透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
「お昼ご飯一つ取っても、会計処理の対象なわけよ。私たちのお弁当は一旦、福利厚生費で処理するわけだけど、あなたたちの分は交際費……だっけ?」
「うん。職場体験の生徒だと従業員というよりおもてなしするお客様扱いだから、誰々への昼食代って仕訳だね」
正午になり、お昼休みになった
午前中はMt.レディの昨日の……というか今朝
それに併せて、周辺被害が出た場合の損害賠償のアレコレも切々と聞かせてもらった。
私はともかく、峰田くんも関係ある話なのでは? と思ったのだが肝心の峰田くんには(話し手が
午前中はMt.レディが仮眠室から出てくることはなかったのだけど、教材用に仕事の報告書や、手続き書類の控えなんかは用意されていて、本当に気合いを入れて雄英生を迎える体勢を整えてくれていたのがよくわかったのだった。
「ランチラッシュの料理で舌が肥えてる雄英生に、平凡なお弁当で悪いね」
「いえいえ別に」「お構いなく」
「明日は近くの美味しいランチ食べれるところ行きましょうか。予約しておいて?」
「いいね。了解」
気の置けない二人の会話。
二人事務所ということもあって、アットホームな雰囲気なのだった。
「午後はどうしようかしら。ずっと事務所というのも息が詰まると思ってパトロールに出ようかと思ってたんだけど」
「それだと葉隠さんのコスチュームを確認しないとじゃないか? まだ封も切ってないだろう」
「あ、そうよ! せっかく届いたんじゃない」
という会話がありつつのお昼休みの後、午後の始業時刻となった。
そして私たちはさらに一つ階を上がって、四階フロアに場所を移していた。
朝に私と峰田くんが登った表側の階段の他に、事務所内の奥側にも階段があった。二階フロアとも繋がっているその階段から四階へ。
ちなみにもう一階分上に上がる階段があり、屋上にも繋がっているとのこと。屋上と出入りするドアにもオートロックがついていて、事務所の鍵と連動するのだとか。
四階フロアは全体がほぼ一つの、スタジオめいた広い大部屋だった。屏風のような折り畳みできるパーティションがいくつかあって、大部屋と物置きスペースと区切っていて、端の方にはお手洗いの部屋もあった。
「おっきな部屋ですね」
私が素直な感想を口に出すと、「そうね」とMt.レディが答えてくれた。
「他のヒーロー事務所でもそうらしいけど、やっぱり身体を動かせるトレーニングルームはあったほうが良いのよね。あの仕切りの向こうにウェイトトレーニング用のベンチとかダンベルとかもあるわ。まあ、私の場合はこれぐらいの広さじゃ個性は使えないけどね。あと、いざというときの避難所として使えるような備品もあって、物置きの方にはマットと毛布があるの」
「避難所になるんですか?」
「念のためにそういう備えをしておくべき、って。私が準備したんじゃなくて、ずっと前の代からそうだったから引き継いでるって感じだけど、他所のある程度の大きい事務所はそういう備えをしてるんだって。私も事務所を開いてから知ったわ」
「へぇー!」
言われてみれば、ヒーローが災害等の緊急時に備えるのは当たり前だと納得できる。
そうでなくともトラブルに見舞われた被害者を匿う備えなんかも必要だとかで、そう言ったシェルターとしての役割も果たすべきなのだとか。まだ実際に使用したことはないし、新人ヒーローにそこまで求められるものでもないらしい。
しかし、Mt.レディ自身は新人ヒーローでも事務所自体は引き継いできたもののため、彼女本人と事務所のキャリアに差がある。
「そのおかげで任せられて、できる仕事もあるから、良し悪しね。……ちょっと参考にはしづらいかしら」
「いいえ。勉強になります」
「そう。よかった」
と微笑む彼女に、私もにっこりと笑顔を返した。
笑みを深くしてくれたのできっと通じた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
Mt.レディがパーティションの裏の備品から折り畳み式の長机を用意してくれたので、私は持ってきていた
スーツケースは今まではグローブとブーツしか入っていなかったので軽いものだったが、今回もそこまで重さに違いはないように感じていた。
ケースを開くと、包装されている袋が複数個と、説明書在中とマークが入っている封筒が目に入る。
まずは取説――取扱説明書を読んでみるか、と封筒から書類を取り出した。
「えっと……」
まずはメーカーの担当者からのお詫びの文章から始まっていた。
開発に時間が掛かって申し訳ない、今回のこれも職場体験に間に合わせるための試作品であり、これからブラッシュアップをしていきたい旨が書かれていた。間に合わせたい担当とデザインに納得がいかないデザイナーとで喧嘩になっていたのは事前のやり取りで聞いている。
中身については、A・B・Cと三種の
「――いや、Bタイプだけさらに三パターンあるのか」
そう理解してケースに入った袋をあらためて数えてみると、スーツが入っている袋は五つあった。AとCは一つずつだが、Bのものには枝番がついていて三つある。
ふむふむ、と取説を読み進める。
A。最も特殊繊維の配合率が高い素材を用いたタイツのような
B。特殊繊維の配合率を三段階に調整したものを用意したスーツ。
C。標準的な特殊繊維を用いたヒーロースーツ。
ふむ? とまずはAのスーツの入った袋を開けてみた。
一見、何も入ってないように見えたが、緑色と黄色の紐がそれぞれ二つずつ入っているように見える。
「――あ、すごい。見えないけど、ちゃんと
袋に手を入れると、何もないところに布……というよりタイツのような感触があった。
説明書には緑色の紐は手首の位置を、黄色の紐は足首の位置を示すために通してあると書かれていた。グローブとブーツで隠れる位置で、完全ステルスが必要な場合には引き抜くことができる。が、通し直すのは難しいので注意して欲しいとあった。
コンセプトはそのものずばり『透明な服』で、透明以外の特別な機能はおろか、伸縮性、吸水性、通気性、耐久性等々、衣類としての性能をないがしろにしたものだと言う。
散々な言われようだが、それでもこの透明な生地が出来たことは大きく、最初にして最大の課題をクリア出来た試作品一号。これで本当に全裸でいることを避けられるようになったのだから、私(と妹)が求めたものがきちんとお出しされたのだ。
(えーっと、Bは三つあるし……先にCを見てみるかな)
次に三種あるBを飛ばして、Cのスーツを手に取った。
取説によると標準的な特殊繊維を用いたヒーロースーツ、ということだけど、なるほど、確かに白いスーツに緑色のライン等が入っていて、ちゃんとヒーロースーツしている。
お好みで着脱してくださいとマントまでついているけれどそれを外せば、イメージとしてはぴっちりとしたライダースーツが近いだろうか。
ううむ、普通のヒーロースーツを着ている自分、というのを今まで想像したこともなかったので、なんとも不思議な気持ちだ。想像がつかないというか。
こういう、服を着るときにイメージするのは妹の姿だ。妹をマネキン代わりにする。
(それに、差し色が霞の髪の毛の色なのは……もしかして……?)
取説に折りたたまれた別紙が挟まれていて、わざわざテープで勝手には開かないようにされていた。
外側には「葉隠透本人がまず中身を確認してください」と書かれている。
私はピンと来て、折りたたまれた別紙の封を切り、開いた。
――今回の特殊繊維及びスーツ作成にあたり、妹の葉隠霞さんの毛髪の提供を受け、触媒として利用しております。
ああ、やっぱり、と目に入ってきた一文を読んで、私は腑に落ちていた。
その後に続く文章は技術的な話で、霞の毛髪から作った特殊繊維自体は透明ではないけれど、私の特殊繊維と混ぜたときに『より透明になりやすい』性質を見せたという。そのおかげで完全に透明なAスーツでも最低限の着心地を確保することができたのだと。
そして妹本人の意向により、部外秘であるため別紙にてご連絡致します、とあった。
(私の透明な髪の毛の代わりに、双子の髪の毛があれば何かの役に立つかもしれないからって、それでやってくれたかぁ……)
ぐっ、と内心から零れそうな気持ちを噛みしめる。
ふぅ、と息を吐いて、ひとまずCスーツを戻して、次のB-1からB-3までの三つの袋を取り出した。
取説のページをめくり返す。
B-1から順に配合率が高く、B-3が一番低い。スーツとしての性能はやはり後者ほど良いらしい。
そしてなぜ三種類もあるのだろうか、という疑問は、
「――わぁ、
一つ目、1の枝番の付いたスーツを手に取るとすぐに氷解した。
白いスーツを触ると、触った端から透けていくのだ。
(なるほど。理屈の上では私の身体は100%の透明度だから、ある程度の配合率だとそれに釣られて透明になってくれるはず、と)
透明になる部分は触れたところからほんの少しの範囲だけど、着てしまえば問題なく透明化できそうだ。
なんだか妹の透明化みたいで、背伸びをしている気分である。
「……むむ」
しかし、2の枝番のスーツに触っても、こちらは透明化はしなかった。
こうなると、B-3のスーツに触っても、もちろん透明化しなかった。
「いや……」
もう一度、右手でB-2のスーツに触る。左手でB-3のスーツにも触れる。
生地自体の触り心地にも微妙な差があるけれど、――そうじゃない。触覚じゃない何か違いを感じた。
その違いを明確にしたくて、B-1のスーツも加えて、三種の生地を何度も取っ替え引っ替えする。
「葉隠さん、大丈夫? 何かあった?」
夢中になってスーツの触り比べをしていたら、時間が掛かっていたのだろうMt.レディが様子を見に来てしまった。
すみません、と謝ってから、私は彼女に事情を説明した。
スーツがABCの三種類、そして実質五種類あること。
最初から透明なスーツと、透明になれるスーツ、透明じゃないスーツがあること。
「このBの生地を触ったときに、なんか表現しづらいんですけど、不思議な感触がするんです」
触り心地の話ではなくて、と注釈を入れる。
例えるなら、静電気で産毛が立つような感覚が近いだろうか。
見えないとても弱い力に、肌が引っ張られるような……。
(多分これ、私の個性がくすぐられてるんだと思う)
青山くんに頼んでレーザーを撃ってもらった時、未知の感覚があった。
その時の感触とは違うけれど、それでも似たものを感じている。
「この肌触りの違いを意識していけば、何か掴めるかもしれないって、そう思ったんです」
「なるほどね。自分の意思でスーツを透明化できれば、わざわざ服を脱がなくても済むものね」
Mt.レディは思案顔で頷いてくれたが、そこでようやく、私は彼女たちを待たせていたことを思い出した。
「あっ! すみません、すぐ着替えますね!」
「うん。そうね、できればCのスーツがいいかしら。基礎トレと格闘訓練するならそっちがいいでしょ?」
「わかりました!」
私は慌てて他のスーツを仕舞い、Cのスーツに着替えた。
ヒーロースーツを着るという初めて感触に、とても新鮮な気持ちを味わう。今まで脱ぐだけだったので。
逆に落ち着かないかもしれないと思ったが、標準的な機能を持つスーツの着心地は良く、はっきり言って全裸よりも動きやすかった。
(どうしても揺れちゃうからなぁ……)
身長に比べて発育の良さを誇る我ら双子の肉体である。
着替え終わって、一応何か間違いがないか確認してからMt.レディたちのところへ戻る。
大部屋の中央の床には運動用のフロアマットが敷かれていて、その上でヒーローコス姿の峰田くんとサイドキックさんが既に格闘訓練を行っていた。
「サイドキックさん、大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、別に全く動けないってわけじゃないのよ。リハビリはしてるし。一線級の動きは無理だけど、学生相手の組手ぐらいなら平気」
「そうなんですね」
「特に峰田くんは軽量級だしね。思いっきりタックルを受けても彼ぐらいなら受け流せるでしょ」
峰田くんは軽量級どころか、超軽量級である。
そんな彼が個性無しの格闘戦だと流石に分が悪すぎるのか、サイドキックさんはまさに子供相手と言った感じにさばいていた。
峰田くんも自分の体格の不利はわかっているので、極力スピードや小回りでサイドキックさんを翻弄しようとするのだが、サイドキックさんはその動きをきっちり見切っていた。
「いやぁ、相性が悪いね」
「個性無しだと無理です!」
しばらくして小休止が入り、サイドキックさんと峰田くんがそれぞれコメントを述べた。
眼が良いタイプの個性とサイドキックさんは言っていたが、視野が広く、動体視力も良いらしい。
そんなサイドキックさん相手に個性無しだと、流石に手も足も出ない峰田くんだった。
「峰田くんの『もぎもぎ』は良いよね。相手の無力化に貢献しやすい個性だから、重宝されると思うよ」
実際、USJ事件の時は多くのヴィランを無力化してみせたと聞いているし、体育祭でも地味に厄介なトラップとして機能していた。
うんうん、と私とMt.レディも峰田くんの個性の強みを肯定してみせると、峰田くんも持ち上げられて満更でもない表情をみせた。
「でも現状だと、個性の使用許可は出せないのよねぇ……」
「えっ!?」
上げて落とすカタチになったMt.レディはその理由を説明する。
相手を怪我をさせることなく捕縛・拘束できる『もぎもぎ』は、峰田くんの体調によって粘着力が左右される。
体調が良いときは一日中くっついて取れないそうだが、その粘着力は峰田くん自身にも制御できない。
「その体調任せと言う点が大きなネックなのよ」
ヴィラン相手ならまだ良いし、ピンポイントに使用できるなら問題は少ない。
しかし体育祭のときのように広い範囲にばら撒いてそのまま放置することになると、周辺被害問題が発生する。
一般人に流れ弾が当たり、服を破棄する程度で済めばまだいいが、素肌に触れて一日中拘束してしまうことになってはどっちがヴィランかという話になってしまう。
「例えば『もぎもぎ』を無力化できるスプレーとか、そういう用意があればいいんだけど」
そういえば授業だと轟くんの炎で燃やしたり、三奈ちゃんの酸で溶かしたりしてたかな。
「投げっぱなしだとウチとしては周辺被害が怖くて、パトロール中にヴィランに遭遇したとしても個性の使用許可を出せないのよ。よっぽど切羽詰まった緊急事態なら仕方ないけど……」
Mt.レディ自身、周辺被害での赤字問題を抱えるから、そういうところには厳しいのだろう。
峰田くんもショックを受けた顔をしているが、納得もしている様子だった。
学校だと対処できる人が居たからそれに甘えっぱなしだったのだ。
「くっつく前なら、適当にカバーを被せればいいんでしょうけどねー」
「くっついた後が問題だからね。誰かの大事なもの……例えば車が動かせなくなりました、とかなったら大変だ」
ヴィランを足止めするために道にもぎもぎボールをばら撒いて、そこを一般車が通過しようとしてスタック、なんてありそうな話である。
「まあ、職場体験の学生に個性使用許可を出す事態がそんなに起こることでもないけどね」
「今日はこのままトレーニングで終わるつもりで、明日はパトロールに行こうと思ってるけど、ヴィランと遭遇しても直接対決させるようなつもりはないからね」
そう言って峰田くんの個性の話を締めくくった二人だったけれど、私は少し別のことを思い出していた。
「――次は葉隠さんと私でやるわよ。その後、峰田くんとやってあげる」
「あ、はい」
思いついたことは一旦置いておいて、私はMt.レディからの呼びかけに応じて彼女と対峙した。よろしくお願いします――
Mt.レディは流石の強さだった。
同性とはいえ10cmの身長差はあるけれど、それでも身長以上のフィジカルの差を感じた。
組み合ったときの安定感というか、純粋に鍛え方、積み重ねが違う、というのがよくわかった。
Mt.レディからは「思っていたよりもかなり手強かった」と高評価を貰えたけれど、勝ち負けでいうなら完敗だった。
「フルフェイスヘルメットをしてる相手を巨大化せずに抑えつけたことがあるけど、その時より大変だったわ」
表情が見えないから動きが読みづらい、ということを言っているのだろう。
透明の格闘での活用法はずっと模索してきたものなので、そこは褒められて嬉しい。
もっと鍛えなきゃ、と励みになった。実戦的な筋肉というか、フィジカルの強さをもっと手に入れなければ。
組手の後、まだ息を切らしている私に対して、Mt.レディは既に息が整っていた。戦闘型のプロヒーローは流石だ。
「そしたら次ね。峰田くん」
「ハイッ!!!!」
テンションが100倍ぐらい跳ねあがった峰田くんの返事であった。Mt.レディも苦笑している。
向き合う二人だったが、峰田くんの眼つき手つきが怪しすぎる。この時点でセクハラ認定されてもおかしくないレベルだが、対するMt.レディは涼しい顔を――いや涼しいを通り過ぎて冷たい眼をしていた。
そして始まるやいなや、峰田くんはMt.レディに跳びかかっていった。いや、そんな真正面から欲望のままに!?
私が困惑するも、意外なことにMt.レディは避ける素振りをギリギリまで見せなかった。
まさかそのまま抱きとめるのか、と思いきや、彼女は峰田くんの手を掴んであっさりと地面に引き倒した。
「ぐえっ!」
そして片手を持ったまま峰田くんの小さな体――というより頭部を、後から両腿で挟み込み、後ろ三角締めの体勢になった。
「――――!?」
一瞬で地面に倒され峰田くんは、ほんの少しの時間スケベ心でMt.レディの太腿の感触に酔いしれようとしていたが、すぐに圧迫による窒息、生命の危機を感じ始めてそれどころではなくなっていた。
「!?!?!?」
束の間の天国、一瞬で地獄。
もし峰田くんに余裕があれば抱きかかえられた腕でMt.レディの胸を狙っていたかもしれないと思ったけれど、彼にそんな余裕はなく、パニックを起こしてじたばたと四肢を動かそうとするばかり。
その動きはMt.レディがしっかり固めているために身じろぎぐらいにしかなっていない。比較的フリーで動かせる両脚も背後の彼女にはどうやっても届かない。
(そういえば風紀委員の学習で窒息ごっこ*1ってあったなぁ……)
遊び感覚で窒息させ気絶させるというもので、旧時代の校内いじめ・傷害死亡事故の事例として覚えていた。
諸々の危険性だとか実際に発生した事件だとかは置いておいて、これが流行(と言ってもいいものか)した理由に、気絶する直前に気持ちよさがあるという噂が流れたためと語られていた。酸素不足に陥った脳が苦しみを和らげるために脳内ホルモンを出すだとか、それっぽい理屈はつけられるのだが真偽のほどはわからないし、仮にそうだとしても危険なことに変わりはない。
まあ、なぜそれを思い出したかというと、
(落ちる寸前の峰田くん、確かに安らかな表情が見えた気がしたなぁ)
目の前で落とされる同級生の姿を見せられたからだった。
いや、死んでないし。本当にぎりぎりで解放していたので、げほげほと死にそうな顔で峰田くんは咳き込んでいる。
信じられないものを見るかのようにMt.レディの方を峰田くんは見たが、それを養豚場の豚を見るような表情で彼女は眺めていた。
……ああ、うん。峰田くんの欲望丸出しのムーブに彼女なりに思うところはあったわけだ。
(私が来なくて峰田くんだけが職場体験に来てたらどうなっていたんだろう……)
なんだが、めちゃくちゃ雑に扱われそうな気がした。
そんな光景がなぜか凄く明確に思い浮かぶのだった。
「やってみせておいてなんだけどヴィラン制圧に於いて、絞め技、固め技の類はオススメできません。なんでかわかる?」
「相手に接触することが大きなリスクだからですか?」
「そう。何か凶器を持っているかもしれないし、どんな個性を持っているかわからない相手に触れることは大きな危険が伴います」
峰田くんの息が整ってから、場を仕切り直した。
Mt.レディは「もう一度やる?」と彼に訊いていたがブンブンと首を横に振っていた。一度で懲りたらしい。
「あとヴィランって……ちょっとアレだけど、異形型なことも多いのよね。だから首絞めとか関節技とか、一概に効果的とは言えないのよ。まあ、わかりやすい例だとヘドロ事件とか」
「なるほど」
「私は巨大化して踏みつけることが多いわ。練習もしやすかったし」
巨大化して廃車にしてもいい車を潰さないように足で抑えつける練習なんかを繰り返したことがあるんだと。
殴る蹴るだと吹っ飛ばして周辺被害も怖いとか。
「どっちにしても気絶させれるなら、それに越したことはないわねー」
わかるわかる。中学生レベルでも、多少抑えつけても逆上して変に暴れたり、個性を無理やり発動させてきたりして危なかったことがある。
捕縛用のロープとかテープとか、そういう備えがあると楽ができるのだ。
「そう考えると、やっぱり峰田くんの『もぎもぎ』は強いですね」
「それはそうね」
急に話題を向けられて「!?」という顔をする峰田くん。さっきも同じ話はしたでしょうに。
繰り返しになるが、くっついたのを剥がす手段さえあればとても拘束に向いた個性なのだ。この場合、攻撃力がないのもメリットだし。
そして私は思い出したことを忘れないうちに確認してみたいと思い、
「すみません。使い捨てスリッパみたいなのってあります?」
とMt.レディとサイドキックさんに訊いてみた。
怪訝そうに「? あるわよ」と返された私は言う。
「峰田くんの個性で確かめてみたいことがあって」
「?」「?」
疑問符を浮かべるMt.レディと峰田くんに、私が試してみたいことを伝え――
そして、
「――――あ。できた」
峰田くんはもぎもぎの制御にその日の内に目覚めていた。
いや、天才かよ。
ちょっと長くなり過ぎたのでぶっちぎりました。峰田くんの個性特訓の内容は(大した内容でもないですが)次話に回します……。
次話はまたオリ主(妹)パート予定ですが、こっちはそんなに長くなるような内容はないはず。
峰田くん、映画2作目で海辺のナンパ客相手にもぎもぎ使ってたけど、長時間そこに放置とかしてないよね……? という懸念。
ギャグ・コメディ描写といえばそれまでなんですが。
大変おそくなりました。一か月以上経ってて、我ながらまずいと思わざるを得なかったです。
言い訳をすると私生活(仕事)がちょっと忙しかったところに新型コロナに初感染・発症して色々と予定が狂ってしまったのがありました。
一度ダウンして時間が経っちゃうと中々再始動するのも大変、というか色々と書き方とか見失ってしまった感が……。
もうちょっとスリムに物語を進めた方が良い気もするのですが、もう感覚がわからない……!
ともかく書いて話を進めなきゃ! 中途半端になりたくない気持ちでまた頑張ります。
それはそうと、遅ればせながらヒロアカ原作の連載が完結を迎えていました。完結おめでとう&先生連載お疲れ様でした。無事に完結して良かったです。
心操くんのクラスもはっきりしたので「ほぅ!」となりました。
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