天然才女との生活は驚きの連続であり、暇しません。俺的には結構ありだと思ってます。   作:花河相

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成長の兆し(エピローグ)

「……初級魔法応用実践……ですか」

「ああ、ネーメル先生先生からその講師をしてほしいって誘いがあって保留してるんだけど」

 

 ネーメル先生から話は1月前くらいにされた。

 王立魔法学院の非常勤講師として、働いて見ないかと。

 ネーメル先生が直接学院長に提案し、採用されたとか

 まだ、仮案であるが、俺が受ければ生徒を募りお試しで講義をすることになっている。

 

 学生ではない俺がやるのでは誰もやろうとする人はいないと言った。

 だが、落第寸前の生徒に補修という形で受けさせる、成長過程の実験を行い研究するらしい。

 そのことを説明する。

 

「……私は受けるべきかと思います。お兄様が教えれば結果は出ると思いますか?」

「まぁ、すぐは無理でも効果は出ると思う……けど」

 

 そもそも俺が答えを濁していたのは。

 

「そもそも務まるわけがない」

「お兄様はもっと評価されるべきです。あいたらのいうことなど間に受ける必要はない。見返してやるべきです!」

「……見返すのは無理だろうね。俺は中途半端だから」

 

 ネーメル先生にも同じことを言われたが、俺が評価されても何も変わらないと思う。

 それに決心はつかない。

 

『何故こんな簡単なことが出来ないんだ!』

 

『貴様は我が家の汚点だ!私の時間を浪費させやがって!』

 

『あーあ。なんで僕の兄弟にこんな愚鈍な奴がいるんだよ……たく。頼むからこれ以上恥を晒すなよ』

 

 家で生まれ過ごしただけで罵詈雑言を言われる。父親からも、兄たちからも……俺の存在を否定される毎日。

 十歳になる頃には全てがどうでも良くなった。

 初級魔法を練習していたのは、ただの暇つぶし。その暇つぶしでやっていたことがたまたま今の生活の役に立っているだけ。

 

 シュベスタは黙って俺を見つめている。答えを待っているような。

 

「……無理だよ。俺の魔法を評価してくれるのは嬉しいけど……」

 

 俺はまた、理由を探して答えを濁す。そもそも、この件を引き受けたらイヴとの時間がなくなるし、心配なんだ。

 やはり今の変わらずの生活のほうが良い。

 そう思ったのだが。

 

「話は……聞かせてもらった」

「……え?」

 

 結論を出す寸前、間の抜けた声。

 声の聞こえる方を向くとそこには寝たはずのイヴがいた。

 

「……イヴ?」

 

 ウトウトしながら壁に寄りかかるイヴがいた。

 

「……どこから聞いてた?」

「……初め……から」

「半分寝てたよね?……てか、なんで盗み聞きなんて」

「あの、大丈夫ですか?体が大きく揺れてますけど」

 

 船を漕いでいる状態のイヴに心配になったシュベスタ。

 そんなイヴは船に揺られながらたまたま、コツンと壁に額をぶつける。

 

「……痛い」

「何やってるのもう。……大丈夫?」

 

 倒れそうになるイヴをサイキックで受け止める。

 ゆっくりと引き寄せ、席に座らせる。 

 目が半開きになっている彼女は少し間を開け話し始める。

 

「レイくんがシュビーと二人きり……怪しい」

「……はぁぁぁぁ。まだ、疑ってたんかい」

 

 思わず俺は頭を抱えた。

 さっきの真剣な雰囲気がなくなり、イヴのペース。

 イヴが空間に現れるだけで独特な雰囲気をもつ彼女のペースになる。

 何回か、船を漕ぐようにして上下に時に小さく、大きく頭を振る。

 本当に大丈夫だろうか?

 

 すると、ピクリと動きを止める。

 

「私に黙って話を進めようとした……万死に値する」

「別に隠してた訳じゃなくて話さなくてもいいと思って……」

「……なんで?」

 

 イヴは首を傾げる。だから、理由をそのまま告げることにする。

 

「……色々理由はあるけど、一番は今のイヴとの生活が気に入っているからだよ」

「レイくん……でも、私は受けて欲しい」

「そうですよね!ほら、お兄様この人もそう言っていることですし!」

 

 イヴの言葉にシュベスタが便乗する。

 

「シュビー、ワタシはこの人じゃない。イヴって名前ある……お義姉様って呼んでも」

「私はまだ認めせんから!」

「話がごっちゃになってるから。一先ず落ち着け」

 

 今は講師の話についてなのに、話題がずれてきたので修正する。

 イヴが俺に受けて欲しい理由を確認する。

 

「……イヴはなんで俺に受けて欲しいんだ?」

「レイくんが講師してるところみたい。……受けてみるのもいいかも」

 

 ああ、そう言うこと。でも、多分受けるのは出来ないんだよな。

 

「初級魔法応用実践は落第寸前の生徒が受けるものだよ。優良児のイヴは受けられない」

「ガーン」

 

 そもそも、救済措置と実験を兼ねているからイヴは受けられない。

 彼女は右手を顎につけ考える。

 なんかよからぬことを考えてなきゃいいけど。 

 

「なら、落第寸前になれば受けられる」

「……どうしてその結論になるわけ?」

「なら、転科する」

「出来なくは……ないけど卒業できなくなるからやめて欲しい」

「……確かに」

 

 どんだけ受けたいんだよ。

 そこまでの価値はないっての。

 

「お兄様の件と卒業になんの関係が?」

 

 ふと、会話最中気になったのかシュベスタが聞いてくる。

 

「ワタシが卒業できないと婚約許してもらえない……は?!」

「え……まだ婚約確定してないのですか……は?!」

 

 イヴとシュベスタは会話の中で何かを思いついたらしい。

 二人とも目を見開いた後笑顔になった。よっぽど名案らしい。

 

「レイくん、もし受けなかったら転科するよ」

「お兄様、是非とも転科してもらいましょう!そうすればこの人はお兄様の講義を受けられる!婚約はなかったことになる!みんなウィンウィンです!」

「おかしいから!イヴは自分の首絞めているだけ!ウィンウィンなのはシュビーだけ!ああ、もうわかった。引き受けるから!」

 

 ……どうしてこうなるんだよ全く。調子が狂うわ。

 流される形になる。このまま断れば面倒になるのは確実だし。

 

 でもまぁ、いいのかもしれない。

 イヴがここまで望むなら。

 

 なるべく彼女の意向には添いたいしな。……俺はイヴに甘いのかもしれない。

 次の日、俺はネーメル先生に承諾の件を伝えた。

 

「待っていたよミスターレイモンド。では新学期からよろしく頼む。契約は後日話そう」

 

 こうして俺の新しい仕事が決まったのだった。

 その後の流れは早かった。学園長とネーメル先生が直接説明を受け、書類にサインして契約内容を確認したのだった。

 

 俺とイヴも去年にはなかった変化が垣間見えた。

 新たな友人付き合いに妹シュベスタとの再会。そんな長期休みも終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして……レイモンドという。ここにいる者は少々訳ありだと聞いている。

 

 新学期が始まって数日後のことだった。

 俺は使われていなかった空き講義室にいた。部屋はそこそこ開いだろう。

 入り口は一つで入ってすぐに黒板が設置され、そこを中心に6人が余裕で座れるテーブルが三つほど置かれていた。

 その席に2人ずつ計6人が俯いて座っている。

 彼らはギリギリ進級を果たした平民の生徒たち。

 学年はバラバラで留年している生徒もいた。

 彼らは先がないと諦めくらい表情をしている。……まるで1年前、魔法学院を不合格した時の俺みたいに。

 

 ……少し共感できる。世界の終わりだと錯覚してしまうし、生きるのも辛い人もいるだろう。

 

 ……確実に達成できるかはわからない。俺がイヴと関わり救われたみたいに、俺も彼ら彼女らの一助になれればと思った。

 

 だからこそ。

 

「この場にいるものの事情は把握しています。俺みたいな学院の学びがない人に教えを請うのは屈辱に感じている人もいるでしょう」

 

 そう発言すると俺を睨みつける人がちらほら現れる。

 俺は炎、水、土を三つ併用する。

 ただの見せかけの魔法だが、驚かせるには十分だろう。

 魔法を使った瞬間睨んでいた皆目を見開いた。俯いていた生徒は顔を上げる。

 

「この講義で身につけるのは初級魔法応用実践というものだ。初級魔法を練習するのはバカバカしいと思う人もいるだろう。だが、騙されたと思って1月だけでいい。俺のいう通りにして欲しい。そうすれば君たちの魔法能力は向上を約束しよう」

 

 何様だよ。内心自分の発言に疑問をぶつける。保証はない。それでも今絶望の淵にいる彼ら彼女らを救えるのは自分だけの気がした。

 これも何かの縁だ。

 

 だから、今から俺は全力を尽くそうと思う。

 イヴとの出会いがきっかけで教壇にいる。これも何かの運命なのかもしれない。

 なら、全力を尽くそう。

 

 俺も前に進むんだ。

 





この物語はこれで完結です。
味気ない終わりかもしれませんが、イヴと関わったことで開けた道。へっぴり腰な主人公が一歩を踏み出すことができた。
俺たちの戦いはこれからだ。みたいな終わらせ方でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

次回作もいくつか候補があります。
いろんな作品に手をつけると中途半端になりそうなので、まずは「実は僕……すごく耳がいいんです」完結させてから新作を投稿して行きたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。
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