透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
特別授業も三日目となる水曜日。
今日はこの一週間の時間割で唯一、ヒーロー科授業が午前中に割り当てられている日だった。
私――葉隠霞と心操くんの二人の特別授業もこの日は午前中に行われる。
昨日の特別授業二日目は、午後の授業時間は初日後半のヒーロー基礎学に準ずる訓練を2時間かけてやり、戦闘訓練は放課後の時間に行われた。
内容はヒーロー科の普通授業といえばそうなのだが、明らかに量が多かった。詰め込み学習・
どうしてそうなっているのかというと、本来20人1学級の生徒数で回すはずの訓練メニューを二人で回しているからだ。単純計算だと10倍のペースになる。
もちろんそこまでではないし、相澤先生も小休止を挟ませてくれたけれど、私たちの状態を見てギリギリのハイペースを維持させてくる。
追い込み方が上手く、私がこっそりペース配分をしようとすると的確に指摘してくるせいで、心操くんよりも先にバテ始めるようになった。いや、心操くんのスタミナが伸びているのと、彼のモチベーションによるブーストが凄いのかもしれない。
私は私で頑張ろうとしてはいるのだが、相澤先生の個性『抹消』が何かの拍子に突き刺さったりしないかと余計な
別に私たち二人が個性を使っているわけでは――私の透明化はともかく――ないし、使う意味もない。なので相澤先生の『抹消』も意味はないのだが、先生は指導中に睨みを利かせる際は抹消の発動も癖になっている節がある。
雄英高校に入ったばかりで生意気盛りの新入生を指導・担任する立場の相澤先生だ。
言ってしまえば爆豪くんのような
――それはそれとして高密度高負荷訓練の
昨日の放課後の時点で「明日の朝練は休もう」と二人で示し合わせたのは初めてである。
それでもせいぜい1時間、2時間の休憩が増えただけなので、疲労感はともかく身体の痛みは抜けていない。
これまで私たちの自主練では、筋肉痛で動けないという事態は避けてきていた。
しかしこの二日間の訓練量は私なら間違いなくオーバーワークと判断するレベルだった。
二日目の訓練にはなんとか耐えた私たちの肉体だったが、流石に
「…………」
「…………」
流石の心操くんもポーカーフェイスを通り越して目が死んでいた。おそらく私も同じ目をしていただろう。
ゾンビのようなうめき声を上げそうになるのを耐えて、私たちは体操服に着替えて演習場に向かうべく指定されたバス乗り場に向かった。
「――って、あれ?」
バス乗り場には普通科生徒たちが集まっていた。それ自体はおかしくない。
今日の普通科生徒たちはヒーロー基礎学の基礎訓練をやると聞いていて、演習場へ向かうためのバス待ちなのだろう。それで各クラスの更衣室も賑わっていた。
しかし私たちの指定されたバス停にも一年生が――というか、特別編入カリキュラム参加の生徒たちが集まっていた。
「私たちも特編の内容と被るからって、希望者はこっちに割り振られたんだよー」
「へ?」
「あれ? 聞いてない? 今日は2年生のヒーロー科授業の見学と手伝いをするって」
「聞いてない……」
そうだよね? と心操くんにも振ってみたけど、彼も頷いた。良かった。私だけじゃない。
どうやら昨日の授業終わりに特編生たちには通達があったらしい。
確かにヒーロー基礎学の、いわば体験版のような授業はカリキュラムの中で何度かやっていた。
特別編入カリキュラムの授業時間は正式な授業単位として認められていて、履修済みとして授業が免除されるのは私たちだけじゃなくて他の特編生も同じ、ということなのだろう。
それで希望者は私たちと同じように特別授業の方に参加するか声を掛けられたのだ。
「なんか不思議。昨日一昨日は、心操くんと二人だけだったから」
「お邪魔しちゃったねー」
「ノーコメントで」
そのままみんなとバスに乗り込んだ。私たちが乗るバスの行き先はUSJだった。
心操くんは副委員長や未影くんたちと固まっていて、私も
私はお喋りしたい気持ちと休みたい気持ちが半々。
昨日の午前の休み時間は机に突っ伏して休んでばかりだったので、クラスメイトの様子や彼ら目線のヒーロー科授業の感想が気になってもいる。それでいて、身体は少しでも休息を求めていて、頭の中で天秤がゆらゆらしていた。
「手伝いってどんなことやるか聞いてる? ――ていうか、私たちって2年生の授業の手伝いに行くんだ?」
そしてお喋りしたい気持ちが勝った。
とはいえまずはこれから何をやるのかだ。
そもそも私たちは今日の特別授業の内容を聞いていないのだ。
てっきり、また基礎訓練の類かと思っていたのだが、どうやらそうじゃないらしい。
「何をやるかは聞いてないけど」「USJだし、救助とか?」
「あー……そんな感じなんですね」
学校側も授業内容の漏洩については神経質になっているし、詳しい話は現地でというやつだ。
まあ救助訓練系だと予想しておこう。
「とすると、被災者……要救助者の役とかかな?」
一般生徒のエキストラが要る演習と言えば、それが真っ先に思い浮かぶものだろう。
2年生は仮免試験を6月に控えているし、その準備に救助訓練の授業が組まれるのは不思議ではない。
(仮免試験――国家資格であるヒーロー資格の前段階である、仮免許資格の取得試験……)
毎年6月と9月、全国三か所で行われて、その合格率は例年およそ5割。
厳しい高校のヒーロー科だと高校卒業までに仮免取得ができなかった場合は卒業資格を与えないところもあるという。
留年させてでも取得を目指させるか、脈無しとみて退学を勧めるか。雄英高校はおそらく厳しい側だ。
(まー、雄英入試の倍率のがキツイんだから、このレベルの教育受けていて仮免取れないってことはそうそうないんだろうなー)
ついていけないような生徒は除籍なりされているだろう。
試験内容的に運が悪いパターンもあるかもしれないが、6月で取れなければ9月にすぐ再挑戦できるし、最悪翌年の6月が最終ライン、というところだろうか。*1
(そういえば仮免試験きちんと調べたことないな。高校入ってから調べればいいかと思ってたし)
仮免試験の受験資格とかまでは知らなかった。
予備試験とか、学校やヒーロー事務所からの受験資格の認定とかありそうである。そうじゃないと雄英入試のように記念受験で溢れてしまいそうだし。
(学校によって試験に送り込める枠が決まっていたりして? だったら見込みのない生徒は抱え込めなくなりそうだなぁ)
つらつらとお喋りの合間に詮無い考え事をする私。
今週のバス移動の時間は眠気と戦いがちなのだが、今日は朝練もカットした授業前で良かった。
筋肉痛の痛みはあれど疲労はそこそこで、透明をキープしながらうとうとするぐらいはできたから。
USJに到着すると13号先生が迎えてくれた。
広場の方には相澤先生もいて、2年生らしき生徒たちから話しかけられている。賑々しく話しかけている2年生たちの様子は親しげで、彼らが一年間、相澤先生の指導を受けていたことを示していた。
(イレ先って呼ばれてるんだ、相澤先生)
先生の呼び方って色々あるなぁ、と思う私。
ということは去年はイレイザーヘッドって名乗ったのだろうか。それとも名乗らないからこそ呼び始めたのか。
(うちのクラスはミッドナイトって呼ばなくなったなー)
C組生徒たちはすっかり『香山先生』呼びで馴染んでいる。
入学してしばらくは入り混じっていたのだが、普通の先生感もあって香山先生と呼ぶようになった。
C組が普通科で先生の受け持ち授業がなく、ヒーローとしての振る舞いをあまり目にしない。そしてホームルームでの彼女の振る舞いは18禁ヒーロー『ミッドナイト』というより、純粋に高校教師の香山睡先生という印象で、そこに敬意と親しみをもって香山先生呼びなのだ。
……流石にちょっと大げさに言っている気はする。
「――それじゃあ、みなさん、行き渡りましたね?」
13号先生がお手伝いロボと一緒に、ボランティアの私たちに演習で用いる機材を配っていた。
配られたのはリストバンドのような
ベルト部が太い腕時計なそれを装着してタブレットから動作を開始させると、表示部には緑色の数字が現れた。
「緑の数値はあなたたちの現在のバイタルサインです。これは普通に体温や心拍などを表示しています」
13号先生が説明を始める。ふむふむと聴講する特編生一同。
先生が「テスト用の動作確認をします。表示を確認してください」と手元のタブレットを操作すると、一斉に腕時計の表示が変わった。色が橙色に、数値も変わっていた。
「これは要救助者としてのバイタルサインです。みなさんには要救助者役として演習を手伝っていただきます」
演習用に設定された数値が表示されていて、怪我や被災状況によって心拍や血圧の数値が設定されている。
さらに時間経過によって容態が変化していくという。具体的なシチュエーションはタブレットで見ることができた。
ライフジャケットにはタブレットを収めるのにちょうどいい胸ポケットがあり、用が無い時はそこに入れておくようだ。
「そして救助される側としての体験もまた、授業の一環というわけです」
演習開始の準備にはお手伝いロボが多数現れて、要救助者の私たちを指定地点に各自案内してくれた。
今回の演習では主に倒壊、土砂、山岳ゾーンを使うようだった。
「うーん、狙い撃ち感……」
私はタブレットの指示とロボの案内に従い、倒壊エリアにあるビルの瓦礫の下に入っていった。
しゃがまないと頭をぶつける程度の高さで、少し奥に入ったところに人一人が入り込めそうな隙間がある。
ご丁寧に左足は瓦礫に挟まれて骨折しているという設定もあり、指定された地点には状況を再現するための機器が用意されていた。
それはあらかじめ瓦礫の下に設置してあり、救助者が瓦礫を退けて救出するという手順を再現するために、足を突っ込める大きさのパイプに巨大な洗濯バサミを組み合わせたような作りになっていた。
(よく出来てると言うかなんというか……)
瓦礫の床の上で身体を横にして、足を突っ込んでみる。
内側にはストッパーがあり、私の脚をちょうどよい力で優しく挟み込んだ。
無理に引っ張ろうとしても抜けないが、ストッパー横にあるレバーを引くと簡単に外れた。
おそらく上に乗っている瓦礫を取り除いてもストッパーは外れるのだろう。
安全かつリアルに、救出作業を再現するために作られた機器だ。やっぱりよく出来ている。
(こういう要救助者役をするスタントマンみたいな仕事の人たちが居るんだっけ)
みたいな、というかスタントマンそのものだ。
USJはあくまで『嘘の災害や事故ルーム』ではあるが、危険な状況を再現しているのだから、本当の事故に繋がりやすい。
火災や水難エリアなんかは特にそうだろうし、山岳エリアなど高さというのはいつだって事故の危険がある。
私が今居る場所だって、救助の手順が悪ければ余計な倒壊を招いてしまうかもしれない。
「あ、嫌な想像しちゃった」
ぶんぶんと頭を振る。
気を取り直し、うつ伏せで救助を待つ体勢を整えて、あらためて足を入れてストッパーを作動させた。
タブレットで準備完了を送信する。どうやら私が最後だったらしく、さっそく演習開始のカウントダウンが始まった。
カウントダウンの画面には救助演習のTipsが併せて流れて、ひとこと演技指導や私の被災状況なんかを再確認させてくる。
(なんかこう、たまに『ゲーム』するよね、雄英!)
まんま、ローディング画面のアレだ、これ。
さて、カウントダウンも終わってブザーがUSJに鳴り響き、救助演習が始まった。
お手伝いロボはカウントダウンが終わる前にどこかへ行ってしまった。要救助者の目印になるのを防ぐためだろう。
しかしかといって、瓦礫の隙間を軽く埋めて隠蔽していくのは不意打ちだった。急に差し込んでくる光が減り、暗くなった私はびびってしまった。
(しばらくは気絶している設定だから、声を出さないようにしなきゃ……)
暗いと言っても真っ暗ではない。姉ほどではないが私も夜目は利く方だ。
(それに今回は、痛くない)
少しだけうるさい心臓の音を落ち着かせるように、静かに深呼吸をする。
仕組みとしては虎バサミなストッパーは、クッションで優しく足を挟みこんでいて鬱血の心配も無い。
安全を管理されている。
あの時とは違う。
(そうだね。あの時は……そう、もっと暗かったし、痛かった)
真っ暗で、頭も背中も痛くて、足の感覚なんかは逆にほとんど無くて。
どうすればいいのかなんて、わからなかった。
無理に動こうとしたら余計に崩れて押し潰されるんじゃないかと葛藤したし、段々と怪我が痛み始めて涙が止まらなくなった。
痛みをこらえて助けを呼ぼうと声を出そうとしても、瓦礫の圧で全然大きな声は出なくて。
息苦しくて、
痛くて、
暗くて、
怖くて。
(助けて、欲しかったなぁ……。まあ助けてもらえたんだけど)
意を決して、必死になって、瓦礫から這い出ようと地面を掻いた。
だけど挟まった足が邪魔をして、少しも動けなかった。ただ痛みが増しただけだった。
救出までの時間は、30分とか長くても1時間ぐらいだったそうだ。
けれど永遠にも無限に続く時間にも思えて、私は絶望で意識を失っていた。
(ああ、透明を解除したのは自分でだったかな……)
すぐに助けが来るかもしれないと思って、しばらくは透明を維持していた。
しかし静寂の時間が続いて、周囲に誰もいないことを察した。
助からないかもしれないと思ったのはその時だ。
天罰だと思ったのも、きっとその時だ。
(……なんか記憶が断片的だ)
今でこそ、こうやって静かに思い出せているけれど、その時の私はパニックだったはず。
夢で繰り返し見たのも、ほとんど閉じ込められるまでだったし。
閉じ込められてからのシーンだと、もう発作的に飛び起きていたから。
「……………………ふぅ」
気を取り直して手首の
定期的に切り替わる数字を眺め、演習開始から5分経過しているのを確認した。
遠くの方で喧騒のような、おそらく救助活動を行っているであろう物音がするけれど、私の方にはまだ来る気配はない。
ゲーム感覚で点数をつけるなら、要救助者としての私は高得点なのではなかろうか。
高難度の隠し目標だ。透明だし。いや流石に完全ステルスにはならないけど。
(……流石に退屈になってきたなー……)
2年生のヒーロー科授業の見学を兼ねているはずだけど、この後ちゃんと見れる機会を作ってくれるんだろうか。早めに救助されていれば救助活動を見学できたんだろうけど。
授業時間的に救助演習は何度か繰り返しそうだ。場所も替える気がする。あらかじめ要救助者用の準備をしておくこととその後片付けをしておくなら、演習エリアをローテーションさせると効率が良い。
「やば……ねむ……」
緊張というより瞑想めいた集中が解けて、あらためて眠気が襲ってきた。
そういえば怪我の痛みはないけど筋肉痛は普通にある。
そっちを意識すれば多少は眠気が紛れるかな……。
…………。
「要救助者発見! やっと見つけた!」
――――ふおっ!?
案の定、眠っていた。
ライフジャケットなベストのクッション性がちょうどいい布団みたいだったのだ。
透明は維持していたので、はたから見て寝ていたかどうかはわからないとは思うけど、うつ伏せの格好をキープ。
要救助者です。気絶しています。居眠りではありません。
内心で意味もなく言い訳を並べ立てる私。ちらりと見える
「意識無し。瓦礫に足が挟まっちょる。出血は……なさそう」
「…………」
私が黙っていても、現れた救助者の女子はテキパキと周辺の安全確認と容態の確認を済ませている。
透明で見えないと思って、うつ伏せのままでもがっつり視線を向ける私。
彼女は本当に手慣れた様子だ。私への声掛けや、瓦礫の外に居る仲間への連絡も欠かさない。
「そいじゃ、まずは瓦礫をどげんかしよーか」
少し変わったイントネーション。西の方の方言かな。関西っぽくはない。九州かも。*2
彼女は私に声を掛けつつ、個性を発動させた。
もこもこと、瓦礫の隙間を綿のようなフワフワが埋めていく。
――いや、まさしく綿だ。綿を扱う個性なのだ。
「大丈夫やけんねー」
優しく私の身体を綿が包み、そして力強く瓦礫を押し上げていく。
瓦礫から掛かる力が一定以下になり足を挟んでいたストッパーが外れて、するすると私は引き出された。
そのまま綿で出来た道をコンベア輸送されて瓦礫の外へ。
綿のベッドの上で、添え木を包むように綿が柔らかいギプスのようになって、骨折対応の応急処置を受けた。
――というところでブザーが鳴り、全ての要救助者の救助が完了したことが告げられた。
やっぱり私が最後だったか。嘆息まじりの納得の溜め息が出た。
救助してくれた2年生の先輩が応急処置を解除してくれて、「ありがとうございます」とお礼を言う。すると、
「お疲れー。葉隠さん」
「あれ、私の名前」
「知っちょるよー。決勝でがんばっとったよね。一年普通科の二人はちょっとした有名人やけん」
「あー」
彼女の言葉は本当だ。そういえばそうだった。
決勝トーナメントで健闘を見せた心操くんと私は、一年生はもちろん上級生にも知られていた。
体育祭が終わった直後はC組教室に野次馬がちょいちょいやってきていたらしい。
らしい、というのは体育祭後も私たちが変わらず自主練や特編で忙しくしていて、ほとんど遭遇していなかったから。
体育祭前のA組のような人だかりが出来ていたわけではなく、他のクラスからやってくる人がいるなぁ、と思っているぐらいだったのだ。
特に心操くん目当ての女子は多かったらしい。多少目付きが悪いが高身長イケメンで将来有望な男子の心操くんである。同学年のみならず上級生のお姉様方がアプローチをかけようとするのもさもありなん。
その辺、私目当ての男子生徒も含めて、クラスメイトたちがうまくあしらってくれたそうである。体育祭から約一か月経った今では、そういった輩はほとんど見かけなくなっていた。せいぜい学食で遠巻きに見られるぐらいである。
「来年はヒーロー科やろ? 後輩になるの、楽しみにしちょっけん」
「まだ全然決まってないですよー。でもありがとうございます」
「イレ先の指導受けてるってことは期待されちょるってことやん。そげんやったらもう決まっちょるよーなもんばい」
けらけらと明るく笑う先輩。
私もつられて笑っていた。
そして、先生陣による短い講評を挟みながら、状況を変えた救助演習が繰り返された。
火災エリアや水難エリアでは救助よりも探索の速度が重視されたり、再び倒壊エリアで救助メインだったり、さらに仮想ヴィランとしてお邪魔ロボットが登場したりと、バリエーションに幅を持たせていた。
ボスキャラとして相澤先生が盤面を荒らしてくる一幕まであった。恐ろしい。先輩方も悲鳴を上げていた。
仮免試験では時事問題を想定した課題が出る場合があるのだという。例えば地震や豪雨と言った自然災害が起きた後は、災害救助を念頭に置いた試験が行われたりと。
ならば想定した模擬試験のようなものをやっているのかというとそうではなく、純粋に様々な状況に対応できてこそと幅を広げるべく授業をしているのだそうだ。
試験突破、免許取得だけを目標にしているわけではない、それでは雄英では足りない。
トップヒーローになる、目指すための力をつける、それがこの学校の一貫した教育方針なのだ。
2回目以降は見学しやすい内容だったり、私も早めに救助されたりと、ヒーロー科2年生の姿をよく見ることができた。
上級生の動きは洗練されていて、1年間ヒーロー科の授業をこなしてきたという説得力があった。
それでもまだまだ未熟だと先生からの指導が入っていた。
(……やっぱり先は長そうだ)
そう思う私だった。
その後、お昼休みには先輩たちと一緒にご飯を食べて、連絡先も交換させてもらった。
例の彼女は不和真綿と言って、そうは見えなかったのだけど実は2年生で首席のポジションらしい。
私は素直に意外だと驚くと、
「んー、まあ派手なタイプじゃなかけんね」
と、不和先輩は気にした様子もなく笑って言った。器がおっきい。
午後の通常授業を終えて、放課後。
今日も相澤先生に指導してもらう。
しかし、放課後までほとんど運動らしい運動をしていなかった私と心操くんだったが、それでも筋肉痛が治るほどではなかった。
朝に比べればだいぶマシにはなっていたけれど、どうしても筋肉の動きが悪く、身体の動きが硬い。
それを見越して、激しい運動ではなく一昨日ぶりに捕縛布を触らせてもらうことになった。
今回は二人分の用意があり、それぞれで振るっては、先生からの指導が入る。
少しずつ捕縛布の扱いを習得していく。が、心操くんは逸る気持ちが出ては相澤先生に窘められていた。
「2年生の授業を見て刺激を受けたのはわかるが、焦っても意味はないぞ」
なるほど、とは思う。
2年生の先輩たちは色んな個性を持っていたが、皆が皆、特技や得意武器というか、一芸を持っていた。
それを見ては個性が『洗脳』の心操くんは、より自分の武器の少なさを痛感してしまったのだろう。だから捕縛布の習得に焦りたくなっていたのだ。
(いや、洗脳も使い様というか、救助訓練の舞台では使えなかっただけで、似たようなシチュエーションだと使えるよなぁ……)
例えば要救助者が興奮してる場合に落ち着かせるとか、元からの洗脳でも使えそうだ。
火災エリアでの演習では今回は使わなかったけれど、避難スロープで怖くて滑れないなんて人に暗示をかけたりとか、決して救助演習に使えない個性というわけではないと思う。
まあ心操くんも落ち着いて考えれば思いつくはずだ。シンプルに焦ってしまっているのだろう。
焦りは向上心の表れでもある。そう思えば心操くんらしいとも言える。頑張れ。頑張ってる。
「――――ぐぇっ!?」「ぐあっ――――」
締めに、カンを鈍らせないため、と戦闘訓練を少しやることになったところ、私たちは相澤先生からキツい一撃を喰らっていた。
先生は悪びれずに軽く「スマン」と言っていたが、作為を感じた。
なぜなら普段というかこれまでの相澤先生はかなり手加減が上手かったし、加減が難しそうなら手を出さずに次の機会に一撃を入れてきていたからだ。
うぐぐ、と私と心操くんは共々地面に這いつくばって痛みを堪えた。
私たちの動きが悪くなっていたのは事実であり、先生が想定したレベルの動きができてなかったせい、なのかもしれなかったが、後に引く感じのダメージはこの三日間で初めてだった。
しばらくしてなんとか立ち上がるが、ズキズキとお腹が痛む。やはり心操くんも同様だ。
その様子を確認した相澤先生は、ふむ、と頷くと、
「二人とも保健室に行って、治癒受けてこい」
と、保健室利用の申請書を渡してきた。2通とも記入済みだった。
今日の訓練は終わりだ、と引き上げていく先生に、ありがとうございました、と怪訝な表情で私たちは頭を下げた。
「そういえば……」
少し重たい足取りで保健室に向かっている私と心操くん。
そんな時ふと私は姉から聞いた話を思い出していた。
「時々相澤先生、わざと怪我させるような攻撃してくるって」
「わざと?」
「うん。痛みに慣れるためなんじゃないか、ってお姉ちゃんは言ってたんだけど」
「これがそうなのか?」
「なのかなぁ……?」
そのせいかA組生徒で保健室、というかリカバリーガールの治癒を受けたことのない生徒はいないらしい。
怪我には特に注意しているはずの姉ですら利用させられていた。
私はもっと気を付けてと心配していたのだが、もし先生が狙って怪我させていたのなら申し訳なかったな、と思う。
先生が怪我させるつもりの攻撃をしてきたら、それはもう不可抗力だ。避けようがない。
まあ、重傷すらすぐに治せるリカバリーガールの治癒があれば、多少の怪我は確かに経験になるのかも、と考えていた私だったのだが、
「――――治癒って、筋肉痛も治せちゃうな?」
気づいてしまった。
これ、筋肉痛ごと治させるための怪我だ。
「……一石二鳥ってことか?」
「というか……治癒してもらって、フルスペックで訓練できるようにするのが主目的なんじゃ……」
合理的。合理的だ。相澤先生らしい合理性。
「いや、でも、そんな、回復スキルで無茶な訓練を重ねる、みたいな――」
そんな漫画や小説みたいなことを、できてしまう。
リカバリーガールの治癒は自然治癒力の活性化だから、筋肉は超回復できる。
(――ず、ズルじゃん……っ!)
雄英高校ヒーロー科の成長著しさ、その理由の一端に、触れた気がした。
そんなアイデアロールに成功してしまった私と心操くんだったけれど、恩恵に
ノックして入室し、手洗い等を済ませて、さてリカバリーガールに治癒してもらおうと、
「あ、そういえば葉隠」
「なぁに、心操く――――」
――――――――。
――――またかよ心操!!
ここすき、お気に入り登録、感想、評価、ありがとうございます。
ご感想、お待ちしております。ここすきもお気軽に。
今回はそこまでお待たせせずに投稿できました。
ちょっと駆け足というかだいぶ手癖で書いてる感じになってますが、更新するのが大事だと勢い任せ。
でも特別授業・職場体験期間、終わってないじゃん…!
不和真綿先輩を出したくて出しました。
原作で博多弁だと思うので喋らせてるつもりですが、うまく博多弁が出力出来てるか自信はそこそこです。近いとこの方言はわかるので逆にそっちにつられてないか不安ではあります。
ここまで来たら、もうどんどん独自設定盛っていってて、前話もそうですが盛り盛りです。
原作設定とうまく混ぜ込んでるつもりですが、違和感を無くせてたら嬉しいです。