天然才女との生活は驚きの連続であり、暇しません。俺的には結構ありだと思ってます。   作:花河相

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読み切り
才女の生活レベル


「あ……レイくん」

「はぁぁぁぁ」

 

 俺……レイモンドは大きくため息をした。

 胸のうちにある不安が的中してがっかり、それらを全て吐き出すような大きなため息をだ。

 

 ここは王立魔法学院の敷地内、講義を行う本館から距離がある研究室、周りは木や芝生の自然に囲まれ、手入れがされていないため荒れている。

 その自然の荒地に新築の一軒家がポツンと建っている。

 

 学院のお偉いさんがとある才女のために特別処置として作られた新築一年未満の研究施設。

 

 だが、その家内は荒れていた。

 

 服は散乱し、机の上は資料が積み上げられる。

 くしゃくしゃになった紙屑が机、床そこら中に落ちている。

 

 何か用途のわからない工具や魔法陣の書かれた用紙。

 そんな人が暮らしているようには思えないゴミ屋敷の床に積み上げられた洋服の上に寝転がる無気力の女の子が1人。

 

 腰まで伸びた薄ピンクの綺麗な色のボサボサした髪。

 寝癖がひどい。

 

 世間一般では絶世の美女なのだが、目の下にあるクマのせいで台無し。

 

 瞳は薄ピンクの髪よりもより深みのあるピンクサファイヤのように綺麗なはずの目は力無く……てか疲労のせいか目が死んでいる。

 

 その人物の名はイヴ=ニコラ、ニコラ家のご令嬢だ。

 学園史上の最も優秀な才女。彼女は探究心が強く興味があること……特に学問や魔法の研究の分野にだけ優れている。

 学院もそんな彼女の能力を評価して特別待遇だ。

 

 講義は基本出席しないで免除。

 テストだけ受けて点を取れば単位はもらえる。

 学院に席を置くだけで良い。

 

 そんな彼女の将来性を買って学院は研究所を独自で作った……いや、作らざるを得なかった。

 

 理由は彼女の本質にある。

 実は。

 

「イヴさんや……なんでこんなに荒れてんの?」

「……わかんない」

 

 俺の問にイヴは力のこもらないやる気のない声で平然としていた。俺は壁に吊された時計を指差して聞いてみる。

 

「イヴさん、今何時かわかる?」

「ん?……夜中の10時?」

「違う、朝だ。もう窓から日がさしてるだろ?」

「あ……ほんとだ」

「いや、ほんとだじゃねぇよ」

 

 イヴ=ニコラは才女である。

 だが、その才能に全振りして生まれた結果、生活力は壊滅的なんだ。

 

 このゴミ屋敷も俺が1日前に掃除をしたばかりだ。

 研究所を出た時はしっかりと整理整頓してあったはず。

 

 それなのに、次来たらあら不思議、ゴミ屋敷に変わっていた。

 

「はぁ……」

「……レイくん疲れてるのね……汚いところだけどゆっくりしてね」

「誰のせいだよ」

「……だれ?」

「お前だよ」

 

 ゆっくりと話す彼女に辛辣な言葉をかけるようだけど、許してほしい。この散乱した部屋と同じように少し心が荒れてしまっているんだ。

 

 ……しょうがない。

 

「俺が1日空けただけなのに」

「え?……まだ1日も経ってないよ?」

「……イヴ、最後に寝たのは?」

「……わかんない」

 

 まさかこいつ一睡もしてないのかよ。

 

 ますます頭がいたい。 

 俺は私用で出かけていた。それがダメだった。

 自分の愚行を恨むもの気にしてもしょうがない。

 

「とりあえず風呂に入って来い」

「大丈夫、浄化玉使ったから」

「そういう問題じゃな……いや、なんでもない」

 

 言っても無駄かと思い、これ以上言うのをやめた。ちなみに浄化玉というのは手のひらサイズの玉で高価なもの。

 簡易的なお風呂みたいなものだ。

 使うとその玉は消えてしまうが、使えば1日の汚れがなくなる。

 

 そんなことを思いつつも俺はまず無魔法の「サイキック」を使い研究所内の窓を開けて、微弱な風魔法を使い籠った空気を換気する。

 

「失礼する」

「ん」

 

 それが終わると服の上で寝ているイヴに断りをいれ、お姫様抱っこをする。

 相変わらず軽い、俺が栄養のある料理を差し入れてるのでガリガリに痩せているわけではないが、もともと小柄なので軽い。

 するとイヴは少し顔を赤らめた。

 

「どうした?」

「……優しくしてね」

「何もしねぇよ。いつものやつ」

「……あーうん」

 

 何を勘違いしてるんだか……内心そう思うもイヴを椅子に座らせる。

 そのまま彼女はされるがままに抵抗なく背もたれをつく。

 

 俺は懐からミスリルでできた櫛を取り出す。

 ミスリルは魔法の透過が高く、魔道具や魔法杖の材料として扱われる高級品。

 市場では高値でやり取りされる。

 

 では、なんで俺が持っているかと言われれば……イヴからプレゼントされた。

 

 理由はいろいろあるが一番は。

 

「いつものね」

「仰せのままに」

 

 彼女の髪の手入れに使うから、あと俺の髪の手入れが気持ち良いからだそうだ。

 イヴを座らせた後俺は椅子の後ろに立つ。

 

 水と火の魔法を櫛に流して一定温度を保つ。

 いわゆるヘアアイロンのようなものだ。

 水蒸気を使い、髪の手入れをする。

 

 このまま髪を解かすことでイヴの本来の艶のある髪になる。

 ゆっくりと丁寧にイヴの髪を梳かしていく。

 

「よきかなぁ」

 

 イヴは気持ちいようだ。

 おっさんくさい言動をよくする。

 何回も指摘しても治らないので今では放置している。

 そう思いつつ、俺は手を止めずにイヴに話しかける。

 

「せっかく綺麗な髪なんだから、手入れくらいしたら?」

「……綺麗」

「あと少し清潔を意識したら?お淑やかにと言うか……こう……もう少し清楚にというか」

「……お淑やか……清楚……照れる」

 

 注意とアドバイスで言ったつもりだけど、イヴは褒め言葉として受け取ったようだ。

 なんともまぁ都合のいい耳だこと。

 

「褒めてない」

「……いたい」

 

 そう思いつつ、髪を解かし終わると右手で軽くイヴの頭にチョップをした。

 そう言ったが、イヴは特に気にしたそぶりを見せずに両手で自分の頭を撫でる。

 

「……さらさら」

「はい、終わり」

「え……終わり?」

「また今度な」

 

 イヴはショックを受けたらしく、俺を椅子に座ったまま見上げてくる。

 しかも目をうるうるとさせて。

 

 何故捨て猫のように見つめてくるんだよ。

 

「……わかった」

 

 お、今日は素直だな。

 いつもならもう少し粘って延長させるのに。

 

 するとその原因はすぐわかる。

 

「なら、もう二度とお風呂入らない」

「……は?」

「そうすれば万事解決」

 

 うん、一周回ってその発想はなかった。

 天才の発想ってやつか?……いや、ズレてるだけか。

 

「後でやってあげるから風呂には毎日入りなさい」

「……うい」

「その前にご飯食べてまず寝ろ」

「……うい」

 

 甘やかしすぎるのは良くない。

 

 するとイヴは立ち上がりフラフラとおぼつかない足取りで研究室を出て台所に向かった。

 

 ちなみにここは研究所兼イヴの自宅だ。

 だから、風呂や寝室、台所など生活するための設備は充実してる。

 

 一体どれだけ金がかかったのやら、ため息しながらも温かい目で見守った。

 

 

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