あの神の性格ならやりそうだし、ストーリーの流れ的にも都合がいいので。
とある人里離れた森林。
螢多朗はドライバーを出現させた状態で夜宵と対峙していた。
夜宵の手には血濡れの包帯をグルグル巻きにした物体。
その上を鎖で縛り上げ、南京錠で留めている。
「じゃあ行くよ先生」
「ああ」
夜宵が南京錠を解除。
鎖や包帯が解け、中からクマのぬいぐるみが出て来た。
可愛らしい外見とは裏腹に、禍々しい気配を放つぬいぐるみ。
首だけしかないソレは、血の涙を流しながら本性を顕す。
「弔って、邪経文大僧正」
夜宵の前に坊主姿の悪霊が現れた。
ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている。
新たに誕生した卒業生の悪霊。
螢多朗が十二神将の呪いを夜宵の部屋の身代わり人形に肩代わりさせた結果、蟲毒が活性化。自身以外の悪霊を喰らう事で新しい卒業生となった。
扱う霊現象は邪経文。大僧正が唱える経文を聞き続けると生者霊体問わず地獄へ強制成仏させる。
何で行き先が地獄だと知ってるのかは疑問だが、危険極まりない悪霊である。
『Bloody eye!』
螢多朗が取り出したのは特殊な眼魂。
通常の眼魂とは大きく異なる形状と色合いをしたものだった。
『Eye!』
螢多朗がアイコンのスイッチを押した瞬間、禍々しい神気が溢れ出した。
アイコンの漏れ出る力が強すぎて、制御が効いてないのだ。
ソレほど強力なもの。今までのフォームとは一線を画す。
「ッ?」
異変を感じ取って薄気味悪い笑みを止める大僧正。
その間に螢多朗はアイコンをベルトに装填。
途端、ベルトに変異が起こった。
バックル部分に赤黒い稲妻が走り、血を被ったような模様が浮かび上がる。
これは強化の証。通常時のファントムより強いという表明である。
『Look into my bloody eye! look into my bloody eye!』
「変身」
いつもの機械音ではなく、流暢な英語で重々しいラップが響く。
音声と共に現れ、舞い踊るパーカーゴースト。
しかしその様子に軽快さはなかった。
「変身」
『Wake up! Bloody eye!!』
螢多朗がドライバーのレバーを引く。
途端、踊っていたパーカーゴーストが螢多朗に取り憑いた。
『I am fighter destroy evil』
『Go! Fight! Go! Fight! Go Fight!』
ロック調の音楽が流れ、変身完了。
ファントムが強化された姿を現す。
赤く血塗られた意匠のトランジェント体。
マスク部分―――フェイスクリムゾンブラッドに浮かぶ模様も血を被ったように赤く染められている。
三本の角は炎のように激しいもの―――ブラッドウィプスホーンに変貌。
銀色になったブレストクレストが一瞬赤黒い光を放つ。
仮面ライダーファントムブラッディアイ魂。
太歳星君の力が込められたアイコンを使った新たな形態である。
「お…おおおぉぉぉぉぉ!!!」
ファントムが方向をあげる。
途端に発生する禍々しい神気の圧は、物理的な波動となって辺りに拡散される。
「ッ!!? 」
気圧されながらも大僧正は呪いを実行。
呪いの経文を唱えてファントムを地獄に引きずり込もうとした。
林中に響く不気味な読経。
夜宵はノイズキャンセリングイヤホンで聴覚を遮断しているがファントムは違う。
無防備な状態で彼は大僧正と向かい合っている。
「行くぞ」
宣言と同時にファントムが動き出す。
そこから始まったのは、一方的な蹂躙だった。
一撃目。前蹴り。
接近したと同時、突進の勢いと体重を乗せた蹴りを大僧正のみぞおちにぶちかます。
破裂する大僧正の横隔膜。普通はこれで声を出せなくなる筈だが、大僧正は構わず読経を続けた。
二撃目。右ストレート。
地面を蹴る勢いを腰の回転に乗せて倍増させたお手本のような突きを大僧正の顎にぶちかます。
粉砕される大僧正の左顎。普通はこれで声を出せなくなる筈だが、大僧正は構わず読経を続けた。
三撃目。斬撃。
ドライバーからガンガンセイバーを召喚して振り上げ、大僧正の首を刎ね上げる。
斬首される大僧正の頭部。普通はこれで声を出せなくなる筈だが、大僧正は構わず読経を続けた。
四撃目。踏みつけ。
片足に体重をかけて、転がった大僧正の頭部を踏み潰す。
ミンチになる大僧正の頭。普通はこれで終わりになる筈だが、大僧正の邪経文は続いていた。
「大僧正は呪いの範囲内の生物や霊の口を操って経文を唱えさせることが出来る。口さえあれば本当に何でもいい。動物でも読経の媒介になる」
「厄介だな」
ファントムに黒い無数の腕が迫り来る。
彼を地獄に連れて行くつもりだ。
しかしファントムは焦らない。
ドライバーのレバーを引いて必殺技の構えに入る。
『Destroy! Omega drive!』
オメガドライブを発動した途端、ファントムから再び赤黒い神気が溢れた。
迫り来る黒い腕を弾き飛ばす赤黒い
その一部が大僧正へと向けられる。
「ッ!!?」
赤黒い神気によって拘束される大僧正。
同時にオーラが収束してファントムの右脚に集中。
血のように赤黒く、炎のように燃え盛り、文字通りの必殺技となって大僧正に叩きつけられた。
「らあッ!!」
「ッ!?!?」
爆散する大僧正。
オーラに拘束されて動けない大僧正に繰り出された強烈な三日月蹴り。
蹴りによって抉れた地点を中心にオーラが叩き込まれる。
外部を烈火のように焼き、内部を液体のように浸蝕。
やがて大僧正を周囲の黒い腕ごと爆裂四散させた。
呪いごと神気で粉砕したのだ。
「アイコンナンバー11。当たりだな」
大僧正をアイコンにする。
これもまた螢多朗が手にしてないアイコンだった。
「やっぱ新しい形態は今までのより強力みたいだな」
変身を解除して、このアイコンに関しての情報をおさらいする。
神様―――太歳星君から渡されたアイコン。
さっきの戦闘はその試験運用だ。
「能力はファントム魂と同じだけど威力が全然違う。強化形態っていったところか?」
ブラッディアイ魂。
おそらくファントムにとっての闘魂ブーストやディープスペクター、友情バーストのようなものだろう。
能力はファントム魂をより強力にしたもの。ただその強化具合が大きい。
ファントム魂の霊は相手を威圧する程度だというのに、ブラッディアイは物理的な圧になっている。
特に、オメガドライブの出力がヤバい。
ファントム魂では素手で敵を掴んだ状態でオメガドライブを使用すると副次的な効果で拘束エネルギーを流し込めるが、ブラッドアイ魂はそんなレベルじゃない。
拘束どころか対象の呪いごと力ずくで潰している。
確かにファントムには呪いを防ぐ対呪効果があるが、ブラッドアイはその力が強すぎる。防御を通り超して呪いを破壊している。
コレじゃあ対呪じゃなくて壊呪だ。
しかもコレで特に代償もなければデメリットもない。
強いて言うなら使った後は体力を消耗して眠くなったり腹が盛大に空いたりするぐらい。
命に関わるようなことは今のところない。
「本当にあの神は俺に強化形態渡しただけって事か。………やってることだけ見るとみかったぽいな」
「神様の目的はもっと強くなった先生と戦う事。それ以外は一切考えてない。成長を楽しみにしているって嬉しそうに言ってた」
「………そうか」
普通なら何かしらの罠や仕掛けを仕込んでいると疑うが、夜宵ちゃんの話を聞く限りあの神はそういうことをするタイプじゃない。全力で蹴り飛ばしたっていうのに拍手しやがったのがその証拠だ。
このアイコンはハンデだ。
今の俺じゃ相手にならないからさっさと強くなれっていうメッセージ付きのプレゼント。
「………ふざけやがって!」
いいだろう、お前の温情はありがたく受け取っておく。
実際に俺は弱い。反論する余地なくボコられた。
だが、次はそうはいかない。
太歳星君、お前を倒して愛依ちゃんを救う。
あの子を、俺の生徒をお前の生贄なんかには絶対にさせない。
「そのためにはコイツをもっと使いこなす必要があるな」
アイコンを握り締めると、夜宵ちゃんが俺の手に触れた。
「先生は怖くないの?あんなにボロボロになったのに」
「ん?まあな。今ではここまで強くなったけど、最初はもうボッコボコにされてきたからな。その度に立ち上がってきたから今更だ」
確かにあの神は強い。
改めて調べてみたが、太歳星君ってめちゃくちゃビックネームじゃねえか。
俺が倒した山の神なんてアレと比べたら木っ端もいいところだ。
けどまあ…。
「弱かった俺が木っ端とはいえ神を倒せる程強くなったんだ。今回だってやってやる」
ソレに今回は神サマからチートも貰ってるし。
「じゃ、次の検証に行くか。今度は実戦だ」
「ラジャー」
俺たちはファントムーディ―に乗って次の実験場に向かった。
ブラッディアイ魂が闘魂ブーストにあたるなら、実は螢多朗は既にトウサン魂にあたるアイコンを持ったことがあります。
姿形も似てるので『あ、これ闘魂ブーストみたいなものか』と判断しました。
まあ、両方とも作られた経緯も手も違うので同じとは言えませんが。
ちなみにトウサン魂に当たるアイコンは既に使えなくなりました。