透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
『スリー! ツー! ワン!――』
「――スタート!!」
雄英体育祭1年の部、第二種目、騎馬戦。
実況のプレゼント・マイク先生のスリーカウントから、主審のミッドナイト先生がスタートを宣言した。
騎馬は咆哮と共に、一斉に走り出す。
その多くは1000万点のハチマキである、緑谷くんチームへ向かっていっている。
一方、私たちのように控えめな動きで、様子見の構えのチームもある。
「あっ! あのチーム、お姉ちゃんのハチマキ取りやがった……!」
「落ち着け」
開幕早々のぶつかり合いの最中、漁夫の利を取られて姉はハチマキを失っていた。
私たちは小競り合いをしつつ、主にB組チームの個性や戦術を探る。
「葉隠。こっちも一旦、ハチマキを手放そう。点持ってるとどうしても狙われる」
「りょーかい! 尾白くん、青山くん、不自然にならない感じで隙作って」
左騎馬を務め、作戦の要である心操くんの提案を受ける。
前に後ろにと守りを担ってくれている前騎馬の尾白くんがそれを受けて、尻尾を下げて後ろをがら空きにした。
(手だけ飛んできて、さっそく取られた!? えっと、拳藤さんチームの人だ。ロケットパンチ的な個性? あとなんか念動力っぽい個性を使ってる人もいる)
騎手の拳藤さんは手を大きくできる肉体派っぽい女子だ。全員女子ながらいい組み合わせ。これは手強い。
私たちのハチマキと合わせて拳藤さんチームは500点ちょいの持ち点に。
一方、私たちは所持点を失ったが身軽になった。足を止めても、こちらを注目してくるチームはなくなった。
「心操くん、首尾はどう?」
「やっぱ競り合って外れちゃってるヤツも多いな」
「そっか」
左の後ろ騎馬を務める心操くんに確認を取る。
入学してからずっと体育祭に備えてきた私と心操くんだから通じる、大事な単語を抜かした会話。
尾白くんと青山くんには、心操くんの個性による策を準備している、とだけ説明している。
そのために心操くんは競り合う相手騎馬には積極的にトラッシュ・トークを仕掛けているが、二人にはそういう作戦なのだ、と理解してもらっている。
事前準備が必要な個性で、体育祭前に宣戦布告しに行ったのも布石だった、と言えば二人も納得していた。
そんな心操くんの個性『洗脳』だけれど、この騎馬戦だと不利な面もある。
まず心操くんの洗脳は衝撃に弱い。ぶつかり合いが発生する騎馬戦は、洗脳がかかってもそれが解けやすい競技だ。
次に騎馬は騎手含め複数人が組んでいる。今のところ心操くんは複数人をまとめて洗脳することはできない。相手の騎馬を完全に掌握するには人数分、声をかける必要がある。そんな悠長なことはなかなかできない。
しかし、必ずしも相手騎馬を完全に掌握する必要はない。
騎手でも騎馬でも、要となる一人を止めてしまえば、その隙を狙ってかすめ取れる。
透明状態の私の手を咄嗟にガードできる人がどれだけいるか、私の頑張りポイントでもある。
(雑に範囲攻撃とかされると私も心操くんの個性も弱いから、上鳴くんも居る轟くんチームが本当にヤバい。あそことは絶対にかち合ったらダメだ)
目立たないよう立ち回っていると、爆豪くんがB組の騎馬にハチマキを奪われているのを目撃した。
そして煽る煽る。爆豪くん相手に効果的過ぎる口撃である。物間くんと言うらしい。
あの口の回り方、心操くん的にはカモにできるかもしれない……が、いかんせん爆豪くんにロックオンされている。
下手に関わると飛び火で火傷しそうだし、個性が『コピー』っぽいのもこちらの個性がバレそうで嫌だ。
狙いどころのチームは別に定めてある。そこに尾白くんにお願いして何度か競り合って、心操くんの仕掛けは順調だ。
競技時間7分が経過し、モニターにスコアが表示されるようになった。
我々の点数も0点としっかり表示されている。半数のチームがハチマキを奪われ0点で、まとまった点数を握っているのはさっきの物間くん、私たちのハチマキを持っている拳藤さん、峰田くんからこっそり奪っていった鉄哲くんチーム。
そして、まだ持ち点そのままながら現在5位の轟くんチームが、いよいよ緑谷くんチームに向かっている。
「点数把握。今のところ狙う相手に変更なし。問題ない」
「もうちょっと潜伏したいところだったけど……」
司令塔ポジションにおさまっている心操くんの判断は作戦続行、支障なし。
点数が開示された結果、各チームは動きやすくなった。
0点同士の騎馬では争う意味がないし、どうせ狙うなら高得点が欲しい。
貪欲に1位を狙う轟くんチームに、他のチームが追従している。
「――――っ! やばいかも! しっかりつかまって!」
突然、尾白くんから警告が飛んだ。慌てて前騎馬の彼の肩を強く掴む。
ぐいっと、視界が数メートルバックした。尾白くんがその強靭な尻尾も使って、騎馬ごとバックステップをしたのだ。
――次の瞬間、雷光が視界を焼いた。上鳴くんの放電だ。
幸い、後退のおかげもあってか影響範囲からは外れていたけれど、続けて轟くんが氷結させて周囲にいた騎馬を一網打尽にしていた。
肝心の緑谷くんチームにこそ氷結を回避されているけれど、轟くんはそのまま氷の壁をフィールド上に作って1対1の状況に持ち込んでいった。
確実に、絶対に1位を取る、そんなクレバーかつ貪欲な作戦だ。
次の種目に行くだけなら、拳藤さんが持つハチマキをかすめ取るだけに済ませなければ十分な点数になっていたはず。
「ありがとね、尾白くん!」
轟くんチームの動きは見ていたけれど、仕掛けてくるかどうかは読めなかった。尾白くん様様だ。
尾白くんも姉と一緒に轟くんにしてやられたことあるから、その経験が生きたのかもしれない。
まあその姉は電撃でスタンして、なすすべもなく氷結をくらっているんだけども。
「拳藤さんに取られた私たちのハチマキはそのままっぽいけど……」
「要らないな。キープ分で充分だ」
「――了解!」
激しい動きがあったけれど心操くんの
さあ、もうひと踏ん張りだ。
残りの競技時間がついにラスト1分に差し掛かる。
1000万ポイントはなんとまだ緑谷くんが維持している。氷の壁の向こうではどんな戦いが繰り広げられているのか、私に知る由もないけれど。
視界内には爆豪くんが物間くんにヒートアップしている光景。物間くんは予選突破のポイントキープする気満々みたいで、いなし続けている。
他のチームも物間くんの点数が欲しいけれど、爆豪くんがちょっかいを出し続けるせいで、逆に弾避けになっている。たぶん狙ってやってる。賢い。
しかし、爆豪くんはスロースターターなのだ。もうすっかりゲージは溜まっている。
実況と歓声がひと際盛り上がる。
ついに緑谷くんのハチマキが轟くんに奪われたらしい。スコアが動いている。
物間くんもそれを見て「2位か」なんて言っているけれど、それはまだ早計じゃないかな。
「……葉隠、そろそろ」
爆豪くんがいよいよ我慢の限界を迎えて、物間くんに単身突貫した。
騎馬の人の個性が爆豪くんを空中で止めたけれど、爆豪くんはその何かにしがみつきながらも突き破って、物間くんからハチマキを2本奪った。
スコアが再び動く、そして状況が動いたのをみてB組同士の点の取り合いすら始まった。
その混乱を背に、私たちも動く。
「…………――――」
騎馬を組んでいる都合、走る足音は仕方ない。
けれど、出来るだけ目立ちたくない気持ちで、無言のまま私たちはターゲットに近づいていった。
心操くんの仕込みは済んでいる。
彼が何も言わないということは、目標に問題は起きていない。
騎手の死角から近づく。
騎馬の人たちは一見、きょろきょろと周囲を警戒している。
けれど、私たちの接近に注意を向けることはない。
騎馬の人たちは心操くんが『洗脳』済みだ。
体育祭までの準備期間約一か月、その成果が発揮されている。
洗脳の指示は『私たちを見逃す』こと。
故に彼らの視界に入っても私たちを認識できない。見逃している。
ある程度近づいたところで、ダッシュをかける。
「――――なっ!?」
ついに騎手の鉄哲くんが私たちの接近に気づいた。
困惑の表情。なぜ誰も警戒していないのか、注意しなかったのか。
「『動くな』」
心操くんが最後の一押しをする。
騎手の鉄哲くんのみならず、騎馬含めた四人全員の動きが止まった。
「いただきます」
手を伸ばし、いとも容易くそのハチマキを奪い取った。
725点と435点、合わせて1160点。
第二種目騎馬戦を、我々は第3位という成績で突破した。
次話はトーナメント組み合わせ発表までの予定です。
そろそろ書き溜め分が尽きますが、評価とか感想とか頂けたら嬉しいです。