「おっと、随分なご挨拶だな」
撃ち出された銃弾を神は軽々と叩き落した。
強力な霊力と呪力によって生成された魔弾。
だが、この神にとっては石ころ同然…。
「ん?」
とはいかなかった。
銃弾を掴んだ手から僅かに煙が上がる。
手を開いて見るとほんの微かだが火傷の跡があった。
「ほう、なかなか骨がありそうだな。では………」
神が手を叩く。
途端、何処からか2mを越える鬼が現れた。
筋骨隆々の、身の丈半分程の金棒を持つ典型的な姿の鬼。
その鬼はファントムに対峙するかのように向き合い、鋭い眼光を向ける。
「その鬼は頭は悪いが力はそこそこ強い。お前に倒せるか?」
神の問いにファントムは何も言わない。
人差し指でかかって来いとジェスチャーするだけだった。
「があああああああああ!!!」
突っ込んで来る鬼。
右手に持つ巨大な金棒を振りかざし、ファントムを潰さんと振り下ろす。
しかし、既にファントムの姿は無かった。
前へ低く跳んで回避。
鬼の振るった金棒はファントムでなく地面を叩いた。
重さと衝撃で地面が揺れる。
金棒が当たった個所が陥没し、小さな瓦礫の破片が飛び散り、土埃が舞い上がって視界を覆う。
ファントムはソレを逆に利用。
煙幕代わりに身を隠して敵の背後を取り、背中を思いっきり蹴り飛ばした。
「ぐわッ!?」
吹っ飛ぶ鬼。
2mを超える巨体が数m程蹴り飛ばされた。
土埃の煙幕を突っ切って、ゴロゴロと転がる。
鬼は立ち上がって砂煙の方へ向く。
その中からファントムが悠然と姿を現した。
「ぐおおおおおおおおおおおお!!!」
再び迫り来る鬼。
金棒を何度も振り回し、ファントムを潰さんとする。
しかし、全て失敗に終わった。
一撃目、失敗。
金棒を振り下ろす。
ファントムはソレをローリングで前方に回避。
同時に敵の背後へと潜り込み、立ち上がりながら右ストレートを放つ。
立ち上がる勢いと、振り返る際の回転力、そして転がった勢いを殺さず全てぶつける。
二撃目。
金棒を真横に振るう。
顔面目掛けたその一撃をファントムはしゃがんで回避。
立ち上がり様、カエル跳びアッパーを繰り出して顔面を殴り飛ばした。
三撃目。
金棒を袈裟切り気味に振り下ろす。
ファントムは上体のみを逸らして回避し、戻し様にフックを叩きつけた。
柳のようにしなやか且つ、柔らかい上体。その勢いによって鬼の巨体が若干浮かび上がる。
「す、すごい!」
ファントムの戦いを、愛依はきらきらとした目で見ていた。
強い。あの恐ろしく強そうな鬼を一方的にやっている。
先生ならこのまま勝てるんじゃないだろうか。
そして、あの神を倒してくれるんじゃ……。
神に見せられた花嫁たちの末路。
自身もああなるという恐怖。
しかし、ファントムの強さはソレを忘れさせてくれた。
「いけー先生!そのまま倒しちゃえ!」
「いや、ただ倒すだけじゃない!」
今まで黙っていた夜宵が珍しく興奮した様子で声を出す。
「先生の動きが段々コンパクトになってる!これは、敵の動きに対処してきたという事!つまりここからは、先生による蹂躙が始まる!」
夜宵のいう通り、そこからは一方的な戦いだった。
鬼が振るう棍棒を掲げた瞬間、棍棒の柄頭を蹴り飛ばす。
降ろそうとした不安定な瞬間を狙ったソレにより、鬼はバランスを崩した。
ファントムはその隙を付いて攻勢に回る。
蹴りを二発。
横蹴りと後ろ回し蹴り。
流麗かつ動作の強烈な二連撃。
最後の蹴りによって鬼は異界の隅まで吹っ飛ばされた。
「ガッ!?」
異界の壁に叩きつけられる鬼。
リバウンドして落下していく中、ファントムは悠然と接近していく。
『Destroy! Omega drive!』
歩きながらベルトのレバーを引く。
途端、ファントムの右腕にエネルギーが集中。
それが最高潮に高まった瞬間、起き上がった鬼にぶち込んだ。
「はあ!!」
「ぎゃああああああああ!!!?」
炸裂。
ファントムの右上段回し蹴り。
烈風のごときその一撃が、鬼を爆散させた。
「……」
爆破の煙が止み、ファントムが姿を現す。
ゆっくりと高座で座る神に視線を向けて指さした。
次はお前の番だ、そこから降りて来い、と。
「…く、クハハハハ! 素晴らしい、素晴らしいぞ!まさかこの時代でも花嫁を救うべく立ち上がる英雄がいようとは!」
神は薄い目をがん開いて狂ったように笑い出した。
漏れ出す神威。
狂気を孕んだソレは空間を震わせ、領域内にいるものに重圧をかける。
愛依は恐怖のあまり体を震わせながらその場でへたり込み、夜宵でさえその強大さと禍々しさに恐れを抱いた。
平常なのはただ一人、ファントムのみ。…否、彼でさえ後ずさっている。
「…ああ、すまない。久々に面白い敵が来たからついはしゃいだ」
重圧が急に消え、神はゆっくりと祭壇の上から降りる。
同時、神の背後か蜃気楼のように揺らめき、十二体の影が現れた。
十二神将。
かつて、安倍晴明の配下だった者たち。
凶神に靡いたとはいえ、その力は健在。
いや、神の力を分け与えられている事で更に増している。
「来い、視肉」
地面から湧き出すように、夥しい無数の眼球がくっついた赤い肉塊が召喚された。
神はその肉から目玉は十数個引き千切って十二神将に放り投げる。
途端、十二神将の霊力は更に増した。
視肉。
能力は回復と強化。
千切った肉を霊が取り込むと霊的エネルギーが補給される。
ダメージを受けた状態だと回復し、万全だとさらに強化される。
十二神将は一人一個ずつ取り込み、自己強化した。
「次の余興だ。さあ、僕を楽しませてくれ英雄」
ニタリと、不気味な笑みと見開いた目で神はそういった。