終わった。
何とか勝てた。
最後に繰り出した蹴り。
コレで神様をぶっ飛ばしてやった。
本霊の横やりが入った時はマジで焦った。
あの野郎、一度ならず二度三度と邪魔しやがった。
なんと、最後の蹴りでトドメ刺した神様をまた復活させようとしたのだ。
咄嗟に詠子が魂抜き人形で封じたがほんの一瞬。
すぐに脱出してまた回復させようとしてきた。
で、ソレを阻止したのは御霊………いや、新皇だった。
過渡期の御霊の正体はかの有名な三大怨霊の一人、平将門公だった。
いや、マジの大物じゃん。それしか言える事ないよ俺…。
しかも後で知ったけど、降霊した瞬間にほんの一瞬日本中でマグニチュード7の震動が起きた上、月が瞬きをしたかのように歪んだらしい。
超常現象のレベル超えてるよ。大陸規模じゃんソレ…。
将門公は横やりを入れてきた本霊を牽制し、中途半端に回復しかけた神様を撃破。
神様を回収して逃げようとする本霊から無理やり神様を奪い、腕を引き千切りながら反撃した。
アレには驚かされた。あんな力業あるのかと。
とまあ、あの人の強さ俺は度肝抜かれた。
けど、反動は大きかったみたいだ。
あの人は俺を庇って一度は戦闘不能になったのだ。
いくら神様の力を注がれたとはいえ、そんな簡単に回復出来るものではない。
ソレと、夜宵ちゃん曰く本来の許容量を超えて力を蓄えていたせいもあるらしい。
今は元のぬいぐるみの中に戻って休眠している。
戻る間際、俺に労いの言葉をくれながら。
本当にありがたいよ。
横やりが入ったとはいえ、倒しきれなかった俺の代わりに戦ってくれた上に、労ってくれるなんて。
「先生お疲れ様。もう今日は休んで」
「ああ、そうさせてもらうよ」
俺は詠子とタマちゃんに引き摺って貰って車まで向かった。
「兄さんめっちゃ重いな!何キロあんねん!?」
「さあ?最近測ってないないけ80キロはあると思う」
「重っ!? ソレ全部筋肉やろ!?どんな体しとんねん!?」
やったら歩けやみたいな目を抜けるが、ソレが出来るならとっくにしてる。
ホントに動けないのだ。
身体がだるい。
皆は太歳が爆発した際に発生した光を浴びて回復したのに、俺は全然だ。
いや、外傷とかは治ってるし、疲労もダメージも大分マシになってる。
けど完全ではない。なんかすっごい眠い。
髪の色も何故か変わってるし。
「お疲れ、先生」
「あぁ…」
俺はゆっくりと目を閉じる。
瞬間、海に沈むかのように意識が遠のいていく。
同時に様々な想いが浮かび上がる。
太歳を一度とはいえ倒した達成感。
太歳から愛存を救い出せた安堵感。
太歳にリベンジしてやった爽快感。
そして、強くなったという高揚感。
そんな色んな感情を抱きながら、俺は眠った。
「いやあ、それにしても兄ちゃんメッチャ強かったな!」
タマちゃんは上機嫌であった。
あの太歳を倒したのだ。
これでやっと、あの子を解放出来る。
長年夢見続けた日が、やっと叶ったのだ。
何よりも、男として心動かされた。
悪を討ち倒す仮面の戦士の雄姿に。
「当然。先生は一番強いもの」
「そうよ、螢くんは最強なの!」
助手席と運転席で自身満々に言う二人。
凶星の流れ弾でボロボロになったというのに、全員ピンピンしていた。
太歳から漏れだした光。
ソレを浴びた夜宵たちは傷がふさがり好調になった。
その効果は近隣の病院まで及び、ニュースでは京都の奇跡といわれているらしい。
「でもおかしいわね。神様の力によってそうなったのなら、一度神様を大した螢くんは直に浴びてる筈なのに」
「多分ソレが原因。先生は間近で浴び過ぎたから逆に神の力酔いしてるんだと思う。髪の毛が白髪に…いや、神様と似た色になったのもそのせい」
「せやろな。あの兄ちゃんからはすんごい神気を感じる。そういうのに鈍い僕でも分かるぐらいや。ハンパやない神気浴びて吸収してもたんやろ」
神気の親和性が強いが故の弊害。
螢多朗は大量の神気を間近で吸収し、少し神に近付いてしまった。
結果、身体と魂が変化に追い付かず、適応する為に寝て回復しようとしている。
「これはしばらく起こさない方がいいかも」
「そうね。一番頑張ったのは螢くんだし」
「うん」
最後に太歳を倒したのは新皇だが、一番長く戦ったのはファントムだ。
全員が倒れる中、彼だけは立ち上がった。
託されたものを背負って、一人で戦い続けた。
結果、あの神様を一度倒すことが出来たのだ。
「じゃあ、愛依ちゃんと会うのはもう少し先という事で…!?」
突然、車の前に黒服の男が誘導棒を持って道を塞いだ。
咄嗟に詠子はブレーキを踏んで急停止。
一言文句を言ってやろうと窓を開けると…。
「すみません、貴方たちが挑戦者の一行ですね。神代家までご同行願えますか?」
「螢くん!螢くん起きて!」
「………んあ?」
目を覚ますと知らない天井が見えた。
和室らしき場所で長机を境に見知らぬ人と向き合っている、
和服を着た壮年の男性。
その隣には愛依ちゃんが座っていた。
え? 何処ここ? 何で俺ここにいるんだ?
「螢多朗様、お疲れのところ申し訳ない。貴方様に太歳星君が伺いたいことがあると」
「………え?」
状況が飲み込めず混乱する俺。
そんな俺を無視して話が続けられる。
「螢くん、この人は愛依ちゃんのお父さんなの」
「神様はこの家で祭られて、代々娘を生贄にする代わりに神様の力を借り受けていた。けど先生が倒した時点でその契約を更新出来る可能性が出来たの」
………なるほど、大体分かった。
「神様は俺と契約したいってことか?」
『そういう…ことだ…』
机に置かれたラジカセからかすれた声が聞こえる。
どうやらコイツを媒介にして話してるようだ。
「お互いボロボロだな。人間ごときにやられたのはどんな気分だ?」
『…最高だ。お前とあの怨霊………あんな大物と戦えるなど……何千年に…一度だ。ソレを、二度も体験できるとは…な』
コイツの価値観は戦いか。
いい趣味してる。人のこと言えないけど。
「で、契約内容は?」
『僕は…お前に負けた。だから、お前の条件で契約を結ぶ』
「なら愛依ちゃん…いや、全ての花嫁を解放しろ。話はそれからだ」
『いいだろう…。元より、飽きた玩具だ。似た物も…いらん』
ソレを聞いて若干イラついた。
じゃあ貰うなよ。人の命と尊厳を何だと思ってる。
タダ働きが嫌なら色々やり用あったろ。例えば生贄じゃなくて祭りを開かせるとか、酒やご馳走捧げさせるとか。
まあ、今更言っても意味無いし、俺以上にブチ切れてる人がいるから言わないけど。
「じゃあ求める物は何だ?アンタ程の神格、たとえ俺が勝者だとしても一方的に何かを求めるのは無理だろ?」
『一つは…僕も戦わせろ。お前たちは…本霊に狙われている。特に…ファントム。お前だけは…何が何でも…殺したいそうだ』
「だろうな。一度はお前を倒したんだ。そりゃあ気に食わないだろう」
『そんな…程度ではない。奴は…お前を恐れている。お前はもっと…強くなる』
「………」
もしかしてムゲン魂のことを言ってるのか?
グレイトフル魂にあたる姿を手にしたからあるとは思ったが、まさか本当に?
「このベルトについて何か知ってるのか?」
『僕は…知らん。だが、本霊なら…知ってるやもしれん』
それは有用な情報を聞いた。
このベルトの正体は俺も気になる。
本霊とやらには色々聞いてみよう。
『奴は…何が何でも、なりふり構わず…お前を殺しに来る。もしやすれば、他の神も………巻き込むかもな』
「ソレは勘弁願いたいな」
『だから…僕を連れていけ…。お前と戦うのも…悪く、なさそうだ。……あの、怨霊たちの、ように…』
御霊たちのことか。
コイツが彼らみたいに協力してくれるのは心強いが、問題が何点かある。
「勝てるのか本霊に?お前はあの時…」
『勝つ』
俺の話を遮って、神様は強い五感で言った。
瞬間、凄まじい圧が部屋中に充満する。
『奴は…奴だけは許せん!否、許してはならん!戦いの…決闘の邪魔をした挙句、戦士の矜持を汚した!』
『あの時!僕はお前の決死の一撃に敗れた!だが奴は横から勝敗を反故にした挙句、勝者であるお前を殺そうとした!僕を操って!』
『僕の…僕たちの聖戦と矜持を踏み躙り、都合良く利用して自分は安全圏…ふざけるな!このような屈辱を受けておいて、報復が無いなどあり得ん!あってはならん!』
言葉を放つ度に圧が強くなり、漏れる神気が荒々しくなる。
俺は戦って慣れたおかげか耐えられるが、慣れてない人にはかなりきついぞ。
ほら見ろ、愛依ちゃんはメッチャ震えて、ご当主さんも顔を青くしてるじゃん。
あ、気づきにくいけど夜宵ちゃんも怖がってる。まあ、そりゃそっか。
要するに…。
『そういう事だ。奴だけは殺す。奴の犯した罪、その罰と報いを何が何でも受けさせる』
ブチ切れって事だ。
「分かった。いいぜ、共に戦おう。で、二つ目は?」
宥めるような口調で俺は話す。
おかげでさっきまでの圧が嘘のように無くなった。
『これは、提案に近い。お前が…神代家の、当主になれ。婿入りしろ』
「え?」
一瞬、訳が分からなくて妙な声を出してしまった。
生まれつき神気に近い気を持ち、神社などで補給出来る特異体質
安倍晴明をも超える生命力。しかもファントムになる事で格段に上がっている。
魂が二つあるから許容量も当然増えている。
そんな彼が太歳の血ともいえる光を浴びた。
後は分かるな?