天然才女との生活は驚きの連続であり、暇しません。俺的には結構ありだと思ってます。   作:花河相

16 / 30
才女視点

 はぁ、やっぱ居心地がいいな。

 才女、イヴ=ニコラは婚約者であるレイモンドの背中におんぶをされ、肌の温もりを感じ安心する。

 

 ただ、転んでしまいジンジンと痛みが残るものの、すぐに介抱してくれたおかげで幾分かマシになった。

 

「もう、女の子なんだから足に傷残るかもしれないんだから気をつけなよ」

「……うん」

 

 いつも通りの小言を聞き流しながらイヴはレイモンドの背中に頬をすりすりする。

 

「帰ったらもう一回絆創膏するからね。あと、傷はいじっちゃダメだよ」

「……うん」

(やっぱレイくんの匂い好き)

 

「もう……でも、今日は偉かったよ。イヴも大人になったんだね」

「……私お姉さんだから」

「そうなんだねぇ」

 

 褒められた瞬間ムフッと嬉しがるイヴ。

 

 小言は右から左へ流し、全く違うことを考えつつ、褒められることには全面的に反応する、都合のいいのが才女の耳である。

 

 小言は言われたくない、でもやっぱり褒められると嬉しい。イヴは褒められて伸びるタイプの人間なのだ。

 

(レイくん好きだなぁ)

 

 そんな個性的な才女はレイモンドが大好きである。

 

(レイくんなしでは生きられない。いっそのことこのままずっとおんぶしていればずっと一緒……か…も)

 

 レイモンドの温もりに落ち着く香。

 歩いているためリズムよく身体が揺れる。

 

 ようはスゴく眠くなる状況なのだ。

 

「イヴは変わったよ。まさか自分の大好きなものを人にあげるほどお姉さんになるとは考えても見なかった」

「……本当はあげたくなかったもん」

 

 だが、そのウトウトが一気に冷める。

 突拍子のない会話をイヴは振られたからだ。

 お門違いの解釈にムスッとするイヴは反論した。

 

「レイくんが困ってたから仕方なくだもん」

「……そうか、俺のため……か」

 

 イヴが大好きにグーソくんストラップを女の子に上げたのはレイモンドが理由であった。

 どうにか女の子をあやそうとするレイモンドだが、困ったような顔をしていた。

 

 レイモンドの魔法によって初め厳しい視線を向けていた他のお客さんは温かい目を浮かべるようになった。

 彼の使った魔法に驚く者もいた。

 

 イヴは嫌な空気を一掃したレイモンドの力になりたいと、自分はいつももらうだけではなくたまには助けたい、そう考えた。

 

 だから、少しでも助けになりたい、そう思ったイヴは今自分に何ができるかを考えた。

 そこでふと思ったのは自分がサユナが欲していた物を持っていたから。

 

 自分の宝を譲る他に、あの場でみんなが幸せに終わる方法をイヴは思いつかなかった。

 

「……レイくんを助けたかったから」

 

 イヴはどこか照れくさそうであった。

 どこか生暖かい雰囲気になる。

 

「……イヴは本当に成長した」

 

 レイモンドは出会った当初の記憶のイヴと現在のイヴの姿を照らし合わせている。

 出会った当初からは考えられないほど今のイヴは別人だと錯覚してしまうほどだからだ。

 

 ……だが。

 

「レイくんのばか、節穴。私のお胸は全然真っ平だし身長ちっちゃいもん」

「え?……いや、そんなことの話じゃないから!」

 

 斜め上の発想、何故そんな解釈をしたのか。

 レイモンドは慌てて否定する。

 

「ほら、イヴ初めて会った時俺のことお手伝いとしか扱ってなかったじゃん」

「……そうだっけ?」

「そうなの」

 

 確かに今のイヴとの関係は1年前、レイモンドとイヴが初めて出会った当時とは比べ物にならない。

 イヴはレイモンドのことをただのお手伝いさん、としか認識していなかった。

 

  イヴは昔からニコラ家で厄介ものとして扱われてきた。

 生まれてから言葉をすぐに理解した。ニコラ家は魔法工学で有名な家であったため、家にある本をすぐに読み漁った。

 

 誰にも教わらずに魔法工学の基礎を理解してしまう。

 

 ニコラ家の神童、そう認識されるのに時間はかからなかった。

 だが、イヴは魔法工学の分野を除きそれ以外はてんでダメであった。

 

 歴史や文学、マナーや礼儀作法。貴族として必要な分野をこなせない。

 覚えられない。

 

 自分で服を着られない。

 何度も使用人に注意された。何度も同じことで叱られた。何度も何度も、日に日に口調は厳しくなり罵詈雑言を与えられる。

 

 イヴは物事を人に伝えることが苦手意識があった。

 伝えたところで家族は信用してくれない。むしろ妄想癖だと罵られる。

 

 ニコラ家の兄弟姉妹はイヴにいい顔をしなかった。

 才能に嫉妬したのだ。使用人たちに無慈悲な嫌がらせをして、自分から話さないのこといいことに両親にあることないことを風潮する。

 結果、イヴは孤立した。

 

 一日中本を読み漁ったが日に日に読み物も飽きてきた。

 自分から何かやろうとせずされるがままに着替えさせられた。ご飯を食べさせてもらった。

 新たな書物は増えず、同じ内容の本を何度も何度も読む。

 

 だが、そんな生活に飽きることはなかった。定期的に接触してくれる人がいたから。

 イヴはその人だけはただ周りの有象無象ではなく一人の兄として認識してきた。

 書物を与えてくれた。美味しい食べ物を影で与えてくれた。

 

 そんな生活を送っていたイヴだが、生活する環境が大きく変わった。

 イヴは言われるがままに十五歳で成人したら王立魔法学院に入学した。

 入学後は学院の意向で試験を受けるだけで良いことになっていた。

 学院もイヴ専用の研究場兼家を用意されていた。

 

 何故そんな待遇を受けられたことをイヴは何も思わなかった。

 ただ、用意された環境で欲求に従い行動するだけ。

 

 イヴは書物を読み漁った。好きなことをするだけでいいから。

 生活は全て学院の関係者がやってくれていた。

 だが、人の入れ替わりが激しかったが、イヴに対して邪険な視線を向けていなかったことはわかった。

 だから、イヴは世話をしてくれる人の顔をなんとなく覚えていた。

 

(あ……また変わるんだ)

『あなたが新しいお手伝いさん?短い間よろしくお願いします』

 

 目の前にきた癖のある栗色の単発の男。少し細身で身長も少し高いか?

 

 普段は女性しかいなかったから男が来るのは珍しくかったのは当時のイヴは印象に残っていた。

 と言っても対応は変わらない、普通に挨拶して終わり。

 どうせすぐにいなくなるのだから。

 ちなみにこれがレイモンドとの出会だった。

 彼は出会ってから毎日来て積極的に話しかけてくれた。

 工夫もして生活がガラッと変わったのは言うまでもない。

 

『今日はカレー作ってみたわ!』

 

『あれ?お風呂には入らないの?……ああ、大丈夫。俺秘策用意してきたから!後、服を着る時も任せてくれ!』

 

 食事はイヴの好物にちょっとずつ変わっていった。

 毎日浄化玉で済ませていた風呂に入るようになった。

 結果食欲や風呂でリラックスする快感を知った。

 

 そして、2月経つ頃にはイヴは変わらず接してくれるレイモンドに興味を持った。

 ただの関心、なんとなくだろう。

 イヴはレイモンドの話を聞くようになった。

 注意が逸れて間違えて呪符を発動させてしまった。

 だがーー。

 

『あははは!びっくりした。イヴさんでもミスするんだ』

 

 この時レイモンドは始めてミスしたイヴが珍しくて笑っていた。

 だから、イヴは変わった反応をするレイモンドが気になった。

 

(この人なんなの?)

 

 だから、イヴは初めて魔法工学以外で実験してみたいと思った。

 あえて自分から困らせてみよう。

 呪符を発動させてみた。

 

 料理をするふりをして失敗してみた。

 自分が何かをやったところで意図せず失敗してしまう。

 怒らないレイモンドを怒らせてみたくなった。

 

『呪符って色々あるんだ、せめて地下で発動させてよ全く』

 

『イ,イヴさんが料理を。一人でやると危ないから俺と一緒にしようか』

 

『自発的に動くのはいいことだ!着替え方教えるから自分でやってみようか!』

 

 

 だが、怒るどころか褒めてくれた

 コンロを爆発させてしまったり、包丁を持ってうっかりレイモンドのところに飛ばしてしまったりしたが、レイモンドは魔法で回避した。

 

 だから、いつからかイヴはレイモンドに懐いた。

 くだらないことで笑い合い、冗談を言う

 美味しいものを一緒に食べる。

 

 この変わらぬ日常を大切にし始めた。

 

(胸がポカポカあったかい)

 

 この時、自分の奥底にある気持ちはなんだかわからなかった。

 でも、心はいつもぽかぽかとしていた。

 レイモンドと話すことで声が弾む。

 

 だが、そんな日々は突然終わりを告げてしまった。

 

(レイくんがいない?……なんで?どこいるの?)

 

 私を置いてどっか行っちゃった。

 そう錯覚してしまったのだ。当たり前がなくなる。今まで人が離れていくのが普通だと思っていた。特に気にしていなかったが、イヴは胸が苦しくなる。

 

(そうか……レイくんは私を嫌いになっちゃったんだ)

 

 イヴは後悔の念で胸が張り裂けそうだった。

 

 それからイヴは2日間夜通し泣き続けた。食欲が沸かず、水分も喉を通さない。

 ショックが大きすぎた。

 

(レイくん、今度はちゃんとするから帰ってきて)

 

 すがる思いでドアを見続ける日々。

 

『ただいまぁ……ってあれ、何やってんの?』

『……レイ……くん?』

 

 だが、呑気な声をしながらレイモンドは帰ってきた。

 その温かい声一つで張り裂けそうな胸が緩む。

 自然と瞳から涙が溢れていた。

 

『うぇぇぇぇん!いなくならないでぇ!』

 

 だが、イヴは胸の内に溜まっていた感情が爆発する。

 涙が止まらずレイモンドに抱きついた。

 

 その後、レイモンドから何をしてきたか聞いている時。

 

 

『いや、出て行く前に伝えたと思ったけど……あれ?』

(あ、そういえばそういうこと言ってた気がするなぁ)

 

 となんとなく思い出したイヴだった。

 

『いいかイヴ、人の話は聞くこと。今後は出かける時ドア付近に置き手紙も置くようにするけどその前に人の話は聞かないとダメだよ。わかった?』

 

 初めて説教された。

 でも、嫌な気持ちにはなくむしろ嬉しかった。

 それほどまでに自分のことを大切に想ってくれているのだと知っていたから。

 

 それから意識が朦朧としている中、気がついたら婚約していた。

 しかも、兄のグレイスが来ていた話を聞かされてイヴは驚いた。

 

(おにい様と会いたかったなぁ)

 

 深い事情は気にならず、そう思った。

 何より。

 

(そっか、私はレイくんが好きなんだ)

 

 婚約したと話を聞いて嬉しさが込み上げるイヴであった。

 

 

 それから遠慮というものをやめた。とにかく甘え続ける。

 一緒に出かけた時、自分以外の異性へのレイモンドの視線にちょっとムスッとした。

 嫉妬の感情、レイモンドと過ごすことで初めて感じる感情、驚きの連続の日々に毎日が楽しくなったイヴであった。

 

 そういう意味ではレイモンドが言った「成長したな」という言葉は本当のことなのだ。

 

 

「ほら、昔は何もやろうとしなかったじゃん」

「……そうなの?」

「そうなの」

 

 イヴの問いかけにレイモンドは即答する。

 実際に話をされて確かに自分も変わったなぁ。

 

「若い時の私はダメダメでしたなぁ」

 

 過去の自分が少し恥ずかしくなるイヴだが。

 

「若い頃ってまだ1年も経ってないわ。それに何言ってんだよ。イヴは今も昔もひっくるめてイヴだろ?俺は昔のイヴも今のイヴも好きだよ。好きなことに真っ直ぐなところとか。今も変わらないままじゃん」

 

 少し過去のことを思い出して恥ずかしいと思った自分が恥ずかしい。

 

(私は私のままでいいんだ。レイくんは昔も今も両方私のことが好きなんだ)

 

 少し照れ臭くて背中に顔を埋める。だが、そう結論づけた後なんとなく嫌な気分になる。

 

「どうしたんだよイヴ?」

「レイくんの浮気もの、優柔不断」

「いや、なんでそうなる。俺何かした?」

「過去の私と今の私、両方好きとか最低、どっちかにして」

「いや、どっちも一人の人間、過去のイヴと浮気ってなんだよそれ」

 

 照れ隠しから自分でも何言ってんだろうと思うイヴであった。

 

「あーそのなんだ」

 

 お互い無言になってしまう。

 そんな時、レイモンドはある提案をする。

 

「ケーキでも買って帰るか」

「……ショートケーキとプレミアムメロンパン」

「一つにしようか、メロンパンはケーキ屋に売ってないぞ」

「……しょうがない。ショートケーキで我慢してしんぜよう」

「何様だよ。何?最近時代劇でも見たの?キャラに影響されすぎだよ全く」

 

(ああ、……やっぱ好き)

 

 口で表せない漏れんばかりの恋心。

 イヴ=ニコラは才女であるが……思春期真っ盛りの乙女でもある。

 

(今日、ウェイトレスさんに夢中になってた。……決めた。もう私以外眼中になくしてあげるよレイくん。教えてもらった男を落とす秘技を見せてしんぜよう)

 

 何をやろうとしているのか。

 それはまた後日判明するのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。