8番出口から脱出するベルとレフィーヤ   作:37級建築士

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胸糞注意、リョナタグいるかも


【IF】取り返しのつかない失敗②

 

 

 

 あれからどれだけ時間が経ったか。

 

 慎重に進めた僕らは決定的な間違いを犯してしまった。それ故に、僕らは永遠にこの通路に閉じ込められてしまった。

 

 制限時間以内に出口にたどり着けなかった。

 

 僕たちは、この8番出口に続く通路を、無限に彷徨っていた。

 

 

 

 

…………カツ……カツ

 

 

 

 

 疲労は無い。

 

 

 何をしても僕らは疲れない。

 

 

 眠ることもできないし、かといって死ぬこともできない。首に込めた手の力は、異常なほどに弱くなっていた。

 

 普遍の通路は、僕らの終わりを許さないのだ。

 

 

 

 せめて、そうだ、ナイフがあれば。切れ味があれば力が無くても死ぬことは出来たと思う。でも、不幸なことに僕はナイフを捨てている。

 なぜ捨てたのか、正気が強く残っていたからなのか、その時の僕はまともな判断をしたのだろうけど、今の僕にとっては唾棄すべき愚かな行為だ。

 後悔、思い浮かべれば全く尽きることは無い。なんせ、僕らは永遠を歩いている。記憶さえも消えてくれないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

<<∞番通路>> 

 

 

 

 

 

 体に傷を刻んでみた。時間なんてもう感覚はないけど、それでもやってみることにした。

 

 軽い傷なら爪でも付けられた。ひっかき傷で赤くなった腕の線、手首から始まってもう肘のところまで登ってしまう。

 

 

「……」

 

 

 傷をつけるのを止めた。

 

 傷をつける場所がなくなったら、次はどこに求めるか、その先を考えると何故か止まった。

 

 

 

「…………ぁ、ああぁッ」

 

 

 

 溢れる痛み、精神の狂い、立ち止まって、傍に居る何かを押し倒す。

 

 慣れた手つきで、それを、僕は味わう。

 

 

 

「ッく……ぅあ、ぅああぁああ」

 

 

 

 涙があふれてしまう。酷いことをしているから、でも何が酷いのかもうわからない。

 

 でも、両手はそれを抱きしめている、口は何かの言葉を発している。

 

 

 消え入る震え、何かが抜け落ちる感覚、消失した体重、僕は何かの声を聴いている。

 

 

 

 

「……だい、じょう、ぶ……だいじょう、ぶ……だか、ら」

 

 

 

 

「————————ッ」

 

 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

 

 朝起きて、今日も僕らはダンジョンに向かう。

 

 いつもの道だ、そして隣にはレフィーヤがいる。僕の、大切な人だ。

 

 

 

 

「レフィー、くっつきすぎだよ……歩きにくい」

 

 

 

「……駄目です、あなたかっこいいから、目を離すとすぐ他の女の子所に行っちゃうから」

 

 

 

 可愛い嫉妬で今日も距離感が近い。

 

 ずっと、僕を慕ってくれている女の子だから、そんなところもすごく愛おしい。

 

 

 

「昨日、ダンジョンですごいことがあったの……って、聞いてください、もう」

 

 

 

 

「うん……ごめんよ、ちゃんと聞くから」

 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

 

 手を繋いで通路を歩く。

 

 道すがら、話すことも無い僕らはごっこ遊びを始めた。

 

 兄と妹、立場を変えて色んな関係になっても見た。

 

 だけど、それもいつしかはむなしくなってしまった。

 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

「……あは、あははははは」

 

 

 

 とっても良く笑う。

 

 名前、憶えている。

 

 でも、最近は忘れっぽい。

 

 思い出したのに忘れる。忘れるはずがない、こんなにもすぐ傍に居るのに、どうして僕は忘れるのか。

 

 

 

「あはははは、ハハハハハハハハハ」

 

 

 

 

「……ベル、自殺しましょうか」

 

 

 

 

「ナイフ、貸してください」

 

 

 

 

「……無いの」

 

 

 

 

「どうして、どうしてどうして……あはは

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして…………」

 

 

 

 

 

 

 

「役立たず、死んじゃえ」

 

 

 

「死ね、死んでよ、早く死ね」

 

 

 

 

 

 

 

「………………死んで欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、続くの?」

 

 

 

 

 

 

 

    ×    ×    ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠ることができない、立ち止まることが恐ろしい。

 

 だから、進み続けていた。壊れそうになる気持ちをごまかすために色んな事をしたけれど、先に限界が来てしまった。

 

 音がした。立ち止まる音がした。

 

 

 

 

「……れ、ふぃ」

 

 

 

 答えない、立ち止まった。その場で女の子すわりになって、うつむいたまま。もう、何も言わない。

 

 

 

 

「…………ぁぁ」

 

 

 立ち止まっている、どうしたのだろうか。

 

 

「……先、行くね」

 

 

 立ち止まる人がいる。ただ、それだけのこと

 

 進まないなら、置いて行く。

 

 通路を曲がって、まっすぐ進んで、また曲がる。

 

 

 

「……————」

 

 

 

 音が減った。一人分の音しか通路に響いていない。

 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 何も起こらない、異変は起きない

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 一人だけだと、喋ることも無い。

 

 話しかける相手は、もうついてこない。 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 体を重ねた体験も、徐々に消えていく。

 

 記憶が消えていく、少なくなっていく。頭が軽い。

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

 

 頭が軽い

 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

 軽い

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

 

 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

<<∞番通路>>

 

<<∞番通路>>

<<∞番通路>>

 

 

 

 

『覚悟が決まったようだね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『決断したのは君だ、はっきり言っておすすめしないがね』

 

 

 

 

 

 

『背負うと決めたのは君である以上、私からは何も言えない。終わってしまった君たちが再び起き上がるためには、避けられない重荷だ』

 

 

 

 

 

『しかし、君はその重さを一人で背負わないといけない。いやはや、避けられない仕組みとは言え、悪辣が過ぎるな』

 

 

 

 

『さて、やり方はわかるかね?』

 

 

 

 

『その手の行為はどれも同じだ、躊躇わないことだ。少なくとも、苦しませないためにも』

 

 

 

 

 

 

    ×    ×    ×

 

 

 

 

 

 

 それを目にした時、僕は忘却の彼方から途方もない暖かみを思い出した。

 

 

 レフィーヤ・ウィリディス。僕の知っている彼女は、とっても元気で感情が豊かな女の子。

 

 この迷宮に閉じ込められて、その魅力を知った。理解して、引かれて、欲した。

 

 

 

 

 

……救わないと、僕が 

 

 

 

 

「……ッ————」

 

 寂しい気持ち、穏やかな気持ち、そのどれとも言えない。

 

 気持ち以前だ、心の痛みで吐き気が止まらない。手に伝わる罪の温度が脳に激痛を及ぼす。

 

 壊れかけの精神ですら、この惨憺な汚濁に耐えられない。

 

 

 

 

「……レフィ、ごめん」

 

 

 

 

 したくない、こんなことしたくてしているわけがない。

 

 手の中にある小さなもの、皮と肉の先にある硬い物、命を支える骨の最たる重要部位、それが今僕の手の中。

 

 女の子の首は、片手でも締めてしまえるほどに華奢でか細いと僕は知った。

 

 

 

…………ぐぐ、ぐぬッ

 

 

 

「ァ、ァァ……かっふ……っか、あぁ……ァァア」

 

 

 

 

 力なく垂れる両腕、締め付けられて信号が途絶えているのか、元々絶え絶えだからか。

 

 レフィーヤさんは抵抗なんてできない。

 

 されるがまま、僕の手に首が絞められている。

 

 

 

 

「い、や……ぁ、かひゅ…………ッ……ク、ひ……ぃあ」

 

 

 

「……うぅ、ああぁあッ……あぁ、はぁ、はあぁッ」

 

 

 

 見ている。開いた眼が僕を見ている。

 

 殺されることへの怒りじゃない。ただただ悲しくて、だけど嬉しさの様な笑みを見せている。

 

 楽にしてくれる、そんな風に受け取ってくれている。

 

 

「……ァ…………か、ひゅ……ぁ、ぁ」

 

 

 

「!」

 

 

 

 添えた手、首を絞めつける僕の手に、ほんの少しだけ指先が届いてまた落ちた。

 

 泡の唾液が漏れ出る口、色の失せた顔、光のない目

 

 なのに、笑おうとしている。口角が上がっている。

 

 

 

 意を伝えてきた。レフィーは僕に願っている。締め付ける手で、そのまま、最後の一押しをしろと。

 

 

 

 

 

「レフィー……レフィー、レフィー!!?……うぅう、ゥウァアアアアアアアアッ!?!!?!??」

 

 

 

 

 

 

「…………————————————ァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————コキッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反発する両手、飛びのく体、崩壊する意識の濁流。

 

 命を絶った。この手で、モンスターではない、生きた人の、親しい相手の首の骨を

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ、ああぁああ、っぐす、あっぐ……ぁ、あああぁ、うぅうああああああああ——————ッ」

 

 

 

 

 

 

 大粒の涙が弾けて顔中がずぶ濡れになる。見えない、見ないといけないのに、見ることを拒んでいる。

 

 僕がへし折った。その首を、レフィーヤの首を。

 

 死んだ、終わった。

 

 この無限の地獄で、君だけは救済を得られた。

 

 

 

 

 

 いい、これでいい。

 

 

 

 

 

 

 これが、たった一つ、この迷宮で残された出口。

 

 

 

 

 

 

 レフィーヤは死んだ。僕が殺した、僕の手でその命を、手折った。

 

 

 

 

 

 取り返しのつかない失敗、その報い、僕が背負うべき罪。

 

 

 

 

 

 

「……行かないと、進まないと」

 

 

 

 

 

 

 無限に等しい道の先へと歩を進める。踵を返すことも、後ろ髪をひかれる思いすらおこがましい。

 

 進むしかない、この、限りなくゼロに等しい無限の世界へ、僕は進み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 一歩、一歩ずつ

 

 

 

 




以上、最悪の結末でした。

一応、これで終わりです。バッドエンド、制限時間を破った二人の末路です。

進み続けて狂って、最後はどちらかがどちらかを殺すしかない。

死は救済、だけど救われない一人はいます。




……と、ここまでは胸糞バッドエンドです。なんですが、実はまだ続きます。





次話、取り返しのつかない失敗③





最悪のバッドエンドからの反転、そんなお話を見たい方は次の話をお楽しみに。ただし、救われるとは限りません。どのみち最悪のバッドです。その点をご了承していただけますと幸い。



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