京都御所。
夜の帳が下りる時間帯。
不自然な程人がいないその場で鬼神と凶神が殴り合っていた。
ファントムと太歳星君。ファントムは若干余裕がなさそうに、太歳星君は楽しそうに殴り合いを続けている。
「ちゃんと僕の神気を使えるようになってるじゃないか。感心感心!」
太歳は心底楽しんでいた。
強化されたファントムの姿と力、そして戦闘を。
分け与えた神の力に振り回されることなく十全に使いこなしている。
念動力や神力を纏い、自身の肉体に循環させることで高い身体能力を発揮。
使いたての頃のように漏れることなく全てを支配下に置くことで、以前戦った際はもちろん、これまでの中でも最も高い戦闘力となっていた。
「ッシュ!」
ファントムの拳。
空気を切って弾丸のごとく繰り出される。
太歳はソレを軽く捌くが、視界の外からまた繰り出される。
今度は避けるがその先に拳が飛んできた。
いや、置かれていた。
誘導された。そのことに気付くのはソレを食らった後だった。
「…は、ハハッ!ハハハハハハハ!」
テンションと共にテンポも上がった。
しかしファントムはそれに食らいつく。
遅れることなく、技のキレもそのまま。
まだまだいける。太歳は更に勢いを増していく。
強い。
以前戦った時とは比べものにならない。
技術こそ変わらないが、スペックは三倍強はある。
見違えるほどの成長。
如何に力を与えたとはいえ、ここまで強くなるのは予想外。
これならば期待出来る。
本物の決闘とやらを。
「らあッ!」
ファントムの下段回し蹴り。
威力ではなく速度と見えにくさを意識したもの。
跳躍して避ける太歳。
その隙にファントムはアイコンを替える。
『Wake up!
『Happy trigger!』
「やはり姿を変えたか。どれ、どんな変異を…!!?」
突如、太歳の背後から刀が振り下ろされた。
避けること無く真っ二つにされる太歳。
しかし、一瞬で何事もなかったかのように回復。
振り向きざま襲撃者を蹴り飛ばした。
しかしその足も切り落とされる。
「!!? これがお前の呪いか」
衰える太歳の身体。
しかし視肉によって回復。
ミイラのような状態から戻りながら襲撃者の姿を確認する。
零式・殉国禁獄鬼軍曹。
最初から本気の彼が再び軍刀を振り下ろす。
「なるほど、姿を変える際に放つ霊気に紛れて新手を呼び出したのか」
パーカーチェンジと同時に軍曹のアイコンを解放。
予めアイコン内で全力の準備をしていた彼はスムーズに零式となり、祈りを圧縮した軍刀で奇襲したのだ。
今の状態なら味方を巻き込むことなく連携できる。
「―――殺してくれ」
敵と向き合って祈りを呟く軍曹。
太歳はにやりと笑って着地する。
「いいだろう、聞き届けてやる、その祈り」
「………」
太歳の膨大な神気。
神聖さがあるというのに感じる死の気配。
瞬間、軍曹は戦場での日々を思い出した。
「ここが俺の
普段の哀愁漂う表情が一変。
好戦的な笑みを浮かべながら太歳に刃を向け突貫する。
ソレを援護するファントム。
二丁拳銃で弾幕を張って太歳を牽制。その場に縫い付ける。
背後から聞こえる銃声。
戦友の正確無比な射撃
これがまた軍曹に戦場を思い出させる。
もっとも、当時は誤射なんて日常茶飯事だったが。
だが、今度の戦友は百発百中の腕を誇る。
何の気兼ねも無く眼前の敵に集中出来る。
鬼軍曹が前衛。ファントムが後衛。
本気の戦いを戦友と共に出来る。
これ以上ない戦いの場だ。
「猪口才な」
太歳が仕掛けてきた。
両手を掲げて眼前に巨大な巨大な目玉の大群を形成。
ブクブクと肉が膨れ上がるかのように隆起しながらファントムの銃弾を防ぐ。
「はあッ!」
「ッ!?」
目玉と肉の塊を切り裂いて、鬼軍曹が現れる。
ファントムに気を取られて接近を許してしまった。
舐めプが多いとはいえその場における最善手をある程度打つ彼にしては珍しい悪手である。
「―――ッ!」
裂帛の気合で振り下ろされる軍刀。
受けようとするがその腕を正確無比な銃弾が貫く。
すぐさま再生するがそのせいでワンテンポ遅れてしまった。
結果、軍曹の刀が太歳を袈裟切りにし、一気にミイラ化させていく。
再び仕掛けようとする太歳。
しかし初動をファントムに牽制され止められ、軍曹が追撃に刀を振り下ろし。その祈りでミイラ化させる。
この繰り返し。これによって太歳は反撃を許されず、どんどん視肉を削られていく。
見事な連携。
ファントムの射撃もさることながら、軍曹の剣戟と祈りも強力。
このままいけば削れる。後から来た夜宵は戦況をそう見たが…。
「手数と連携で僕を封殺するつもりか。悪くは無いがまだ甘い」
【消滅の凶星:流星群】
軍曹がやられた。
瞬時に繰り出された数十発の消滅の凶星。
何発かは咄嗟にファントムが迎撃したが、全部は不可能だった。
残りの大半が軍曹に命中。一発当たる度に爆弾のように弾けて軍曹を穴だらけにした。
「次はお前だ」
【消滅の凶星:星雲】
ファントム目掛けて散弾のようにまき散らされる消滅の凶星。
否、散弾なんてものではない。
視界に拡がる凶星の瀑布。
隙間なく迫り来るソレに逃げ道などない。
生き残りたくば迎え撃つのみ。
「うおおおおおおお!!!」
迎撃しつつ回避するファントム。
ジグザグに走って、左右に転がって、上空に跳んで、身体を捻って。
銃弾を撃ちながら、あらゆるやり方で凶悪な光の弾丸から逃れる。
追撃を太歳が行おうとした途端…。
「俺を殺すんじゃなかったのか?」
軍曹が太歳の腕を斬り落とした。
投擲した軍刀が命中。すぐさま駆け出して軍刀の帯を掴んでキャッチし、追撃を行う。
太歳はソレを跳んで避け、消滅の凶星をファントムと軍曹両方に繰り出した。
どちらか一方ではまた足止めを食らって抜け出せなくなる。
しかし、どれも大した効果は無かった。
軍曹は食らっても即再生。すぐさま剣撃に移る。
ファントムは二丁銃を合体させて強化。
連射性と威力を上げたライフルモードで迎撃した後に狙撃を開始。
時に散弾や貫通弾など弾丸を変えながら。
「(なるほど、不死の剣士に腕のいい射手か。これは厄介だな)」
凶星で反撃しながら思案する太歳。
だが答えはすぐに出た。
数を増やせばいいのだ。
そもそも最初から彼は本気で戦ってない。
残機が大量にある事をいいことに遊んでいるだけ。
だが、こいつ達ならば本気を出しても耐えられる。
嫌な期待をしながら、とんでもない技を出した。
【消滅の凶星:棒旋星系】
途端、星の海が顕現した。
文字通りの海。
先ほどの瀑布とは比べ物にならない質量。
逃げ道なんて以ての外。迎撃すら不可能。
できることはただ一つ。諦めるか無駄に足掻くだけである。
「「おおおおおおおお!!!」」
軍刀を振るう軍曹。
二丁拳銃を撃つファントム。
迫り来る光の海を切り開いていく。
だが、全てを迎撃は不可能。いくらかが命中し軍曹を削っていった。
ファントムはまだいい。彼は遠距離戦だから逃げる余地がある上に余波を食らうことがない。
迎撃しながら逃げ道を確保し、銃弾を変えて攻略しながら対処していく。
問題は軍曹。切り開くしかない彼は余波によって各所をズタズタにされ、他の凶星が被弾。徐々に削らえ、蝕まられていった。
「―――!?」
軍曹の腹を数発の凶星が穿つ。
瞬間フラッシュバックするかつての戦場。
胴体に何発も撃たれながらも進軍した瞬間が軍曹の脳裏に過った。
軍曹の左腕を凶星が貫く。
瞬間フラッシュバックするかつての戦場。
腕を撃たれて動かせなくなり、片手て戦った瞬間が軍曹の脳裏に過った。
軍曹の脚を凶悪が切断する。
瞬間フラッシュバックするかつての戦場
足を撃たれて立てなくなり、その場で叫んだ瞬間が軍曹の脳裏に過った。
「終わりだ」
凶星が再び降り注がれる。
両腕は動かず、足も捥がれて立てない。
口で無理やり刀を咥え、迎撃しようとするも無理な話。
このまま徐々に削られ、消えていく…。
「(させるか!)」
『Destroy! Omega drive!』
ファントムが必殺の銃撃を放った。
銃口から撃ち出される極太の赤黒い光線。
減少した星の海を貫き、太歳に命中。大爆発を起こした。
「軍曹ッ! 無事か、今回復させ…!!?」
回復させようと倒れている軍曹に近付くファントム、
そこでやっと彼は軍曹の異変に気が付いた。
「消えないで」
再生力すら追いつかない消滅の間際。
巨大な目のようなものが軍曹に黒い触手を伸ばしている。
消えそうになる軍曹に泣きながらに縋り付き、触れる度に軍曹を癒していく。
「逝かせて…くれ…」
「ダメ…ダメ…」
「いかないで…」
黒い触手が増殖しながら軍曹を呑み込む。
まるで某もののけの祟り神のような光景。
しかし害意はないのでファントムは判断に迷った。
「ほう、僕が言える事じゃないが、随分面倒な奴に魅入られたものだな」
「ッ!?」
砂塵が晴れて太歳が姿を現す。
服こそボロボロだが無傷。
螢多朗は内心嘘だろと愚痴りながらも即行動した。
太歳目掛けてスリングトリガーライフルモードで牽制用の連射弾をマシンガンの如く放つ。
「少しは会話も楽しませろ。風情が無いぞ」
太歳の周囲を浮遊する消滅の凶星。
衛星のように周回するソレがファントムの銃撃を迎撃。
足を止めた太歳目掛け、軍曹が飛び掛って軍刀を振るう。
「!? ほう、これはまた…」
咄嗟に跳んで避ける太歳。
空中で彼は敵の現状を確認。
認識した途端、面白そうに口角を上げた。
軍曹の変異した刀。
軍刃に目が宿り、巨大な禍々しい刀身を形成している。
自身の身体を超える刀身から発せられる祈りの力。
ソレを肌で感じた太歳はこみ上げるものを堪えられなかった。
「まだ、いけるな?」
「ああ。多少負傷したがアンタ程じゃない」
ファントムの隣に並び立つ軍曹。
ほんの一言やり取りを行うとすぐさま行動。
軍曹が巨刀を担いで走り出し、ファントムが銃撃で援護。
一瞬で太歳との距離をゼロにして巨大な刀を振り下ろす。
滅の凶星をファントムの援護射撃が消迎撃し、巨大な刀が切り払う。
再び軍曹が刀を振り上げ…。
「「「ッ!?」」」
瞬間、太歳と軍曹に炎の蝶が飛来。
ソレを食らった二人は炎に包まれる。
「野郎共で随分盛り上がっているみたいじゃないか」
突如現れた花魁道中。
炎に包まれた髑髏たちが一人の花魁へと吸収される。
「あたしも入れておくれよ」
魄啜繚乱弟切花魁。
彼女も神殺しに参戦した。