透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
雄英高校の敷地内で移動するための自動運転バス、その最後尾の座席で私はぐったりと横になっていた。
6時間目の授業時間を終えて今、先生があらかじめ呼んでいたバスに乗り、私と心操くん、そして相澤先生の三人で移動中だ。
へとへともへとへとだった私と心操くんだったが、バス乗り場までの移動距離はそれほどなかったのは幸いだった。というか授業終了のタイミングで私たちが演習場の出入口付近に居たのも偶然ではないのだろう。
ついでに先生から労いにペットボトルのスポーツドリンクも渡され、ありがたく受け取ったそれを私たちはすでに飲み干していた。
(しんどい……。ここまで
右窓側に頭を向けて寝そべりながら、ちらりと、真ん中から少し反対側の座席寄りに座っている心操くんを見上げる。
心操くんも座席にもたれかかっていて、だいぶお疲れの様子だ。
――っと、目が合った。
「葉隠……――
「ん。解いてる」
透明化を解いていることを小声で問いかけられて、小声で返した。
彼の言う通り、私は今透明化を解いて姿を見せていた。わざわざ最後尾まで来たのは座席の影を利用するためで、心操くん以外から私の姿は見えない位置にある。
ちなみに相澤先生は運転手席――自動運転のバスなので実際に運転しているわけではない――に座っている。
「バスの中だけね……。ちゃんと休憩したいから」
私自身の透明化は慣れているのでほとんど疲れることはないのだけど、それでもじわじわと
透明化したままでも安静にしていればそれなりに休めるし、大体の場合はそれで充分なのだが今回ばかりはそうもいかなかった。
「透明化したままだと、シュノーケルで息してるみたいな感じなんだよねー……」
息苦しいと言うとちょっと語弊はあるのだけど、体力ゲージの回復スピードに差があるのは本当なので、この表現で伝わってくれると嬉しい。
普段の透明化は水面付近で顔をつけているだけのシュノーケリングみたいな感じで問題ないのだが、全力で活動するには追いつけないのだ。
体育祭の時は全力で動く時間はせいぜい決勝の試合中ぐらいで、障害走や騎馬戦の時はそれなりに余力を持てていた。それでも大勢の観客の前ということで昼休憩で一息入れたとはいえ丸一日神経を使っていたので、それもあっての体育祭後の爆睡だったと思っている。
「…………」
「…………?」
ぼんやりと心操くんを見上げていると、なんかずっと目が合っている。
なんだろう。
「…………」
「…………」
しばらくの無言タイムの
「……葉隠って猫みたいだな」
なんてことを言ってきた。なんだそれは。
「…………にゃーん?」
「――――っ」
吹き出すのを堪えるように心操くんが顔をそらした。ウケたのかな。
「心操くん、猫派?」
「そうだよ」
「やったぁ、一緒だ」
私も猫派だ。わぁい、と喜びで口元が緩む。
「…………。……葉隠、もしかして眠い?」
「わりと」
心操くんの問いに素直に答える。
脳みそが休息モードに入っていて、全然頭が回ってない自覚はあった。
流石に寝るにはバス移動の時間は短すぎるので、寝入るつもりはないけれど。
……なかったのだけど、気づいたらバスが停車していて心操くんに「着いてるぞ」と声を掛けられたので寝てたような気がする。しまった。
二人でバスを降りてそのままC組教室に向かった。相澤先生は先に降りて行っていたそうだ。
体操着のまま教室に入る。他のクラスメイトたちは制服なので格好が浮いてしまうが、それ以上に特別授業でボロボロになっている私たちの姿に驚かれてしまった。
それを見かねて水田さんが濡れタオルを用意して私たちを拭ってくれた。ありがとう、みっちゃん。
ちょっとさっぱりしてからホームルームを受けた私と心操くんは、放課後再び職員室に向かうのだった。
「
「大丈夫と言えば大丈夫ですが、かなりキツかったですねー」
道すがら、同じく職員室に向かう香山先生と軽くお話する私。
私の感想に傍らの心操くんも同意するように小さく頷いていた。
「通常授業の方はどんなでした?」
「うーん、まあ普通よ。半分ぐらいは事前に準備したビデオを流して、残りは私が話をしてって感じで」
普通だ。普通科用の授業だからそんなものよ。
なんてやり取りをしつつ、職員室に到着した。
自分のデスクに行く香山先生を見送って、その近くの相澤先生のところへ向かう。
相澤先生はデスクに座って、手に持ったタブレットで何やら見ている。
近づく私たちの気配に気づいた先生はちらりと少しだけこちらを見やってから、手元のタブレットに視線を戻した。
そして、ぽつりと独り言のように言った。
「――すまんが今は先にやっておきたいことがある。15分後、運動場近くの雑木林のところで待っていろ」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。けれど、すぐに私たちは、
「わかりました!」
「ありがとうございます!」
了解と感謝の声を上げた。
「相澤くん。どうだったかい?」
「校長。……報告書は今仕上げてるとこです」
「簡単な感想だけ聞かせてくれると嬉しいのさ」
「そうですね……。……相性差や能力差もありますが、流石にハンデは要りますね。それと別の勝利条件もないといけないでしょう」
「なるほど。組み合わせについては
「時間制限は……まあ、30分でいいんじゃないでしょうか」
「そうだね。組み合わせと舞台設定でうまいこと調整しよう」
「そんなとこです。――詳しくはまた今度に」
「時間を取らせたね。ありがとうなのさ」
運動場近くの雑木林。
私たちの朝練・自主練でもよく使っているエリアだ。
運動場は使用許可を得る必要があるけれど、雑木林は自由に使えて、ちょいちょい広いスペースもあり、放課後には部活動をしている生徒たちや、サポート科らしき生徒が何かしら発明品の動作確認をしているのを見たことがある。
雑木林とは言うけれど地面は均されていて、おおむね整地されているのでとても運動しやすい。必要があればすぐ使えるように、遊ばせている土地なのだろう。
広大な敷地を通る長々とした道があって、ランニングをしている人を見かけたりする。道の先には体育祭で使われたスタジアムや各施設があり、道自体も障害走コースとして使われていただろうけど、あの時の大穴なんかは影も形もない。
「…………」
「…………」
私と心操くんは道沿いにぽつぽつと設置されているベンチに並んで座っていた。
運動場が良く見える。普段の朝練ならもっと人目につかないところを使っているのだけれど、今日はその移動に使う体力も惜しかった。
ちらちらと校舎の方の道を確認しつつ、運動場で運動部っぽいことをしている十数人の生徒たちをなんとはなしに眺めていた。確かあれは曜日替わりで色んなスポーツを楽しむ同好会だっただろうか。
個性社会になって画一的なスポーツ競技は廃れてしまっているが、個性を制限したルールを作って旧時代に寄せたスポーツを楽しむ根強いファンは残っている。かつての熱狂っぷりはない(らしい)が、それでも何らかのカタチで今も残っているプロスポーツはある。
「あ、野球だー。いいなー」
準備運動を終えた運動場の集団は、用具入れからグラブとボールを取り出し二人組を作ってキャッチボールをやり始めていた。
「野球、好きなの?」
「んー、割と好きかな。個性無し球技の中だと一番好きかも」
心操くんの問いに答える私。
いやまあ、大した理由があるわけではなかったり。
単に読んでた漫画の中に、高校野球モノがあってそれが好きだった、というだけだ。
旧時代の漫画だけれど、とても等身大の高校生という感じがあり、試合や練習の描写には説得力を感じていて、訓練の参考にしたりもしている。
「初めて読んだのは小学生の頃だったけど、女子マネージャーに憧れたなー」
「へぇ」
「中学だと実際、女子マネっぽいことやってたし、影響あったのかも――――あ」
「? どうした?」
「……いや、当時一緒に読んでた友達がねー。その漫画の女子マネには好きなキャラが居るのがわかるシーンがあるんだけど、その対象が友達が思ってたキャラと違ってたみたいでショック受けて大荒れしたの思い出して」
思い返した拍子にちょっと漫画のワンシーンを思い出してしまった。
そして咄嗟に誤魔化したけれど、嘘は言っていない。友人が女子マネの想い人発覚にショックを受けたのは本当だ。
ただそのページの女子マネがとても可愛かったなぁ、と思ったのを思い出したのだけれど、それと同時に、
――いやぁ、恋する乙女の顔って、こんななんだなぁって――
体育祭の後、姉に言われたことを思い出してしまって、無駄に動揺してしまっただけなのだ。
こっそり自分の透明化がちゃんと維持できてきることを確認しておく。……うん、大丈夫。
駄目だぞ私。変に浮ついた気持ちでは心操くんに失礼だ。気持ちを切り替える。
その後ちょっとの時間、どんな漫画を読んできたかとか、趣味は違えどお互いの中学時代の
「待たせたな」
気づけば相澤先生がやってきていた。
校舎の方は見ていたのに、雑木林の中からやってきたとしか思えない唐突な登場だった。
私たちは慌ててベンチから立ち上がろうとしたが、先生は「座ったままでいい」と制して、さらに「これ飲んどけ」と栄養ドリンクを渡してきた。職員室近くの自販機で売ってる小さな瓶のちょっとお高いやつだ。
お礼を言って受け取りながら「時間通りじゃないですか?」と私が言うと「いや少し遅れた」と先生は返した。
時計を見る限り私たちが職員室を出て20分は経っていないので、ほんの数分でも遅刻は遅刻、そういうことなのだろう。
「二人ともまだ体力戻ってないだろう。それ飲んでもう少し座っとけ」
そう言われたので封を切って、ささっと飲み干した。小瓶の栄養ドリンクは100mlなのでほとんど一気飲みだ。
飲み慣れてない栄養ドリンクの独特の味、その刺激もあって少し目が覚めた気がする。
「限界を見るつもりで踏破訓練をさせたんだ。余力が残っていたら俺の見立てが甘かったことになる」
相澤先生は左手で持ったタブレットに右手の指を滑らせながら言う。さっきの授業の記録を見ていたのだろう。
曰く、時間一杯まで走り切ったのは良し、スタミナなら現時点で及第点、とのこと。褒められた。
しかし戦闘訓練の後にも言われた通り、
自主練の筋トレメニューを強化したのは体育祭後。つまりまだひと月足らずしか経っておらず、全然水準に達していないのだ。
まあ仕方ないよねぇ、と私は思っていたのだが、そこで先生は「自主練のメニューを教えろ」と訊いてきた。
そこも気にしてもらえるのか、と少しびっくりしながら私と心操くんは答える。
元々心操くんがやってきた訓練メニューに口出しさせてもらって、私なりに中学時代に培ってきた知識なんかで組み立てたものだ。
中学時代、姉の訓練メニューを考えていたのは私だ。トレーニング教本を買って読んだり、中学校の体育教師に話を聞いたりして、自己流とはいえ変なことはしていない自信はあった。しかし、
「――ぬるい」
と、ぶった切られてしまった。ぐさっ、と心に刃が刺さった私は天を仰ぐ。
そりゃあ、
しかしめげてばかりもいられない。先生から改善案を頂く。
「悪いとは言わないが、足りん。ここは雄英だぞ。もっと使えるものを使っていけ」
「と言うと?」
「訓練用具の
用具室で見かけたことはなかったけれど、鍵のかかった棚か倉庫に保管されているらしく、許可があれば貸し出して貰えるのだと。
ただし校内利用に限るし、朝練と放課後の時間だけで、授業中につけっぱなし、みたいな使い方はダメとのこと。手足の重りは鍛えている気になるけれどバランスを崩しかねないので、要点を絞って用いなければならないのだ。
「明日は別の演習場で授業を行う。どういう自主練ができるかはその時に教える」
「はい」「わかりました」
「それと、自主練では今日のコースそのままは使うなよ」
「それはもう」「はい」
先生の釘刺しに、私は当然の顔で――見えないけど――頷いた。
手足だけじゃなく背負った人形の重さに振り回されていた私たちは、気を付けてはいたのだがそれでも何度か足を滑らせて階段やビルから滑落・転落しそうになっていたのだ。
その度にきっちり私たちの状態に目を光らせていた相澤先生から捕縛布が伸びてきて、助けられた。
時には、私と心操くんが思わず互いを支えようとして崩れたところを二人まとめて引っ張り上げられたりもしたので、相澤先生の膂力はどうなっているのかと戦慄したものである。
(……捕縛布、かぁ)
戦闘訓練では恐ろしい武器だと感じたそれは、力強さと柔軟さをもっていた。
ただ放って縛るだけじゃなく、自他を引っ張り上げることで移動の補助にも使える便利さを見せた。
はた目にはふわふわとしたちょっと分厚めの薄汚れた包帯みたいに見えるのに、不思議だ。いざ伸ばされたときの長さを考えると見た感じよりもかなり巻いてある気もする。
……そうやって捕縛布のことをこっそりと眺めていると、相澤先生はその気配を感じたのだろうか、
「――触ってみるか?」
と言ってきた。
え、と私が戸惑う間もない。
先生は袋を取り出し、封を切って中から綺麗にまかれた包帯のような――真新しい捕縛布を取り出していた。
「ちょっと個別に面談したい。その間の時間を、それで潰しておけ」
と言うことで、十分ぐらいの時間、新品の捕縛布を使わせてもらった。
先生曰く、実戦で使う前に『慣らし』をする必要があるらしく、もつれさせなければ雑に扱っても構わない、むしろ力一杯揉み解すつもりでやってくれ、とのことだった。
喜び勇んで私は捕縛布を首に巻いて、手袋を取り素手になって、あれやこれやと試してみたのだったが……
――いや、扱い難しすぎるよ、これ!?
少なくとも、手ほどきなしに使えるものでは到底なかった。
見様見真似をしようにも、先生が扱うのをじっくり見たことなどないし、戦闘訓練にせよ踏破訓練にせよ先生の手元は素早過ぎて、どうだったかなんて覚えていない。
うがー! わかんねー! となりつつ、私は似たような経験を記憶から引っ張り出して、なんとか一本の布を縄や鞭のように扱って、木の幹に巻き付かせることには成功させた。
しかしそれが精一杯で、巻き付かせたものの、ぐっと引っ張ればスルスルと解けてしまう程度の巻き付きで、縛り上げるには程遠い。
根本的な扱い方が違う気がする。私の知識に無い武器だというのはそうなのだけど。
(それに地味に重たい……!)
相澤先生に倣ってマフラーのように巻いているけれど、やはりかなり長い布を束ねてあるわけで、重さを主張してくる。
消火栓のホースほど分厚くはないけれど、重さ含めて印象としてはそれを連想するものがあった。
(いっそ先端に
でもそれだともう別の武器である。捕縛布の柔軟さを殺してしまう。
どうしたものかと捕縛布の柔らかさと硬さの混ざった手触りを確かめていると、
「時間だ。葉隠、来い」
相澤先生から呼ばれた。お試しの時間は終わったようだ。
むぅ、と溜め息を吐きつつ、丁寧に捕縛布を束ね直しながら首から抜いた。
話を終えた心操くんがこちらにやってきたので、彼に捕縛布を渡す。
「重」
「でしょ」
その反応になぜか満足感を得た私はふふんと笑う。
もしかしたらある程度の長さで切って調整して使うのかもしれないが今は下ろし立て。長さそのままのフルセットは、見た目と実際の重さにギャップがあるのだ。
そして捕縛布を首回りに巻き付けた心操くん。その姿は、彼の身長が相澤先生に近いこともあって、なんだか似合っていた。イケてる。
「…………――――ふっ!」
心操くんは慎重に確かめるように捕縛布を指に絡めて、一つ息を吐きながら腕を振った。
いくつかの捕縛布が広がりつつ、狙ったであろう樹に向けてしっかりと放たれていた。
惜しくも巻き付きこそしなかったが、私が初めて触ったときよりも
「おおー」
と私が感嘆の声を漏らすと「はやく来い」と相澤先生から再び声が掛かった。
すみません、と謝りつつ小走りに先生の元へ行く。
「捕縛布の使い方、教えたんですね」
「時間が余ったから初歩の初歩だけな。指の掛け方、握り方ぐらいだ」
「なるほど」
それだけでもずいぶん様になるものだなぁ、という感想を抱いた。
「俺としちゃあ、何も教えてないのにひと巻きできたお前こそなんなんだ、と思うがな」
「いちおう鞭とか縄とか、その辺は触ったことがあるんです」
「……プロフィールには剣道初段としか書いてなかったが?」
「あー……、えっとですね。通ってた剣道教室の先生が、剣道だけじゃなく色々教えてくれまして」
メインこそ剣道だったがそこから薙刀、棒術と派生して、鎖鎌、鎖分銅に手裏剣などなど。あと古武術のくくりに入れるには怪しいトンファーなんかも。
元々は剣道の先生の趣味の
なのでプロフィールに記載するのは
「なるほどな」
「武器は色々使っていきたいなーとは思ってます」
サポート科の
「捕縛布はどうだった?」
「んんんー……。面白いし、幅があっていいなぁとは思うんですが、使いこなすとなると先は長そうですね」
「まあな。俺も習得に6年掛かった」
「ろくねん……」
「独学だったからな」
相澤先生が作り上げたメソッドがある今ならもっと短い時間で習得できる、ということらしい。
「んー……でもそれだと、私、いけます?」
高身長で男性の相澤先生と心操くん、身長そこそこで女子の私。
フィジカル的に結構なギャップがあるように思える。
「問題無い。というかお前の場合、自己流に落とし込む器用さがあるだろ」
「それは買い被り過ぎでは……」
「……まあ、そのまま習得できるとは俺も思っちゃいないよ。だが高校の時の未熟な俺でもそれなりには使えてたんだ。身体能力で無理とはならん」
うーん……。真っ白な状態のほうがよく吸収できそうというか。似たような経験が逆に邪魔になりそうな気もする。
しかし、高校時代の相澤先生……。6年掛かったということは在学中はまだ未熟な武器を手に頑張っていたということか。
相澤先生も雄英の卒業生だと香山先生から聞いていた。たまに相澤先生への呼び方がブレるのは先輩後輩の間柄だったからで、マイク先生も一緒だったということも教えてもらっている。
「さて、本題に入るぞ」
「はい」
雑談のノリになってたところを身を正す。
「葉隠、お前はどういうヒーローを目指している?」
ヴィラン退治、災害救助、はたまたアイドル路線。ヒーローと言ってもその道は様々だ。
相澤先生が担当するA組生徒ならば、ヒーローネームや申請したコスチューム、その他授業中の態度諸々で傾向が掴める。
しかし普通科の私たち二人にはそれがない。だからこその問い掛けだ。
心操くんはヒーローとしての主流、ヴィランと戦うヒーローを目指している。
では私は、というと……
「……姉の、サイドキック、ですかね。ぱっと思いつくのは」
「ふむ」
私にとっては中々難しい問題だった。
ただ個性を自由に使える権利が欲しい、というのが切っ掛けで、姉の後を追うように雄英に入った。
ヒーローとしてできることはイメージできても、なりたいヒーロー像は未だに結ばれていない。
(お姉ちゃんと心操くんの三人で事務所構える、なんて妄想はしたことあるけど……)
流石にそんな恥ずかしい未来図を口に出す度胸はなかった。
少しの間、私がうんうんと頭を悩ませていると、
「誰かの隣に立ちたいというのも立派な目標だ。だが、」
相澤先生は溜め息を一つ挟んで、
「自分はこれぐらいでいいと線を引いていたら置いていかれるぞ?」
耳に痛いことを言ってきた。
「四月の体力テスト、自分で目標ラインを引いただろ。最後の持久走以外」
「うぐっ」
「自分を小さくみせたいのか? 自主練メニューを見る限り、相応に鍛えようとしているようだから厳しくは言わんが、もし妥協的な姿勢が続いていたら編入審査でバツをつけるところだ」
さらに「
「お前の姉はガンガン上を目指してるからな」
「はい……」
言い訳をさせてもらうならば、私は体力テストで手を抜いたつもりはまったくなかった。
しかし姉の体力テストの結果から、じゃあ自分はこれぐらいできれば上等だな、と考えたのは図星だった。
最後の持久走だけは心操くんとのデッドヒートもあって限界突破したのだけれど、それと投げ方に工夫を入れたボール投げ以外は、姉の
(いやでも気持ちだけの問題ってわけでもないんだよなー!)
純粋にフィジカル性能の差があるのである。こちとら小学校時代はかなりのインドア派。
このままではまずいと思って運動を始めて身長も伸ばしてやっとこさ2割引きのラインまで追いつけた。
それに個性をずっと使ってる分の体力ロスが大きくて、姉妹で同じ運動量とはいかないのだ。
……そんな言い訳をしていたら、ヒーロー科の授業でどんどん姉は成長していっていて、私は慌ててもっと頑張らないといけないのだと半ば強制的に気付かされたのだった。
その後、相澤先生が心操くんに捕縛布のレクチャーするのを見学したり、動く的役を買って出たり、なけなしの体力でできる範囲の訓練を少しの時間行った。
そしてヒーロー科の終業時刻を20分ほど過ぎた頃合で、相澤先生から「今日はここまで」と切り上げられた。
「「ありがとうございました!」」
「おう。また明日な」
心操くんは名残惜しそうに捕縛布も返却して、私たちはヒーロー科の授業時間分まで放課後に特別授業をしてくれた相澤先生を見送った。
先生は心操くんに、捕縛布の扱い――先生のそれは『操縛布』という名称だ――を今週の特別授業で見どころアリと認められれば、直々に教えてくれると言ってくれたのだった。
残り四日間に向けて、より一層の気合いが心操くんに入っていた。
「ただいまー。――あれ、霞が素顔晒してる。珍しいー」
「お姉ちゃん、お帰りー……」
「特別授業、きつかったんだ?」
「きつかったよー……。普通のヒーロー基礎学の倍はきつかったんじゃないかなー……」
「霞の言うことだからフカしじゃないよね。お疲れ様」
「お姉ちゃんは職場体験どうだった?」
「凄くいい感じだよ! Mt.レディもいい人だった!」
「ふぇ、そうなんだー、意外。前に香山先生と口論してるテレビ見たからちょっと印象悪かったんだけどなー」
「そうそう、霞。ちょっとこれ持ってみて。透明になって」
「? なにこの布。あ、もしかして
「うん。……やっぱり霞が持っても透明にならないねぇ。じゃあこれも持って」
「なんだなんだ。同じ布みたいに見えるけど」
「透明にしてみてくれない?」
「うん? ――うん?」
「透明にしやすいとかある?」
「あるねぇ。こっちのが
「霞はすぐわかるんだねぇ……。実はねー―」
「……なるほどね。そしたら、反対側を持ってみて」
「はい」
「ほい、透明化。なにか感じたりする?」
「……なんか、ぞわぞわする、かも」
「これで何か掴めたらいいんだけど……。でも私も最初は気合いだったからなぁ……」
「気合いか」
「気合いだよ。できると思うのが大事」
「なるほど。がんばるよ私。ありがと霞」
「どういたしまして」
「――あ、感謝ついでに。峰田くんの個性、伸びたよ」
「お。あのモギモギ、調整できるようになった?」
「なったなった。霞のアイデア通りに伝えたら、小一時間ぐらいで」
「天才か?」
「天才かもしれない。まあ、集中して手で掴んでって感じでちょっと時間かかってたけど」
「でも付きっぱなしは危ないから、大きな成長だ」
「体育祭の録画観ながら霞が『自分以外にくっつく、でも靴で跳ねてるあたり、無意識の個性制御が働いてる?』って考察して、そこを意識させてからくっつく・くっつかないの比較法を呟いてたのをそのまま伝えたんだよね」
「おお……。むしろよく覚えてたね」
「それで使い捨てスリッパを使って、履いた状態で踏んだり、くっ付けた状態から履いたりして、『これは何が違うんだ?』って意識させたら峰田くん自分で考えだして」
「んであっさり剥がせるようになった、と。やはり天才か」
「んむー。剥がすというか、投げる前に戻す、みたいな感覚なんだって」
「頭についてるうちはくっついたりしないから、みたいな?」
「そうなのかも。あ、そうそう、明日は普通に帰ってくるけど明後日はお泊りみたい。山でキャンプみたいなことするみたい」
「へー」
お久しぶりの更新になります。大変お待たせしております。
1話に詰め込んだらこんな文字数(1万)に……。五千文字ぐらいをめどに1話を書こうと思っているのですが、この章の交互に話を持ってくる構成にしようという思いつきのためにこんなことに。
最終巻にて心操くんのヒーローネームが判明しました。かっこよかった……。
なのですが今作中では原作のヒーローネームとは違う名前を仮ネーム(バクゴーとかテンヤ的な)で用いる予定ということを予めお伝えしておきます。
あと個人的に心操くんと葉隠さんが隣の席に居たことに無意味に感動してました。「同じコマにいた!」
職場体験期間の残りは圧縮して1話ずつぐらいで、期末試験、夏休み期間とサクサク話を進められたらなぁ…と思っています。
相澤先生と心操くんの師弟関係を大切にしたくて、逆に描写ができない悩み…。相澤先生の台詞一つ考えるのに勇気が要る…。相澤先生ってこんな感じで大丈夫かなぁ…!
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