『これは、提案に近い。お前が…神代家の、当主になれ。婿入りしろ』
「え?」
一瞬、訳が分からなくて妙な声を出してしまった。
『僕は、お前と契約がしたい。だが、それでは…お前は神代家から…僕を奪うことになる。つまり…お前と神代家、双方に…不利益が生じる』
「愛依の家は財政界に強い影響がある御家らしい。だからソレを危惧しての事だと思う」
ああ成程、確かにそんな大物の力の源がいきなり消えるとその混乱は大きい。
原因の俺らにも何かしら面倒ごとが来る筈だ。
『だから、お前が…愛依と結婚しろ。ソレでお前は…この家を手にして…正式な僕の契約者になるんだ』
「………」
こ、コイツ詠子の前でとんでもないことを!?
「………」
「え、別にいいわよ? 私が事実上の正妻なら。なんならハーレム作っちゃう?」
ちらりと詠子を見ると、コイツもコイツでとんでもない事をほざいた。
「………」
「け…結婚……。私と…先生が……」
こっちも駄目だ。顔を赤くして何か考え込んでる。
「こ…こほん。何も結婚だけでなく養子という手段もある。私たちとしても太歳の力に守られるのはいい事だ。敵も多い家なのでね」
「………取り合えず保留で」
ヘタレな俺はそう答えるしか出来なかった。
『お前が当主になる方が…神代家にも利がある。…いや、むしろ大きい。お前は…僕を倒した際に…僕の神気を…直に、浴び過ぎた。最早、神の祝福…いや、“僕”に近付いたと…言っていいか…』
確かにそうだろう。
神の祝福という点ならブラッドアイ魂を手にした時点でそうだし、太歳を倒してその光を浴びたということは、神の血を取り込んだということになる
傍から見たら俺は神を食らってその力の一部を簒奪したってことになるか。
祟り神の力を借り受けただけではなく、身に宿している当主。
確かにこれは神代家にとって大きな利になる。
まあ、簒奪して得たものだけど。
『まあ…いいだろう。ソレで、返事は?』
「決まってる。結ぶぜ、その契約」
俺が答えると、右手に五芒星のようなものが浮かんだ。
『ソレが、契約の印…。お前が、次期当主だ………』
そう言って神様は休眠状態に入った。
あ、俺が当主なのは決定事項なのね。
「け…けけけ!結婚!?私と先生が!?」
赤面フリーズから戻った神依。
まだ正気から完全に戻ってない様子で彼女は慌てふためいた。
『そんなに…驚くことか? この男は…女の為に命を賭して戦い、勝利した。この僕を…打ち倒したのだ。ならば、嫁になるのが道理ではないか?』
「いや、そんな今時…」
螢多朗は渋った様子を見せる。
花嫁を怪物から救った英雄が結婚し、その地の王になるパターンは昔話や神話などでよくあるが、令和の時代では女性をトロフィーにするような考えだと炎上してしまう。
ジェネレーションギャップという奴であろうか。
『それとも、嫌か?』
「え!? い…いや……べ、別に…そういうわけじゃないけど………あ、そうだ詠子さん!」
何やらモジモジし始め、次の瞬間には閃いたかのように詠子に振り返った。
「詠子さんいるのに差し置いて結婚とかありえないから!」
「さっきも言ったけど、私は別にいいわよ。ちゃんと貰ってくれるなら」
詠子はなんでもなさそうに答えた。
「え、ちょ…詠子さんソレで良いいの!?」
「良いも悪いも神様のお許しがあるんだし……それに、螢くんが何股か掛けるなんて今更よ」
「………え?」
今度は螢多朗に矛先が向いた。
「おい、何言ってんだ詠子。俺は浮気なんて…」
「けど今まで助けてきた女の子といい雰囲気にはなったよね?」
「そんなの一時的なものだろ………」
そんな簡単に惚れられるわけあるか。
命を助けて毎回フラグが立つなら、消防士やレスキュー隊はハーレムだ。
口に出さず螢多朗は内心そう言いたけだった。
「そもそも女の子のために命懸けで神様と戦える男なのよ螢くんは。モテる時はすっごいモテるに決まってるでしょ」
「………あ~」
愛依は納得したような声を出した。
「………幻燈河くん、君は何故そこまでして太歳と戦えたんだ? 聞いた話によると君は一度圧倒的な力の前に殺されかけたというじゃないか。何故また立ち上がれたんだい?」
話を切り替え、愛依の父である神代礼治郎が螢多朗に質問する。
彼は神代家の因習について総玄に抗議した過去があり、そのせいで左腕の手首から先を失い、妻や他の子供らの為に抵抗を諦めていた。
しかし螢多朗や夜宵は違った。たとえ絶大な力を前にしても立ち向かい、そして勝ち取ってみせた。
「愛依ちゃんを助けたかった。ソレ以外に理由いる?」
「!!?」
螢多朗はあっけらかんと言った様子で答える。
ソレがとても頼もしく…。
「…愛依、お前は…いい先生を持ったな!」
「………うん!」
そんな男に娘が出会え、そして実行してみせた幸運に、彼らは涙した。
その日、俺達は愛依ちゃんと思い切り遊んだ。
今まで出来なかったことをする為に。
奪われた分を取り返すように。
太歳は倒した。
奴との契約も更新した。
愛依ちゃんはもう花嫁でも生贄でもない。
今の彼女は、何処にでもいる普通の女の子だ。
ソレを証明するために俺達は最後まで愛依ちゃんと遊んだ。
京都最後の日は神代家で夕食を取る事にした。
愛依ちゃんのお父さん、礼治郎さんが何かお礼をしたいと言ってっ来た。
だから俺は上等な飯と酒を振る舞ってほしいと頼んだら即座に快諾。因習の解放を祝して宴会のようになった。
今回の戦いで卒業生たちには随分助けられた。
酒呑童子なんて日が浅いのに体張って戦ってくれた。
彼らが予想を遥かに超えて頑張ってくれたこそ、太歳を倒せたのだ。
そんな彼らに報いたくて、宿ってる人形にお神酒や食事をお供えする為に俺は豪勢な晩餐を頼んだ。
ということで、俺もこの宴会を楽しむことにした。
見渡す限りのご馳走。
格式高い懐石料理だけでなくバイキング形式に置かれた唐揚げやハンバーグ、更にデザートも用意されている。
俺は食べる分だけ取って味わった。
タダだからといって限界以上食うなんて下品な真似はしない。食える分だけ取って、皿に盛った以上はちゃんと食べるさ。
「せ、先生そんなに食べて大丈夫?」
俺の前に積み重なった皿を見ながら声をかける愛依ちゃん。
辺りを見渡すと、神代家の人もこっちを見ていた。
「いくらご馳走だからって食べ過ぎ~。太るよ?」
「平気平気。俺、太らないし」
「え、なにそれイヤミ~? 私食べ過ぎないように我慢してるのに」
「いや、そういうんじゃない」
俺は一旦箸をおいた。
殺気から思ってたけど、愛依ちゃん以外誰も俺に近寄らないな。
現当主ですら挨拶来ないし、もしかして怖がられているのか?
「今日は激戦中の激戦だったからね。滅茶苦茶腹が減ってるんだ。いや~、太歳はメッチャ強かったわ~」
「「「・・・」」」
何か言いたそうな目を向けてくる奴が何人かいるが無視だ無視。
「で、アイツを倒して俺は新たな力を手にした」
「? 何ソレ先生?」
俺がアイコンドライバーGを取り出すと、愛依ちゃんは物珍し気に覗いて来た。
「太歳の力で新たに得たドライバーだ。今思えば、ブラッドアイ魂も元は太歳の力だから、パワーアップはほぼ太歳の力が源っってことになるな」
「え、じゃあ先生ってあの神様の力奪いまくってるってことじゃん」
「そうなるな」
もしかしたら太歳みたいに陰陽術とか使えるかもしれない。
今のところ憶える気は無いが。
「………先生、ちょっといい?」
「ん?」
愛依ちゃんに一旦宴会室から中庭に連れられた。
無駄にデカい日本庭園だが、隅々まで手入れが行き届いている。
「………先生、本当に」
ここに来るまで黙っていた愛依ちゃんが振り返りながら俺に言った。
「先生、周りを不幸に巻き込んでばかりの私が、こんな風に皆と一緒になれる思ってなかった」
「友達の皆と遊んで、家族の皆とごはんを食べて、先生と………男の人と一緒にいられっる日が来るなんて」
「ねえ先生、これからも…この生活は続くのかな?実は夢で、あの神様の花嫁に…玩具になってなんて…ないよね?」
震えながら言う彼女の背中にそっと手を回す。
「何言ってんだ、太歳は倒した。俺はアイツより強いんだ。…だから、何も心配する必要はない」
「………うん!」
愛依は俺に抱き着き、胸の中で涙を流した。
・アイコンドライバーG
ファントムアイコンに太歳の力が宿る事で一時的に誕生したドライバー。
本来なら注がれた太歳のエネルギーが切れると通常のファントムアイコンに戻るのだが、螢多朗が太歳の力を浴びて適合した事で問題なく使えるようになった。
・クライムフル魂
アイコンドライバーGに15人の悪霊が融合して誕生した超強化形態。
各部の鎧には悪霊たちの力が籠められており、融合したアイコンの能力や武器を兼ね備え、尚且つ本来の形態のソレを上回る。
また複数の能力や武器の同時使用も可能で、組み合わせる事も出来る上に、ドライバーから悪霊を召喚して使役する事も可能。