「(やはり強い)」
旧Fトンネルに向かう道中、夜宵は詠子の車の中でファントムと鬼軍曹の戦いをスマホで視聴していた。
戦闘に巻き込まれないよう、ドローンを飛ばして撮影された動画。
撮り慣れているのか、素人が撮影したとは思えない程視やすい。
「(想定通り。先生自体が強い)」
動画を停める。
鬼軍曹との戦闘。
たっだ十回互いの得物をぶつけた程度だが、両者が強者であることを十分に表していた。
一悶着あることは予想していた。
ファントムの力は悪霊側。よって軍曹は敵と見なすと。
だが、いきなり攻撃するのは予想外だった。
鬼軍曹は基本的に自分から攻撃しない。
彼の願いは完全な死。よってむしろ積極的に攻撃を受ける。
敵に与えるダメージは無差別の呪いだけであり、防御もオートによるもの。
しかし、今回は鬼軍曹から仕掛けた。
普段ならあり得ない。
おそらく、軍人としての本能が反応したのだろう。
ソレはつまり、あの鬼軍曹を殺し得るということ。
「(あのときの確信はやっぱり間違いじゃなかった)」
最初、螢多朗に協力を持ちかけた際、すさまじい殺気を向けられた。
空亡とやらは俺が倒す。お前は悪霊を全部置いて普通の小学生に戻れ、と。
しかし夜宵は耐えた。
卒業生クラスの圧。
変身してないというのに、纏う空気は並の悪霊共の比ではない。
あの時は死を覚悟して、決死の想いで断った。
螢多朗は夜宵を戦いから遠ざけたかった。
悪霊を捕獲し使役するのはとても危険。一歩間違えば命の保証はない。
ただ死ぬだけならまだ良い方。逆に捕獲され、惨たらしい拷問で嬲り殺されるかもしれない。魂を捕らえられ、死後も永遠に責め苦を味わわされるかもしれない。
そんなことは覚悟の上である。
地獄なんてとっくに見たのだ。
たとえどれだけ深い闇でも、母を助けられるのなら迷いなく飛び込む。
閑話休題。
とにかく、螢多朗は変身せずと強いことが証明された。
「夜宵ちゃ~ん、そろそろつくよ~」
「ん、わかった」
夜宵は考えるのをやめて目的地―――旧Fトンネルに目を向けた。
様々な目撃談や逸話がある心霊スポット。
今宵も新たな犠牲者がトンネルから拡がる闇の中へと飲まれていく。
「(ここが危険度Sランクの一つ、旧Fトンネル。……それなりだな)」
螢多朗はあまり危機を感じなかった。
この世界の彼は原作と違い、霊と関わり倒すことに積極的。
アイコンを集めるという目的と、ファントムという対抗手段があるおかげだろうか。
この螢多朗は原作以上に霊感を使いこなしており、霊の正確な位置と強さを把握する事が出来た。
危険度Sランク心霊スポット。
一度関わったらもう二度と戻れない心霊スポット。
しかし、ソレが螢多朗にとって脅威になるとは限らない。
結界で閉じ込められる。―――ファントムーディは結界を突破する機能がある。閉じ込められても脱出出来る。
距離を無視した呪い。―――ファントムの強力な霊的防御は呪詛返しを可能とする。生半可な呪いは効かない。
Sランクだと言われたが、彼には対抗する手段がある。
故、夜宵が忠告する程、螢多朗はSランク心霊スポットを恐れていなかった。
そして何よりも、螢多朗は既にSランク悪霊との戦いを経験している。
彼の持っているアイコンの大半は卒業生クラスの実力を有しており、ソレらを手に入れる為に夜宵の言うランクS相当の心霊スポットに何度か向かった。
彼にとっては、既に経験して達成したこと。故、それほど思うものは無かった。
まあ、Sランク相手だと激戦でやっと倒せたり、死にかけたりしたので楽勝というわけにはいかないが。
「じゃあ行くぞ」
詠子がスマホで曰くを調べ、読み上げるのを聞きながらトンネルに向かおうとする。その時だった……。
ガシッ!
「お前、誰?」
螢多朗が詠子の首を掴んだのは。
振り返り様、詠子の首に右手を伸ばす。
詠子の首万力のようにギリギリと首を片手で締め上げ、軽々と片腕で持ち上げた。
「ぐ、あ”あ”……?」
抵抗する詠子。
しかしビクともしない。
彼女の細腕ではいくら力を入れても振りほどけなかった。
「ねえ夜宵ちゃん、君にはこいつが何に見える?」
詠子を持ち上げ、締め上げながら、夜宵の方に振り向く螢多朗。
こんな凶行を見ても夜宵は同様しない。
むしろ逆。これがさも当然と言った様子だった。
「うん先生。その認識で合ってる。ソイツ、詠子じゃない」
髑髏模様の瞳を赤く輝かせる夜宵。
ソイツは詠子ではない。詠子に化けた悪霊である。
夜宵の特殊な目は、詠子の姿をしている者の正体を看破していた。
「そうか。じゃあ本物は何処に行った?」
「ちょうどいいからソイツに聞いてみよう」
「だな」
ギリッと、更に力を強める。
ミシミシと軋む詠子に化けた悪霊の首の骨。今にも折れそうな勢いだ。
「このままへし折られたくなかったら案内しろ」
悪霊から詠子の居場所を聞き出せたのは、ボキッと鈍い音がしてからだった。
トンネルの中、詠子は必死に逃げていた。
いつの間にか連れてこられた旧旧Fトンネル。
彼女は、背後から迫る恐怖から逃れようと全力で足を動かす。
「(出口!)」
努力の甲斐あって、やっと出口が見えた。
そこ目掛けて跳び込むが……。
「え!?」
無駄に終わった。
再び旧旧Fトンネル入り口に戻される。
そこで夜宵の言葉を思い出した。
一度関われば逃げられない。閉じ込められるか、距離を無視した呪いにかけられるか。
今回は前者。詠子はこの空間に閉じ込められたのだ。
「グフッ…グフフフフっ………」
ゆっくり、ゆっくりと。
この空間の主が近づいてくる。
恐怖を煽るかのように、わざと足音を立てて。
旧旧Fトンネルの主が姿を現した。
臓物で白襦袢を締め、手斧を持った筋肉質な大男。
安奈からはぎ取った頭部の皮をデスマスクにして被っている。
ヤバい。
一目見ただけでわかる。
こいつに捕まると安奈と同じ目に合う。
「今度は詠子の番だよぉ。お前もこうなるんだ」
安奈が笑う。
四肢をもがれ、内臓を抉られ、顔面をはぎ取られた状態で。
次はお前の番だ。お前も私と同じ苦しみを味わんだ。そう言いたげに皮のない顔で笑った。
どこからか、笑い声が聞こえる。
眼前の悪霊の犠牲になった者たちの声。
彼ら彼女らも安奈同様囚われており、道連れを望んでいる。
新しい仲間………いや、身代わりの詠子の苦しむ顔を今か今かと待ち望んでいた。
「………嫌」
かすれた声が詠子の喉から漏れる。
嫌だ。あんな死に方したくない。
そんな彼女をあざ笑うかのように、旧Fトンネルの霊は近づく。
「嫌!」
はっきりと拒絶の意の声が出た。
嫌だ。まだやりたいことがあるのに。
そんな彼女をあざ笑うかのように、旧Fトンネルの霊は斧を振り上げる。
「嫌ああああああああああ!!!」
やがて恐怖悲鳴となって溢れ出た。
誰か助けて、私を守って!螢くん!
そんな彼女をあざ笑うかのように、旧Fトンネルの霊は斧を振り下ろす。
ブオォォォォン!!!
旧Fトンネルの奥から響くエンジン音。
ライトが闇を照らし、ぼやけた輪郭がはっきりと姿を現す。
ファントムーディーに乗る螢多朗。
背に夜宵を乗せた彼は、一切ブレーキをかけることなく突っ込んでいった。
「ぐおおおおおおおおお!?」
ジャンプするファントムーディ
詠子を飛び越え、旧Fトンネルの霊を轢き飛ばした。
吹っ飛ばされた悪霊は錐もみ回転しながら、旧旧Fトンネルへと叩きつけられた。
金属製の扉によって固く封鎖された旧旧Fトンネル。
ソレを破壊して中へと放り込まれ、少し水没した地面を何度かバウンド。
水飛沫と若干の石などを巻き上げながら転がり回り、やっと落ち着いた。
「ぎ…ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
強烈な歯ぎしりをしながら立ち上がった悪霊。
彼は己を轢いた敵を、お楽しみを邪魔した敵に憎悪の視線を向ける。
「螢くん!」
「怪我はないか詠子?怖い思いさせて……いや、お前はソレを求めてる女だったな」
「もう!そこは慰めてよ!螢くんが助けてくれるの含めての愉しみなんだから!」
「ハイハイ」
バイクから降りて、詠子を抱きしめて頭を撫でる。
まるで、悪霊の憎悪の視線などないかのように
「じゃ、狩るか。……夜宵、詠子を頼む」
「わかった」
詠子から離れて悪霊に目を向けた。
熱い視線は、殺意は向けなれている。
むしろ、これから戦いが始まると思うと逆に気分が上がる。
「変身」
『Wake up! Phantom!』
『Fight for evil!』
赤い光が闇夜を照らす。
血のように赤く、何処か禍々しい光。
眩い光と強烈な圧に悪霊たちは一度目を逸らす。
「久々に楽しめそうだな」
光が止んでその姿を現す。
仮面ライダーファントム。
悪霊を狩り、支配する者。
「かかってきな、遊んでやる」
「なめやがって!」
クイっと人差し指でかかってこいとジェスチャーする。
それがゴングとなって戦いが始まった。