天然才女との生活は驚きの連続であり、暇しません。俺的には結構ありだと思ってます。 作:花河相
気まずい雰囲気になり、イヴはどうしようかと悩む。
悩んだ末に口に出した。
「……ごめんなさい」
イヴはとりあえず謝った。
そのシュンと落ち込んだ態度は見ればわかりやすいくらいであった。
女生徒はその姿を見て本当に反省している、また何故か庇護欲がそそられる。
ここでイヴを問い詰めたり怒ったりすることは彼女の良心ができなかった。
「……顔を上げてくださいまし。怒ってはおりませんので……えっと……まずはお互い名乗りましょうか。私はジュリー=エットと申します」
「僕はロー=ミオ、よろしく」
「……イヴ=ニコラ。……よろしく」
互いに名乗り合う。
女生徒がジュリー=エット、男子生徒はロー=ミオ。
イヴは少し話しただけで、やはり対人は苦手だと再認識する。また、会話に詰まってしまった。
今思えば、イヴはレイモンドがいないときに他の人と話す機会が極端に少ない。そのためどう話せば良いかわからない。
人と話すだけで行き詰まる、まるでニコラ家で過ごしていたのと同じ感覚。
(……どうしよう)
イヴは早く立ち去りたい衝動に駆られる。
俯いて顔が見えない。不安で押しつぶされそうであった。
親切な言葉をかけられたが、怒られるのではないかと。
ローがそんなイヴを見て話しかける。
「お嬢ちゃん、そんな顔はやめなさい。せっかくのレディーの顔が台無しだよ。ジュリーはこの大空のように寛容なんだ。気負わなくていいさ」
「もう、ロー様ったら。……褒めても何も出せませんわよ?」
「何を言っているんだいジュリー……僕は真実を伝えただけなんだけど?」
「ロー様……」
「ジュリー」
「……ラブラブ……羨ましい」
ローは気を使ったのだろう。
そんな気遣いがあったかは不明だが、ローとジュリーは二人だけの世界に入る。
そんな甘い雰囲気を見てイヴはボソッと呟いた。
だが、偶然か否か、その呟きはローの耳に入る。
「おっとすまない。人目があることを忘れていたよ。僕の悪い癖だ」
「も、申し訳ありません……えっと、それでイヴさん、羨ましいとはいったい」
ここで初めてイヴは二人と目が合った。
そんな二人に彼女は、少し警戒心を解いた。
二人の目を見てわかるのはイヴ自身に対して嫌悪感を抱いていないから。直感のようなものだったが、彼女は少し緊張が解ける。
(……なんで言おう)
と、ジュリーから聞かれた内容をどう答えるべきか……イヴは考えた末出した結論は。
「私も……レイくんとラブラブしたい」
ど直球すぎる言葉。
だが、その言葉に。
「その、レイくんというのは」
「……婚約者」
「そうなんですのね」
ジュリーは冷静に対処をした。真面目に相談をしているのは聞いていてわかる。不器用なのも少し話しただけで少しは理解しているつもり。
次に話を切り出したのはローであった。
「それで……ニコラ嬢は僕たちに何か聞きたいこと……相談事があるということかな?」
あくまで推測からだが、イヴの人間性を察したのかもしれない。
おそらく自分から話しかけるタイプではないと。だから、こちらが会話を振るのが良いと思った。
「うん」
イヴは頷いた。そう答えるとジュリーとローは視線を合わせて頷きあう。
どうやら話を引き出してくれるらしい。
今までに相対した相手はイヴと話すと基本話を切り上げるか、煙たがるかの二択だった。
二人は度がつくほどのお人よしなのだろう。
(……お話ししてみようかな)
決死の覚悟で悩みをぶつける。
「……レイくんをドキドキさせたい」
それがイヴの悩みだった。
レイモンドはイヴのことを受け入れている。
普段身の回りのことを全てしてくれる。
自分の欠点を全て補ってくれる。
嫌な顔ひとつせず自分に尽くしてくれている。婚約者となった後も自分のことを好きと言ってくれたレイモンドだが、目の前の二人みたいにドキドキはイチャイチャはなかった。
今までは気にしていたなかったが、一度妄想してしまった。なので、それを現実にしたい。
そう思った。
「普段、レイ様はどんなことをされてるんですか?」
(……普段どんなことしてるんだろ?)
改めて聞かれると悩むイヴ。
出会って一年弱。婚約者の立場にあるし、普段一日中行動を共にしているが、普段何が好きを聞かれると……即答はできなかった。
今知っている時点でレイモンドが普段やっていること。
「……私に尽くしてくれてる。ご飯もお掃除も……全部」
(ワタシってレイくん知らなすぎ?)
知っていることと言ったらそのくらいしか思いつかなかった。
「そうなんですの。では、普段レイ様はイヴさんをどう接していますの?」
(……レイくんが私にーー)
考えるイヴ。
『もう、ご飯はしっかり噛まないとダメだよ』
『ほら、歯磨きしないで寝ないの』
『ピーマン食べなさい』
「親みたい?」
その一言だろう。
子供の世話をするような感覚。でも、今までそう思ったことがなかったので一概には言えないが。
「……つまり異性として意識されていないということですわね。これは……危ういかもですわ」
「……え?」
ジュリーの言葉にイヴは困惑した。
「……どうしたらいい?」
「「?!」」
ローとジュリーが驚いた表情をしたのは不安がるイヴを見たからだろう。
例えるなら捨てられた子犬を見つけたときのような。
イヴは小柄ゆえ見上げることが多い。初めて見る表情の変化に庇護浴のようなものをそそられる二人。
ジュリーとローは視線を合わせて頷きあう。
それは合意を意味している。
「大丈夫ですわイヴさん。これも何かの縁なのでしょう……私たちでよければ協力いたしますわ」
「男視点の意見も僕でよければ参考にしてくれ」
「……いいの?」
イヴの表情から不安が消えた。二人の微笑みを見ていると安心するから。
レイモンドとグレイス、ネーメルを除いて安心と思えるのは初めてだった。
イヴは人と関わることが苦手だが、人の善悪には鋭い。
それは幼い頃から酷い仕打ちを受けてきたから自分のことを馬鹿にしているか否かを視線や態度だけでなんとなく分かるようになっている。
悲しい状況での偶然の産物であったが、それが役に立つ時がある。
この場のように。
「ありがと!」
イヴは満面な笑みでお礼を言った。
こうしてイヴの相談が始まった。
ジュリーとローはイヴの話を聞く。
「……うむ、まずは異性として意識させるのはどうだろうか?」
「そうですわね。レイ様は鈍感の可能性も……段階を踏むべきですわ」
「私はどうしたらいい?……どうしたらレイくんを意識させられる?」
イヴは前向きである。
彼女も思春期真っ盛りの恋する乙女である。
「前向きなのはいいことですわイヴさん……そうですわね。では、まずは手始めにイタズラを仕掛け、レイ様をドキドキさせて見ましょうか。お教えしますね」
「ジュリーの案のほかにもう一つ試してみようか。ニコラ嬢、鈍感な男というものはね、ちょっとしたアクシデントに弱いことがある。そこが付け入る隙だね」
「……教えて欲しい。レイを落としたい」
「イヴさんそのいきですわ!」
「ニコラ嬢、頑張れるんだよ」
こうして、ローとジュリーによって作戦が伝授させられた。
その後、作戦を聞き終わった後たまたま通りかかったネーメルによって保護されたのだった。
試したのは数日後だった。
ジュリーから授かった作戦は「肩トントン、ほっぺツン」作戦。
普段悪戯をやられない異性にそんなことされたら少しドキドキしちゃうかもということ。
結果は失敗。
1度目は反対方向を向かれてしまう。
2度目は両肩をトントンして両人差し指を用意する。どっちに振り向いても平気なようにした。
だが、しゃがんでいるところで試すが立たれてしまった失敗。
3度目に試すため最終手段でおんぶしてもらい、試し成功した。
(これでレイくんは私にドキドキしたはず)
苦労したから達成感が大きかった。ニヤケが止まらない。
……だが、レイモンドは特に普段と変わらなかった。
(お、おかしい。ジュリーの作戦が効いていない)
だから、イヴは直接聞くことにした。
「……ドキッとした?」
「え?」
「ドキドキした?」
「いや、全く。これっぽっちも」
(あれ?……おかしい)
どうやら失敗だったらしい。
これはいけない、そう思ったイヴは次なる作戦を開始した。
それがロー立案「お風呂とらぶる」
お風呂場で異性とバッタリ遭遇してしまい、たまたま女の子の裸を見てしまうシーンである。
そうするの嫌でも意識してしまうものだとローは言っていた。
イヴはレイモンドにお風呂に入れてもらい自分で上がるからと伝えた。
しばらく使って十分あったまったと思ったら行動開始。
キッチンにバスタオルで巻いた状態で移動して声をかける。
レイモンドが振り向いた時、巻いていたタオルをチラリと見せ……。
「きゃ、きゃーー。レイくんのえっちぃ」
「……」
何故かイヴは体にタオルを羽織っているだけだった。棒読みで発言するイヴ。
失敗である。
だが、普段と違う行動をしたイヴに対してレイモンドは心配していた。
熱があるのではないかと疑い直接おでこで熱を測る。
「……よ、よろしい」
「いや、何が?」
おでことおでこが軽く接触する。
イヴが攻めるのは好きでも攻められるのは好きではない。だから、彼女は押しに弱いのである。
結果はイヴは顔が真っ赤になってしまっていた。
(……全部ダメだった……また相談しに行こうかな)
イヴは内心失敗を少し悔いていた。
だが、次こそはレイくんを落としてやろうと決めた。
だけどその前に。
(レイくんのこと……もっと知りたい)
恋する乙女は全て知りたいと思っている。
イヴはその日からレイモンドの生活に多く関わりを思うとしてきたのだった。
「あ、イヴさん、わたくしお友達が出来るのが初めてでして。よろしければ今度お茶してくれませんか?いつでも来てくださいまし、これ私のルーム番号ですわ」
最後に照れながらジュリーは部屋番号をメモした紙を手渡す。
「うん、お友達!よろしくジュリー!」
お友達という響きに嬉しくなるイヴであった。