透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮)   作:峰下抄

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 アニメの職場体験・蛙吹さん回的なお話のつもりで書いていたら1話に収まりませんでした。


32.透明少女の職場体験(1)

 

 

 5月下旬の月曜日。雄英高校ヒーロー科1年生、職場体験期間の開始日。

 

「――コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」

 

 雄英高校最寄り駅の広場で相澤先生の注意喚起の声を、私――葉隠透は手持ち無沙汰気味に聞いていた。

 そして、じゃあ行け、と号令が掛かり、A組生徒(クラスメイト)たちは各々目的地に向かうべく散っていく。

 私も三奈ちゃんに別れを告げて、目当ての路線に向けて歩き出した。

 

「あれ、葉隠、同じ方向? ていうかコスチュームは?」

「コスはちょうどメーカーに送ってたタイミングだったの。職場体験先に送ってくれるってー」

「ふーん」

 

 同じ路線のホームへ歩いていた峰田くんが私に気づいて声を掛けてきた。

 彼の言う通り、私だけコスチュームを収めたケースバッグを持っていなかった。先週末からメーカー預かりとなっていて今手元にはないのだ。

 入学直後にコスチュームのメーカーに連絡し、毛髪サンプルを提出して特殊繊維の作成依頼を出していたのだけれど、流石に透明なコスチュームというお題には色々と難航していたようだった。

 それでも今朝になってようやく「試作品がいくつかできました……」と担当の方から職場体験に間に合わせるために奮闘したであろう様子が窺える連絡が来たのだった。

 詳細はコス付属の取説を見てください、と力尽きたように連絡は終わっていた。

 

(被服控除申請から入学後の授業で初めて着るまでって、だいたい1か月ぐらいだったけど……やっぱり特殊繊維って大変なのかなー)

 

 制作期間は通常の日程よりかは時間があったはずだけど、透明な毛髪から作るとなるとそう簡単には行かないのだろう。

 進捗が芳しくない旨の連絡は来ていたのでちょっぴり諦めムードであったのだが、まさか職場体験に間に合わせるとは思わなかった。メーカーさんにはしみじみとした感謝の気持ちが湧いている。

 

「ちなみに峰田くんとおんなじトコだよ」

「マジで!?」

 

 教室で高々と「オイラはMt.(マウント)レディ!」と宣言していた峰田くん。清々しいまでの下心の発露だった。

 素直にそういう欲望を出すところまでは、まあ男子だしなぁ、と微笑ましく思えるところもあるのだけど、彼の場合は割とラインを越えてくるのが問題である。

 これで本人はモテたい願望があるというのだから、不思議である。目標と行動が噛み合っていない。

 

(黙っていれば……そうじゃなくても言動に気を付ければ、割とコミカルでカワイイ系キャラとしてウケる要素はあると思うんだけどなー)

 

 ヒーローネームといい、名前のレタリングとかオシャレだったし、センスは感じる。

 そしてその全てを、普段の言動で台無しにしているのが峰田実という男子高校生なのだった。

 

 

 

 目的地のMt.事務所は県内に在るので移動時間はそこまで掛からなかった。

 掛からなかったのだが、事前に妹と一緒に調べたら、

 

「あれ? 事務所何度か変わってるね? 今の事務所どこ?」

 

 とデビューして一年ぐらいなのに少なくとも三度は住所が変わっていたのだ。

 流石に学校から貰った事務所情報が最新だと思うけれど、いちおう気にはしていた。

 懸念は杞憂に終わって、無事に事務所に到着する。四階建てぐらいのお世辞にも綺麗とは言えない、言ってしまえばボロくて小さいビルに、でかでかとMt.事務所の看板が掛かっていた。

 テナントっぽい1階部分はシャッターが閉まっていて、階段を上った2階に入り口らしきドアとインターフォンがあった。

 私は峰田くんと目配せをして――あ、目合ってないな、ていうかスカートから覗けないかチラ見したな、こやつ――私がインターフォンを押した。私も身長が高いほうではないけれど、峰田くんの小児体型に比べれば圧倒的に普通体型である。

 呼び出し音が響いて、数秒後、インターフォンのスピーカーから男性の声がした。

 

「はい。どなたでしょうか」

「雄英高校ヒーロー科の葉隠です」「峰田です」

 

 誰何(すいか)に答えると、2階は応接用のフロアなのでもう一つ階段を上がって3階に来てくれと言われた。

 言われた通りに3階にあがると、ドアロックが解除される音と「入っていいよ」とここにもあるインターフォンから声がした。

 自動ロック機能のためなのか少し重たく、ビルの年季と釣り合わない新調されたと思しき真新しいドアを開ける。

 すると、インターフォンの声の主、山の字をデザインした仮面をつけた男性が私たちを迎えてくれた。

 

「ようこそ。Mt.事務所へ」

 

 自己紹介をしてもらうと、彼はMt.レディのサイドキック兼マネージャーである、ということだった。

 会議室らしい机と椅子だけの部屋へ案内されて、まずは職場体験のための諸手続きを済ませる。

 学校で用意してきた守秘義務や危険と隣り合わせであることの同意書の類を提出して、事務所のカードキーを受け取った。

 

「3階の入り口は関係者用でオートロックなんだ。普段は暗証番号で出入りできるけど、事務所に誰も居なくなる時はそのカードでロックをかけるから」

「夜とかですか?」

「不定期だね。単純に俺とレディの外出が被ることもあるし、宿直で夜に事務所待機することもある」

 

 サイドキックさんは昔は一応戦闘もこなしていたけど、何年も前に大きな怪我をして以来、事務方に回っているそうだ。

 元々サポート向きの個性――眼が良いタイプのちょっとした異形型だそうで、ふいに見るとびっくりするような見た目らしく、仮面をつけてるのもそれを隠しているのだとか――だったので、裏方やサポート役には適性があり、何人かのヒーローのサイドキックを受け持ってきていたプロのアシスタントのような経歴なのだという。

 そして、去年までサイドキックをしていたヒーローがこちらも怪我を理由に引退してしまい、事務所とサイドキックだけになってメインのヒーローが不在になっていたところに、Mt.レディが後釜に入って今の事務所が立ち上がった、という経緯らしい。

 しかしその事務所もMt.レディがうっかり『巨大化』の個性を暴発させて――それも複数回――崩壊させてしまって、引っ越しを余儀なくされたそうだ。

 派手で見映えのする個性だと思っていたけれど、調整不可とは難儀な個性だった。調整とか部分巨大化とかできたらもっと便利だったのだろうなぁ、と思う。

 

 ……と、雑談に近い話を続けているとドタバタとした足音が近づいてきて、勢いのままにドアが開いた。

 

「――もう雄英の子たち来てる!?」

 

 なんで起こしてくれなかったの!? とサイドキックさんに詰め寄るのは事務所の主であり、私と峰田くんが職場体験先に選んだMt.レディその人だ。ヒーローコスチュームを着ているが寝起きなのか、寝ぐせがついている。

 隣に座る峰田くんのテンションが「うっひょおおお」と急上昇していた。さっきまでサイドキックさんの話には、男の話なんか聞いてもなー、と興味薄げだったのに。

 

「そろそろ起こすつもりではいたよ」

「もう! これじゃあ私がだらしないヒーローみたいじゃない!」

「二人に説明しておくと、彼女は昨晩、夜の当番待機でね。それが出動要請が掛かって運悪く朝方までフル出動するハメになっていたんだ。俺が言って仮眠を取らせたんだから、彼女に非はないよ」

「職場体験の期間中のシフト調整したら、前日に宿直で、それがまさかまさかよ……」

「いつもならもう少し仮眠も取れたんだけどねぇ」

 

 大変なんだなぁ、という感想を抱くしかない。

 そしてごめんなさい、Mt.レディ。普通に寝坊してたんだと思ってました。

 サイドキックさんから「いいからちょっと髪の毛直してきなさい」と言われて、一旦彼女は身嗜みを整えに行った。

 その間にサイドキックさんがお茶を淹れてきて、少し待つと先ほどよりはしゃんとした姿のMt.レディがやってきた。

 

「あらためまして、Mt.レディです」

 

 よろしくお願いします、と私と峰田くんは頭を下げた。

 

「彼女、雄英生が二人も来るからって、結構気合い入れてたんだよ」

「余計な事言わないで」

「手当も二倍だって喜んでた」

「その口、縫い合わすわよ!?」

「こんな感じで若くて愉快な彼女だけど、結構真面目にヒーローしてるから、よろしくね」

 

 サイドキックさんに軽く流されて、むすっとするMt.レディ。

 うん、かわいいな、このひと。人気が出るのもわかる気がする。見習いたい。

 

 

 

「葉隠さんはどうしてウチを選んだの? あ、峰田くんはいいわよ。わかるから」

 

 お茶とお茶菓子で一息を入れたMt.レディが訊ねてきた。

 峰田くんが「えっ!?」って顔をしてるけど、まあ彼女が現れた時の顔と態度で察せられるよね。

 えーっと、理由はいくつかあるけど、どう答えればいいのか。

 

「気楽に聞かせてちょうだい。別に査定とか評点するわけじゃないから。純粋な興味よ。ほらウチって新人事務所だから、どういう需要があったのか気になるのよね」

 

 そういうことなら、と私は少し考えながら口を開いた。

 

「私、少しだけ指名が来てたんですけど、同性のヒーローの指名はなかったんですよね。まず同性でできれば若くて人気のあるヒーローがいいなって思っていて」

「ふむふむ」

 

 ここだけだと峰田くんと大して変わらない志望理由だなぁ。

 

「その点、Mt.レディは去年デビューして結構いきなり人気が出てるので、そこは素直に気になりました。勉強になるところ多そうだなって」

 

 年齢も23歳。大学のヒーロー科で資格を取って下積み(サイドキック)を経ずに即ヒーローとして人気を確保しているのは普通に凄いと思う。

 

「個性の『巨大化』なんですけど、使ってないときでもお強いですよね。私は個性が直接的な攻撃力には繋がらないので、体術の指導も受けられたらなって思ってます」

「あー、そうね。巨大化できない場面でも戦わざるを得ない時でもいくらかは戦えるように鍛えてるわ。そうじゃなくても、巨大化したときのベースになるから動けないとダメなのよね」

 

 私の言葉に、なるほどなるほどと頷くMt.レディ。

 

「あと、もう一つあって」

「なにかしら」

「ヒーローコスチューム。巨大化した時に破けずに伸びてるのって、特殊繊維、ですよね?」

 

 私から問いかけると、そうだけど? と彼女は首を傾げていた。

 彼女には私のコスチュームがここに届くことが伝わってないのかな、と思ったところで、サイドキックさんが言う。

 

「ああ、それでキミのコスチュームがウチに届くって話か」

 

 なんのこと? と右から左に首を傾げるMt.レディにサイドキックさんが「彼女のコスチューム、リメイク中だったのがウチに届くって今朝連絡があったんだよ」と伝えていた。

 

「私、自分の個性(透明)を活かそうと思って、手袋とブーツだけのコスチュームだったんですけど――」

「それはちょっと思い切りが良すぎるわね!?」

「妹からも大反対されて、特殊繊維でのスーツを頼んでみては、って言われてメーカーにもお願いをしてたんです」

「それは妹さんが正しい……。……妹さんって決勝に残ってた子よね。あれ? あの子は自分の服とか透明化してたみたいだけど」

「私はアレができないんですよねー。ただ自分が透明なだけの個性なんです、今のところ」

「なるほど……」

「それで個性に追従するっていう特殊繊維の存在を知って、実際に実戦で使ってるヒーローの話も聞いてみたいと思ったんです」

「私のコスも確かに特殊繊維使ってるわね。特別伸びやすい素材使ってたけどギリギリだったのよね、特殊繊維にしてから余裕を持って動けるようになったわ。……でも結構メンテも要るのよね。しばらく着てなかったら普通の服みたいになってたし……」

「そういう話です! それが聞きたかった!」

「今使ってるバージョンのコスチュームが全部メンテ中だった時に、仕方なくずっと使ってなかった前のやつを着たことがあったんだけど、巨大化したら伸びが悪くてビリビリになったのよ……」

 

 峰田くんが、知ってる! バズったやつ……! という顔をしていた。そういう話題には詳しいね。

 

「特殊繊維って一口に言っても色々あって、私のは髪の毛を使ってる割と一般的なタイプなんだけど、繊維は繊維だから古くなるのは避けられないのよね。そうじゃなくても『身体に馴染む』かどうかって大事で――」

 

 そうしてMt.レディは惜しげもなく自身の体験談を話してくれた。

 特殊繊維に於ける配合率の調整や、配合率が同じでも生成方法の違いで性能や個性追従性に差が出るせいで、やはり試行錯誤の期間は長かったのだと言う。

 配合率を高めるほど身に良く馴染むけれど、それは髪の毛で出来た服を着ていることに近くなるため、コスチュームとしての性能はおざなりなものになってしまう。

 ヒーローが身を守るためのコスチュームとして十分な耐久性や防御性能、そして衣装としての快適性と言った要素を少しずつ詰めていったそうだ。

 

「個性関連技術は日進月歩で、私が仮免試験でヒーローコスを作ったのが四年ぐらい前だから、今よりも大変だったというのはあるわね」

「私の透明な髪の毛は、そもそも扱いが難しいみたいで……」

「あー、葉隠さんだとそうよねぇ……」

 

 などと話をしていると、ピンポーンとインターフォンの音が響いた。

 サイドキックさん立ち上がって、部屋の壁面の小さなモニターで確認する。話をしていたコスチュームが届いたようだった。

 

「葉隠さんも来てくれ。本人が受領するほうが良さそうだ」

「わかりました」

 

 私はてっきり配送業者が来たと思ったのだが、コスチュームメーカーの人が直接届けに来ていた。

 ヒーロー関連のアイテムは機密も多いので、普通の配送業者には頼まず専用の業者を使うか、メーカー社員が直接届けるほうが安全で確実らしい。

 配達伝票ではなくA4用紙の受領書に署名をして、封をされたケースの受け取りを完了した。

 ここ以外にも外回り先があるのだというメーカーの人を見送って、私とサイドキックさんは元の会議室に戻る。

 

「…………」

「――はっ」

 

 戻ると、Mt.レディが椅子に座ったままうつらうつらと舟をこいでいて、峰田くんがこそこそと接近しようとしていた。

 慌てて席に戻って姿勢を正す峰田くんに、私とサイドキックさんの気配で「……うん?」と目を覚ますMt.レディ。まだだいぶ眠そうだ。

 

「レディ、午前中は俺が事務所内の仕事とかを説明するから、もうちょっと仮眠取っておいで。それじゃあちゃんと仕事できないでしょ。いつもなら非番だしね」

「ごめんなさい……そうさせてもらうわ。お昼はいつもの弁当頼んでおいて」

「了解。昼になったら起こすね」

 

 もう一度、ごめんなさいね、と私と峰田くんに謝ってからMt.レディは事務所の奥の方へ歩いて行った。

 サイドキックさんが「仮眠室とか風呂とか、寝泊りできる普通の家みたいなスペースがあるんだ」と説明してくれた。

 

「ここに住んでるわけじゃないんですね」

「俺は妻子が居るしね。家は全然別のとこ。レディも自宅は別だけど、まああんまり帰ってないと思うよ」

「やっぱり忙しいんですか?」

「自分で仕事入れてるってところもあるけど……家に居ても緊急出動(スクランブル)かかることもあるからね。まあ忙しいことはいいことではあるんだ」

 

 担当地域の当番を入れているだけでも手当が出るから、と。出動が掛かって事件解決までいけばその分の手当も出る。

 不意に発生した事件に遭遇した自己判断による緊急対応なんかは、ヴィランの引き渡しと報告まで行かないと報酬が出るか未確定だというのも世知辛い話だった。

 そして、事件解決の際に周辺被害が出てしまうと損害賠償まで発生しかねない。

 

「レディの場合、個性柄そういう周辺被害が避けられなくてね……。稼いでるけど、出ていくお金もまあまあでっかくて……」

 

 敵災保険とヒーロー控除で丸ごと全額負担というわけじゃなくても、簡単に赤字になるのだと言う。

 そうじゃなくても事務所の引っ越し再建で出費がかさんでいて、その辺りの経済感覚にはシビアになっているそうだ。

 割と無理に仕事を入れたり取ったりしていた時期もあって、この1年は中々に波乱だったとサイドキックさんは言っていた。

 

「大変だという話はこれぐらいにしておいて、じゃあそろそろ職場体験を始めようか。内勤の事務作業も、地味だけど大事な仕事だよ」

 

 

 




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 原作と違って葉隠さんも来たので気合いが入っている岳山優(23)さん、とかこつけたお話。
 ナンバリングがつきましたが、あと1話で終わったら前後編に変えるかもしれません(行き当たりばったり)。

 私は葉隠さんの職場体験先を知らないのですが、後々、青山くんや芦戸さんたちの指名無し組とヨロイムシャのところにインターンに行っているので、そこなのかなとか思ったりはしています。


 Mt.事務所関連は諸々一部を除いて独自設定だらけです。よろしくおねがいします。
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