報学とかの座学中心で、少しだけ基礎学の実技もやる予定よ」
ヒーロー科の職場体験は一週間、正確に言うなら平日の五日間。
当然その間、1年A組・B組は学校での授業が無い。
例年、1年のヒーロー科授業を担当する
「――けれど、あなたたち二人にはそんな授業は要らないわよね。カリキュラムで配布した問題、ちゃんとやってるでしょう?」
「はい」
「いちおう」
特編の授業数はUSJ事件のせいもあって予定の半分を超える程度しか行われていなかった。
しかし、座学用のレジュメと問題の配布は予定通り行われていて、その内容を姉の授業ノートと照らし合わせると、ほとんどヒーロー科の授業進行と同じであった。元々ヒーロー科の補講用の教材だったのだと私は予想している。
つまり、真面目に教材と向き合っていれば、座学においてはヒーロー科とほぼ同等の学修ができていた。
「来週の中間試験、特別編入カリキュラムで希望する生徒には追加でヒーロー科の筆記試験が受けられます。あなたたちはそれを受けて、合格点……まあ赤点じゃなければいいけれど、できれば充分な点数を取ってちょうだい。そうすれば普通科生徒としてのヒーロー科授業は免除できます」
普通科としてのヒーロー科授業を免除、そしてさっきの相澤先生の『特別授業』という言葉。
ここまで言われれば察しはついた。
私はこっそりと隣の心操くんの様子を窺った。
彼の目に浮かぶのは少しの緊張と、――期待。
「俺も通常ならヒーロー情報学の授業があるが、短い時間に詰め込むならビデオを流しておく方が効率的だし、代理をミッドナイトさんに頼んでいる」
「承りました。二人の授業姿を見れないのはちょっぴり残念だけどね!」
可愛くウインクする香山先生。ああ、確かにそれは私も残念だなぁ。
けれど――それを補って余りある、時間を用意してくれるのだ。
そして相澤先生はニヤリと悪そうな顔を作って笑った。そうと知らなければ悪党にしか見えない表情だった。
「ヒーロー科どころか1-Aの誰もまだ受けたことがない俺の直接指導、――受ける気はあるか?」
挑発的ともとれる態度は、実際に私たちの反応を誘っていた。
私は、姉の先を行くことになるのか、ということに少しだけ考えてしまっていたが、
「――――はい!」
隣の彼は迷いなく、はっきりと、真っ直ぐと、先生に答えていた。
見なくてもわかるほど、心操くんの心は燃えていた。
その熱を、彼の光を幻視して、眩しく思いながら、私も続いた。
「よろしくおねがいします」
香山先生は嬉しそうに頷いて、相澤先生も「よし」と呟いた。
以上で話は終わり、解散となったのだが、私は相澤先生に呼び止められた。
「すまない。葉隠だけまだ少し残ってくれ。話がある」
「――――?」
心操くんと香山先生が退室して、相澤先生と二人残された。
なんだろう、私、何かやらかしたか、それとも何かしらバレたのか?
いや大したことは雄英ではやってないぞ。体育祭のルール破りギリギリなこととかか?
などと私が考えを巡らしていると、相澤先生は少し目を伏せてから「入試の件だ」と切り出した。
「葉隠は既に校長たちから正式に謝罪を受けていると聞いている。だからこれは俺の個人的な感情によるものだ」
「あ、はい。そうですね」
入試での事故の件だったか。確かに合否通知の時に、校長先生と香山先生から直接謝罪を受けていた。
「あの時、俺も試験官として入試を監督していた。だが、事故が起きていることに、葉隠が試験会場に取り残されていることに気づけなかった。そのことをあらためて謝罪したい。――――すまなかった」
そう言うと相澤先生に、頭を下げられてしまった。
「…………」
私は言葉が出なかった。
何と言っていいのかわからなかったし、私の中ではもう体育祭を経て、入試のことには区切りがついていたのだ。
それに、相澤先生は個人的な感情、と言っていた。
合理性を重んじる相澤先生、そんな彼の私情というのはなんともミスマッチで、不可思議だった。
だが、彼の言葉と下げている頭は真剣そのもので、――本当になにか、思うところがあったのだ、と直感できるものだった。
「えっと……。ありがとうございます……?」
「一歩間違えば、発覚が遅れれば、君の命は危なかった。――今こうして無事に生徒として
よくわからないけれど、相澤先生は罪悪感を覚えていたらしかった。
根が真面目で善良な先生なのだな、とわからないなりに私は思ったのだった。
A組生徒の指名件数について。
・轟くん、常闇くん、飯田くん、八百万さん、麗日さん、瀬呂くんたちは原作と変わらず。
・爆豪くんは、切島くん戦がなくなり女子2連戦となったため、少し減りました。
・上鳴くんは、塩崎さん戦がなくなり決勝の舞台で全力放電をする機会がなかったので微減。
・切島くんは、鉄哲くん戦がなくなり尾白くんに敗れたため、28ほど尾白くんに奪われました。
・尾白くんは、切島くんに勝利したため、その分の指名を得ました。
・芦戸さんは、青山くんではなく上鳴くんに勝利したため、その分の指名を得ました。相手の自滅ではないカタチだったのでそこが多少評価された感じです。
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じわりと更新が遅くなっていて、申し訳ないです。
どうにか巻き返したい気持ちはありますが、中々原作キャラ(特にA組生徒)の口調・会話に自信が持てない……。
ともあれ、ちょいちょい原作から外れている部分が出ているのでそこは頑張らないと。頑張ります。
(でも気分転換に2章の後書き的なやつ書きたい気持ちもあります)
次話は職場体験期間に入る予定です。