天然才女との生活は驚きの連続であり、暇しません。俺的には結構ありだと思ってます。   作:花河相

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連載版は30話くらいで完結予定です。
ほのぼの系なので、気楽に読めると思います。
よろしくお願いします


連載版
才女の生態


「あ……レイくん。遅いお帰りで」

「はぁぁぁぁ」

 

 俺……レイモンドは大きくため息をした。

 胸のうちにある不安が的中してがっかり、それらを全て吐き出すような大きなため息をだ。

 

 寒い日々が続く中、徐々に日が長く日差しが強くなっていった春の兆しを肌で感じられる時期であった。

 

 王立魔法学院の端に建てられた緑が生い茂る新築一年未満の琥珀色の地下室付きの平家一戸建て。 

 地下に工房があり、外装と比べ地下は散乱していた。

 俺はとりあえず元凶である人物に問いかけた。

 

「たった1日でどうしてこうなった?」

「……着替えようとした?」

「なんで疑問系なの……もぉ」

 

 そう、やる気のない弱々しい声で返答したのはゴミ屋敷の床に積み上げられた洋服の上に寝転がる小柄の少女だった。

 

 腰まで伸びた薄ピンクの綺麗な色のボサボサした髪。容姿は世間一般では美少女なのだが、目の下にあるクマのせいで台無し。

 

 瞳は薄ピンクの髪よりもより深みのあるピンクサファイヤのように綺麗なはずの目は力無く……てか疲労のせいか目が死んでいる。

 

 少女の名はイヴ=ニコラ、俺の婚約者。

 見た目から想像できないと思うが……実は彼女は学園史上の最も優秀な才女である。

 

 

 部屋内は散乱した洋服類に机の上は資料が積み上げられる。

 くしゃくしゃになった紙屑が机、床そこら中に落ちている。  

 机には昨日俺が作り置きしておいた料理が中途半端に残して置かれていた。

 中には何の用途のわからない工具や魔法を込めた呪符、いくつも呪符が組み合わされた手のひらサイズの魔法陣の描かれた用紙、設計図などが落ちていた。

 

 要はゴミ屋敷。

 まだ悪臭がしないだけマシかもしれない。

 だった一日開けただけなのに。

 

 神はにぶつを与えないというが、まさにそれだ。

 彼女は俺の前世の便利家具を再現できるほど魔道具の設計図を作る魔法工学の分野に突出しすぎている。

 その結果生活能力は致命的だ。

 とりあえずなんでこんな現場になったか整理していこう。

 

「着替えようとして、なんで汚くなってるの?」

「うんと……タンスから服を取り出そうとして……」

「うんうん」

「……ご飯食べた」

「いや、なんでそうなった。服取り出そうとしたんじゃないの?」

「服探してたら……お腹すいた」

「なるほど、服をほっぽり出してご飯を食べたと」

「……美味だった」

 

 イヴは口角をあげてた。

 あ、食べたのね。美味しかったようで何よりだ。

 

「それで……えっと服が散乱したのはわかった。なんで呪符が散らかってるの?」

「……急にアイデア浮かんだ」

「飯食ってる最中にね……OK、全て謎は解けた」

 

 まとめるとこうだ。

 イヴは服を着らため探している時に突然空腹が襲った。

 その後、飯を食っている最中にアイデアが浮かんですぐに作業に入ったと。

 

 ここまで来たらわかるだろう。

 イヴは一人で生活することが困難なのだ。

 それが彼女の生体である。天災なのかもしれない。

 

「はぁ……」

 

 俺はため息をした。

 とりあえず服を着せて早く寝させないと体調不良なるなと考えた。

 特に目元にできているクマが目に入る。まさかと思い壁に吊された時計を指差して聞いてみる。

 イヴはウトウト体を左右に揺らしている。

 

「イヴ、今何時かわかる?」

「ん?……夜中の10時?」

「違う、朝だよ」

「……ほえ?」

「気がつかなかった、だから遅いお帰りって言ったのか」

 

 呆れる。

 イヴは夜通し作業をしていたのだろう。あれだけ徹夜はダメって言ったのに。気が付か なかったってことはよほど、集中していたのか。

 

「はぁ……」

「……レイくん疲れてるのね……汚いところだけどゆっくりしてね」

「誰のせいだよ」

「……だれ?」

「お前だよ」

 

 ゆっくりと話す彼女に辛辣な言葉をかけるようだけど、許してほしい。この散乱した部屋と同じように少し心が荒れてしまっているんだ。

 

「俺が1日空けただけなのに」

「え?……まだ1日も経ってないよ?」

「……イヴ、最後に寝たのは?」

「……」

 

 イヴは視線を逸らし俯く。

 ……一睡もしてないのかよ。

 ますます頭がいたい。 

 冒険者の急遽依頼を受け、家を開けていたのがダメだった。

 丸一日1日くらい大丈夫だと思ったんだ。イヴも成長していると思ったから。

 考えが甘すぎた。

 

「……とりあえずお風呂に入って来なさい」

「大丈夫、浄化玉使ったから」

「そういう問題じゃな……いや、なんでもない」

 

 言っても無駄か。

 これ以上言うのをやめた。

 浄化玉というのは手のひらサイズの玉の消耗品。

 使うとその玉は消えてしまうが、清潔になる。少し値は張るが数日間の野宿が必要な時に使う物でもある。

 

 そんなことを思いつつも俺は微弱な風魔法を使い籠った空気を換気する。

 

「疲れてるでしょ?お風呂には入りなさい」

「……なら、いつものやって」

「わかった。その前に服をちゃんと着よう」

「うん……着せて」

「……わかったよ、失礼する」

「ん」

 

 いつものやつ、をやるため服の上でうつ伏せにイヴに断りをいれ、服を着させ、お姫様抱っこをする。

 相変わらず軽い、俺が栄養のある料理を差し入れてるのでガリガリに痩せているわけではないが、もともと小柄なので軽い。

 するとイヴは何故か少し顔を赤らめた。

 なんだよその反応。

 

「どうした?」

「……優しくしてね」

「何もしないから」

 

 何を勘違いしてるんだか……内心そう思うもイヴを椅子に座らせる。

 そのまま彼女はされるがままに抵抗なく背もたれをつく。

 

 俺は懐からミスリルでできた櫛を取り出す。

 ミスリルは魔法の透過が高く、魔道具や魔法杖の材料として扱われる高級品。

 市場では高値でやり取りされる。

 

 ちなみにミスリルの櫛は魔法の杖代わりにもなるので魔法を使う時は多用している。

 

「いつものね」

「仰せのままに」

 

 彼女の髪の手入れに使うから。

 イヴを座らせた後俺は椅子の後ろに立つ。

 

 水と火の魔法を櫛に流して一定温度を保つ。

 いわゆるヘアアイロンのようなものだ。

 水蒸気を使い、髪の手入れをする。

 

 このまま髪を解かすことでイヴの本来の艶のある髪になる。

 ゆっくりと丁寧にイヴの髪を梳かしていく。

 

「気持ちい?」

「ういー。よきかなぁ」

 

 イヴは脱力し、おっさんっぽい言動をする。

 まだ彼女は16歳。王立魔法学院魔法工学科1年生である。決して年老いていない。

 俺は手を止めずにイヴに話しかける。

 

「せっかく綺麗な髪なんだから、手入れくらいしたら?」

「……綺麗」

「あと少し清潔を意識したら?お淑やかにと言うか……こう……もう少し清楚にというか」

「……お淑やか……清楚……照れる」

 

 なんともまぁ都合のいい耳だこと。

 注意とアドバイスで言ったつもりだけど、イヴは褒め言葉として受け取ったようだ。

 

「褒めてない」

「……いたい」

 

 髪を解かし終わると右手で軽くイヴの頭にチョップをした。

 遅れて反応したイヴは特に気にせず両手で自分の頭を撫でる。

 

「……さらさら」

「はい、終わり」

「え……終わり?」

「また今度な」

 

 イヴは俺を椅子に座ったまま目をうるうるとさせて見上げてくる。

 何故捨て猫のように見つめてくるんだよ。

 

「……わかった」

 

 お、今日は素直だな。

 いつもならもう少し粘って延長させるのに。

 するとその原因はすぐわかる。

 

「なら、もう二度とお風呂入らない」

「……は?」

「そうすれば万事解決」

 

 うん、一周回ってその発想はなかった。

 天才の発想ってやつか?……いや、ズレてるだけか。

 

「後でやってあげるから風呂には毎日入りなさい」

「……うん」

「じゃ、まずはお風呂入ろうか」

「……うん」

 

 甘やかしすぎるのは良くない。

 イヴは立ち上がりフラフラとおぼつかない足取りで移動する。

 

「ぶぎゃ!」

「……もう」

 

 案の定壁に激突してしまう。

 俺はやれやれと思いつつ倒れて額を撫でるイヴに近づく。

 

「大丈夫?」

「……痛い」

 

 イヴはぶつけた箇所を抑える。……多分またぶつけるよなぁ。

 今相当眠いだろうし、今回も仕方ないか。

 

「よっこいしょっと」

 

 俺はイヴを右脇で抱えて風呂場に向かう。

 彼女は特に何も言うことなくされるがままだった。

 

 いつも通りのことだからである。

 

 

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