真夜中の神社。
月と松明の光に照らされる敷地。
ファントムは巨大な異形の人形霊と戦っていた。
三つの頭と無数の手を持つ巨大な気味の悪い人形の霊。
金髪のフランス人形と、黒髪の市松人形と、禿げ頭の人形の頭部。
無数の手は、レイピア、日本刀、ランス、薙刀、ロングボウ、和弓、等等。和洋様々な武器で武装。
対するファントムの武器はガンガンセイバーのみ。次々と繰り出される武器の雨を切り払っていく。
剣を、槍を、矢を。時には剣一つで防ぎながら、時には銃で迎撃しながら。
一見すれば防戦一方。しかし、実際は違っていた。
「「「止まれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」
戦況は、人形の方が押されていた。
この人形の霊は他の人形霊を食らうことで今の姿と力を手にした。
しかし巨体のせいか、それとも今の体に慣れてないせいか、うまく動けずにいた。
対するファントムは着実に近づいている。
敵の攻撃を避け、剣や四肢で捌き、銃で弾き飛ばしながら。
やがて人形の懐に入り、攻撃に転じた。
「らあ!!」
懐に飛び込んでガンガンセイバーを振るう。
当然、人形霊も抵抗しようとするが、うまくいかない。
標的が小さすぎてうまく迎撃出来ないのだ。
服に入った虫がなかなか取れないのと一緒。
人形霊はその巨体を持て余していた。
そうしている間にも、ファントムは人形霊を解体していく。
剣を振るう。
ガンガンセイバーの刃部分、クァンタムブレード。
ファントムのインビジブルスーツ同様、霊的素材によるもの。
強大な霊力が圧縮された刃は容易く人形の腕や体を切断していった。
杖を振るう。
ガンガンセイバーの上部ブレードを取り外し、柄尻に合体させる。
クァンタムブレードを霊力に戻して纏う事で、頑強な武器に変更。
強大な霊力が込められた杖は容易く人形の腕や体を粉砕していった。
銃を撃つ。
上部ブレードを取り外し前後を入れ替えて付け替え、グリップから先を変形させた銃形態。
銃口から霊的エネルギー弾が撃ち出され、容易く人形の腕や体を貫通していった。
無論、モタモタと手動で変形なんかしていない。
念力でパッと瞬時に変形させ、戦況に合わせて武器を変えていった。
「「「ぎゃああああああああああああああああああああ」」」
首を刎ねられ、頭部を砕かれ、額を貫かれて。
三つの首が破壊されて人形霊は大きく倒れる。
今がチャンス。ファントムはドライバーのレバーを引っ張り、必殺の体勢に入る。
『Destroy! Omega drive!』
「らあああああああ!!!」
繰り出される隕石の如き跳び蹴り。
ソレは人形霊を粉々に破壊し、爆散させた。
「ダブってるな。……よし、夜宵ちゃんに渡そ」
爆発が収まってアイコンが転がる。
番号は01。既に持っているものだった。
「ハイこれ夜宵ちゃん。旧旧Fトンネルの霊の代わりのアイコン」
真昼間のファミレス店。
俺は夜宵ちゃんに昨日倒した人形霊のアイコンを渡した。
コレは旧旧Fトンネルの霊の代わり。
あのアイコンが欲しくなったから、番号ダブったコイツとトレードしてもらうことにした。
「ありがとう先生。けど気にしなくていいよ。あの霊は先生が倒して手に入れた物なんだから先生の物。私のじゃない」
「いや、そういうわけにはいかないよ。夜宵ちゃんには蟲毒のやり方を教えてもらっただけで十分だし」
夜宵ちゃんから蟲毒を教わって、俺も卒業生を作ってみた。
結界を張って、人間に害を与えるようなタチの悪い人形霊を入れて戦わせる。
この中で一人だけこの結界内から出してやる。それまで殺し合え。もし二体以上生き残っていたら全員殺す。そう脅したらあっさりと喰い合いを始めた。
出来たのがあの巨大な人形霊。結界を破壊して早速俺を殺そうとしてきた。
そして返り討ちにして封印。今に当たる。
「けどこんな短期間で出来るなんて、何したの?」
「髪の毛とか入れずに、結界に閉じめて喰い合いにのみ集中させた」
「ソレはとても危険……ああ、完成しても倒せるからか」
「そういうこと」
所詮はただの人形霊。
百体集まっても、ソレが集中しても、俺に勝てるわけがない。負ける気がしない。
「けど、よく百体も集めたね。何したの?」
「人形供養。実家が神社だからそういう人形が集められてる。その中から選別した」
婆ちゃんは神社の神主をやっていて、人形供養をしている。
で、俺も戦闘の訓練がてらタチの悪い人形をぶっ殺してアイコンにしてる。
まあ、婆ちゃんは俺が戦うのにいい顔をしないけど。
「じゃあ、今日は新しい生徒が来るからこの辺で」
「私も生徒なんだけど」
「ハイハイ揚げ足とらない」
「冗談。私も友達の待ち合わせあるし」
「(………友達、いたんだ)」
俺は悪霊との戦闘や鍛錬に忙しかったのに。
「あ、ちょっ待って。相談したいことがあるんだけど」
所変わって詠子の家。
俺は愛依ちゃんと一緒に、夜宵ちゃんに相談しに行った。
神代愛依。
俺の二人目の生徒で、高校一年生のギャルっぽい金髪青眼の美少女。
夜宵ちゃん同様に目が特徴的で、瞳に五芒星が刻まれている。
無論、コンタクトじゃない。本人は意識してないようだけど。
かなりの不幸体質で、その有り様は仮面ライダー電王の野上良太郎並み。
彼女と会ってここに来るまでに、漫画みたいに不運な目に遭っていた。
その原因は何か。―――霊障のせいだ。
愛依ちゃんに何か不幸が起こる瞬間、霊の気配を感じた。
無論全てがそうというわけではないが、それでも偶然とは考えにくい。
だから霊が原因だと考え、夜宵ちゃんに相談したんだが………。
「(自分から相談しておいて何だが、やっぱおかしいな)」
通常、霊に何かしらの害意があるときが嫌な気配を発する。
けど、霊の気配からは悪いものを感じ取れなかった。
では関係ないというのか。そう断言するにはタイミングが悪すぎる。
何か違和感がある?一体何だ?
「(そういえば、言ってたな………)」
ここに来る道中、愛依ちゃんから身の上話を色々と聞いた。
その中に違和感の正体があるかもしれない。
『え、先生霊見えるの!? 私、霊感ないけどレーバイ?体質っていうのかな? 私は何もないけど、周りを巻き込んじゃうの……』
『え?私の目に星?ナニソレ?私コンタクトなんてしてないよ?』
俺には見えている筈の、愛依ちゃんの目の星。
だけど彼女はそんなものないと言っていた。
おそらく霊的な物だろう。
けどあの感じ、どっかで憶えがるんだよな。……何だっけ?
『え!?この写真心霊写真なの!?ウソ~!?お気になのに!』
スマホにあった画像。
一見すれば普通の自撮り写真だが、俺の霊感は彼女の周囲に白い靄があるのが見えた。 これも彼女は見えていない。
けどあれ、どっかで見たことあるんだよな。……何処だっけ?
愛依ちゃんの霊媒体質。
霊を感じたり見えもしないのに、周囲を巻き込むほどの霊障が起こる。
けど本人は不幸な目に遭う程度が限度だが、周囲は悲惨な事になる。
不自然だ。俺の場合は俺に被害が集中するし、ソレが一般的だ。
そういえば、似たような事例を聞いたことあるな。……何処だっけ?
『私ね、二十歳までしか生きられないの。そういう家系だから……。なんか、神様に魅入られちゃったんだって』
「変身!」
『Destroy! Omega drive!』
俺は咄嗟に変身をして、必殺技を発動させた。
瞬即変身。
手順を飛ばして一瞬で変身するテクニック。
変身するには工程が必要だが、短縮して一瞬で変身する事も出来る。
その際は普通に変身する以上にエネルギーを消耗するが仕方ない。
神を相手にするには、十分すぎる代償だ。
必殺技を人形に叩きつける。
テーブルの上には、水桶の中に入れられた人形。
愛依に取り憑いた霊………神を封印したものだ。
本来なら神をタダの人形で封じるなんて不可能。
しかし、コイツは油断している。今がチャンス。
しかし、そのチャンスは無駄に終わった。
「!? クソ!」
必殺技が弾かれた。
人形に突如張られた結界。
ソレは俺の全力の踵落としを防ぎ、俺の体を吹っ飛ばした。
壁に叩きつけられる。
無茶苦茶になる室内。
こりゃ後片づけが大変だな。
「せ…先生!?」
「え、何? 何がどうなってるの!?」
慌てた様子で俺に駆け寄る夜宵ちゃんと、状況を把握できずに混乱する愛依ちゃん。
かなりカオスな光景だが、今はソレにかまってやる余裕はない。
何せ今は………。
『ほう、面白い者がいるな』
「「「!!?」」」
ソレが現れた瞬間、凄まじい圧が部屋中を支配した。
俺一人に向けられる強烈な殺気。
耐えきれず変身が解除され、膝を付いた。
「………ッハ、かなりの大物だな」
「たかが女子高生にストーカーする神の分際で!」
この気配の元こそ愛依ちゃんの不幸体質の原因。
周囲を巻き込む不幸―――あれはコイツの放つ神気のせいだ。
愛依ちゃんの瞳の星形―――あれは神の刻印。所有権を示す証のようなもの。
愛依ちゃんの写真の白い靄―――あれは霊ではない。神から漏れ出る力のようなもの。
神に魅入られる、ソレは神との婚姻を意味し、長く生きられないということは神に殺されることで魂が迎え入れられるということ。
要するに、コイツこそ諸悪の根元だ。
「お前、エスコートがなってないぜ。そんなに臭い神気垂れ流しにしやがって。少しは隠せよ」
神の気は霊を引き付ける。
大半は無害な霊だが、中には悪霊も引き寄せてしまい、災いをもたらす。
俺も神社の血筋のせいで霊媒体質に生まれ、時には周囲を巻き込んでしまった。
神の影響を直に受けている彼女はその比じゃないはずだ。
しかし、愛依の場合は俺と違って神に守られる。―――彼女だけが。
「テメエの都合で一方的に寿命削るんだから、短い人生ぐらい良い思いさせてやろうっていう心意気はねえのかよ?」
神に魅入られた者は神に守られるが、周囲は違う。
引き寄せられた霊が守りに弾かれたらどうするか。
決まってる。矛先を他の奴に向け、八つ当たりする。
結果、彼女だけは無事でその周りが悲惨な目に遭う。
原因は愛依じゃなくてこの神だというのに、彼女とその周囲が辛い目に遭う。
「ほう、僕が神だと気づいているのか。しかし、お前は一つ勘違いをしている」
神が手を叩く。
途端、景色が変わった。
神の作り出す異空間。
そこには無数の首だけ女の霊と、中央には磔にされて内臓を抉られている女の霊がいた。
おぞましい光景だ。吐き気がする。今すぐ元凶のコイツをぶっ飛ばしてやりたくなったぜ!
「花嫁とは貴様らの便宜上の言い方に過ぎぬ。実際はただの玩具だ」
………ああ、こりゃ益々コイツに愛依を渡すわけにはいかなくなったな。
「ったく、前にあった変態ストーカー神の方がよっぽど可愛く見えて来たぜ。…変身!」
『Wake up! Phantom! Fight for evil!』
俺はもう一度変身し、ロリコンの神めがけて発砲した。