最初、俺は弱かった。
前世では格闘技どころか喧嘩すらしたことが無い腑抜け。
むしろ、リア充チームにいじられてオドオドしていたようなクソナードだった。
強さに憧れはあった。けど、痛みと負けるのが怖くて習おうとは思えなかった。
そんな臆病な奴だった。
今世でも弱かった。
ベルトを手にして変身しても、長くは戦えなかった。
変身するためには精神的なエネルギーがいる。
仮面ライダーゴーストやスペクターは胸部分の目玉模様、ブレストクレストから活動エネルギーを生成できる。
原料は変身者の強い意志。文字通り心を燃やす事でライダーは戦える。
最初、俺にはソレが出来なかった。
俺は心が弱い人間だった。
前世でも今世でも、俺には戦う心というものを手に出来なかった。
変身した当初、戦う意思を見せた形だけ。そんな軟弱な姿にライダーの力は応えてくれなかった。
そこで俺が編み出したのは、霊を吸収する事。劇中でもアランがやったように、アイコンを消費して霊的エネルギーを生み出した。
初期のネクロムと同じ感じだ。変身しての活動には時間制限があり、時間切れになるとファントムの赤い部分が色褪せていく。その度に俺はアイコンを補給した。
その癖してスペックはゴーストより低い。
当然だ、俺は天空寺タケルのように英雄と並べる男じゃないから。
自分を囮にして悪霊をおびき寄せ、倒してアイコンに封印。
そのアイコンを取り込んで消費し、また悪霊と戦って封印。また消費する、この繰り返し。
代償を払うためにアイコンが必要。
更なる力を手に入れるにはアイコンが必要。
変身して戦う為に、エネルギー補給の為にアイコンが必要。
三つの意味で必要なアイコン。けど、消費するせいで全然集まらなかった。
けど、そんな生活を送っていくうちに、俺にも変化が起きて来た。
戦いを通して、どんな心構えでいいのか分かってきた。
戦いを通して、どうやって戦えばいいか分かってきた。
戦いを通す手、どう身体を作っていいか分かってきた。
俺は適応していった。
心と技と体が、悪霊と戦う為のものへと変化していった。
気が付けば、俺は自身の意思で活動で霊的エネルギーを生成できるようになった。
敵に対してどんな意思を向ければいいか、戦いではどんな精神状態でいればいいのか分かってきたから。
殺意を向けて、敵をぶっ殺す。
暴力を以て制圧し、屈服させる。
邪魔な悪霊を処理し、排除する。
そうやって戦ってアイコンを集める。
すると、気が付けば十個も集まった。
あと半分。何とかして集めなければ。
俺はもっと強くなれる。
戦いを通して、アイコンを手に入れて。
大学のサークル歓迎会の飲み会、螢多朗は二次会に向かう事になった。
長山と名乗る学生から渡されたミネラルウオーターを一口含み、助手席に座る。
「いや~よかったよ。君が参加してくれて。俺、君と仲良くなってみたいんだよね」
「そうですか」
ソレだけ言って螢多朗は目を閉じた。
折角詠子とはまた別のコミュニティを築けるチャンスだというのに、螢多朗は何もしゃべることなく眠る体勢に入る。
失礼な態度。しかし長山は嬉しそうに顔を歪ませた。
「……ずいぶん早い効き目だな」
後ろの席の学生たちには聞こえない声でぽつりと呟く。
ソレに気づくことなく、螢多朗以外の学生たちは賑やかに騒ぎながら車を走らせた。
「まずい、螢多朗先生が危ない」
所変わって詠子の部屋。
夜宵と詠子はノートPCで螢多朗の生中継(盗撮)を視聴していた。
コレを夜宵が知ったのは偶然だが、おかげで螢多朗が憑依霊に狙われていることに気づけた。
長山と名乗るこの男、悪意ある霊に憑依されており、螢多朗と背後の学生を狙っている。
何をするつもりかはまだ不明だが、碌なことをしないのに変わりはない。
夜宵は急いで螢多朗を助けに向かおうとするが…。
「あ、大丈夫よ。螢くん狸寝入りしているだけだから。ほら」
ノートPCを夜宵に向ける。
螢多朗のバイタル値は覚醒と表示されており、カメラも注意深く見れば起きているのが分かる。
どうやら本当に寝たふりをしているだけらしい。
「多分、泡とか臭いとかで睡眠薬入りだって気づいたんでしょうね。口に含んだだけですぐ吐き出したわ」
「あ、今私にメール送ってきたわ。やっぱり盗聴してるのまたバレちゃったみたい」
「まあいいわ。進行ルートから計算して向かいそうな心霊スポットに当たりを付けてみるわ」
「……盗聴、バレてるじゃん」
軽く引く夜宵であった。
場所と時間はまた変わってT団地。
長山は集団首吊りの準備を行っていた。
睡眠薬で寝かせた学生たちを縛り、首に縄をかようとした途端…。
ガシッ!
眠らせたはずの螢多朗によって、首を絞められた。
背後から膝を蹴られて無理やりしゃがまされ、羽交い絞めにされる。
抵抗しようにも体勢が悪く、力が入らない。振りほどけない。
対する螢多朗は体重をかけて首を締め上げる絶好の位置にいる。
「が…ぁ……」
長山はそのまま気絶した。
「よし」
気絶したのを確認した螢多朗は、長山を縛り上げる。
その時であった、ガチャという音がして夜宵が入ってきたのは。
「すっごい手際良い。もしかしてやり慣れてる?」
「あ、夜宵ちゃんも来たの?」
こうして、螢多朗のサークル入りは無くなった。
「T団地の霊、ゲットだぜ」
帰宅後、夜宵はお化けを封印したぬいぐるみの首を締め上げた。
「あれ、夜宵ちゃんぬいぐるみなんて持って行ってたっけ?」
「螢多朗先生が眼魂に封印してくれた」
「アイコン? アレって螢くん以外使えないんじゃないの?」
以前、詠子は無断でアイコンに触れた事がある。
しかし結果は最悪。封印から逃れた悪霊を再び倒す事になった。
「確かに眼魂は先生以外使えない。けど、封印を解くだけならアイコンスイッチを押すだけで解除出来る。だから封印を解いてぬいぐるみの中に入れると、ぬいぐるみの中に再封印することが出来た」
「へ、へえ~……」
まさかこんな使い方があるとは。
要らないアイコンを処理できる方法がまた増えた。
人形供養の際、人間に害を為すような人形の魂を螢多朗が何個か眼魂に封じたらしい。
いくらか螢くんに譲ってもらおう。詠子はそう考えた。
「けど、逆を言えばこれぐらいしか私にはアイコンの使い道がない。アレは完全に螢多朗先生専用アイテム」
「まあ、ソレはそうよね」
眼魂。
ファントム魂を除いて、全て悪霊の魂が封印されているアイテム。
生成方法は螢多朗が弱った悪霊に目の紋章を描き、霊的エネルギーを注ぐことで完了。目の紋章が悪霊を吸収し、眼魂となる。
これは封印用アイテム。仮面ライダーゴーストやスペクターみたいに、強化するアイテムではない。
螢多朗の使うアイコンは英雄ではなく悪人の魂なのだ。故、乗っ取られる可能性がある。なのに螢多朗はアイコンを使って憑依させている。
「(ソレと、全部が全部あの人に合うわけじゃないみたい)」
花魁の魂の他にも、軍曹に引き合わせてみたが、ソッチはアイコンに出来なかった。
また、花魁のアイコンも使えることは使えるが、集めても効果はないらしい。その証拠に、番号が放火魔魂とダブっているそうだ。
「(あの不思議なベルトのせい?それとも、螢多朗先生自体に何かあるの?)」
分からない事だらけ。だから知る必要がある。これから一緒に戦う為に。
「ねえ詠子、螢多朗先生のデータとかある?」
螢多朗の自己評価はあまり真に受けないでください。
事実と違うことがあるので。