透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮)   作:峰下抄

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おまたせしております。
文字数が2万文字を超えております。お時間のあるときにお読みください。
簡潔に今話を説明すると「Mt.レディと葉隠さんがたくさんお喋りして仲を深める話」です。


36.透明少女の職場体験(3)

 

 

 私――葉隠透の職場体験二日目は無事に終わった。

 午前と午後に一回ずつ行われたMt.(マウント)レディのパトロール、それに峰田くんと一緒に同伴した。

 ヒーローコスチュームで初めて街中を歩く経験に少し浮き足立ってしまったことは否めなかったけど、遭遇したトラブルには無難に対応できたと思う。

 トラブルと言ってもヴィラン発生と言うには大袈裟な、個性使用を伴う小さな事件事故の類で、私も峰田くんもただ見学に徹した程度だった。

 それで少し手持ち無沙汰を感じ、Mt.レディに許可を貰ってから、私は特殊繊維の生地を握り、峰田くんは自らのもぎもぎボールを握って、少しでも個性制御を伸ばそうと内職していた。

 さらに付け加えると私は着ると透明になる生地(B-1)のヒーロースーツを着て、逆に透明にならないようにできないかと逆の個性制御の感覚を探っていた。まあ、成果はないんだけど。

 

「なんか峰田くんはさー、じみーに制御のコツ掴んでるでしょ」

「投げるときに少し持続時間をいじれるようになったから、ちょっと雑に使っても良くなった」

「うわー。ちょうべんりー」

「葉隠見えないけど、嫉妬ですっごい顔してそうな声」

「ご明察だよ、くそぅ」

 

 そんなやり取りがあったりもしたけど、おおむね平和な一日だった。

 ちょっとした事件はこの個性社会ではありふれていて、雄英のお膝元であるこの辺りの治安は良い方なのだ。

 もっと言えば日本はオールマイトのおかげで他国に比べてかなり平和なのだし。そのオールマイトは雄英教師でもある。

 それでも事件が絶えないというのは、旧時代の平和な日本と比べるとやっぱり危ない世界なのだろう。

 そういえば、お昼は午前のパトロールの終わりにちょっと小洒落たお店でランチを頂いた。美味しかったです。ご馳走様でした。

 

 

 

 

 

 

 職場体験三日目。この日は宿泊と野外活動、つまりキャンプの準備をしてくるように言われていた。

 午前中は昨日と同じようにパトロールをして、午後の早い時間帯は事務所内の清掃作業。

 しかし事務所の主、Mt.レディは昼休みを延長するかのようにソファーに寝そべり、雑誌にお菓子にとぐうたらしていて、

 

「ヒーロー活動はね、暇な時間をいかにしてやり過ごすかが重要なのよ」

 

 という彼女の言葉に、峰田くんはマジかよこの女、と思ってそうな顔をしていた。

 サイドキックさん曰く、隙間時間にしっかり休むのも大事で割とよくあること、とのこと。苦笑はしていたけど。

 まあ今日はこれからお出かけなのだから、今のうちに休んでおくのだ、という意図はわかっていた。職場体験も三日目ということで彼女のより気の抜けた素の部分が出てるというのもあるのだろう。

 

(休日にだらけてる私を霞が見てたらこんな気分なのかなー?)

 

 そんなことを私は思っていた。

 

 

 

 

 午後2時を回って昼下がり。

 持ってきた荷物と事務所にあった荷物、それらをまとめて出発準備。

 私たちは私服に着替えていて、ヒーロー活動を思わせるような姿はない。

 平日のキャンプに向かう大学や社会人のサークル活動みたいな趣きである。下手したら家族連れに見えるだろう。

 事務所の固定電話を留守電に切り替えて、四人揃って外に出て、ドアをカードキーで施錠。

 1階のシャッターの中はガレージになっていて、なんと社用車(会社ではないけど)が駐車してあり、それに乗っての外出だ。

 庶民的なコンパクトカーのトランクに荷物を載せて、運転席にサイドキックさんが乗りこんで車を外に出した。

 

「んー、峰田くんが助手席に座って。私と葉隠さんが後ろね」

「? はい」

 

 シャッターの開け閉めをしていたMt.レディから座席の指示が来た。

 なんだろ、男女分けかな。

 

 

 

 

 

 それから小一時間後、私はMt.レディが運転するトラックに揺られていた。

 大きめのステアリングに片手を添えて、MT(マニュアル)のシフトレバーを慣れた手つきで動かす彼女を助手席から眺めている。

 

「ごめんねー。乗り心地は良くないわよねー」

「いえいえ」

 

 郊外にあるゴミ処理業者で、私たちはトラックに乗り換えていた。大きな車の高い視界が新鮮だ。

 いちおう私はナビ役として地図アプリを開いていたけれど、ほとんど道なりに進めばよいので気楽である。

 向かっているのはとある山間(やまあい)のキャンプ場。もちろん我々はただキャンプに行くわけではなく、Mt.レディが請けた仕事のために赴くのだ。

 仕事の内容については先の車中でようやく教えてもらった。いちおうの情報漏洩対策だった。

 今回の仕事はヒーローとしては副業寄りの仕事で、名目としては私有地の警備と山林の環境保護とのこと。

 具体的にはゴミの不法投棄が度々行われているのでその対応をヒーローに依頼してきたわけだ。

 こういった個性の使用が定かではない場合、ヒーローよりも警察の管轄ではあるのだが、いざ個性使用をされると警察では後手後手になってしまう。そのため、民間からの警備依頼というカタチでヒーローを頼っている。

 依頼されている候補日がいくつかあり、今回は職場体験の実習機会ということで請けたのだ。

 

「流石に峰田くんと二人きりはちょっとね……」

「あはは……」

「いやまあねぇ。この美貌(かお)を売りの一つにしてるから、そういう風に見られるのは覚悟してるんだけど……、あそこまで直接的に来られると、それは違うワケよ」

「なんとなくわかります」

 

 Mt.レディが街のパトロールに出る際は、カメラを構えたファンが結構な数集まってきた。

 キタコレ族と呼ばれているらしいファンたちはその勢いとは裏腹に、距離感を保ってMt.レディの邪魔にはならないようにしていた。

 節度の有るファンだからファンサービスもできる。持ちつ持たれつの信頼関係だ。

 

「……たまに売り方間違えたかなぁと思うこともあるわよ。けどまあ、私こんな性格してるから」

「自分に自信があるのは良いことだと思いますよ。本気(マジ)で」

 

 本心からの言葉だったけれど励まされたと思われたのか、「ありがとう」と返した彼女の顔は、照れ笑いに苦笑が混じったちょっと複雑な表情だった。

 華々しいデビューから新人ながらも高い知名度を誇るMt.レディだけど、その内情は順風満帆とは言えないのだろう。

 私から見れば立派な大人の女性でも、大人の世界では小娘扱いなのかもしれない。

 彼女は器用に自分の地金を隠すことができない。より正統派なヒーローらしくや、もしくはアイドルらしく振る舞うほうが賢い立ち回りだとわかっていても、それができない性分だった。

 どうせ剥がれるメッキならそういう芸風にしてしまえ、と割り切った立ち振る舞いは、それでもついてきてくれる熱心なファンを生み、人気が人気を呼べるようになった。

 こうなるともう路線変更は簡単ではない。なにか大きな出来事でもない限り、彼女はこの路線で突っ走るしかないのだろう。

 ミッドナイト先生が言ってた、最初のイメージの大事さというやつなのだな、と私は得心していた。

 

「まあキタコレ族(あのファン)たちは正式デビュー前からのファンなんだけどね」

「えっ。そうなんですか?」

「何人かは顔見知りも混じってるの。同じ大学だったりで」

「はぁー、なるほどー」

 

 活動開始日もそれとなく伝えていて、デビュー日にたくさんのカメラで撮ってくれたのだという。

 ヒーローとしての歩みはデビュー前から始まっているという例だった。

 

「ていうか、葉隠さんこそ、中学では人気があったんでしょ?」

「まあそうですね。目立ってましたし」

「男子にもモテた?」

「んー……。3回、(コク)られました」

「おおー! ……実際に付き合ったりは?」

「流石に雄英受験で必死だったので、そこまで余裕はなかったですね。男女関係なく一緒に遊んだりはしてましたけど」

「偉いわねー。私は高校まではそんなに真面目に将来のこと考えたりしてなかったわ」

「だいたい全部、妹が段取りを組んでくれた感じなんですよ。真剣ではあったんですけど、妹が引き締めてくれたので。普段は気楽に過ごせました」

「話を聞いてると、妹さんって凄いわね。決勝でも頑張ってたし」

「本人には自覚がないというか、自信なさげなんですよねぇ……。あ、妹もモテてましたよ。少なくとも一回は告られてました。でもめちゃくちゃズバっと断ったそうです」

「それならあなたはどう断ったの?」

「『学校で一番強い人となら考えなくもない』って言いふらしました」

「……『自分を倒してみろ』ってコト?」

「いえ、実は毛糸中最強は風紀委員の男子で、利府くんって言うんですけど――」*1

「ふむ?」

「妹のことが好きだったんですよ。当の妹は全然気づいてなかったんですけどね」

 

 結果的に弾除けになってくれていた同級生男子のことを思い返す。

 彼が妹に惚れたのは「一時期、個性制御の訓練に付きっきりで霞が面倒を見てあげた」というしっかりしたエピソードがあるのだが、当時の妹は自身の恋愛に対する興味が皆無だった。

 雄英受験に向けた勉強や訓練で時間を費やす一方、少ない余暇で漫画・ゲーム等を楽しんでいて、「好きなタイプは?」と問われれば二次元キャラを挙げてくる程度には妹はオタクだった。

 最初に受けた告白の時点で、妹は恋愛するつもりがないというスタンスをはっきりさせていたので、それ以上男子がモーションをかけてくることもなかったのだ。

 そういうわけで、利府くんは告白前からフラれていたのである。

 それでも彼は妹から教わったことを伸ばすべく風紀委員として研鑽していた。健気である。

 それどころか妹は、利府くんが好きなのは私だと勘違いしていた節すらあった。不憫である。

 

「Mt.レディはどうなんですか?」

「ん?」

「恋愛関係。在学中とか、それこそシンリンカムイとか」

「――『ノーコメント』」

「うわぁ、あの顔だぁ!」

 

 熱愛報道を問われたときにいつもMt.レディがしているなんとも言えない表情、それを生で見れて、きゃっきゃっしてしまった。

 

「まあ、大学に入ってしばらくしての頃にちょっと慣れがでてきて遊んだりはしたけど、すぐにそんな場合じゃないなってなったわ」

「高校までは?」

「大学進学で上京するまでは故郷(くに)だったから……。都会を夢見る少女(わたし)にとっては、田舎過ぎたのよねー」

「出身は北海道でしたっけ」

「そう。しかも高校は農業高校でね」

 

 したっけ(それで)酪農家のところへ実習に行ったりしていた、と。

 あまりイメージはできないけど、彼女の言い分から都会への憧れからは真逆なものだったのだろう。

 それからMt.レディの学生時代の話を聞かせてもらった。

 運転免許は18歳になったら在学中に取りに行く文化の高校で、自動車の運転自体もそれより前から農場でしていたのだと言う。無免許ながら私有地の中で運転したり、巨大化の個性までも便利に使われていたのだと。

 北海道っておおらかなんだな、と私は偏見めいた感想を抱いた。

 

「それでトラックの運転も慣れてるんですね」

「そう。実はヒーローで食いっぱぐれたときを考えて大型免許まで取ってるのよ。この車は普通(2トン)のロングだけどね」

 

 へぇー、と相づちを打った私だったけれど、トラックに種類とかあるのかと全然ピンとは来ていなかった。

 まあ周りから勧められたからだけど、と付け加えたMt.レディだったけど、彼女が大きな車を運転する姿はなんだか非常に様になっていて、ある種のカッコ良さを感じる私だった。

 

「大学のヒーロー科ってどんなだったんですか?」

「私は高校のヒーロー科を知らないから、どう違うのかは比較しづらいわねー……」

「授業を自分で選ぶんですよね? 単位制で」

「ああ、うん。選ぶと言っても必修――必ず取らないといけない授業があって、ヒーロー科の単位はほとんどが必修だったわね」

 

 あくまで私が入った大学はね、と添えた彼女は学生時代を思い出すように視線を巡らせていた。

 

「逆に必修じゃない授業って?」

「えーっと、ヒーロー芸術学とか、サポート工学応用とかだったかしら……。医学の授業もあった気がするわね……」

「経営科とかサポート科みたいな授業があるんですねー」

「最初のほうは保健体育的な普通の授業の必修もあったわよ。それと英語と第二外国語ね。全学……一般教養の授業でも卒業に必要な単位数があるから受けないといけなかったわ。そういう授業は他の学部生と一緒に受けるから、それで知り合ったりするの。サークルと部活は全学と学部で分かれてるのもあったり」

「サークル! 大学と言えばサークルですよね!」

「ヒーロー科の学生はだいたい幽霊部員化しちゃうんだけどね。私もそうだったの。仮免取得あたりから段々余裕がなくなってくるから」

「あー、雄英高校(うち)もそうなのかも……? ヒーロー科は部活の話、全然聞かないや。あるのは知ってるんですけど」

「高校がヒーロー科だった人は一年目のヒーロー科授業が結構免除されてたから羨ましかったわねー。でもそういう学生って、『高校で仮免取得できなかった組』だから、その時に遊んでると結局ドロップアウトしていくのよね」

 

 高校で仮免取得までいけたなら、そもそも大学のヒーロー科には来ないのだ。

 ヒーロー事務所に入って、サイドキックとして活動しながら本免合格を目指すほうが余計な時間が掛からない。

 変な高校に入っていたならともかく、それなりのヒーロー科の三年間で仮免取得できなかったのなら、その人はよほど運が悪かったか、適性がなかったということになる。

 ヒーローになりたいと思っていてもそれが叶わない人はいるし、努力が伴わずにただの夢想になる人もいる。

 そうして挫折する人のためにヒーロー科からの転科制度があった、とMt.レディは語った。

 

(雄英の普通科も()()()()()のためにあるのかな……?)

 

 ヒーロー科やサポート科()の専門性から、ワンクッション置くための救済措置としての側面があるのかもしれない。

 相澤先生に除籍されたら普通科行きなんだろうか、とか、普通科のクラス人数も少ないのは転科を受け入れるためだったりして? とか少し考えたりする。

 大学のヒーロー科では一般教養の単位数も相当数必要で、それはいざ転科となった際のギャップを減らすためとのことらしい。それは、雄英のヒーロー科と普通科で通常授業の進行がほぼ同じなことを連想させた。

 

「あ、次の交差点で左折です」

「オッケー。そしたらそろそろ山道ね。カーブで揺られるから気を付けて」

「りょーかいです」

 

 ヒーローと職場体験に来た学生と言うには気安過ぎる距離感になっていた私たちの楽しいお喋りの時間は、Mt.レディが運転に集中するために一旦おしまいになった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、Mt.レディのしっかりした運転で目的地であるキャンプ場に無事に到着できた。

 多少ぐねぐねと曲がったりしたけど、山道と言っても舗装された道路はきちんと整備されていて、車酔いもなし。

 お疲れ様を言い合ってお互いを(ねぎら)いつつ、キャンプ場の管理棟の側に停めたトラックから降りた。

 二人して背伸びをし、身体を軽くほぐす。私はついでに腕を振って腰をひねる柔軟をしながら、周囲を見回した。

 

「……はて?」

 

 峰田くんたちの車は見当たらなかった。てっきり先に着いていると思っていたのだけど。

 時刻は16時頃。利用客用の駐車場には数台の車やバイクが停まっている。この数が多いのか少ないのかは、私にはわからない。

 

 ――っと、見覚えのある車がやってきた。サイドキックさんと峰田くんだ。

 

 運転席のサイドキックさんは見えるけど、助手席に座る峰田くんは小さくて見えづらい。

 一瞬、チャイルドシートって要らないのかな? と思ったけど、内心のことながら流石に取り消す。ごめんね峰田くん。

 利用客用の駐車場に停めた車から二人が降りてきて、管理棟の前で合流。

 Mt.レディとサイドキックさんが一言二言、言葉を交わしてから、

 

「チェックインと打ち合わせがあるから入りましょう」

 

 と仕事モードに入った顔で、私と峰田くんに声を掛けてきた。

 みんなで管理棟に入り、受付で通常のチェックインを済ませる。

 氏名や個性(いちおう任意だった)、住所、連絡先と言った必要事項の記入やキャンプ場利用の注意点の説明、それと有料の木炭やバーベキューセットの貸し出し確認、それらを済ませると別室に案内された。

 テーブルをパイプ椅子で囲む簡単に会議用のセッティングがされた部屋で、Mt.レディとサイドキックさん、私と峰田くんの組で並んで座った。

 ほどなくしてやってきた管理スタッフの人に、職場体験の学生である私たちの紹介を(まじ)えながら、簡単な挨拶を交わす。私たちが付いてくることはあらかじめ伝わっていて特に何も言われなかった。

 

「――こことここに、センサー付きの監視カメラを設置しました。車両の出入りはこれで確認できるでしょう」

 

 早速、仕事内容の確認・打ち合わせに入る。

 テーブルには地図が印刷された大きめの紙が広げられ、ゴミが投棄されている地点・予想される地点の注釈が赤ペンで入っていた。

 さらにそれにサイドキックさんが線を書き足した。キャンプ場の近くから伸びる小さな道路上の、ゴミ投棄のポイントを挟むように引かれた線だ。

 そこは主要な峠道から外れた道で通る車はほとんどないそうだ。道幅も狭く、深夜にドライブを楽しむような人の需要もない。いちおう朝夕には山越えの通勤で使っている近隣住民が居るので、通行車両が全く無いわけでもないらしい。

 サイドキックさんと峰田くんで設置してきた監視カメラは、もし今回の依頼が空振りに終わってもそのまま運用を続けて、不審な車両を確認するのだという。

 ちなみにカメラはサイドキックさんの伝手で手配したものらしく、管理スタッフの人がお礼を言っていた。

 

 不法投棄はこれまでもポイ捨てレベルなら度々あった。

 しかし、今年に入るぐらいから冷蔵庫のような大型家電を始めに頻度が増えてきたのだ。

 不定期にトラックがやってきては山道沿いに投げ捨てられて、しかも調子に乗ったようにその量と頻度が増えてきており、いよいよ放置するわけにはいかないとなった。

 また補足として、どこか他所(よそ)に不法投棄されていたゴミが回ってきたのでは、と推測されているが定かではない。

 

 

 

 事前情報から大きな差異はなく、30分ほどで打ち合わせが終わって、私たちは管理棟を出た。

 仕事モードのキリっとした顔から、ゆるっとした雰囲気に切り替えたMt.レディ、その彼女の手には受付で受け取った木炭の入ったビニール袋とバーベキューセットがあった。

 

「さーて、それじゃ、キャンプの時間ね。サバイバルの訓練とかはもうやってる?」

「まだですねー」「まだっす」

 

 ヒーロー科では授業の一環として野営の実習がある。

 今回のようなキャンプ程度のところもあれば、学校によっては無人島サバイバルや雪山でビバークと言ったガチなところもあるらしい。雄英はどうなんだろう。

 

「じゃあ練習と思って、テントの組み立てと火起こし、やってみてね」

「わかりました」「ういっす」

 

 車から荷物を降ろし、テント設営エリアの片隅に陣取る。

 用意されたテントは二組あって、そのうちの一組を私と峰田くんで組み立てることになった。

 

「葉隠、オイラだと火起こしに身長足りねぇわ。テントの取説読み込むから、そっちやってくんねぇ?」

「オッケーわかった任された」

 

 バーベキュー用のコンロは取付式の脚があるのだが、組み立てるとその分の高さになる。

 峰田くんの低身長だと、中を見るのに踏み台が必要になってしまうので火の番には不便すぎた。

 なので私が火起こし担当に。逆に説明書の手順読みなんかはあんまり得意ではないので、適材適所というやつだ。

 

「中学でもキャンプやったと思うんだけどさー、まあ炎熱系の個性の子に頼るよね」

「わかる。いちおう訓練だからって最初は手助け禁止なんだよな」

「そうそう。どうしても火がつかない班の救済措置になったり」

「あったわー」

 

 雑談をしながらバーベキューのコンロを組み立て終わる。

 

「んー。この木炭、長持ちするけど火がつきにくいやつだ。この着火剤の量で足りるかな……」

 

 キャンプ場の木炭には着火剤の欠片が添えられていたけど、このサイズでちゃんと炭に火が入るか自信が持てなかった。

 少し考えて、すぐ近くでもう一つのテントを組み立てているサイドキックさんたちの方に行った。

 

「Mt.レディ、ちょっと持ってきた方の木炭、分けてくれますか?」

 

 彼女は七輪サイズのコンロの準備をしていた。サブの火力として使うようだ。

 七輪コンロ用の事務所から持ってきていた方の木炭は火が付きやすいタイプなので種火に使いたい。その旨を伝えると「いいわよー」との返事。お礼を言って、小石サイズの木炭を数個持っていく。

 そして、ふと遠目に見える他の利用者たちの様子を眺めて、私は気づいた。

 

「個性使ってる人、いますね」

「ああ、ここは個性厳禁じゃないしね。特にここは受付で個性記入しておいて、迷惑にならない範囲でならうるさいこと言われないって。息抜きスポット、みたいな」

 

 彼女の言葉を受けてもう少し他の利用者を注視してみると、確かに他にも風を操ってたり、土を操って簡易かまどを作ったりとなにかしら楽しんでいる人もいた。

 

「まあ、混雑してくると流石にNGらしいけど」

「……平日ならでは、なんですかねー」

 

 自然一杯な中なのもあって、基本都会暮らしの私には中々に新鮮な光景だった。

 

 

 

 

 

 時刻は18時の手前頃。無事にバーベキューの準備もでき、早めの夕食となった。

 お米は災害備蓄用のレトルトの物だったけど、お肉は「経費になるから!」と昨日の定時後に美味しいやつを買ってきていたらしい。

 ジュージューと食欲を煽る香ばしい匂い、パチパチと跳ねる油の飛沫が炭火で燃えている。

 

「これでお酒が飲めればねー」

「ノンアルで充分でしょ。仕事だよ」

「はぁい。――じゃあ、かんぱーい!」

 

 ノンアルコールビールの缶を(あお)るMt.レディをサイドキックさんが(たしな)めていた。もちろん私と峰田くんはジュースである。

 そして最初はレトルト白米を温めるために使っていた七輪コンロは、サイズ的にちょうどいいと峰田くんが自分用に使わせてもらっていた。

 私も、貸し出しのバーベキューセットの網が歪んでいてウインナーなんかは転がってしまう、という理由で小物を焼くのに使わせてもらっていた。

 

 ……いや峰田くん、私がウインナー咥えるのを凝視しないでくれませんかね。

 透明だから大して面白くもないでしょうに。何が見えているのか。

 

(……レベル高いなぁ……)

 

 我ながら呆れているのか関心しているのかわからない心境になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 バーベキューが残り火になる頃にはすっかり日も落ちて、ランタンライトが必要になった。

 サイドキックさんはずっと仕掛けた監視カメラからの情報を確認していたが、やはりまだのようだ。

 本格的に警戒すべき時間帯はもっと夜が更けてからなのだろう。

 

「シャワーを浴びましょう」

 

 小銭は用意してあるから、とはMt.レディの言葉。

 これからヒーロー活動をするなら結局汚れるのにいいのかな? と思ったのだけど、サイドキックさんもテントにバーベキューの臭いがつくのは良くないと賛成した。なるほど。

 ともあれ、シャワーが浴びれるなら浴びたい気持ちだった私も喜んでさっぱりさせて貰おう。

 男性陣には先に荷物番をしてもらって、私たちが先に管理棟に隣接するコインシャワーを利用することになった。

 

 着替えとタオルにシャンプー、石鹸を準備して、Mt.レディから百円玉を5枚貰ってから、早速個室に。

 服を脱いで、いざコインシャワーと向き合った。

 しばらく、どうやって使うんだろう? と使用方法の表示を眺めた後、コインを投入する。お湯の勢いと温度調整にてこずりつつ、まずはなんとかシャンプーを済ませた。

 そんなタイミングで、隣からMt.レディの、

 

「――――あ!」

 

 という慌てたような声が届いた。

 

「どうしたんですかー?」

「コンディショナー、テントの荷物に忘れちゃったのよ。葉隠さん、借りれる?」

「あー、すみません。今日はいいかと思って持って来てませんー」

 

 どうせ見えないからと髪の毛のケアは割と適当な私であった。

 家にいるときは妹の手前それなりにやっているのだが、キャンプならと思ってサボるつもりでいた。

 

「そしたら、私、ちょうどシャワーの切れ間だし取ってきますよ。身体もまだ洗ってませんから」

「あー……悪いわねー……うーん……。お願いできるー?」

「大丈夫ですよー」

「多分、バッグからは出したから、テントの中に落ちてると思うわ。使い切りのやつね」

「了解です」

 

 私はシャワー棟を出ると、てってってっ、と小走りにテントに向かった。

 中を見ると、言われたとおり個包装のコンディショナーが落ちていたのをすぐに見つけることができた。

 

「試供品……あ、これMt.レディがCMやってるやつだ」

 

 その繋がりで貰ったやつだな、なるほどなるほど、などと一人納得していると、

 

「――――葉隠さん!?」

 

 サイドキックさんの驚きの声が背後から届いた。

 

「あ、すみません。ちょっと忘れ物を取りに戻ってました」

「……あ、ああ、こちらこそごめんね、大声出して……」

「いえいえ。荷物番、ありがとうございます」

 

 不審な物音に気付かれたのだろう。先に声を掛けておけばよかったな、と反省。

 お礼を言って、こちらに背を向けているサイドキックさんとテントを後にした。

 

「おまたせしました」

「あら早かったわね――って、もしかしてその格好で取りに行ったの?」

「そうですよ?」

 

 その格好、とはつまり完全ステルス状態(すっぱだか)のことだ。

 だってどうせ見えないし、夜の山でちょっと冷えてきてるけどシャワーも浴びるし。

 気づかれずに取りに行けると思ったら、サイドキックさんに気づかれたのは流石だった。私も修行が足りない。いや別に隠密はしてなかったけど。

 

「あー……。彼、びっくりしたでしょうねぇ……」

「されました」

「……まだ彼の個性、きちんとは聞いてないわよね?」

「? そうですね。眼が良いってのと異形型らしいとは聞いてます」

「うーん……まあ……ありがとうね」

 

 奥歯に物が挟まったようなMt.レディの様子に疑問符を浮かべる私。

 結局その場は、後で教えるからシャワー浴びちゃいなさい、と言われたので素直に従った。

 

 

 

 

「見えたのよ、彼。葉隠さんのこと」

「えっ!?」

 

 シャワーの後、テントの中で伝えられた衝撃の事実。

 シャワー棟備え付けのドライヤーを交代で使って髪を乾かして、テントに戻ってからMt.レディは簡単にお風呂上りのケアを始めていた。

 私がそれを「おー、芸能人っぽい」と眺めていると、先の台詞を聞かされてびっくりしたのだった。

 

「彼の個性は『複眼』で、普通の人よりも目が多いだけじゃなくて、普通の可視光以外にも紫外線とか赤外線とか視える範囲が広いの」

「えっ、えっ、じゃあサイドキックさん、私のことずっと見えてたんですか!?」

「ずっとじゃないと思うわ。普段は普通の可視光しか見てないから。疲れるんだって。でも、テントの見張りをしてたから」

「あー……」

 

 怪しい物音で()()()()()()わけだ。

 そしたら全裸の私が居たわけで、そりゃあ、大声も出てしまう。

 

「うわぁ……やっちゃったぁ……。私、初めてですよ。見えるひとと出会うの」

「まあ、うん。体育祭といい、最初のコスの話といい、高括ってるのかなぁ、とは思ってた」

「お恥ずかしい……」

 

 初日の時点で視られていたらしい。

 

「どんな顔だった? って確認したら『可愛かったよ』って」

「えへへ」

「その反応だと、自分の顔は見たことあるんだ?」

「んー、まあそのようなものです。直接鏡で、とはいかないですけどねー」

 

 おっと、微妙に繊細(センシティブ)な話になったので、軽く誤魔化す。

 サイドキックさんに霞を視てもらえば、双子が本当に似ているのかどうかわかってしまうわけだ。

 うーん、気になるけどちょっと怖い。

 

「体育祭とか、映像経由だと見れないんですね?」

「あくまで彼の肉眼で見ないとね」

「なるほど」

 

 もう少し説明をしてもらうと、直接透明な私が見えるわけではなく、彼自身もよくわかってない『個性』による視覚の処理がされて認識できているらしい。

 だから「試しに視てみたら、びっくりするぐらい疲れた」と驚いていたそうだ。疲労困憊というわけではないけど、予想外に()()()()()だったと。

 

「サイドキックさん、目が良いって、ほんとに良いんですねぇ」

「うん。あ、でも、望遠鏡みたいには見えないんだって。遠いものの視力はそれなり」

「お化けとか見えたりするんですかね?」

「…………訊いたことはないわね」

 

 そう答えたMt.レディの表情は、知りたくない、と言っていた。

 

 

 

 

 時刻は20時過ぎ。日は完全に沈んで外は真っ暗だけど、それでもまだ宵の口と言えばそうだろう。

 Mt.レディはスキンケアを終えると、ヒーローコスチュームに着替えていた。スーツの着用だけで、アイマスクと頭飾りの角は着けていないけれど、すぐ手が届くところに置いてある。

 私もヒーロースーツに着替えた上から服を羽織っていた。B-1だけだと透明なままなので。

 いつでも出動できるように待機状態を整えた私たちは、これから仮眠を取りつつ夜通し不審車両が来ないか警戒するのだ。

 ヒーローコスチュームは基本的に長時間の着用も考慮して作ってある。

 機能や耐久性のみならず着心地や快適性といった総合力が求められているため本来はとても高価になる(こともある)のだが、雄英生は被服控除のおかげでそれを意識せずに済んでいる。

 

「――ん? なんだろ、緑谷くんの……位置情報? ……保須?」

 

 何はともあれ、テントの中でくつろぎの体勢に入った私たち。寝袋(シュラフ)の上に寝転がっている。

 バーベキューやらシャワーやらで携帯電話を見ていなかったのだが、何やらA組グループチャットへ一斉送信で緑谷くんから位置情報だけが送られてきていた。

 既に職場体験先の仕事時間が終わっていたと思しきクラスメイトたちからの返信があったけど、それへの反応は無し。

 

「あー、保須で大規模ヴィラン事件発生してるみたいね」

「え、そうなんですか」

 

 保須市と言えば『ヒーロー殺し』が飯田くんのお兄さんを襲ったところだ。

 でも緑谷くんは東京じゃなかった気がするんだけど、遠征でもしたのかな。

 

「ウチは非番扱いだし、エリア違いだから招集はかかってないけど。……私も行けてたら目立てたかしら……」

 

 流石Mt.レディ。自己顕示欲に素直だ。ぶれない。

 

「まー、エンデヴァーも来てたみたいだし、もう鎮圧されてるみたいね。……でも、被害は大きい……」

「……あ。ヒーロー殺し、捕まったんだ。流石No.2」

 

 まだ公式発表ではなく飛ばしかもしれない速報だが、映像付きでヒーロー殺しと思しき人物が捕まっているニュースがあった。

 そして粗い映像の中に、見覚えのあるクラスメイトたちの姿を見つけた。緑谷くん、飯田くん、轟くんだ。

 

(あー、なるほど?)

 

 先の位置情報は通報か、SOSの代わりだったのか。

 いずれにせよ無事そうで良かった。怪我はしているみたいなのでそこは心配だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮眠の時間があって、目が覚めると時刻は23時頃。

 虫の()をBGMに、Mt.レディが静かに携帯電話(スマートフォン)を眺めていた。

 

「起こしちゃった?」

「いえ。というかMt.レディは寝てないんですか?」

「ううん。私もついさっき起きたところよ」

 

 もぞもぞと入っていた寝袋から身体を出す。夜露が降りてきたのか、少し肌寒い。

 Mt.レディはライトの明かりを少し強めて、携帯電話でメッセージを送っていた。

 外の、少し離れた男性陣のテントの明かりが絞られる。今度は向こうが仮眠をする番だった。

 私たちはこれから2時間を目安に警戒待機する。

 

「葉隠さんはもうちょっと寝ててもいいわよ?」

 

 とは言われたけど、これも職場体験、経験だ。

 暇つぶしに個性訓練でもしようと、ポケットから特殊繊維の生地たちを取り出して触り出す。

 

「…………」

「…………」

 

 夜の自然の音だけが響く空間。

 読書をしていたらさぞ捗るだろうな、と私は思った。

 手の中の布切れと、肌に纏っているスーツの感触をひたすら意識していく。

 

(んー。手ごたえがないわけじゃない……)

 

 最初は錯覚かと思えるほど微弱な感触だったけれど、見分けるためのタグを見ずとも手に握る特殊繊維がどの種類かがわかるようになってきた。

 

 蟻のような歩みだとしても、進歩はある。

 霞も最初から器用に透明化を扱えていたわけじゃない。毎日毎日、苦しみながら透明になり続けていた。

 足踏みを続けていたこれまでを考えれば、取っ掛かりを得た今は雲泥の差があった。

 

「……………………」

 

 ほとんど瞑想のように集中していた私だったが、ふと顔を上げるとMt.レディと目が合った。

 いや、合ったわけではないか。一方的に見返したのだ。

 

「どうかしましたか?」

「あ……いや、頑張ってるなぁ、と思って。個性伸ばしは学校でもう教わってるの?」

「学校だとまだですねー」

「じゃあ、これも妹さんが?」

「ですです。……やっぱり個性伸ばしってヒーロー科でやるんですね」

「そうね。ある程度身体づくりをしてから、だけど」

「Mt.レディもやったんですよね?」

「あー……私の場合、伸ばしようがなかったというか……広い訓練場があんまり確保できなくて……」

 

 彼女の歯切れは悪かった。

 大学の授業では訓練環境もあいなって、個性伸ばしらしいことをやらなかったらしい。

 その代わり、春休みや夏休みに帰省した際には遅れを取り戻すべく高校時代にお世話になっていた農場に行って、巨大化の個性を使いまくったそうだ。

 大型自動車免許の取得を勧められたのもこの時で、ヒーローがダメだったらウチに来い、と言われたそうな。

 

「そもそも伸びる余地があんまりなかったっぽいのよね。器用な個性ってわけでもないし」

「せめて調整とかできたら便利だったんでしょうけどねー」

「本当にね」

 

 結果、個性伸ばしとして目に見えるカタチで伸びたのは20メートル弱だった巨大化時の身長が20メートル超になったということ。

 他には発動にかかる時間が短縮されたとか、巨大化時の省エネ化・持続時間の伸長とか地味な成果があったそうだ。

 

「そもそも巨大化のサイズ自体は成長期に合わせて大きくなってたのよねぇ……」

 

 個性も身体の一部。成長に合わせて育つというのは良く言われる話だ。

 Mt.レディの場合、個性発現時の3歳頃は巨大化しても2倍の2メートルぐらいだったらしく、齢に沿うように巨大化時の身長が伸びていったという。小学校入学時点で4メートル、中学では12メートル、高校では16メートル、大学で20メートルといった具合に。

 正直、伸びるのが止まってくれて良かったと思ったそうだ。あんまりにも巨大化できてしまうと使いどころがなくなってしまう。現状でさえ街中では持て余し気味であるし。

 

「というかそれだと個性伸ばしで伸びてなくないですか?」

「うん。私もそう思う……」

 

 むしろ、これ以上大きくなると困る、という気持ちを汲んでストップがかかったかのようにすら思えた。

 

「巨大化した時の身長、計ってたんですね」

「服がねー。大きくなった時に伸びないと困るから……」

「あー……」

「汎用品の個性対応服だったから、特殊繊維に比べると着心地悪いし、すぐ伸びきっちゃって使えなくなるんだけどね。そうじゃないのはゴムでだるだるよー」

 

 小学生の頃はまだ良かったけど中学以降は対応サイズの都合でデザインも不格好になっていった。

 それが思春期の女子には辛かった、と述懐する彼女。

 

「それでも毎年巨大化してたから、買ってもらっていたわ」

「毎年?」

「毎年。毎冬って言ったほうがわかりやすい? 雪かきよ」

「ああー!」

 

 最初は雪遊びのつもりぐらいだったけれど、両親や隣近所の大人たちから「ありがとう」を言われて嬉しくなったと言う。

 お小遣いも貰えたし、そのうち巨大化しての雪かき用の巨大スコップなんかも用意されたりして、毎年の定番化した。

 今思うと公共の場での個性使用にだいぶ近いのだけど、感謝こそあれ、咎められることはなかった。

 

「便利に使われてるなぁ、とは思ったこともあったけど――」

 

 そんな単純な原体験が、自身の個性を前向きに思わせて、

 

 ――――ヒーローになりたい。『個性』を使って人に貢献したい。

 

 そう思う切っ掛けになったのかもしれない。

 

 

 

「……まあそれはそれとして田舎に飽きて都会に憧れたんだけど」

「あはは」

 

 そう言って、彼女は小さな昔話を締めくくった。

 私はそれを、いいなぁ、と思ったのだった。

 

 

 

 

 私も、誰か(あの子)のために個性を使いたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――来た」

 

 ぼーっとしていた意識が、Mt.レディの声でパチンと切り替わる。

 彼女が素早くメッセージを送ると、隣のテントからわずかに慌ただしさを感じさせる物音が聞こえてきた。

 Mt.レディはアイマスクと頭飾りの角を着けて、コスチューム用のブーツを履く。

 私も羽織っていた服を外套(マント)に替えてブーツを履いた。

 

(ふもと)からの上りルートね」

「トラックの荷台に雑に積まれた冷蔵庫、エアコン、箪笥、etc(エトセトラ)……。十中八九、黒だね」

 

 同じようにテントを出てきたサイドキックさんと峰田くんと合流。

 サイドキックさんは背広姿だけどこれが彼のヒーローコスチュームなのだろう。峰田くんも当然コスだ。

 

「どこらへんだと思う?」

「普通に考えると同じところで捨てるかな。ここはちょっと崖になってて、道幅が少し広い。すぐ近くにUターンできるところもある。逆にその先は道幅が狭くなってて、トラックで行きたくないと思う」

「わかったわ」

 

 Mt.レディとサイドキックさんはタブレットを覗き込んで短く検討を済ませた。

 私と峰田くんは黙って成り行きを見守り、指示を待つ。

 

「葉隠さん、彼と先行して。現場を押さえて証拠を掴んでちょうだい。峰田くんは私と一緒に」

「わかりました」「了解です」

 

 偵察を任された。得意分野――にしたい、と思っていることだ。気合いが入る。

 

 

 

 

 

 

 

「葉隠さん、ライト要らないの?」

「大丈夫です。夜目は利く方です」

 

 サイドキックさんと二人、山道を走っていく。照明は持ってはいるけど消したままだ。

 個性柄、サイドキックさんは暗視能力があるし、実は私も人よりかは夜目が利く。

 霞曰く「身体に入ってくる光を個性が勝手に選んでる」ということらしく、明るさに順応することを眼の機能ではなく個性でやっているそうだ。

 なので太陽光を直視しても眩しいなぁとは思っても目が焼かれたりしないし、暗所に入っても慣れる間もなく見えたりする。

 明かりの無い山道でも、道路を走るぐらいなら問題は無かった。

 

 

 

 

 

 静かな山道に、トラックのエンジン音が響いていた。

 先を行くトラックを追いかける私とサイドキックさん。

 荷物を積載しているトラックは狭い道幅もあってそれほどスピードを出せていない。

 車のライトが湾曲した山道の先から木々の影を作っている。その光に追いつけるほどではないが、見失うほどでもなかった。

 

「もうすぐ、この先が投棄のポイントだ」

 

 サイドキックさんが少し走るペースを落として言い、耳に着けたインカムでMt.レディに予想が当たっていたことを報告していた。

 はたして道路の先に、家電や家具を積載したトラックのテールランプを見つけた。

 山道の道路は所々で道幅や状態に差があるが、そこは比較的道幅もあり舗装も綺麗でちょっとした直線が伸びていた。

 向かって左手側は山肌をコンクリートで固めてあり、右手側は崖になっていて転落防止のガードレールが申し訳程度に設置してあるが、道の先のカーブですぐに途切れていた。

 そのカーブの先が結構広くなってるらしく、私たちから見るとトラックがカーブの先に頭を入れているように見えた。

 

 ――そのテールランプに白いランプが灯った。

 

 トラックが後退して、ガードレールがない崖に向かってゴミを載せた荷台を寄せていく。

 サイドキックさんは手にした携帯電話(スマホ)を向けてカメラを起動。しかし彼は小さく舌打ちした。

 

「この距離だとダメだな……」

 

 携帯電話の小さなカメラレンズでは、距離と暗さ、トラックのライトの明度差もあって証拠映像を撮るには厳しいようだった。

 ヒーローには逮捕権限がない。現行犯逮捕するにしても、その後にちゃんと罪を問うにはしっかりした証拠が必要だ。

 

「私が撮ってきます」

 

 サイドキックさんにそう提案する。彼は少し迷った後、頷いた。

 

「わかった。無理はしなくていい。バレたら投げ捨てて逃げていい」

 

 外套を脱いでサイドキックさんに預けて、グローブも外す。ブーツは迷ったけれど、ぎりぎりまで履いておこう。

 サイドキックさんが携帯電話を操作して録画モードを開始させた。一度、画面をオフにして手帳型のカバーを閉じて開いて、録画が続いているのと、最後に余計な光が漏れていないことを確認してから渡された。

 

「それとこれも。こっちのほうはできれば壊さないでね」

 

 その電話より高価だから、と予備のインカムを渡された。

 簡単に操作説明を聞いて、耳につける。

 イヤホンからMt.レディの「もうちょっとで追いつくわ」という声が聞こえて動作を確認。

 

 

 ……よし。いってきます。

 

 

 

 

 

 足音を抑えた早歩きでトラックに近づいていく。

 幸いトラックからエンジンのアイドリング音が響き続けていて、多少の足音は聞こえないだろう。

 停車したトラックの運転席から男性と思しき人影が降りてきて、荷台側に回り、積み荷を降ろす準備を始めていた。

 

 ――流石に少し緊張する。

 

 ヴィラン、とはまだ言えないが、私は犯罪者を前にしている。ポイ捨て――不法投棄はれっきとした犯罪だ。

 はたから見れば携帯電話とブーツしか見えないはずだし、ヘッドライトならまだしもトラック側面の車幅灯の明かり程度では私が歩いている辺りは真っ暗だ。

 ちらりとサイドキックさんが居る方を見ると、彼もこちらのほうを注視していた。

 

『向こうに気づいた様子はないよ』

 

 とインカム越しに聞こえて、内心で安堵した。

 歩みを進める。トラックの低いエンジン音が近くなり、排気ガスの臭いも届きだした。

 

「…………」

 

 トラックの側面から、約5メートルまで近づいた。

 インカムから「そこまでで充分だ」とサイドキックさんの声が聞こえる。

 がさごそと荷台に登って積み荷を固定していたロープやベルトを外し終えた人影が降りてきた。

 その人影は周囲を軽く見回したのでヒヤリとしたが、私に気づくことなく作業を再開した。

 ほっとした私は、カメラを向けながらあらためて人影を確認する。

 

(中肉中背……身長は170ぐらい。まず間違いなく男性。見た目から想起される個性はなし。作業に個性を使ってる様子もない)

 

 多少ガラの悪さを感じさせたけど、どこにでも居そうな作業員という印象もある。

 ぶっちゃけ、強そうには見えない。戦闘訓練で言うなら個性無しでの上鳴くんぐらいの雰囲気だ。

 そこまで観察できると、だいぶ冷静になれた。仮に見つかったとしても充分戦って勝ち目があるように思えたし、未だ気づかれてないということは感知能力もないのだろうから逃げ切れる。

 

「…………」

 

 私は黙って観察を続けた。男は面倒くさそうに作業している。

 山奥まで来るのが面倒だとか、暗いだとか、前の海岸は楽だったのに、とブツブツと独り言の愚痴が聞こえた。

 やはり常習的に不法投棄をしている、というか、業としてやっている感じだ。男はその下っ端かなにかか。

 

「…………」

 

 私が黙って見ている前で、男はついにゴミを捨て始めた。

 電子レンジや扇風機のような小型家電を崖下に向かって投げ捨てている。

 その様子をしっかりとレンズに収めた。

 

 これが、私が本当にヒーローだったなら捨てられる前に犯人を確保できたのだろう。

 

 私はつとめて、静観する。

 小物を投げ捨て終えた男は、次はエアコンを降ろすべく荷台に登っていた。

 せめてもっとしっかりとした犯行の証拠を増やすために、さらに近づき腕を伸ばして荷台上の絵を撮った。

 撮れたかどうか中身の確認はできないので色んな角度で撮りたい。そう思ってトラック後方へ。

 後から思えば、充分だと言われていた距離から近づいていて、勇み足になりかねないことをしていた。

 

(おっとっと……!)

 

 家庭用のエアコンを担いだ男が振り返ったので、逆にトラックに張り付いて、車体の影に隠れた。

 来た方とは逆の方、サイドキックさんからは直接は見えない位置に入ってしまってインカムから「無茶をするな」と怒られた。

 冷や汗をかきながら、どうやら束の間私は冷静さを失っていたらしいと気付く。

 

(ヒトのこと言えないじゃん、私)

 

 うん。反省だ。

 心が乱れても、冷静さを失わないように。

 ちゃんと最善を尽くせるように努めていこう。

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

「――山林保護活動中のヒーローです。大人しくしてくれる?」

 

 やってきたMt.レディがフラッシュライト片手に、男を照らし勧告する。

 驚いた男は、彼女のライトを眩しそうにしつつも身構えて――

 

葉隠さん(クレア)!」

「はい!」

 

 私は踵を返して逃げようとする男の脚を引っかけて転ばせた。

 男にしてみれば何もないところで転ばされて困惑しただろうが、すぐにMt.レディが追撃し、制圧。

 彼女は男の服を引っぺがして半裸にした後、その服を利用して簡単に縛り上げた。なるほど。武装解除と拘束の両取りだ。

 私は携帯電話のカメラを構え直して、男の顔をしっかりと撮影しておいた。

 

「よし、確保完了。葉隠さんもナイスフォロー。意図を汲んでくれて助かったわ」

「いやぁ、突っ込み過ぎたのは反省でした」

 

 結果的に挟み撃ちのカタチになっていたけれど、そうなったのは私が行き過ぎただけだ。怪我の功名に近い。

 それにしても、ヒーローネームで初めて呼ばれてしまった。ちゃんと反応できたのは良かったし、呼びやすい(付け足した)部分があって良かった。逆に咄嗟にフルネームを呼んでくれる人は居るんだろうかと心配にもなる。

 ほっとした途端、取り止めのない思考が流れていく。

 緊張も解けて私は汗をかいていたのに気づいた。もう一回シャワー浴びれるかな、浴びたいな。

 

 ――などと、呑気なことを考えていたせいか、次の事態に反応が遅れてしまった。

 

 アイドリングを続けていたトラックのエンジンが、突如大きく吹き上がった。

 タイヤがスキール音を立てて、トラックが急発進した。

 

「危ない!」「わっ」

 

 Mt.レディが私と確保していた男をそれぞれ掴んで、引っ張ってくれていた。

 トラック自体は直進していくも、積載していたタンスや冷蔵庫は固定が外されていて、急発進の衝撃で荷台から落ちてきた。

 私が顔を上げると、トラックはふらつきながらも、サイドキックさんの方へ加速して逃走しようとしていた。

 

 もう一人、車内に残っていたのだ。

 助手席かキャビンに寝ていたのか、Mt.レディが男を確保したことで、仲間を置いて一人逃走を図った。

 

 ブオオオン!! とフルスロットルの轟音が響く。

 その音の大きさの割りにはトラックのスピードはそこまで速くはない。焦ってアクセルを踏みしめているせいで、シフトチェンジが疎かになっているのかもしれない。

 そう私が思い当たると同時にようやくシフトアップをして、再び加速しようとアクセルが踏まれた。

 

(あの辺りにはサイドキックさんが――)

 

 短い直線道路の終わり際にトラックが差し掛かる。

 流石にトラックを止めるような備えはサイドキックさんにはなかったはず。

 

 

 

 そう、サイドキックさんには。

 

 

 

 

 

 

 ―――――CRASH(ガシャン)!!!!

 

 

 

 

 

 

 金属が折れ曲がるような、あるいは壁に激突したような轟音が耳を突いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トラックに何が起きたのかというと、峰田くんが撒いていた『もぎもぎ』を踏んでいた。

 まだ加速中で時速40キロを超えた程度だったらしいけど、それが一瞬でゼロになったのだ。

 実質的にトラックは壁に激突したのと変わりない衝撃を受けていた。運転していた男は急いで逃げようとしていたためにシートベルトもしておらず、エアバッグこそ作動していたが思いっきり車内で吹っ飛んで気絶していた。

 というかスタックした勢いでトラックは思いっきりつんのめっていて、荷台含めた車体後部は宙に浮いていた。フロントガラスを突き破らなかったのは運転手にとっては幸運だっただろう。

 見分したサイドキックさんは「サスペンション、よく生きてたな……」と呆れなのか感心なのかわからない調子で呟いて、路面の舗装が粗かったり薄かったりするところなら、コンクリのほうが剥がれていただろうと言っていた。

 峰田くんの『もぎもぎ』、恐るべし。

 

 

 

 

 事実上の事故車両となったトラックから気絶した男を救出し、大怪我はしてないことを確認してから『もぎもぎ』も活用して拘束。投棄作業をしていた方の男も同様に縛り直した。

 警察に連絡したところ、ひとまず犯人たちは連行されていったが、山道は道路規制をして、実況見分は夜が明けてから行うとのことだった。

 私たちはキャンプ場に戻って朝まで休むことになった。通行止めになったので物理的に不審車両は入れない。強行突破までして不法投棄しにくる可能性は考慮しなくていいだろう。

 

 

 そして、何事も無く夜明けを迎えて、職場体験4日目の朝。

 キャンプ場の朝、七輪コンロに火を起こして簡単な朝食を作って食べた。炭火焼きのトーストとウインナー。Mt.レディたちは珈琲を淹れていて、物凄くキャンプっぽさを感じた。

 食べ終えて一息入れた後、早めに撤収準備に入った。バーベキューの灰や各種ゴミを指定の場所に捨てて、テントを片付ける。

 荷物を事務所の車に乗せて、ヒーローコスに着替えて、

 

「それじゃ、警察対応は任せたからね」

 

 となぜかMt.レディだけ管理棟に停めていたトラックに乗って、一人別行動に入った。

 不思議に思いつつも私と峰田くんはサイドキックさんの車に乗って、事件現場へ向かう。

 峰田くんの『もぎもぎ』の残りがないか確認したり、あらためて現場の写真を撮ったりして待っていると警察がやってきた。

 サイドキックさんが昨晩の映像データを監視カメラのものと合わせて提出し、挨拶もそこそこに実況見分が始まったので私たちはそれを見学した。

 警察の人たちはチョークで路面に線を引いたりしつつ、写真を撮っていく。

 途中、映像データを撮ったのが私だということを確認をされて、お手柄だね、と褒められた。

 そしてトラックを事故ら(スタックさ)せたのが峰田くんの個性だと知ってその性質を聞くと、驚きながらも軽く引いていた。

 実況見分の手続きが一通り終わると現場の復旧作業に取り掛かった。私たちも手伝って、路面に散らばった冷蔵庫やエアコンなどの粗大ゴミをぎりぎり自走できるトラックに積み直していく。

 

「……崖下に投げられたゴミはそのままですか?」

 

 道路上の片付けがあらかた終わり、チョークのメモだけが事件の痕跡となったけど、あくまで道路上だけだった。

 日の光で明るくなった崖下を覗き込んでみる。夜の闇の中では深淵のようだったそこは思っていたより浅いが急斜面の坂になっていて、先に投げ捨てられた電子レンジや扇風機のような小物家電が放置されている。

 ただそれらだけではなく、以前に投棄されたゴミも転がっていた。冷蔵庫や大きなテレビなんかがダムのようにゴミ溜まりを作っている。

 角度的にも足場的にも簡単に降りて行ったり、持って上がったりというわけにはいきそうにない。

 私としては気になってしまうのだが、クレーンのような機材もないしどうしようもないだろうか。

 そんなことを考えながら、下を向いていると、

 

 

「――葉隠さんー、ちょっと危ないから下がってくれるー?」

 

 

 と、遥か頭上から声を掛けられた。

 巨大化したMt.レディが、山の中を歩いてやってきていた。

 私はびっくりしながらも、言われた通りに崖際から離れる。

 

「よいしょ」

 

 むんずと、Mt.レディはその巨体に相応しい長く大きな腕を伸ばし、崖下のゴミを掴み上げていた。

 

「とりあえず引き上げておくから、まとめておいてね。分別が必要ならよろしくー」

「了解、レディ。お疲れ様」

 

 Mt.レディがひょいひょいと手を動かしていくと、崖下に溜まっていたゴミは全て引き上げれていた。

 こんなもんかしらね、とあっさりとその身一つで重機作業と同じことをやってのけたMt.レディは山間部をのしのしと、それでいて慎重に歩いていった。

 私は呆然としてその姿を見送った。ぽかんと口も開いていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前10時過ぎ。キャンプ場からチェックアウトしての帰り道。

 私は行きと同じようにMt.レディが運転するトラックの助手席に座っていた。

 行きと違うのは、空だったトラックの荷台にMt.レディが回収してきた不法投棄物が満載されていること。

 そのため彼女は往路よりもより慎重な運転を心がけていて、あらかじめサイドキックさんの車には先に行ってもらっていた。

 

「トラックって、このために借りたんですね」

「ん? そうよ。言ってなかったっけ?」

「聞きそびれてたかもです」

 

 そうだったかしら、とMt.レディは首を傾げている。

 私も正直どこかで聞かされていたかも、とは思うのだが完全に頭から抜けていたので。

 

「えーっと、名目上の仕事で、山林保護活動って言ったと思うんだけど」

「あー…………つまり、本当に?」

「うん。もし空振りになっても、『巨大化』の個性を使ったゴミの回収は当初からの予定通り」

「なるほどー」

「こういう仕事は別に初めてじゃないしねー。まあ別に好きでやってるかというとそうでもないんだけど」

 

 じゃあなんでやってるのかというと、サイドキックさんの采配だという。

 

Mt.(マウント)レディなんて名乗ってるんだから山に(ちな)んだ仕事はやっとくべきだよ、なんて言われてね。隙間に入れるにはちょうどいい仕事だし。まあ、嫌ってわけでもないし」

 

 しかし上位互換の個性のヒーローがまあまあ他に居るので、特別感謝されるかというとそうでもないらしい。

 確かにこういう仕事は13号先生ならその場で処理までできてしまうわけだし、巨大化しての移動で逆に自然破壊しないように歩かないといけなかったりと、Mt.レディは最適なヒーローではなかった。

 そうは言っても雄英教師やりながら災害救助にひっぱりだこな13号先生を、ゴミ掃除で働かせては役不足というものだろう。

 

「こういう誰かがやってくれると助かる、ボランティアみたいな仕事もヒーローの本分だから。……いやでもやっぱり地味過ぎる仕事なのよねぇ……」

「Mt.レディのそういうとこ好きですよ、私」

「そう? ありがとう。…………どういうとこ?」

 

 損得勘定しちゃうところと、それでいて良心に従うとこです。

 

 そういえば、昨夜の犯人たちはヴィラン扱いではない、ということを彼女から聞いていた。

 個性を用いないうちは普通の犯罪者の範疇なのだ。普通の犯罪者という言い方も変ではあるが。

 それを聞いて私が「じゃあ個性使わせたりすれば手当が貰えたんですね」と言うと、Mt.レディは「そうね」と肯定はしたものの、「それだと葉隠さんたちを危険に晒すかもしれないから」とはっきりNGを出していた。

 

 ――惚れるかと思った。

 

 実際「かっこいい!」と私がはしゃぐと、彼女は不思議そうな顔をして「いや先輩たちとかみんな当たり前にやってるから。大事なことよ」と窘められてしまった。

 そんな彼女だが「でもチラっとは思ったわよ。このままだと手当は出ないなって」とそこも素直に言ってしまうのだ。

 もうそのままの貴女でいてください、という気持ちになった私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 産廃処理業者でゴミごとトラックを引き渡して、サイドキックさんの車に乗り換えて、事務所への帰路に就く。

 途中、道沿いのレストランに寄って昼食を取ってから、午後に回ったころに到着した。

 みんなで「お疲れ様でした」と声を揃えて事務所に入ると、キャンプ用具の後片付けをして、順番にシャワーを浴びなおした。事務所ビルの屋上で洗濯物を干したりもした。

 一日事務所を空けていたので業務連絡や郵便物の確認をしてから、昨夜の事件の報告会を全員で行った。

 録画の映像データを確認しながら、その時の動きを説明したり聞いたり、反省点を挙げられたりだ。

 そして、事後処理のやり方や警察対応についての話まで一通り終えて、報告書作りに着手していると、

 

「――岳山、机借りるぞ」

 

 なんかヒーロー『シンリンカムイ』が普通にやってきた。屋上のドアからロック解除して。

 私と峰田くんがぽかーんとしていると、ごく自然にシンリンカムイは机の一つに座って、引き出しからノートパソコンを引っ張り出すと書類仕事を始めてしまった。

 なんでもシンリンカムイは事務所を構えておらず、報告書などの作業が溜まる度にMt.事務所で仕事をしているらしい。

 カードキーこそ渡していないが暗証番号は教えているので、事務所が開いているとアポなしで入ってくるのだ。

 そういえばMt.レディはタバコを吸わないのに屋上に灰皿があったのだが、これはシンリンカムイが吸うためだとか。

 

 ……そら熱愛報道とかされるよなぁ、と私と峰田くんは顔を見合わせたのだった。

 

 

 

*1
オリキャラ。




 お気に入り登録、感想、ありがとうございます。
 ご感想、お待ちしております。ここすきもお気軽に。


 お待たせしております。お待たせしました。
 書きたいこと詰め込んだら伸びる伸びる……。ここまで文字数がかさむとは思ってませんでした。想定が甘い。
 更新まで時間が掛かって本当に申し訳ないです。この半年ぐらいずっとMt.レディのこと考えてました。

 ファイナルファンブック発売されましたね。
 この作品は独自設定が多分に含まれております。


 唐突にキャラ設定を晒してみる。


【利府くん】
 利府 玲玖斗(りふ れくと)(仮名)。
 話中で名前が出たオリキャラ。23話でも言及されている。
 毛糸中学校での葉隠姉妹の同級生。1年生の頃に主人公と、2年生以降は葉隠さんと同じクラス。

 個性『反射』。
 某映画のキャラと同じ個性名称だが、手で触れたものに対する任意発動型で規模も小さい。
 パンチングマシーンで100kgと表示されたらその倍ぐらいの力が許容範囲(中学当時)。
 なお実際には『ベクトル操作』とも言える個性であることが発覚して、反発力を無視して殴り抜く、という必殺技に至ることができる。
 しかし当初は個性制御が甘く、力を込めると手を怪我するという緑谷くんの初期OFAをマイルドにしたような個性になっていた。
 それに対して主人公が世話を焼いた結果、個性制御に目覚めてのちに風紀委員最強にまで至る。

 学力的に雄英や士傑は未受験。勇学園とか傑物学園とかに入ったかもしれない。



【サイドキックさん】
 一応原作キャラだが、今作品で最も「原作キャラ強化」を受けている可能性が高いキャラ。他キャラが1→1.2なら、彼は0→1ぐらい強化されてる。
 ファイナルファンブックでは「雄英高校卒業後の進路」のページの「経営科」に姿が確認できる。

 以下、あくまで本作中での独自設定。本作ではサイドキックなのでヒーロー資格持ち。
(「すまっしゅ」かどこかで「サイドキック兼マネージャー」って書いてあったと思い込んでいます。すまっしゅの設定を真に受けていいのかという問題はいやまあ)
(最近放送されたヴィジランテアニメでもあったけど、無資格だとサイドキックではなくサポート要員という表現になる)

 個性『複眼』。
 通常の二つの眼の他に個性の眼があり、人に嫌悪感を与える恐れがあるため仮面を被っている。
 外からは見えないがサングラスのように視覚の邪魔はしない仕様。仮面のデザインは事務所のメインヒーローに合わせて都度更新している。
 話中に言及された通り赤外線や紫外線といった可視光線よりも広い範囲を感知できる眼を持っていて、それらが組み合わさった能力として透明化した葉隠さんを視覚的に認識できる。
 視野角や動体視力と言った部分が強く、書類仕事にもめっぽう強い。

 かつては戦闘もちゃんとこなしていたサイドキック。
 しかしヴィランに人質にされた女性を助ける際、抱きかかえて高所から落下、なんとか着地するも足腰を痛めてしまい、一線級の動きはできなくなった。
 現在はリハビリ済みで縦移動はともかく横移動ならばある程度は無難にこなせる。
 妻子持ち。助けた女性は元々彼のファンであったが怪我とリハビリが切っ掛けで交際を始めて30歳手前頃に結婚した。現在は30代中盤ぐらいのイメージ。
 峰田くんに「サイドキックでも真面目に活動してればファンは付くよ」と実体験まじりに語った結果、仲良くなっている。


 話中では頑なに名前を出さなかったけど、一応「加山 比目(かやま ひめ)」という名前を考えています。
 複眼の個性で「加」「目」、Mt.事務所なので「山」。あと複眼といえば虫の眼というイメージで虫・いきもの好きの某Vtuberの名前をほんのりオマージュしました。




 あまりにもお待たせしているので今後の話の予定をちらっと。
 一応原作イベントの時間軸で言うと「職場体験期間の終了~期末試験~夏休み~入寮」を第3章の範囲にしようと思っています。
 そして次章で「仮免試験~文化祭~A組・B組対抗戦」までは確実にやるつもりではあります。
 その後、インターンをやるかどうか、最終章というか最終話・エピローグに当たる話という感じで、やれたらいいなぁ……。
 列挙するとちゃんと書いていかないと終わらないな……とぞっとしました。
 応援よろしくお願いします。
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