俺は大丈夫なので、気にせず評価と感想を乞食します
評価は五人で色付くからさ…
臆病者、あるいは焦燥について
「おはよ」
「うぉああぁっ!?」
いつも通りの光のない空の下、聴き慣れた声の不意打ちの挨拶。驚いてそちらを見れば、悪戯っぽく笑う紫髪の少女───秤アツコの姿がある。
「脅かすなよもう……」
「ふふ、ごめん。君の反応が面白くってつい」
未だバクバクと鳴り響く心臓の音に、思わず胸を押さえて抗議する。が、アツコの方は全く悪びれる様子もない。彼女らしいと言えばらしい……が、正直割とやめて欲しい。ただでさえ俺は臆病なんだし
「……もうすぐ、だね」
「あーやめろやめろ思い出させるな!行きたくねぇよ本当にぃ…」
俺たちアリウス分校による、エデン条約調印式の襲撃──その日までの時間はもうそれほど残っていない
「何度も言うが、俺を戦力として数えないでくれよ…?敵と会った瞬間に絶対逃げるからな」
自他共に認める臆病者───それが俺、二階堂テラの、アリウススクワッド内での評価だった。痛いのは嫌だ。死ぬのはもっと嫌だ。ヘイローを持つ肉体は簡単に死なない。頭では分かっていても、精神はそれに従ってくれるとは限らないのだ
だから実戦でも、他の皆が戦っている中後ろからこっそり狙撃を続けるだけ。それが悪いとは思わないけれど……俺の場合は理由が理由だけに、なんかこう、嫌な罪悪感があった
「あんまり自分を卑下しちゃ駄目だよ。大丈夫、私たちもできる限りフォローするから」
「まぁ……うん、そうだよな。ありがとな」
俺たち……アリウスが、トリニティと戦う理由。サオリ達は虚しいだとか、恨みだとかなんとか言ってたけど、そういうのはよくわかんないし、何かじめじめしてて好きじゃない
俺の中にあるのは、外の人間を殺す事が正しい事だって事実だけ。ガキの頃から、あの赤い人にそう教えられて生きてきた
あの人は大人だ。ならきっと、正しい事を教えてくれたはずだ。だから、外の人間を殺す事は正しい事だ
………俺にできるかどうかは置いておいて
「……まぁ、互いに頑張ろう。できる限り足引っ張らないようにさ」
「ふふ、頼りにしてるよ」
「それは困る……」
肩の重荷を少し預けてくれたような感覚に、少しほっとしない事もないが、やっぱり嫌なものは嫌だ。いつも控えめで、どんな時も冷静沈着な彼女だ。今回の戦いも、きっと上手く行く……はずだ
──────────────────
瓦礫の山、火の海。巡航ミサイルによって崩壊した調印式会場を、一人怯えながら歩く。人の気配はない。生者も死者も、自分以外動くものはない
「……は、ぁ……」
空は青いと、どこかで聞いた事がある。今見える空は、どこまでも真っ赤に染まっている。頭はあまり良くないけれど、今の空が偽物だなんて事はわかってる。本当の空がすぐそこにある事も、わかってる
「あ……まだバレてない…」
黒と赤の制服──正義実現委員会の生徒。トリニティ側の兵士。殺害対象。まだバレてはいないので、射程の長さと視界の悪さを利用し、気付かれないうちに仕留めた
死んではいない。そもそも人一人を殺すのはかなりの重労働……らしい。俺にはよくわからない。わからない事だらけだ
俺に下された指示は、単独での遊撃。一人でその辺を歩き回って見えた奴を撃て、って事だ。逃げ回ってもバレないし、俺にはこれ以上なく向いてる役割だった
「あー怖え……!早く帰りてえ……!」
心の底からの恐怖を、最早隠す事なんてできない。例えば風紀委員長空崎ヒナ、正義実現委員長剣先ツルギ、この二人にもし出会ってしまったら、俺は逃げる事……すらできるかわからない。その隙すら無く、ただ一方的に殺される気しかしない。会いたくない、適当に時間を潰して帰るのを待ちたい……
「アツコ達を探そう……偶然会ったふりして守ってもらおう……」
確か…他の皆は先生とかいう人を狙っていたと思う。先生はヘイローを持たないらしいし、ミサイルで死んでなければこの場を離れようとする筈だ。行き先は…先生はシャーレってとこの所属らしいし、多分そっち方面────
「っ……!居た!アリウスだ!」
……考え事をしていたせいだ。後ろから聞こえた声の主の存在を、いち早く察知できなかった
「く、クソ…!」
振り返ることすらしないで、一心不乱に走り始める。気づかれた。追ってくる。怖い。怖くてたまらない……!
昔からそうだ。逃げることだけは得意だった。危険を察知して事前に離れておくのも、目の前の危険から背を向けて逃げるのも、俺の唯一の得意なことだった。だから、今回も逃げ切れる………!
「はぁっ……!はぁっ……!撒いたか……!?」
息を切らしながら振り返る。大丈夫だ、誰もいない。ひとまずはそれに安堵し──すぐに周囲への警戒を再開する
市街地だ。瓦礫の山はどこへやら、まだ街の形を保っている場所まで逃げる事ができた。あとはこの辺の適当な場所に身を隠し────
「………ひっ」
小柄な体躯、白の長髪───風紀委員長空崎ヒナだ。ヘイローを持たない大人の姿も見える。一瞬の恐怖。その後に、すぐに心を満たした安堵
「アツコ達だ!やった!これで一安心…!」
空崎ヒナを追い詰めるアツコ達───アリウススクワッドの姿も見えた。安堵と共に、皆のところに駆け寄ろうとして───思い至る
「………空崎ヒナは、俺に気付いてない」
考えてみれば、そうだ。空崎ヒナは、あのミサイルの爆発をまともに受けた筈だ。その上、今は皆に気を取られて俺の事には気付いてない
「……今なら、仕留められる」
スナイパーライフルを構え、空崎ヒナの頭に狙いを絞る。爆発に、アリウススクワッドの襲撃を受けた空崎ヒナは満身創痍だ この距離なら、万が一にも外さない。一撃で殺せる────
「っ……は、ははっ!当てた!当てたぞ!やった、仕留めた!はははっ!」
放たれた銃弾は、確実に空崎ヒナの頭に命中した。それが決めてとなったのだろう。空崎ヒナは倒れて動かない
「はははっ!ざまぁみろ風紀委員長……!」
あの風紀委員長を仕留めた事、正しい事を成した高揚感。ハイになってるのが自分でもよく分かる
「あ、そうだ、合流合流……!ひひひっ」
驚いたような表情の皆の所へ駆け寄った
──────────────────
…………結局、あの後は根性を見せた風紀委員長と救急医学部のせいで、先生達には逃げられた。いや……サオリが先生に一発銃弾を撃ち込んでいたし、目標的には達成できたんだろう
「………どっか行った?はぁ…良かった……」
「…テラ、少しは役に立て」
「ご、ごめんなさい……」
仮の拠点である廃墟に戻ったら、元アリウススクワッド───白洲アズサからの襲撃を受けた。正直、何でアズサが裏切ったのかよくわかんないけど…俺は怪我もなく無事。アズサはサオリにやられて逃げ出し、残ったのは……なんか気持ち悪いぬいぐるみだけだった
「でもさー、何なのそのぬいぐるみ。単に落としただけ?」
「───────」
「あ、アツコ。怪我はない?」
アリウス自治区に居た時とは打って変わって、整った顔立ちを隠すガスマスクを付けているアツコ。この状態では喋れないので、手話で意思疎通を取っている
「当たり前だろう。コレに何が───」
瞬間、サオリは焦ったような表情でぬいぐるみの腹を割いた。割れた先、中から見えたのは……
「早く避け───」
俺たちが知る中で、最も簡単な命を奪う手段───ヘイローを壊す爆弾だった
完全な不意打ち。いくらサオリでも反応なんてできる筈がなかった。俺も、自分の身を爆発から守るので精一杯だった そして───爆発した
「げほっ……アツコ!サオリ!無事!?」
残留した爆煙のせいで視界が悪い中。叫びながら二人の安否を確認する為に叫ぶ。こんなタイミングでの爆発は予想できない……アツコはともかく、間違いなくサオリは今の爆発に巻き込まれたはずだ
「っ……私。は、無事だ」
予想外。聞こえたのはサオリの声。先にアツコの声が聞こえると思っていて──結局、未だアツコの声は聞こえない。返事も来ない
「っ…!姫!」
「───────え」
姫。それはサオリ達がアツコを呼ぶ時に使っていた言葉で──焦ったようなその声は、アツコの負傷を意味している
砕けたガスマスク。頭から流れる血。開かない目。生まれて初めての、死の気配
死ぬ。殺す。殺される。アツコが?
呼吸が荒い。視界がぼやける。何だか、すごく、嫌な気分────
………俺が空崎ヒナを撃った時も、ミサイルを飛ばした時も、同じような気持ちの人が、いたの?
二階堂テラ
男。恐怖(テラー)が名前の由来。ベアトリーチェの戯れか、アリウス自治区の外の人間を殺す事は正しい事、と教わって育った。性格は気弱も気弱。少しでも敵意を向けられれば逃げ出し、確実に勝てる相手を選ぶ狡猾さも持っている。その性格と優秀な狙撃能力を買われ、アリウススクワッドに入れられた