8番出口から脱出するベルとレフィーヤ   作:37級建築士

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3話ぐらいで終わる予定


(1)

 とある日のこと、ベル・クラネルは休日に街を歩いていた。

 

 同じく、レフィーヤ・ウィリディス彼女も休日に街を歩いていた。

 

 偶然、二人は同じに休日を謳歌しようとした。そんな矢先、幸先の悪いことに、レフィーヤのカバンがひったくりにあってしまった。

 

 

「待ちなさい!」

 

 

「!」

 

 

 ひったくりの男、獣人のゴロツキらしく身体能力は冒険者のレフィーヤが優るが、ここは普段来慣れていない地区であったため、地の利があるゴロツキが一歩先を行く。

 

 そんな逮捕劇に、偶然遭遇したのがベルであった。町を歩く二人の線が交わったのだ。

 

 

「れ、レフィーヤさん」

 

「あなた、いえ今は……もう、あなたでいいです。私についてきなさいッ!」

 

「ご、ご理由を!!」

 

 

 犬猿の仲、もはや腐れ縁。レフィーヤにつかまったベルは首根っこ引っ張られゴロツキ逮捕に駆られてしまった。

 

 

「あなた、バカみたいにチートな魔法を使えるんでしょ、今すぐあのゴロツキを燃やしなさい!」

 

「駄目です、ここは街中!」

 

「大丈夫です、怒られるのはあなた一人ですから」

 

「それ全然大丈夫じゃないですからッ!?」

 

 

 

「うわ、もう一人増えやがった……彼氏か!?」

 

 

 

 

 その上、ゴロツキは要らぬスイッチを押してしまった。レフィーヤの顔が真っ赤になったと思えば今度は般若の様な顔つきに

 

 

 

 

「な、何だあの女……やばい、捕まったらヤバイ」

 

 

 ポーチを手放した男、そのまま商店街の雑踏から飛び出して、薄暗い路地へと逃げ込む。

 

 場所として、ここはダイダロス通りの範囲。迂闊に飛び込んで迷ってしまったら大変だ。ベルは引き返す様に打診するが。

 

 

「駄目です、制裁です……あの男には言った言葉の責任を取らせます……主に、痛覚でッ」

 

 

「それ、もうレフィーヤさんが逮捕されちゃいますからッ」

 

 

 取られたポーチを回収するも追跡は続く。立体的に逃げる狼人のゴロツキを追って、奥へ奥へと踏み込んでいく。

 

 知らぬ路地、階段を下りて、暗い道へと突き進む。

 

「……は、はッ」

 

 

「待て、待ちなさい」

 

 

「レフィーヤさん、もうこれ以上は」

 

 

 

 逃げる一人、追う二人。

 

 そうして踏み越えてしまった三人は、知らぬ間に、確実に侵食していく異変の領域を気付くことなく。不用意に、ただただ不幸に。引き返せない闇に飲まれてしまった。

 

 まるで、瞬きをしたら世界そのものが変わってしまったかのように

 

 異変は彼らを内包して、元の世界への境目を完全に閉した。

 

 

 

 

 

 

<<0番通路>>

 

 

 

 

 

「……ここは」

 

 

 

 目を覚まして、なんて行動を取る時点でもうおかしい。

 

 走っていたはずなのに、それまでの記憶がバッサリと消えている。

 

 夢から覚めたように、現実を目と耳が認識する。ただ、見て聞いて、今この場で立っている世界

 

 ここは、果たして現実なのかは、はなはだ疑問だ

 

 

 

「れ、レフィーヤさん」

 

 

 すぐそば、自分の隣に坐して、茫然としている彼女を揺さぶり起こす。

 

 びくっと震えて、そしてすぐ今しがた自分がとったような反応を示す。

 

 手探りで、触れて、自分に掴んで、そして

 

 

「……ここ、どこですか」

 

 

「さ、さっぱり……です、何もわかりません」

 

 

 無機質な音、何かの音は聞こえる。どこか、遠く続いている道から、反響して、微かに届いている。

 

 今、自分たちがいるのは道だ。

 

 道、建物の中の通路。

 

 目にしてわかるのは、ただそれだけ

 

 

「……明るい、魔石灯だよね」

 

 

「ちょっと、なにをしてるんですか?まだ、ここが安全かどうかも」

 

 

「え」

 

 

「異常です、それにここ……もしかして、クノッソス?」

 

 

「!」

 

 

 共通の言葉、互いに息を飲んだ。

 

 もしや、偶然ダイダロス通りを駆け抜けている内に、僕らはまた迷い込んだのだろうか、と

 

 異様な空間、そして、窓のない通路。

 

 けど、意匠は違う。こんなに普通の場所だったか

 

 

「先、見てみます」

 

 

 自分たちが立つ場所、後ろへ続く道と前へ続く道。

 

 まっすぐ行けば途切れていて、けど左に曲がる道がある。

 

 どのみち、確認しなければ何も始まらない。

 

 

「……ッ」

 

 

 壁に貼りつく。ヒンヤリ冷たい石の壁、材質は知らない。そして、覗き込んだ先には、また、行き止まり。

 

 

 通路は、まだ先がある。

 

 

 まっすぐ、左に曲がって右に曲がる、そしてその先は

 

 

 

「なに、これ……ポスター?」

 

 

 

 危険は、なさそうだと判断した。

 

 曲がって前の方向に進んだ。自分達がいた場所よりも長い道。

 

 右の壁には、通気口の様な穴と、扉、出っ張った何かと、これは、読めないけど煙草だろうか。吸ってはいけないと、お達しがある。

 

 左側は、ポスター、これはオラリオでも見たことのあるものだ。

 

 何ら変ではないけど、妙に色彩豊かで、そして鮮明で、艶やかで

 

 

「うわ、これって絵なのかな?」

 

 

 まるで人が書いたとは思えない鮮明で正確な人物画。けど、これは普通ではない?

 

 

 

「書いてる文字が読めない、というか知らない。仕事の広告かな?それと、舞台の宣伝?……なんだか違う文化なんだろうけど、取り敢えずオラリオじゃないよね。オラリオには、こんなもの無い」

 

 見渡す限り違和感しかないのだ。思えば、さっきから魔石灯だと思っていた灯も妙だし、真っ白で赤みを含まない燦燦とした光。

 

 この通路の行きつく先を示す小さな看板にも光は入っている。矢印と言葉は読めない、でも数字はわかるものだ。

 

 違和感はあるけど、この通路のものは妙に自然さがある。人が意図して作ったもの、人が普段から利用するために作られた、ごく普通の道だ。通路の端にある真っ黒の半円も、道に敷かれている黄色い隆起した道も。当たり前のようにそこにある。ここまで違和感を覚えるのは、僕らの方が異物だからかもしれない。

 

 

「ベル、あなた勝手に……なに、ここ?」

 

 

「すみません。先に進んで、見てましたけど……わかりませんね、取り合えずもう少し先に」

 

 

「き、危険です……罠があるんじや」

 

 

「あるかもしれない……でも、立ち止まっていても、何もわかりません」

 

 

「……先に、行くの?」

 

 

「はい……一緒に、行きましょう。一応、備えておきます」

 

 

 護身用のヘスティアナイフ。持ち運びやすいから、オフの日でもしまっておくようにしている。

 

 ナイフを構えて、通路の奥、背後も警戒しながら、息当たりの道を、左に曲がる。

 

 

 曲がって、また行き止まり

 

 

 

「……?」

 

 

 

 進んで、そして、また右を見る。

 

 

 

「え、ここって……まさか」

 

 

「……進んでない、そこの看板」

 

 

 

 レフィーヤさんが指さした。

 

 さっきのよりも短い通路。まるで、僕達が目覚めた場所と同じ。

 

 そして、僕は気づいていなかった。

 

 

「これ……同じです。あの場所にあったのと」

 

 

「レフィーヤさん!」

 

 

 

 走って、背後の道へ戻る。急ぎ追いかけようとした。けど、どうしてか、僕は踏みとどまってしまった。

 

 

 

「え」

 

 

 

 音が聞こえる。走ってくる音が。二つ。

 

 遠ざかる音、そして今は、近づく音が大きい。

 

 

 

「!」

 

 

 通路の先、少し進むと、そこは又左に曲がって右に進む通路だ。飛び出して、来たところを」

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

「え、なんで……どうして、あなたは後ろに、え?」

 

 

 

「……レフィーヤさん、まさか」

 

 

 

「看板……同じ、さっきの道も」

 

 

 

「さっきの?……ま、まさか」

 

 

 

 今しがた、レフィーヤが走ってきた通路、そこを見る。

 

 ベルが見たのは、今しがた自分たちが通ってきた道と同じ。同じ特徴の道だ。

 

 

 

「え、どうして……やっぱり、同じ?」

 

 

 

「……戻って、さっきの看板」

 

 

 

 確認、看板のある通路にいき、また角を曲がった。

 

 通路だ。今しがた通った道と同じ。

 

 

 

……もう一度、いや繰り返しても、また

 

 

 

「……は、はは」

 

 

 

 気が狂ってしまいそうだ。既存の情報から離れすぎていて、いっそ笑いが出てしまう。

 

 夢から覚めても夢を見ていた。そんなばからしい話であって欲しいと、心から願った。けど

 

 

 

「ベル、ベル・クラネル……気を確かにしなさいッ」

 

 

「……————ぁ」

 

 

 レフィーヤさんに肩を掴まれて、ふと忘れていた呼吸を取り戻す。

 

 息を吐いて、吸って……考えを、まとめる。

 

 

「……先、進むべきじゃない……動くのは、危険です」

 

 

 恐る恐る告げた。

 

 自分の想像が、真っ先に浮かべた仮定が、頭のおかしくなった薬物乱用者のような外れた意見出ないことを祈って。

 

 だけど、打ち出した意見は

 

 

「今は、そうですね……少し、整理しましょうか……気持ちを」

 

 

 ダンジョンと同じ。

 

 想定外の事態にあっても恐怖で思考を投げ出さず、かといって楽観せず。

 

 普遍的に、今起きている状況に向き合う。

 

 

……何が原因、じゃない

 

 

 

……何が、起きているか。現状を、認識する

 

 

 

「もう一度、進みましょう」

 

 

「……えぇ、注意して進みましょう」

 

 

 意を決して、僕らは向かう。

 

 看板の示す先、今ここにいるのが、仮に表示の数字の通り、ゼロであるなら。

 

 向かう先は

 

 

 

……8、だよね

 

 

 

 文字と思しい記号は読めないが。8という数字と矢印は同じ

 

 進める。

 

 だが、進んだ先には、また

 

 

「誰!」

 

 

「!?」

 

 

 曲がって、次の通路に行こうとした。だけど、その先から現れたのは

 

 人、男

 

 

「だ、誰ですか!」

 

 

「……ッ」

 

 

 身構える。丸腰のレフィーヤさんを庇って、その男が近づくからナイフを構えた。

 

 必要なら、何時でも攻撃に転じられるように、力を注いで足を縮めたバネにする。

 

 

「答えてください、あなたはどこから!!」

 

 

 話しかける、だけども、この男は、こっちを見ていないどころか

 

 

「ま、待って……ベル」

 

 レフィーヤさんの手が僕のナイフを持つ手に重なった。

 

 純手に持ったナイフを、前に突き出せば刃が届く間合いに入った。

 

 

 

「……ぇ」

 

 

 男は、ナイフを持つ僕に目も配らず、ただ進んで、通り過ぎて

 

 

 

「……な、ちょっと!」

 

 

 

 出会った第三者、当然このまま見放すわけにはいかない。

 

 速足で追いかけて、通路を左に曲がった先

 

 

 

「?」

 

 

 男は、立ち止まっていた。

 

 手に何か小さなものをもって、その場で静止。

 

 

「……あの、すみません」

 

 

 

 話しかける、時が止まっているわけじゃない。息遣いもあるし、生きているおじさんなのは確かだ。

 

 だけど、人形の様にその場に立って、ただそれを見ている。その、手に持った何かを

 

 

 

……時計、時間を見ている?

 

 

 

「……ベル」

 

 

「わかってる、戻ろう……わからないけど、離れた方が」

 

 

「違う、違います……ここ、戻ってきたはず、ですよね」

 

 

「……そう、だね」

 

 

「おかしい……だって、あの看板……右にないと、ほら!」

 

 

「!」

 

 

 先を行くレフィーヤを追って

 

 僕は、気になるおじさんを置いて、あの看板がある短い通路に戻る。

 

 そして、言っている言葉を理解した。

 

 

 

「ゼロ、ゼロです……この看板、左にあるって……私達、逆に戻って来たなら……この看板、右の手前にないとおかしいのに、どうして左の奥側にッ」

 

 

 

「……————ッ」

 

 

 

「それに、この案内板……無かったはず」

 

 

 

 指さすは、看板の左隣

 

 何もなかったはずなのに

 

 そこには、読める文字と、その文字の下に

 

 

 

「……読める、共通語だ」

 

 

ご案内

 

 

 

 太く書かれた文字の下

 

 四つの文面が書かれている。それはまさに、今起きている自分たちの状況を教える手引書。

 

 そして、これがやはり異常な事態であることを突きつける、残酷な文言でもあった。

 

 

 

「……ここは、オラリオじゃない。クノッソスでもない」

 

 

「そ、そんなの……そんなこと」

 

 

「……それ以外、説明が付きません。ここは、僕たちの知らない、未知の空間です」

 

 ここがどこか、それを知るための手がかり。

 

 案内板と太く書かれた見知らぬ文字、その下に翻訳の意図で置かれたコイネー、そこに現状を理解する手掛かりが四つ。

 

 上から順に

1.異変を見逃さないこと

 

2.異変を見つけたら、すぐに引き返すこと

 

3.異変が見つからなかったら、引き返さないこと

 

4.8番出口から外に出ること

 

 

 

 どことも知らない場所。

 

 見知らぬ壁、見知らぬ天上、そして不自然な通路

 

 生きているのに、まるで人形の様に何も反応しない男

 

 

 ただ一つ、この状況を言えるとすれば。僕たちは囚われてしまったということだ。

 

 

 この、八番出口に続く、無限の通路に

 

 

 

 

 




冒頭はここまで、次回攻略開始
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