仮面ライダーファントム   作:大枝豆もやし

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変身ヒーローの魅力は、普段の生活と変身した後のギャップにあると思うんですよね。
普段は冴えない好青年が変身すると殺戮マシーンになるのって燃えません?


雌狐

 

 その花魁は、蟲毒によって化けた。

 

 蟲毒の儀式は彼女と相性が良かった。

 彼女は他者を食らい、己の力とする事に慣れている。

 故、積極的に室内の霊の力を啜り、彼女は強くなっっていった。

 

 彼女自身はあまり力に執着していない。

 力はあくまで手段。己の美貌を保つ為の道具である。

 

 生前、彼女は美を……誇りを奪われた。

 

 美は彼女にとって己の全てだった。

 貧しい農民だった彼女に与えられた唯一の武器。

 天から与えられたこの美を以てして彼女は花魁に昇りつめた。

 

 

 

 しかし彼女は美を奪われた。

 

 

 

 信じてもらえなかった。

 毒を盛ったのは自分ではない。

 どれだけ弁明しようとも男は彼女を殴り続け、美し顔を腫れ上がらせた。

 

 誰も助けてくれなかった。

 遊郭を追われ、家族に見捨てられた。

 何も持たずに逃げた先では碌に飯も食えず、美を保てなくなった。

 

 病に侵された。

 日銭も碌に稼げないのに薬が買えるわけがない。

 肌は爛れ、顔は崩れ、かつての美しい顔は見る影も無くなった。

 

 裏切られた。

 可愛がっていた筈の妹分が全ての元凶。

 その女は最初から気に入らなかったと勝ち誇りながら暴露した。

 

 

 だから、全てを燃やした。

 

 

 もう誰も信じない。

 もう誰にも美を奪わせない。

 もう誰であろうと蹴落とされない。

 

 たとえ他人の命を啜ってでも若さと美を保ってやる!

 

 

 

「う、ぁぁ…ぁ……」

 

 そう誓った筈なのに……!

 

 

 

「おい、何寝てんだ雌犬。まだ躾けは終わってないぞ?」

 

 彼女のプライドは、この男によって粉々に打ち砕かれた。

 

 

 

 

 

 螢多朗(ファントム)と花魁の戦い……否、ソレは戦いと呼べるものではなかった。

 

 花魁の呪いの第一段階、魄啜。

 触れた者の命を啜り、老化させる炎の蝶を周囲に舞わせる。

 花魁は蝶が啜った命を糧に、己の美貌を回復させ、呪いを強化していく。

 早い話がドレイン系。バフとデバフを両立し、自身は回復と強化を重ね、相手には弱体化を強いる。

 相手とかみ合えばかなり強い。そう、かみ合えば……。

 

 この相手には……ファントムにはかみ合わなかった。

 

 ファントムが纏う炎。

 ただ標的を燃やすだけではなく、防御にも使える。

 身を覆う炎は花魁が操る火の蝶を燃やしていった。

 炎と炎がぶつかれば、強い方が弱い方を飲み込む。

 故、こうなるのは必然だった。

 

 対するファントムは一方的に攻撃を仕掛ける。

 炎は自身の防御に集中して使えないが、彼にはパンチ力4トン、キック力8トンの怪力がある。

 所有しているアイコンの中では弱い方だが、碌に近接戦が出来ない花魁にとっては天敵も同然。

 花魁は一方的に殴られ、甚振られるだけだった。

 

 殴る。

 服を掴んで破きながら。

 

 殴る。

 髪を掴んで引っこ抜きながら。

 

 殴る。

 腕を掴んで万力のように握り潰しながら。

 

 最早見る影は無くなった。

 集中して殴られた顔は腫れて膨れて。

 原型が美人かどうかも分からない程になっている。

 

「なん、で……効か…ないの……?」

 

 花魁の呪いの第二段階、疫病。

 魄啜で力ある程度貯まることで発動。

 花魁の血肉や体液などを摂取した相手に生前自身が罹患していた病状が現れる。

 弱体化はするが、エネルギーが溜らなくてもコレは発動できる。

 だが、ファントムにはソレが通じない。

 当然である、なにせファントムは全身を覆われているのだか、何かを摂取出来るわけがない。

 

 魄啜は炎の鎧で、疫病は元からの鎧で。

 二重の鎧によって花魁の力は全て無効化された。

 

 今ここにいるのは他者の命を啜る悪霊でも、天性の美貌で男を誑かす悪女でもない。

 ただの無力な女だ。

 

「あぐ・・・!?」

 

 放り投げられる。

 壁にぶつかり、そのまま破壊しながら転がる。

 地面を転がり、土埃と瓦礫をまき散らし、それらによって汚れる。

 

「う、うぅ……」

 

 惨め。

 盛られた黒い髪も、華やかな衣装も、煌びやかな飾りも。

 彼女の美しさを彩る全てが破壊され、奪われた。

 

「……」

 

 そんな哀れな女に、ファントムは悠然と歩いて近付く。

 コツリコツリと、靴音を鳴らして。

 圧をかけるように、ゆっくりと。

 

「く…来るな!」

 

 石を投げる。

 しかし怯む様子を見せない。

 虫か塵にでもぶつかったかのように。

 

「来るでない!」

 

 ゴミを投げる。

 しかし容易く弾かれる。

 鬱陶しいゴミか塵でも払うかのように。

 

「来ないで!」

 

 無意味な抵抗を続ける。

 しかしファントムに通じる筈が無い。

 彼女の呪いが全て効かないというのに。

 

「あ、あぁ……」

 

 遂に、ファントムが花魁の眼前にまで迫ってきた。

 花魁の前で止まり、無機質な仮面の視線を向ける。

 彼女にはソレが、己の命を刈り取る死神に見えた。

 

「や、やめてぇ……」

 

 腕を振り上げるファントム。

 今の彼女にはソレを止める術はない。

 出来ることはただ一つ、許しを請う事だけだ。

 しかし、無慈悲な死神(ファントム)には無意味。

 死神の鎌の如く腕を掲げ、彼女に振り下ろそうとした。

 

「ヒィ…!」

 

 引き攣った声が出る。

 目を瞑って恐怖に耐える。

 遅れて破壊音が耳元で響いた。

 

「……?」

 

 ゆっくりと目を開ける。

 そこに映っていたのは……。

 

「い、いやあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 自身の見にくい顔だった。

 ファントムが手鏡を握って彼女に見せている。

 途端、彼女を中心に炎が吹き上がった。

 

『Destroy! Omega drive!』

 

 咄嗟に避けるファントム。

 彼はドライバーの右レバーを引き、最後の技を叩き込む準備に入った。

 

 第三の呪い、炎上楼閣。

 力を蓄えた上で、花魁が憑いていた鏡に、本人が醜くなった姿を映し見せることで発動できる。

 花魁を中心に炎の郭を形成して相手を幽閉。灼熱の牢獄の中で標的を燃やす。

 同時に炎の蝶を操り、止まった者の命を啜りながら全てを燃やし尽くす。

 炎は花魁の力が尽きるまで消えないため、花魁を倒さない限り炎は消えず燃え続ける。

 無論、炎の蝶も炎の楼閣もドレイン効果は健在。触れる事で命を吸われ続ける。

 更に、第一第二の呪いも重ね掛けされているため、相手は老化、病気、火傷の三重苦を食らう羽目になる。

 正しく必殺技に相応しい呪い。周囲への被害もさることながら、極めて強力かつ危険な呪い。

 しかし、ソレは本来の効力である。

 

 

 

「自力だけじゃこの程度か」

 

 炎の楼閣は、一振りで切り払われた。

 

 

 いつの間にか手にしていた奇妙な形の剣。

 炎を纏うその剣で、ファントムは花魁の必殺技を真正面から叩き潰した。

 

「で、次は?」

 

 剣を肩に担いでファントムは問う。

 もう片方の手は、花魁に鏡を見せながら。

 

「や、やめ…て……」

 

 弱弱しく腕で顔を隠す花魁。

 いや、既に彼女の姿は花魁とは言えなかった。

 

 始末なボロ布に、枝のように痩せ細った体。

 髪は禿げ、肌は焼け爛れ、目には光がない。

 これが彼女の本性。全てを奪われた抜け殻。

 もう、かつての美しさは何処にもない。

 

「ごめんなさいは?」

「ごめん…なさい」

 

 言われるがままに呟く。

 しかし次の瞬間、ファントムは彼女の左小指をへし折った。

 

「~~~~~!!?」

 

 あまりの激痛に悲鳴すら上げられない。

 そんな彼女にファントムは顔を近づける。

 

「声が小さい。もう一度」

 

 理不尽極まりない要求。

 先程の炎によって彼女の喉はカラカラ。碌に声も出せない状態なのだ。

 ソレを分かっていながらファントムは彼女に謝罪を要求する。

 

「ごめ…なさい……」

「心が籠ってない。もう一度」

 

 もう一本折る。

 条理もクソもない。受け手の匙加減でどうにでもなる判断基準。

 ソレを分かっていながらファントムは彼女に謝罪を要求する。

 

「ご…な、さぃ」

「何かムカつく」

 

 もう理由すらなくなった。

 ソレを分かっていながらファントムは彼女に謝罪を要求する。

 

「………」

 

 全ての指を折られた。

 手は勿論、足の指も切断された。

 もう折る場所はない。と思いきや、

 

「よし、今度は腕と足、どっちがいい?」

 

 傲慢はまだ続く。

 彼女の手鏡を突き付けながら、ファントムは問う。

 

「どうした?美しいんだろお前?」 

「・・・」

 

 無理やり腕をどかし、鏡を突き付ける。

 もう抵抗すら出来ない筈なのに彼女は必死に目をそらそうとした。

 

 やめて。

 これ以上奪わないで。

 もう私には無いも無いの。

 そんな彼女の思いを知っていながら極卒の呵責は続く。

 

「どうした?見ろよ?」

「………」

 

 何も言わない。

 言葉も、涙も。全て枯れた。

 今の彼女は枯れ木同然。ただの死体である。

 

「………」

 

 ファントムは変身を解除し、眼魂を彼女に押し付けた。

 変身に使う者とはまた別のアイコン。

 一般悪霊を封印したもので使う用途は主に……。

 

「食え」

「………ぇ」

 

 力の回復。

 食らう事で霊的エネルギーを貯蔵する事である。

 

「なんで、いきなり……!!?」

 

 アイコンの魂を啜って若干回復した花魁。

 華やかな花魁時代とまではいかないが、村娘程度の顔に戻った。

 その瞬間、ファントム―――螢多朗は彼女の唇を奪った。

 

「ソレが君の本当の顔か」

「な、なにを……!!?」

 

 再び唇を奪う。

 今度は舌を入れて。

 熱く絡まる螢多朗の舌。

 侵略するように激しく、蹂躙するかのようにねっとりと。

 

 

「君は悪い霊だ。だから痛みを与えて浄化する必要があった」

 

「君は呵責に耐えた。これで君の罪は……醜さは浄化されたんだ」

 

 

「俺の物になれ。お前が必要だ」

 

 

 

 

 滑稽な言葉を吐きながら、螢多朗は花魁を抱き締めた。

 

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