透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮)   作:峰下抄

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9.一回戦の様子をお届けします

 

 私はいったん洗面所で顔を洗って涙で腫れぼったくなった目蓋を冷やしてから、対戦前控え室を引き上げてきた心操くんと一緒にC組の観客席に戻っていた。まあ腫れてても透明で見えないけど。見えないからこそ気軽に顔を洗えるというものだ。

 

「ほんとに出張保健室(リカバリーガールのとこ)行かなくて大丈夫?」

「大丈夫だって」

 

 心配する私をやんわりと拒否して歩いていく心操くん。宙に舞うほどの力を押し付けられていたのだが、少なくとも骨に異常はないらしい。痣にはなってるみたいなので治療を受けたほうがいいとは思ったのだけれど。

 こちらに気づいたクラスメイトの一人が声をかけてきて、他のクラスメイトたちも振り向いては、再び拍手喝采でお出迎えをしてくれた。

 中には私みたいに泣いてくれていたと思しき子もいて嬉しさと悔しさが再燃しそうになりつつも、二人で案内されるがまま用意されていた最前列の席に座って、次の試合を待った。

 

 

 

 一回戦、第二試合。轟くん対瀬呂くん。

 もし心操くんが勝ち上がっていたら、ここの勝者と当たっていた――のだけれど……

 

「まじかー……」

「とんでもねぇな……」

 

 開幕、瀬呂くんは速攻でテープを伸ばし轟くんを拘束、そのまま場外へぶん投げようとした。

 決して狙いは悪くなかったし、一瞬で轟くんをぐるぐる巻きにしたあたり、個性の強みが良く出ていたと思う。

 けれど、轟くんはやはり――格が違った。

 次の瞬間、スタジアムの高い屋根をも超え、競技空間の大半どころか観客席まで占拠しようかというほどの超弩級な氷結攻撃が瀬呂くんを襲っていた。

 審判台のミッドナイト先生も余波で半身を凍らされながら、瀬呂くんの状態を確認し、ジャッジは当然、戦闘不能。

 会場にドンマイコールが湧き起こった。

 

「……ぎりぎり声は発せられたから、ワンチャンあったかな?」

「無茶言うな。あの状況で洗脳かけれるか自信ないぞ」

「なるほど。――極限状態での練習はしてなかったね?」

「おいやめろ。何考えてる」

 

 まあ轟くんも、相手が瀬呂くんで個性も割れてるクラスメイトだからで、他クラスの他人相手だと無言を貫かれそうである。

 それはそうとして、訓練案が降って湧いたのでUSJあたりの施設を使えば試せるかな、などと考えていた。

 特別編入カリキュラムの一環で、本来ヒーロー科用の施設設備も諸々の手続きを経れば使えることがあるのだ。

 

 

 

 

 一回戦、第三試合。芦戸さん対上鳴くん。

 酸と電気。両者とも方向性は違えど強力な攻撃力を持つ個性持ちだ。

 同時に、対人戦だと繊細な加減が要求される個性でもある。

 

「シンプルな攻撃力として放電が強い上鳴くんに分があるかな?」

「でも例の体力テストだと、芦戸が結構上なんだよな?」

 

 入学初日の体力テストでは芦戸さんは9位で、上鳴くんは16位。

 素の身体能力も問われるテストで上位半分に入ってくるのは相当な運動能力だ。

 

 どうなるか読めないなぁ、と思って試合を観ていたところで、勝利の女神は芦戸さんに微笑んでいた。

 

 遠距離から酸を飛ばす芦戸さんに、飛んできた酸を避けつつ放電で焼いていた上鳴くん。

 互いに接近を嫌ってのカタチだったのだが、次第に上鳴くんの表情が悪くなっていった。

 放電のし過ぎによる個性の反動かとも思ったのだけれど、思考力が低下するでもなく、青い顔になっていた。

 どちらかと言えばレーザーを撃ち過ぎた青山くんみたいな体調不良を思わせる顔色だ。

 

「……? なんか変な臭いする?」

 

 嗅覚が鋭いタイプの個性を持つ人が真っ先に気づいて、それは観客に伝播して伝わってきた。

 どうやら芦戸さんの酸と上鳴くんの電気とで電気分解が起き、変なガスが発生していた、らしい。

 狙ってやってたのなら芦戸さんの作戦勝ち、と称賛されてしかるべきだったのだけれど、当の芦戸さんもびっくりしていたので偶然だったようだ。

 本人は酸に耐性があるからかそれとも風向きの問題か影響がなく、動きの悪くなった上鳴くんにすかさず一撃を喰らわせてKO勝利をもぎ取っていた。

 

 

 

 

 一回戦、第四試合。飯田くん対発目さん。

 発目さんはサポート科の人で、どうやら口八丁、飯田くんをいいくるめてサポートアイテムを装着させていた。

 

「トラップでは?」

「ある意味、葉隠(お前)の同類じゃん」

「確かに。参考にはなるというか……方向性の類似は感じますが……」

 

 プレゼンテーション、という意味では否定できない部分があります。

 それはそうと、サポートアイテムありきとはいえ飯田くん相手に10分間捌ききってアピールしきるのはちょっと末恐ろしいものがあった。

 飯田くん、普通にフィジカル方面だと強い部類のヒーロー科生徒なのに。

 

 騙したなあああ、と飯田君の悲痛な叫びが響き渡る。

 試合に勝った飯田くん、勝負に勝った発目さんだった。

 

 

 

 

 一回戦、第五試合。尾白くん対切島くん。

 第三試合もそうだったのだけど、A組同士の対戦だとどちらかに肩入れするのは(はばか)られるのか、A組観客席の声援はどっちつかずの雰囲気のあるものになっていたりした。

 

「尾白くん、がんばれー!!」

 

 そんなものは私には関係ないので、全力で声を張り上げる。

 第二種目で助けてくれたし、緑谷くんには心操くんのことを黙っていてくれたし、大きな恩義があるのだ。

 心操くんも声こそ出してないけれど、観戦する視線に応援する気持ちを感じた。

 尾白くんは私の声に気づくと、小さく手を振って応えてくれた。

 

 

 さて試合はというと、二人とも派手な個性ではないので、どちらかと言えば――本当に比較的だ――静かな立ち上がりを見せた。

 尾白くんは腰を落とし、右手を前に、左手は腰あたりで軽く握って、そしてその個性である大きな尻尾はゆらりと背に。

 ――ぴたり、と。一本の筋が通ったような、美しさすら感じる構えを取っていた。

 対する切島くんは、硬化の具合を確かめるようにガンガンと自分の両拳を合わせて、よしと気合いを入れた。

 試合開始の合図に合わせて動いたのはやはり切島くん。受けて立つ尾白くん。

 吠えながら右ストレートで殴りかかる切島くんを、尾白くんはわずかに身体をズラしながら右手で捌いた。

 身体を流され伸びた右腕に引っ張られるように右半身を無防備にさらす切島くん、その彼の脇腹を狙って尾白くんは掌打した。

 完全に攻撃の後隙を突いていたのだが、尾白くんの掌底は有効打とはならなかった。

 切島くんの硬化した脇腹が、(当然ではあるが)人体にあるまじき音を立てて受け止めていた。

 

 にやり、と不敵に笑う切島くん。

 だろうね、とこちらも同じように返す尾白くん。

 

 開始数秒。一度のやり取り。

 両者を地味だ地味だと実況が騒いだ戦いの幕は、そうやって開いた。

 

 

 切島くんが反撃してくる前に、尾白くんは尻尾で跳ねて大きく後退した。掌打した左手が痺れているのか、それを払うように軽く手を振っている。

 一方、切島くんは攻撃を受けた側だというのに余裕な顔だ。尾白くんを追って再び突進していく。

 彼の個性『硬化』は攻防一体。対人戦闘に於いてはシンプルな強さを誇る。0ポイントヴィランロボの倒壊が直撃しても無事なあたり、純粋な物理攻撃で彼にダメージを与えるのは至難の業だろう。

 

(ダメージ勝ちができないならば、狙うは場外、か)

 

 ついつい私の思考は尾白くんの勝ち筋を探る。

 切島くんの突進に尾白くんが尻尾での後ろ回し蹴りの要領でカウンターを合わせていた。切島くんは両腕でしっかりガードして、数メートル押し返されるも、やはりこれもノーダメージ。

 ガチガチに硬化された切島くんの腕は鋭利さもある。尾白くんの強靭な尻尾だから無事だが、下手に素手で殴れば殴ったほうが怪我をする。尾白くんの拳は鍛えてはあるだろうけれど、あの硬さにどこまで耐えられるか。

 

(こうげき)(ぼうぎょ)が高い切島に、物理アタッカーの尾白は不利かー!?』

『何言ってんだお前……?』

 

 切島くんが突進し、尾白くんがカウンターをしてから少し後退する。ヒット&アウェイの変形のような様相を呈してきた試合。じわじわと尾白くんは戦線(ライン)を場外寄りに下げていっている。

 スタジアムの雰囲気は切島くん優勢、尾白くんはじり貧である、という見方だ。マイク先生も敢えてそういう風に煽っている。

 当の二人は、特に切島くんはどう思っているか。今のところ尾白くんの眼に焦りは見えない。

 

「――――」

 

 切島くんの足が止まった。疲労や息切れ……というより、いよいよ場外ラインを背にした尾白くんを警戒してのものだろう。

 考えなしに追い詰められたわけではないはずだし、ここで突進したところにいわゆる送り出しを狙ってくるかもしれない。突進は躊躇われる。

 先ほどまでと打って変わって、切島くんはじわりじわりと距離を詰め始めた。しかし、

 

『――おおっと、今度は尾白が攻める!』

 

 ここまで守りに回っていた尾白くんが攻めに転じる。

 警戒してもここまで攻め一辺倒だった切島くんは意識のスイッチが出来ず、一瞬動きが固まった。

 一足飛びで近接距離(クロスレンジ)まで近づいた尾白くんは、牽制に左ジャブを放つ。ガードは下げていなかったので切島くんの腕に当たった拳はカァンと硬い板を叩いたような音を立てた。痛そうだが尾白くんは覚悟を決めていたのか顔色を変えずにさらに攻撃を重ねた。

 大きく振りかぶった右の手刀が切島くんの頭を狙うも、それはクロスした両腕に受け止められた。

 そしてそこまで尾白くんの想定内。彼の連続攻撃は続く。

 

「――――んなっ!?」

 

 突然、()()()()脚を払われて、切島くんが堪らず驚きの声を上げながら地面に転がった。

 

『左、右から、第三の攻撃! 尾白の『尻尾(個性)』だ!』

 

 転がって地を這う体勢になってしまい切島くんは、尾白くんを見失った。

 視線を巡らすも、相手の姿はどこにも居ない。

 

 ――やばい! と、彼は直感し全身に力を込め硬化した。

 

 切島くんには見えていない。

 高く上へ跳躍した尾白くんが、ぐるんと勢いよく縦回転したその姿を。

 

『尾白の強烈な尻尾攻撃がヒットォ!! いや、マジで人体が出していい音じゃねぇな!?』

 

 全力で硬化したであろう切島くんの背中に、渾身の回転尻尾が叩きつけられ、大きな音が会場に響いた。

 丸太で大きな扉をぶち破ろうとしたような、破城槌(はじょうつい)ってこんな音を立てるんじゃないかと私は思った。

 後に聞いたけれど、この時の威力でも鉄パイプぐらいなら曲げれたよとは本人の談。

 しかし、それでも耐えれるのが切島くんの個性だ。

 本当に頑強だ。しかし流石に今回は耐えるのが精一杯だった。

 

「ぐっ……!」

 

 強く打ちつけられた衝撃が全身に響いているのか、切島くんは呻いたまま動けないようだ。

 けれど硬化を解かない。ここで硬化を解いてしまってはいよいよKOされてしまうからだろう。

 

『尾白、回復する間を与えない! 尻尾で切島を掴んで――投げたァ!!』

 

 場外のラインまではほんの数メートル。尾白くんの尻尾のパワーなら容易に投げられる距離だ。

 

「――切島くん、場外! 尾白くん、二回戦進出!」

 

 固まった相手は投げればいい、と素早く尻尾を巻き付けて投げ飛ばした尾白くんが第五試合の勝者となった。

 

「うおおおお! 尾白くん、おめでとうー!!」

 

 私は全力で拍手喝采を送った。

 




少し切りどころに迷ってここで一旦区切ります。
次話は主人公の一回戦の予定です。


原作では切島くんは鉄哲くんとの試合で引き分け後、腕相撲による決定戦で勝ち上がっています。
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