俺は詠子が嫌いだった。
最初は普通の幼なじみとして一緒にいたけど、ファントムになってからは距離を置くようになった。
悪霊との戦いは辛く厳しい。だから、誰かを巻き込むわけにはいかない。そう思って俺は周囲と距離を取り始めた。
前世の記憶と霊媒体質。この2つのせいで俺は知大がいない上、家族とすらあまり打ち解けなかった。だから距離を取るのは簡単だった。
ただ一人、詠子を除いて。
アイツはいつも俺の傍について来た。
周りに馴染めなかった幼少の頃からずっと。
当時の俺は、ソレがとても鬱陶しかった。
だってそうだろ?俺は周囲のガキと馴染めなくて一人になったんだから、同じガキといてもつまらない。
なのに、アイツは鬱陶しく付き纏ってきた。
ファントムになってから、余計に激しくなった。
変身初日で正体がバレて、質問攻めされた。
アイコンは渡せるが、ベルトは着脱不可で俺以外は使えない。
ライダーになって戦えるのは俺だけだ。
なのに、アイツは付いてきた。
足手まといだった。
アイツには自衛する手段がない。
見たり気配を察知するどころか、近づいても何も感じない時があるのだ。
そんな彼女を霊との戦場に巻き込むわけにはいかない。だから、かなり強めに脅して距離を取ろうとした。
ソレでもあの女は離れなかった。
嫌いだった。
鬱陶しかった。
その筈だった。
『螢くんお疲れ様!今日もかっこよかったよ~』
詠子が隣にいるのが、当たり前になった。
『大丈夫よ、螢くんは強い。だから仕方なかったの』
詠子に慰められて何度も救われた。
『悪霊の情報を集めたわ!もしかしたら次の眼魂も手に入るかも!』
何度も詠子のサポートに助けられた。
『大好きよ、螢くん』
いつの間にか、嫌いが裏返った。
もう俺は、彼女と離れられない人間になってしまった。
花魁の過去を見た。
螢多朗の霊媒能力の一つ、サイコメトリー。
触れた対象の過去を追体験することが出来る。
彼自身の意思でオンオフ出来るが、偶に本人の意図しないタイミングで暴発する事もある。
ソレが今回だった。
花魁にとって、己の美は存在理由そのもの。
美しくなくては存在する価値も意味もない。
もし、醜くなっても助けてくれる者がいれば、その価値観は変えられていたであろう。
だが、周囲は彼女に手を差し伸べるどころか、毒を盛って裏切り、彼女を信じず、帰る場所も無くなった。
どれだけ美しくても、彼女は誰にも愛されかった。
だから、己の美を愛するしかなかった。
顔が崩れて美が無くなっていく。
存在理由を否定されていく。
己の全てが崩壊していく。
彼女にも己の美以外の愛があった。
家族を救うため、自ら遊女となった。
しかし、今では己の美しか愛せなくなった。
だからといって螢多朗は彼女を肯定する気はない。
悲惨な過去に対しては同情するが、だからといって他者から奪っていい筈が無い。
けど、少しぐらいは手を差し伸べてもいいんじゃないか。
ソレぐらいならいいだろ?
詠子から、螢多朗にしか出来ないと教わった愛し方。
少しだけなら許してくれるだろう。
これから共に戦う奴隷に、彼は
「帰ってこないね」
「うん、そうだね」
詠子の車の中、夜宵たちは螢多朗を待っていた。
爆発音が聞こえて2時間は経っているというのに、螢多朗は姿を現さない。
探そうと夜宵は提案したが詠子はソレを却下。現状維持を取っている。
「本当に大丈夫なの?」
「うん、だって今はお話中だもの」
「お話?話して通じる相手じゃ……」
夜宵が言葉を続けようとした途端、廃ラブホテルから螢多朗が出て来た。
「おーい! 卒業生ゲットしたよ~!」
「お、さすが螢くん!見せてみせて!」
車の中に入って眼魂を見せる螢多朗。
新しく手にしたアイコン、花魁魂。
横部のスイッチを押して早速解放した。
『花魁!』
音声と共に、アイコンから炎の蝶が数匹程出撃。
螢多朗の隣に集まり、女の形になった。
「久しぶりね、クソガキ……!」
「……魄啜繚乱弟切花魁」
花魁の睨みに対しても動じない夜宵。
そんな彼女たちの間に螢多朗が割って入った。
「待て、この子は俺の仲間だ。手を出すな」
「ハイ、主様~♡」
「……………え?」
その光景を見た瞬間、夜宵はフリーズした。
魄啜繚乱弟切花魁の猫撫で声。
傲慢で強欲で陰湿なあの女が。
男に媚びるような態度を取っている。
演技で男を誘う仕草はするが、決して自身が上であることを崩さない。
己が美が全てであり絶対。それ以外は美を保つ為の養分。そんな女だ。
なのに何だ今の彼女は。
「ねえ主様~♡ アタシあの女にいじめられたの。アタシを虐めていいのは主様だけなのに♡」
誰だお前は。
主様?お前は誰かを慕うような女ではないだろ?
「この通り、女狐はちゃんと躾けたよ。……貰っていいんだよね?」
「……え? あ、ハイ」
螢多朗が夜宵の方を向いた途端、花魁が『断ったら殺す』という目を向ける。
ソレを見て根本は変わってないんだと思いながら夜宵は頷いた。
「あ、夜宵ちゃんこれ」
「………百円?」
いきなり百円を渡されたことにより夜宵は若干困惑する。
「身請け金。確かフリーマーケットで百円で買ったんだよね?」
「うん。そうだけど……」
だからってこれいるか?
彼女の心境を表せばコレである。
「これでお前は俺の女……いや、ペットだ。ちゃんと飼ってやるよ」
「やーん♡これでもう主様から逃げられない~♡未来永劫未来永劫貴方様専用の雌狐として仕えますコーン♡」
キッッッッッショ!!!
場所は変わって詠子の部屋。
大きなクローゼットの中にある秘密の部屋。
その中で詠子と花魁はモニターを眺めていた。
映されている画像は螢多朗が戦うシーン。
詠子が中学の頃から集めてきたものである。
「こ、これは……主様の」
ソレを眼魂越しに眺める花魁。
螢多朗の物になった彼女がここにいる理由がコレ。
詠子に見せたいものがあると言われ、付いて来たのだ。
無論、最初は怪しんだが、螢多朗に関するものだと言われて承諾。
それでも半信半疑だったが、その映像を見てその懐疑心も無くなった。
「勇ましい姿じゃ。……で、アタシに見せて何を企んでるんだい?」
「……」
詠子は一瞬黙ると、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「私ね、螢くんに犯された事があるの」
「?」
一体何の話だ。
花魁は怪しみながらも思考する。
自慢のつもりか?
お前が主様と呼ぶ男は私の物だ。だから手を出すなと。
一瞬そう言いたいのかと予測したが、花魁はその予想に違和感を覚えた。
遊郭でもそういった同僚はいくらでもいた。だから分かる、そういった雰囲気ではないと。
むしろ、もっとヤバい女の気配。花魁の中でも似たような女がいた気がする。
「螢くんは私を巻き込みたくなったの。だから、首を突っ込む私に忠告した。けど、私はソレを拒否した」
「だから、脅しをかけるために犯す寸前までいった」
「そう、だけど私はソレを受け入れたの。……いえ、むしろそうなるよう仕向けたわ」
ああ、やっとわかった。
この女の雰囲気。これは同僚の中で最もヤバい女……。
「私が螢くんの暴力を育てたの」
男を自分好みに染めてきた女だ。
花魁は女の武器を使う。故、男を手玉に取ろうとするのは当然の事。
中でも優れた者はあの手この手で男の深い所まで潜り込み、操ろうとする。
この女はそういった連中に似ていた。
「優しくて、押しに弱いところがある普段の螢くん。強くて、平然と冷酷な事も出来る戦いの螢くん。二つの面があって彼なの」
「けど、優しい螢君が邪魔して強い螢くんはなかなか育たなかった。だから私がその仮面を取っ払って、もう一つの
「今の螢くんは違う。状況によって普段の螢くんと
「優しい螢くんに包まれて、強い螢くんに支配されて。色んな螢くんに愛されたい」
「ねえ、貴方も協力して?貴方も色んな螢くんの愛を受けたいでしょ?」
花魁は差し伸べられた手をそっと受け取った。
大分原作と動き違いますが、詠子ってこんな感じでしょ?
いいね?