「ククク…。これで楽しみが増えたな」
星空が見える祭壇。
太歳星君は先ほどの赤子―――空亡との戦闘を思い出していた。
巨大な黒い受精卵のような霊。
生まれてすらいない赤子のような存在でありながら、でかい霊力を持っていた。
力の使い方を碌に知らないせいで弱かったが、力だけならあの男―――ファントムを超えていた。
だから太歳星君は少し力の使い方を教えてやった。
おそらく空亡は強くなるであろう。
学び、吸収し、経験を重ねて。
「………いや、待てよ。アイツをアイコンにすれば…いや、流石に無粋か」
一瞬、太歳星君の脳裏に面白いアイディアが浮かんだ。
ファントムが空亡のアイコンを使用する。
あの力をファントムが纏うのだ。
戦い方が上手いファントムと、力のデカい空亡。
技と力が一つになれば、自分の遊び相手に相応しいのではないか。
良い考えだと太歳星君は思ったが、それはそれで面白みが減ってしまう。
だがどうせ過ぎた事だ。なるようになるしかない。しかしどうしても考えてしまう。
空亡をアイコンにして変身したファントムは、どんな姿をしてどんな能力を持っているのか。
「まあいい。あの二人がどうなるのか。楽しみにしているぞ」
アイコンを十五個揃えて完成したファントムと、成長した空亡、そして啖呵を切った少女。
この三人がどのように楽しませてくれるのか。
太歳星君は思いを馳せて目を瞑った。
「はあッ!」
「フンッ!」
卒業生ハウス前の広場。
ファントムと鬼軍曹が模擬戦を行っていた。
二人の剣戟が林に響き、呪いの余波で木や草が枯れる。
「「ッ!?」」
ガンガンセイバーと軍刀をぶつけ合う両者。
しかし次の瞬間、両者は急に背後に跳んで距離を取った。
遅れて二人がいた地点に、凄まじい震動と共に地割れが起こった。
「行くぞ、御二方!」
過渡期の御霊。
つい先日進化を果たした彼は、ファントムと鬼軍曹の模擬戦に興味を持つようになった。
強さも卒業生クラスとなったことなので、こうして参加するようになっている。
そして、模擬戦に加わっている霊はもう一人いた。
「あああああッ!」
樹上からいきなり小さな黒い影が過渡期の御霊に襲い掛かってきた。
旧I水門の霊改め、月蝕尽絶黒阿修羅。
彼もまた、ファントムと鬼軍曹の模擬戦に惹かれて参加した霊である。
「むん!」
受けて立つ過渡期の御霊。
四本の腕を張り手で弾き、黒阿修羅に蹴りをぶちかます。
咄嗟に四本の腕をクロスしてソレを防ぎ、過渡期の御霊の足を掴もうとした瞬間、他二名も攻撃を仕掛けに来た。
「肉弾戦か。得意分野だ」
「殴ってばかりが格闘だと思うな」
ファントムが仕掛ける。
総合格闘技のように効率的かつスマートな格闘技で。
鬼軍曹が仕掛ける。
軍隊仕込みの柔術や制圧術で。
対する黒阿修羅や過渡期の御霊も暴力的かちパワフルに迎え撃った。
繰り広げられる乱闘。
戦闘と呪いの余波で更に林が削れ、広場が大きくなっっていった。
「で、楽しめた野郎共?」
「うん、それなりに」
俺たちは模擬戦を終わらせ、卒業生ハウスで今後の事について話し合っていた。
といっても他のメンバーはぬいぐるみに戻って休憩してるけど。
黒修羅くんなんて完全に寝てるし。
「今回もまた色々あったな。本当に濃い一週間だ」
「そうね。けどおかげで学校が休みになった。これで京都にいける」
「………」
今回の京都遠征で俺達はアイコンを十五個集め、神様―――太歳星君を仕留めるつもりだ。
弑逆桔梗。
京都内に存在する心霊スポットのエネルギーを利用して太歳星君を弱体化させる。
依代である神依ちゃんが京都の病院にいる今が最大のチャンス。
今度こそあの神に勝つ。
「神様が警戒しているのは先生だけ。おそらく私たちは添え物程度としか思っていない。だから神様の眼中にない私が呪いの印を刻み付ける」
「で、弱った神を俺が倒せばいいんだな」
「うん。軍曹や花魁たちと協力して戦って。先生はあの人たちと仲良いでしょ。軍曹たちに至っては模擬戦しているから連携も取れそうだし」
「・・・」
つまり俺に隊長をやれってことか。
これは責任重大だな。
「準備は整った。後はアイコンを十五個集め、いくらかを弑逆桔梗に利用する」
「アイコンが揃わなかったら?」
「そのための弑逆桔梗。そもそもアイコンの話自体ハッタリ。全部集めたら強くなれるなんてそんなドラゴンボールみたいなことあり得ない」
「・・・」
元ネタのゴーストでは強化形態というか全フォーム統合形態になるけどね。
まあ、そのシステムがファントムにもあるかどうかは疑問だけど。
色々と設定やルール違うし。
とまあ準備は整った。
弑逆桔梗で卒業生やアイコンの悪霊を遠隔操作で解放するための装置を作った。
留守中に成り代わり共から呪物を回収されてもいいように発信器を埋め込んだ。
成り代わりが家族に手を出してもすぐわかるよう監視カメラを仕込んだ。
生存率をより高めるために絶対に壊れない身代わり人形も作った。
全部詠子がやってくれた。本当にこういったことに関しては心強い。
特にやばいのが無限修復人形。よくあんなの考え付くな。流石だ。
「………そういえば、詠子から聞いた。先生のお婆ちゃんのこと」
今日、家に婆ちゃんが来た。
婆ちゃんは神主、しかも一流でその筋では有名。そのせいか俺が神様に目を付けられてるって気づき、問い詰めてきた。
で、俺はゲロってしまった、太歳星君に喧嘩を売ってしまったって。
そしたら婆ちゃん卒倒。家族全員大慌てだった。
けど、俺はその混乱に乗じて逃げてしまった。
家族と婆ちゃんには悪いが、しばらく帰れなさそうだ。
まあ、生きて帰れるかも分からないが。
「帰ったら先ずは皆に謝らないとな」
「うん、そのためには無事に帰らないと」
「………」
夜宵ちゃんのいう通りだ。
今回の敵はかなり強い。仮に作戦が成功しても倒しきれるとは限らない。
文字通り命がけの戦い。まあ、それ自体は大体いつもそうだが。
俺は震える手をおさえながら、覚悟を決めなおした。
「じゃあ行こう、京都へ」
原作の弑逆桔梗では卒業生のぬいぐるみを使いましたが、ここでは螢多朗のアイコンも使います。