透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮)   作:峰下抄

4 / 40
4.戦いは準備こそが大切です

 第二種目は騎馬戦。

 二人から四人の騎馬を組み、組んだ人の持ち点を合計したハチマキを奪い合う。

 持ち点はシンプルに下から5ポイントずつ増えて、この場合43位の青山くんが5点、42位だと10点……2位の轟くんは210点、という感じだが、1位通過の緑谷くんだけ持ち点1000万という破格の点数がつけられている。

 途中脱落はなく、制限時間の15分間ハチマキを奪い合って、獲得点数の上位4チームが勝ち上がり。

 15分のチーム決めタイムが始まり、私はさっそく心操くんに話しかけた。

 

「心操くん、組もう。いや違うや。組んでください。お願いします!」

「……ああ」

 

 心操くんの個性は攻撃に使える。一方私の個性が騎馬戦で使えるかというと……微妙だ。

 ハチマキを透明化してキープするのはアリかナシか、審判のミッドナイト先生に確認しないと。

 ともあれ、対人戦かつまだ個性が相手にバレていない心操くんは強烈な初見キラーになる。こちらがお願いする立場だ。

 

(心操くん的にも、最初から個性がバレている相手が敵に回るより、味方に居たほうが気楽だと思うけどね)

 

 まあ、小難しいことを考えずとも、私と心操くんの仲でもある。組むのは当然だった。

 さて、そうなるとあと一人、もしくは二人。仲間に引き入れたいのだが。

 

 それと、姉はすぐにA組メンバーの方に行っていた。ここで透明双子が組んでもメリットもシナジーもない。姉がA組チームからあぶれるようであれば拾うのもやぶさかではないけれど、姉のコミュ力である。心配は要らない。

 

「……射程持ちか、フィジカルが欲しいね。大きさは武器だし」

 

 心操くんは身長こそ高いのだけれど、フィジカルはそれほど強くない。

 具体的に言うと多分姉にも負ける。男子なので力はともかく、組手で手袋長袖装備の私とほぼ五分な時点でヒーロー科相手は荷が重い。

 誰かスカウトできないかなぁ、とA組B組のチーム決めの様子を眺めてみる。

 2位の轟くんは早々とチームを決めていた。八百万さん、上鳴くん、飯田くん、いずれも強い個性持ちだ。

 轟くんが即行即決だったので、3位の爆豪くんに人気が集中していた。姉もそこにいる。

 

(――爆豪くん、クラスメイトの個性すら把握してないのかー……ふーん……)

 

 これはいいことを聞けた、と内心ほくそ笑む。こちらの個性はまだバレてないと思っていいだろう。

 あとは目の前で個性を披露するなんてことをしなければ、次の種目で当たったときに不意を突けるはず……なんて先のことを考えてしまったが、まずはこの騎馬戦である。

 身体の大きさで言えば障子くんが筆頭。複製腕の手数も強いし、目や耳も増やせて索敵までできるというとても強い個性だったのだが、彼は爆豪くんの輪から離れたところを峰田くんが勧誘していた。

 障子くんはそのまま峰田くんと組みそうだ。何やら作戦がありそうな雰囲気でそのまま小声で話し合っている。

 

(とすると、次の候補は……)

 

 爆豪くんチームは切島くんを筆頭に、瀬呂くん、芦戸さんのチームが作られていた。この時点の持ち点でいえばトップっぽい。瀬呂くんの『テープ』はハチマキの取り合いに強そうで羨ましい。

 そんな中、一位の緑谷くんがそのあまりにも大きな持ち点で敬遠されていて、尾白くんから距離を取られていた。――これは、チャンスだ。

 

「心操くん、まずは私が誘ってくるね」

 

 心操くんの洗脳があれば確実に仲間にできるけれど、素直に仲間になってくれれば手の内を晒さずに済む。

 尾白くんの印象はいい人、のはず。姉の威を借れ、私!

 

「尾白くん!」

 

 小走りに駆け寄って、彼の背中に――というより大きな尻尾に向けるカタチになった――声をかけた。

 振り返った彼は、私の姿にびっくりした様子だったけれど、私はそれに構わずにまくし立てた。

 

「葉隠です! 普通科の妹のほうです! 姉がいつもお世話になっております! 普通科二人で組んでますが、尾白くん、私たちのチームに入ってくれませんか!?」

 

 こういうアピールは勢いが大事だと思っている。気持ちの強さを押し出すのだ。表情で見せれないなら、声で押せ!

 尾白くんは目を白黒させて、私と後ろについてきた心操くんの姿を見比べた。

 

「私は28位で80点、心操くんは27位で85点です。どうですか!?」

 

 尾白くんは10位付近だったのでもっと持ち点は高いけれど、どうだろうか。

 やはり普通科組とは組めないか? でも姉から聞いた尾白くんの印象はいい人だ、真正面からのお願いなら……!

 

「えー……あー……、うん、いいよ」

「やっったあああああーーーーー!」

 

 これでダメだったら、心操くんの出番だったので、素直に嬉しい。全身で喜びを表現する。

 私の喜びように尾白くんは照れたように頬をかいた。でも、本当に嬉しい。尾白くんの身体能力は尻尾抜きでも高いし、尻尾ありならさらにどんっ、だ。

 尾白くんがいるなら、三人騎馬でもなんとかなりそう。点数もこの時点で300点は超えているし。

 

「――組んでくれてありがとう。この前は宣戦布告しに行ったけど、ここで仲間になってくれるのは心強いよ」

「ああ。よろしく」

 

 感謝と共に、心操くんが尾白くんに握手を求めた。尾白くんもわだかまりなくその手を握った。

 やっぱりいい人だー! と、私は騎馬戦への不安が期待に転じて、内心るんるん気分になっている。

 一瞬、キープするかな? と思ったけれど、心操くんも洗脳を仕掛ける必要なし、と判断したようだ。下手に仕掛けると後腐れができるし、手の内もバレる。

 

「さて、あと一人はどうしようかー?」

 

 できれば射程持ち。中遠距離に手を出せるような個性を持ってる人がいるといいんだけど。再び周囲を見てみる。

 姉は耳郎さん、口田くん、砂藤くんと組んだらしい。『イヤホンジャック』が伸ばせる耳郎さんと体格の良い男子二人、砂藤くんは個性による瞬間的なパワーもある。私と同じ発想と言えるだろう。

 

(射程持ち、射程持ち……。あっ、常闇くんが緑谷くんのとこ行ったか。しまった、出遅れた……)

 

 常闇くんの個性は、姉もよくわからないけど強かったっぽい、と評していた。影が召喚獣みたいな感じらしいので一人で二人分の働きはできそう。

 でも影ということはこんな日中でも強みが発揮できるんだろうか、と思ったりもする。

 他もあらかたチーム決めは済んでいるようで、B組には二人組で行くと思しきペアもいる。

 

(……四人騎馬にしなきゃいけないわけじゃないけれど、分かれて三人組のところと合流しないあたり、仲良しか、個性の噛み合わせかな……?)

 

 勝ち抜けは上位4チームなんだし、なんか勿体ない気がするけれど、B組メンバーは結託してるような気配もするのでここはスルー。

 そしてふと気づく。A組生徒は20人。普通に4人騎馬なら5組できるはずだが、私たちが尾白くんを引き抜いて、緑谷くんはサポート科の生徒を引き入れていた。峰田くんと障子くんのチームは蛙吹さんを加えて3人チーム。

 

(……一人、余ってる人がいる……?)

 

 いる、と思って見回してみると、気づく。

 

「いた。射程持ち」

 

 第一種目で、使った個性の反動が響いているのか、少し青い顔をした青山くんがこっちを見ていた。

 

 

 

 

 

 チーム決めタイムが終わり、タイムアップのブザーが鳴る。

 各チームはメインフィールドの外側を囲むように、ゆるく間隔を取って位置についている。

 335点の数字が描かれたハチマキを、私が受け取った。

 

(ひー……責任重大……。――よしっ、がんばろ!)

 

 スタジアムの巨大モニターに各チーム構成と総得点が列挙されていく。

 1000万点超の緑谷くんチームを除くと、上位チームは約700点から600点の構成で、一番少ない持ち点は65点のB組鎌切くんと角取さんのペアチーム。

 はたしてどれぐらいの点数がボーダーになるか、読むのは難しい。

 そう考えると、1000万ポイントを手にして確定トップを取りたくなる気持ちもわかる。

 とはいえ、うちのチームの作戦としては、潜伏して状況を見て、ちょうどいい点数を確保する方針だ。

 尾白くんのフィジカルに頼りつつ、遠距離からの妨害には青山くんのレーザーで対処、競技終盤に心操くんの個性で一気に点を奪う。

 私はハチマキの所持数を透明化で誤魔化して狙われにくいようにする小技を用いるつもりだ。

 ただ、マイクロチップでも組み込まれてるのか、点数自体は自動的にカウントされるらしく、モニターには現在の所持点が表示されるとのこと。それを見られると個性ごと小細工がバレてしまうので、うまく立ち回りたい所存だ。

 さて、騎馬を組む前に眼鏡を外しておく。伊達眼鏡なので視力は問題ない。乱戦必至で壊したくない。

 

(お姉ちゃんのチームは440点と中々の点数だなぁ……うーん、欲しくなる点数……って――)

 

「――ぅええええぇぇぇぇ!?」

 

 モニターに表示される葉隠(姉)チームの様子を見て、まさか、と思い、目視してやはり見たものに間違いがないことを認識し、私は驚きのあまり絶叫した。

 

「どうした!?」

「ど、どうしたの葉隠さん!?」

「どうしたんだい!?」

 

 騎馬の男子三名が驚いて尋ねてくる。

 私は、あわわわわ、と手袋をつけた手で、姉を指さした。

 

お姉ちゃんが、脱いでる

「は?」

「「…………」」

 

 文字通りの意味だ。透明な姉が体操服の上を脱いで、その上半身があるべきところにハチマキだけが浮かんでいる。

 意味がわからなかったのは心操くんだけだった。A組男子である尾白くんと青山くんはこれだけで察していた。

 

 いや、確かに合理的だよお姉ちゃん。

 姉の透明を活用しようとするなら騎手になって、ハチマキこそ消せないけれど、上着を脱いで自身の動きを不可視化すればいくらか相手を牽制できるよ。

 でもさ、この体育祭のスタジアム、万人単位で観客が居るんだよ、お姉ちゃん。この中に、感知・視覚系の個性がいたら視られるかもしれないんだよ。

 そうじゃなくても、テレビ放送されているのだ。全国の視聴者から「あ、この子、上半身を晒してるんだ」って思われるんだよ……。

 

「マジかよお姉ちゃん……。嘘でしょ……」

 

 下は着てるから大丈夫、じゃあないんだよお姉ちゃん。

 騎馬の男子二人どころか、女子の耳郎さんもちょっと気にしちゃってるじゃん……!

 

 予想していなかった……わけではない。

 必要なら脱ぐ、やるときはやるのが我が姉だ。

 

「――ぉ、お姉ちゃん一人に身体を張らせるわけにはいかぬ……!

「大丈夫か葉隠!?」

「妹さん!?」

「ワオ☆」

 

 いっぱいいっぱいになった私の思考が選んだのは、張り合うことだった。なんだったら今日一番の混乱が私を襲っていた。

 騎馬を組む前に体操服の上着を、インナーごと脱ぎ捨て……るとみっともないことになるかもしれないので、丁寧に畳んで、そっと眼鏡と手袋と共に安置した。

 時間があればミッドナイト先生かセメントス先生あたりに預かってもらいたかったけれど、もうスタートが近いので、騎馬戦の余波とか流れ弾が来ないことを祈っておく。

 

「よし……っ!」

 

 いや、全然良くはないんだけど。本当に。

 姉と私では同じ透明でも個性が違うからやばいんだけど……!

 ついでに騎馬を組んでくれた男子三人の空気が痛い……!

 心操くんなんかは、個性で透明にすれば同じなのに、って思ってるのがわかるんですよ。わかってるんですよそんなことは!

 でもそんなことをしてたら、まだ私の個性に気づいてない人に気づかれるリスクが激増するわけで。

 15分フルで透明化させたまま、全力で騎馬戦やれる自信は流石にないのだ……。

 

 涙目になりながらハチマキをつけて、騎手としてフィールドに、騎馬の上に立つ。

 姉もこちらの様子に気づいたようだ。頷いているようなハチマキの動きは「うんうん、霞も本気だねぇ」とかそういうやつだ。流石に声は聞こえないが、多分言ってる。

 ううう……、すっかり涼しい上半身の感覚が恐ろしい。けれど、もう時間はない。

 

 ――ぱちん、と両頬を叩いて切り替える。

 

「では、作戦通りに! よろしくお願いします!」

 

 

 




 原作では心操くんチームにB組の庄田くんが入っていましたが、そこに主人公が入りました。
 さらに騎手になるのでチーム名も葉隠(妹)チームになります。
 庄田くんはB組のどこかのチーム(たぶん小大さんチームあたり)に入りました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。