最初、俺は眼魂をファントム魂以外使えなかった。
俺の使うアイコンは原作と違って悪霊を使っている。
英雄みたいに協力してくれるわけがなく、解放した瞬間に逃げ出したり俺を攻撃したりしてきた。
アイコンは悪霊を封印する用。或いは燃料や回復アイテム。そう割り切っていた。……アランみたいに無理やり使えるようになるまでは。
今の俺はアイコンを無理やり使っている。
やってみたら出来た。
力ずくで征服するイメージで。
そしたら出来てしまった。
ソレからは以前より積極的にアイコンを集めるようになった。
更なる力を手に入れる為に。
ああ、そういえばガンガンセイバーも最初は使えなかったか。
だから最初は素手で戦ってたな。殴ったり蹴ったり投げたり。壁に叩きつけたりその辺の物とかで殴ったり。へし折ったり引き千切ったり、突き落としたり潰したりして。
中学の頃は格闘戦で戦って。
学年上がってからガンガンセイバー使って。
高校に入って眼魂を使えるようになってからはより強くなっていった。
出来ない事が出来るようになっていく。
しないような事をするようになっていく。
戦う度に、勝つ度に、強くなる度に。
俺は、変わっていった。
Sトンネル。
日中はそれなりに交通量があるのだが、夜になると人気がパッタリなくなる。
原因は幽霊が出るという噂のせい。目撃談も多く、被害に遭ったという話まである。
故、夜は誰一人近づかない筈なのだが、その日は騒がしかった。
「らあ!」
髪の長い女の霊をトンネルの壁に叩きつける。
自身を拘束し、首を絞めようとした敵の髪を利用。
掴み取ってグジャグジャに絡まらせ、敵の武器を無力化させた。
さらに、髪を掴んで振り回して壁に叩きつける。
何度も何度も叩きつけ、敵にダメージを与えていった。
「う、ぁあ………」
「………」
ボロボロになる女の霊。
対するファントムはダメージどころか疲れすら感じさせない。
バックルのレバーに手をかけ、トドメを刺す準備に入った。
『Destroy! Omega drive!』
黙ると死ぬベルトが叫ぶ。
拳に霊的パワーが集中し、眼前の悪霊……ではなく、その背後にぶつけた。
幻影。
予め捕えていた浮遊霊に、自身の姿の幻を張り付けたのだ。
しかし、ファントムには通じなかった。
螢多朗自身の霊感。
原作も霊の居場所を正確に察知した螢多朗の霊感。
積極的に悪霊を狩り、その為の力を伸ばした彼はそれ以上の霊感の精度を発揮する。
生半端な幻術で彼を騙すのは不可能。卒業生クラスは必要である。
「ごほぉ……!!?」
爆発四散。
叩き込まれた右ストレートパンチ。
同時に流し込まれた霊的エネルギーにより、悪霊は木っ端みじんに砕けた。
目の紋章を描き、霊力を注ぐ。
強烈な光を発しながら開眼。
眼の紋章が悪霊を吸い込み、光が収まるとアイコンになっていた。
「ッチ、また外れか。まあ仕方ないか……ほら」
拾ったアイコンを夜宵に投げる。
夜宵はソレをキャッチし横部のスイッチを押して起動させ、ぬいぐるみの中に入れた。
「Sトンネルの霊、ゲットだぜ」
「まあ、こんなもんか」
詠子の車の助手席。
俺は車内の手すりに肘をつきながら、ため息をついた。
「先生、不服?」
「ああ、これは思ったより暴れられなくて残念がってるの」
何でわかるんだよ詠子。……いや、長い付き合いだから分かるか。
「で、次はどこに行こうとしてるんだ?」
「次は旧Fトンネル。そこにこの子とは比べ物にならない強力なお化けがいるはず」
タヌキの人形の首を、黒い縄のようなもので絞めながら言う夜宵ちゃん。
さっき倒した霊を封印したぬいぐるみと、その霊の髪の毛。
自分の武器である髪の毛で拷問されるなんて、さぞ屈辱だろうな。
いや、痛みと苦しみでそんなこと考える暇もないか。
「気に入ったか、その髪の毛」
「うん、霊体だから幽霊を捕縛したり絞めたり出来る。すごくいい」
顔色も声色もあまり変わってないが、すごく喜んでるのが分かる。
こんな物騒なプレゼントを幼女に渡すなんて俺ぐらいだな。
「いいな~夜宵ちゃん。私も螢くんから戦利品貰ったことあったけど、霊感ゼロだから使えなかった」
「……戦利品を自分の女に渡すって、先生ってやっぱりヤンキー?」
失礼な、自衛の為に渡したんだよ。
その髪の毛の縄同様、霊の力が実体化したものは同じく霊体にダメージを与えられるからな。
「そこに行く前に、寄りたいところがあるんだけど」
「え?どこに?」
「O市のT川。そこに卒業生を置いている」
場所は変わってT川の川原。
そこには不気味かつ恐ろしい光景があった。
頭部に布が被された幾つも噛み痕があるマネキンに、電源がないのに砂嵐とはいえ映っているブラウン管テレビ。そして、その周囲を彷徨く怨霊。
かつてとある日本兵に取り憑いた敵兵たち。
死んで尚、戦時中の飢えと渇きに苦しんでいる。
怨嗟と苦悶の声を上げながら、彼らは救いを求めて生者死者問わず食らい続ける。
そんな危険な霊が跋扈する中、一つの影が現れた。
赤鬼の面のような顔面に3本の角。
仮面ライダーファントム。
夕日を背にして幽鬼の如く悠然と現れた。
「ぁあ~………」
兵士の怨霊たちが向かって来る。
ファントムは意に介さず、真っすぐマネキンの方へと歩く。
一振り。
近づいた怨霊を殴り飛ばす。
殴られた兵士は錐揉み回転しながら吹っ飛んでいった。
一振り。
複数の怨霊を纏めて蹴り飛ばす。
蹴られた兵士達は全員くの字に体を曲げられながら吹っ飛んでいった。
一振り。
囲んできた怨霊を纏めて斬り飛ばす。
いつの間にか手にしていた剣でによって兵士たちは真っ二つにされながら吹っ飛んでいった。
殴る、蹴る、斬る。
流れるかのように、連続て繰り出される。
それらによって亡霊共は次々と吹っ飛ばされていった。
しかし、これだけやっても敵兵は次々と湧いて出てくる。
「ッチ、流石にしんどいな。……起きろ」
『花魁!』
ファントムは何処からかアイコンを取り出し、スイッチを押す。
途端、アイコンから炎が噴き出し、人の形となった。
「やっとお呼びかい、主様」
炎が晴れ、女が現れる。
魄啜繚乱弟切花魁。
散った炎が炎の蝶となり、彼女の周囲を舞い飛んだ。
「主様に近付くな、下郎共が」
ファントムによって封印が解除された彼女は早速呪いを行使した。
第一の呪い、魄啜。
炎の蝶を無数に飛ばし、触れた者の力を吸い取って己の力にする。
その力で更に呪いを強化し、更に力を吸い続け、老化と弱体化を二重に食らわせる。
一度嵌れば、簡単には抜け出せない。ファントムのような例外を除いて。
「任せたぞ」
「ハイ、主様♪」
ポンと、花魁の頭を撫でるファントム。
花魁は嬉しそうに媚びた声で答え、更に攻撃の手を強めた。
「じゃ、目的の卒業生を回収するか」
剣―――ガンガンセイバーを銃モードに変更。
ソレをマネキンに向け、頭部を撃ち貫いた。
破壊されたマネキン。被された布が破け、中からぬいぐるみが落ちた。
風呂敷を背負った柴犬のぬいぐるみ。
無論、ただのぬいぐるみではない。
「お前が……俺を、殺してくれるのか?」
卒業生、殉国禁獄鬼軍曹。
封印の形代から解放された彼は、ファントムへと目を向けた。
「俺を…殺してみせろぉ!」
ガキィン!
軍刀を振り下ろす鬼軍曹と、ソレをガンガンセイバーで受け止めるファントム。
一手、二手、三手と。互いの得物をぶつけ合う。
「………やるな」
「そっちこそ」
十手目。互いの攻撃によって弾かれる。
「俺は幻燈河螢多朗。夜宵ちゃんに頼まれてアンタを回収しに来た」
「………そう言う事か」
鬼軍曹はため息を付いて軍刀を降ろした。
「もし、あの子の母を例の悪霊から解放出来れば、俺を殺してくれるのか?」
「ああ、その時は死ぬまで俺が相手になってやる。けど今はその時じゃない」
「いいだろう、お前に付いて行ってやる」
「そうか。これからよろしく、鬼軍曹」
ファントムが目の紋章を描く。
鬼軍曹は眼魂となり、ファントム―――螢多朗の懐におさまった。