8番出口から脱出するベルとレフィーヤ   作:37級建築士

12 / 20
こういう展開は卑怯かな。困ったときのなんちゃら神話


【IF】取り返しのつかない失敗③

 鳥の声を聴いた。

 

 長い長い眠りから覚めて、可憐な妖精は寝坊助な眼をこする。

 

 

 

「…………あれ」

 

 

 

 おかしい、どうしてと

 

 まっさきに出てしまったのは疑問の言葉。今起きている自分の状況に違和感を持つゆえに出る言葉。

 

 

 

…………おかしい、な

 

 

 

 

……わたし、何を気にして

 

 

 

 

 

「レフィーヤ、もう起きてるんなら返事してよ!」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 甲高い声、聞き覚えのある声

 

 扉が開いた、褐色の肌に露出の多い服装。

 

 ティオナ・ヒリュテ、名前が脳裏に浮かぶ。

 

 

 

「……ティオナ・ヒリュテ」

 

 

 

 知っている、口にしてそれが親しい仲間の名前だと思い出した。

 

 変だやっぱりおかしい、そんな風に心がざわつく。

 

 

「もう、どうしたのさレフィーヤ……なに?お腹でも痛いの?」

 

 

 尋ねてくる、シーツを引っぺがして彼女は、いやティオナは自分を引っ張り上げる。

 

 触れられている、その感覚は慣れ親しんでいるはずなのに。果てしなく久しく感じてしまう。

 

 矛盾した感覚が、ずっと付きまとう。

 

 

「……あの、どうして」

 

 

「予定、一緒にダンジョンに行く予定……約束したじゃん、もう本当に忘れてたの?もしかして、体調がわるかったりする?……ねえ、ねえったら」

 

「…………わかりません、でも」

 

「でも?」

 

「……なにか、欠けている気がします」

 

 

「?」

 

 

 

 質問に対して答え切れていない。

 

 レフィーヤは、自分の違和感を感じ取れても、その仔細が気づけない。

 

 知っているはずの物事に微妙な齟齬が生じたり、妙にけだるげであったりする精神も、そんな諸々よりも、たった一つのナニカが気にかかる。

 

 

……何を忘れているの

 

 

 

……わたし、何か大事なこと、こと、もの?

 

 

 

……いや違う、アレは、人

 

 

 

 

「駄目……思い出せない、どうして」

 

 

「!」 

 

 

 

 疼くまる。盾ない程に虚脱する体。

 

 まるで、何度も何度も同じ徒労を吐くほど体験したような、そんな倦怠感。

 

 しかし、それすら差し置いて、この感情が酷く心をかき乱す。

 

 

 

 

……寂しい

 

 

 

…………どうして、どうしていないのですかッ

 

 

 

「れ、レフィーヤ……だ、誰か来て、レフィーヤの調子がおかしいの!」

 

 

 

「——————ッ」

 

 

 

 思い出せない、確かにこれは誰かとの記憶。

 

 体が覚えている、外側でも内面でも、あの人のことは知っている。感じている、繋がったことさえあった。

 

 なのに、消えてしまっている。空白がある。

 

 消えてしまった。あったはずだと、この心が騒いでいるのだから。

 

 

 

「どこに、どこに消えたの……わたしは、こんなにも頼りない……あなたがいないと、私は……わたしはッ」

 

 

 

 叫ぶことさえできない。思い出せない名前は、口に出しようがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<∞番通路>>

 

 

 

 

 

 

 

 一人道を行く。

 

 置き去りにしたレフィーヤの横を通り過ぎて、また通過して、繰り返し。

 

 視力にも意味はない。体は決まった動きをするだけ、変化のない通路で精神はついぞ耐えられない。肉体は不変でも、精神までも不変とはいかない。

 

 

 異変は起きない。

 

 

 なのに、なのにだ

 

 

 

 

 

……カチャリ

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 枯れた砂地に水が染み入るように、急速に満たされていく。これまで何も起こりえなかった不変の通路に異変が起きた。

 

 変化の無い繰り返しが崩れた瞬間、爪先から頭のてっぺんまで、何度も刺激が駆け抜けた。

 

 

「…………」

 

 

 癒着していた管が無理やりこじ開けられて、覚醒という生きた本流が全身をめぐる。

 

 感覚を取り戻した。

 

 

 僕は、僕の意思で動いている。

 

 

 

「……入れって、言ってるのか」

 

 

 

 扉が開いた。

 

 開いた先は何も見えない。真っ暗なまま、異変であるとすればその先はおそらく死、進めば死。

 

 死ぬ、死ぬことが出来ればこのループが終わるかもしれない。

 

 

 

 

「——————ッ」

 

 

 

 

 躊躇いは無かった。砂漠で見つけたオアシスへと走る世に、死という救済目掛けて足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 なのに、欲した死はどこにもない。

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 そこには何もない真っ暗な空間が広がっている。ただ、それだけ。しかし、目を凝らせば見えてしまった。黒服に、初老の顔立ち。見慣れたおじさん、その人がいた

 

 

「……あなた、は」

 

 

 

 おじさんがいた。黒いスーツを見にまとい、何も僕らに話しかけなかったおじさんが、何故か手を指し伸ばしてくれた。

 

 

 

 

 

 

「……誰ですか、あなたは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永遠を繰り返し、正気を失わず歩き続けてきた。

 

 壊れながらも、僕らは前に進んだ。その無為な行動には、確かな意味があった。

 

 

 限りなくゼロに近い、圧倒的な無の道。

 

 だけど、完璧なゼロではない、ほんの僅か、無限に等しく続いてゆくゼロの数列の果てに、確かな1があった。

 

 

 

 

 八番出口の∞通路で、僕達は取り返しのない失敗をした。

 

 

 

 これは、そんな地獄よりもさらに劣悪な末路が、今僕の行く先に提示されている。だからこそ、僕は

 

 

 

 

 レフィーヤを、助けることができるのだ。

 

 

 

 

 

 

『おめでとう少年、君はきっと運がいい。だがしかし、君は君の世界でもっとも不幸で憐れな少年となるだろう』

 

 

 

 

『……気を悪くしたなら謝罪する。しかし、純然たる事実だ。おそらく、君の取り巻く状況に私は答えを出せる。だかしかし、それは死よりも恐ろしく無惨な結末だ。おすすめはしない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無限に繰り返すこの通路を抜け出したいのなら、このまま私についてきなさい。君の知りたい答えを、出来うる限り教えよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私の名か、なに……大したものではない。ただのカーターだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ランドルフ・カーター。古びた鍵を持つ、ただの旅人だよ』

 

 

 

 

 

 

 




 
 この話、好感度を最大にした上でゲームオーバーしないとたどり着けない特別なバッドエンドなんです。だからこそね、かなり特殊な展開に突入。
 オラリオ世界に現れた八番出口、その真相をぬるっと明かしてついでにレフィーヤも救います。


 首絞めて首の骨折って殺してなかった?いいえ、ちゃんと救います。矛盾はありません。

 
 最終話をお楽しみに、投稿は2月予定。ゆっくり書いていきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。