天然才女との生活は驚きの連続であり、暇しません。俺的には結構ありだと思ってます。   作:花河相

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才女と楽しい食事

 今晩はふわとろ卵のオムライスであった。

 

(……私の好物ですね。お兄様気を使って)

 

 オムライスはシュベスタの好物である。昔、レイモンドから初めて作ってもらった手料理であった。

 ご飯にケチャップを絡めたものに焼き卵を乗せるだけであったが、彼女はそれが印象的であった。

 

 今回作られているのは少し甘めに砂糖を混ぜた卵。

 醤油で下味をつけたオークの肉に玉ねぎをみじん切りにしたもの。ピーマンとにんじんをなるべく細かく切り刻む。

 ピーマンは細く切りボールで塩を入れて1分揉み。10分水で塩を流せば良い。

 その後、細かく切って炒める。

 

「えぇ……ピーマンやだ」

「ちゃんと食べなさい。ちゃんと青臭さないから」

「……」

(子供みたいですね。……お兄様も過保護というかなんというか……。でも見ていて暖かいです)

 

 シュベスタは苦い顔をしているイヴにそう思った。

 二人のやりとりは遠慮がない。シュベスタは家族のやりとり……暖かい家庭的なやりとりにしんみりした。

 昔……まだ、シュベスタが物心ついたばかりの時期を思い出す。

 

 感傷に浸っていると料理を終えたレイモンドがそれぞれの席の前にオムライスをおいた。

 

「さ、完成したから食べようか。いただきます」

「いただきます!」

「……いただ……きます」

 

 両手を合わせ笑みを浮かべるイヴ。この場にいても良いものかと悩んでいるシュベスタ。それぞれの考えが交差する中、皆は食事を始めた。

 

(し……進化してる)

 

 シュベスタが一口食べた後、わずかに目が見開く。彼女が最後に食べたのは三年ほど前だったのだが。

 

「どう?」

「お……美味しいです」

「そりゃよかった」

 

 黙っていたのが悪いのか、心配そうに様子を窺ったレイモンドだった。

 表情が柔らかくなったシュベスタを見て安堵していた。

 そんな光景にイヴはーー。

 

「レイくんの料理はなんでも美味しい!」

「素晴らしい手のひら返しだな。さっきピーマン食べるの嫌がってたくせに」

「ふ……過去のことは気にしないんだよレイくん。細かい男は嫌われるよ?私嫌いになっちゃうかも」

「……そろそろ潮時かぁ。イヴとの生活もここまでーー」

「女か?女なんだねレイくん!死ねば諸共!」

「だから!すぐに呪符を発動しようとしないの!何故最近呪符使おうとするの!冗談だからね!」

 

 慌てるレイモンドと何故か余裕の表情のイヴは机を挟んで攻防を始める。

 食事中なのに賑やかで楽しそう。シュベスタはその光景に胸が温かくなるのを感じる。

 レイモンドはすぐにイヴから呪符を取り上げ、イヴは負けじとその場で付与をするイヴ。

 その後もやりとりは続く。

 

「お仕置き!」

「なんで最近呪符発動させようとするのハマってるの!マイブームなのかよ!」

「ジュリーから借りたこの本に書いてあった」

「なに……浮気を見抜く10の格言?」

 

 イヴはどこからか本を取り出してレイモンドに表紙を見せる。

 

「格言その1!信ずるより疑え。挙動を見逃さぬべからず!レイくんはすぐ動揺した!つまり浮気!」

「これはその呪符発動させようとしたからで」

「格言その3。女は常に余裕であれ。これ持ってるとレイくん慌てるからなんか楽しい」

「それ優越感!履き違えてるから!」

「……ブフ!」

 

 ついにシュベスタは吹いた。

 ヒューズ家では絶対にありえない光景。

 ヒューズ家の食事は音は最小限に、会話は面接のように進捗を報告するだけの日々。

 自らの武勇や自慢話。

 

 そんなつまらない日常を過ごしたシュベスタにとって騒がしく、楽しいと思える食事は初めてであった。

 イヴとレイモンドは手を止める。

 

「あ!笑った!」

「は?!わ、笑っていません!ただ……そう、くしゃみをしそうになっただけで」

「シュビー、自覚してない。今も笑ってる」

「だから、笑っていません!」

 

 何故か浅はかなプライドゆえ認めたくないシュベスタだったが、口角が下がらない。

 久々に楽しいと思えた時間だったことは認めている彼女だったが、やはりイヴの前では認めたくなかった。

 ただ、そんな賑やかな時間も区切りがくるわけで。レイモンドはイヴの持つ呪符が光っていることに違和感を持つ。

 

「ね、ねぇイヴ。その呪符起動してない?」

「「え?」」

 

 レイモンドの指摘にイヴは……。

 

「あ、やばーー」

 

 イヴの持っていた呪符が

 この時、レイモンドは行動は早かった。

 呪符を持ったイヴごと抱えると出入りドアに猛ダッシュ。

 家を出た途端呪符が発動してしまった。

 微弱な光が現れるとドシャ!という激流の川のような鈍い音がした。

 シュベスタは慌てて外へ向かう。

 

「お兄様!」

 

 ドアを力ずくで開き、外を注視。

 そこにはドアとは反対方向で、呼吸の乱れているレイモンドの姿が。

 両手でイヴを抱え茫然と視線を向けていた。服はびしょ濡れでポタポタと雫が垂れる音も聞こえる。  

 彼女は微動だにしないレイモンドに問いかける。

 

「あ…あの。だ…大丈夫ですか?」

 

 心配そうに眺めていたのだが、反応をしましたのは10秒後。

 

「大丈夫……そんなことよりシュビーは平気?」

「え、ええ。私は特には」

「家の様子は?」

「えと……椅子が倒れていますがそのほかは問題ないかと」

「ふぅ……よかった」

「ざ……ざぶい」

 

 レイモンドは安堵していた。

 そして、抱えていたイヴに満面な笑みを浮かべる。彼女はその笑顔にブルっと体が震える。

 外の気温も一桁な上、全身も濡れている。彼女は全身が震えていた。

 

「……れ、レイくん」

「イヴさんや?ちょっとお話ししようか」

「……はい」

 

 先ほどまで悪ふざけをしていたイヴですら素直に従っていた。その姿に場違いな反応をする人が一人いた。

 

「ぶ……ふはははは!」

 

 シュベスタは腹を抱えて笑っていたのだった。周りなど気にするのも面倒なくらい大きく。

 

(ああ……やはりお兄様といるのは楽しい)

 

 一年ぶりに声を上げて笑う。

 シュベスタは大切な兄と再開できたことへの喜びを今再度認識したのだった。

 

 

 その後びしょびしょになったイヴとレイモンドは服を着替えお話をしていた。

 

 その姿を見ながらシュベスタは温め直してもらった好物を笑顔で食していたのだった。

 

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