8番出口から脱出するベルとレフィーヤ   作:37級建築士

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完結です。ここまで読了お疲れさまでした。


【IF】取り返しのつかない失敗④

 

 神のいる世界、それすらも多くあるたった一つ、世界を内包した宇宙すらも複数。

 

 一は何処までも矮小で、全は果てしなく広く人の身では末端すら知ることすらできない。人間一人、仮に神様でも同様、出来ることなんてたかが知れている。

 

 僕らは、より上位の存在の気まぐれで存在が保たれていて、そして気ままに滅ぶ。

 

 

 

 オラリオが、神と人が共に歩む時代に在る世界であっても、それは変わらない。

 

 

 

 

 

 

「カーターさん、でいいですか」

 

「あぁ、それでいいとも」

 

「……あなたは、どうしてここに現れたのですか」

 

「なに、わたしはただ迷ってここにたどり着いただけさ。鍵の導くまま、行きたい所なんてものはとうに無い考えだよ。私は偶然ここにたどり着き、そして君に出会った」

 

「……偶然、そんなこと」

 

「あぁ、そうともさ……聞く限り、君と私の出会いはとても幸運のようだ。君が背負った罪状を聞く限り、実に君は幸運だ」

 

「…………罪、僕が」

 

「あぁ、すまない、少し先走ってしまった。」

 

 軽く頭を下げる。

 

 落ち着いた所作、語る言葉は幾星霜の経験を有している。それ故に出る独特のリズムを感じる。

 

 

……妙に落ち着く、染み入る

 

 

 変化のない世界でやせ衰えた心身に注がれる、変化という刺激物。

 

 正気に戻るための栄養で、けれども過剰に受け取ればやせた入れ物が裂けてしまう。この人は、何かとてつもなく大きな力と知恵をもっているはずなのに

 

 どこまでも、ただ平凡な一人の初老男性として僕に向かい合っているのだ。

 

 

「……あなたは、僕を……僕たちを助けてくれるのですか」

 

 

 差し伸べる手も無いのに、僕は必死に縋ってしまった。言って、早急だったかと悔やむが、一度出した言葉は飲み込めない。

 

 カーターさん、その手に持つ鍵で世界を渡っているのなら

 

 それは、僕にも

 

 

「僕は、ここから出たい……帰りたい、レフィーヤと一緒に、だから」

 

「私の口から言わせないで欲しいな。すまない、子供に嫌な言葉を言いたくないのだ」

 

「……そのカギは」

 

「あぁ、これのことか」

 

 

 カーターさんが手にしている、銀色の鍵、奇妙な文字が刻まれているそのカギ、大事そうに持っているソレを

 

 

「……構わない、持っていたまえ」

 

「え?」

 

 

 あっさりと、まるでハンカチを手渡すかのように、そのカギを僕の手に。

 

 

「ただの鍵だ、君が手にしても変わらない……しかし君は罪人故ここからは出られない」

 

 

「……罪人、なんですかそれ……僕は、なにも」

 

 

 

「ああ、そうだとも……君は何も悪いことはしていないさ」

 

 

 

 しかしだ

 

 

 

 

 

「君を含め、あの通路に入ってきたものは皆侵入者だ……彼の存在の領域を犯した罪人だ」

 

 

 

 

 

 

 カーターさんは笑い話のように告げている。まるで、そんな理不尽が良くある程度のことだと言いたいように、そう僕らの境遇を客観的に教えてくれた。

 

 

 僕らの世界、仮にここをオラリオ世界として、この世界には異常なナニカが紛れ込んでいた。

 

 それは神々しくもおぞましい、そして人の力ではどうにもできないほどにスケールの大きい相手。だから、遭遇しないことを祈るしかない、それほどの存在。

 

 ダイダロス通りの中に、入り口が幾つもあった。そして、僕らはそこへ足を踏み入れた。

 

 あの通路は意図して作られたモノ、そして通路の上より僕らを眺めている存在がいた。

 

 僕らはずっと見られていた。

 

 ナニカは、僕らの罪を許す条件として、あのルールを課したのだ。8番出口から出ること、それが出来なければ死ぬ、そんな遊戯をナニカは望んで創り上げた。

 

 身勝手で理不尽に、ヒトの命を何とも思っていない。

 

 しかし、それが許されるのが上位存在故。オラリオ世界のさらに外にある、単純により大きな存在、もはや自然そのものと言ってもいい程に超越している概念。

 

 だから、抗うことなんて許されない。

 

 僕らは、なるべくして罪人となった。

 

 罪人に課されたのは流刑、永遠の通路で精神が壊れるまで彷徨い続ける。

 

 それが、僕とレフィーヤの罪、時間以内に脱出できなかった、ナニカの興を損じさせたことへの代償。

 

 理不尽に正当な罰だと、今僕は教えられた。そして、そんな罪人を、こうして目にしている以上、納得しないといけない。

 

 あぁ、これはもう、どうしようもないことなんだと

 

 

 

 

「理解は得られた、しかし感情はどうにもならない……わかるとも、君は正しく人だ。そうなって当たり前だ」

 

「……カーターさん」

 

 真っ暗な世界で、沢山の窓を見ながら、僕らは話をしていた。今聞かされた物事を、僕らが如何に矮小で救えない存在かと、あぁ悲しきことか真実を教えてくれた。

 

丁寧に、親切に、無情な現実を理解できるようにと

 

「……」

 

 窓に映るものは、八番出口に続く通路の景色、僕とレフィーヤ以外の、別々の誰かが見えている。

 

 ここは、八番出口に続く無限通路を俯瞰で眺められる特等席だ。

 

 カーターさんは、迷い込んだだけの客人だから、許されている。ここにいることを、そして出ることを

 

 僕は、罪ある者だから許されていない。

 

「すまないね、私はここを去る……去ることを許されている。君も、またあの通路に戻られねばならない」

 

「……わかっています」

 

「恨むかね?私という無為な変化の到来を、知らぬ方が良かったかもしれないな」

 

「……どうでしょう、でも結末は同じなら、構いません。納得して死ねるかは、自信ありませんけど」

 

 そろそろ帰らねばと、僕は席を立った。

 

 レフィーヤを置いて行ってしまった。

 

 一人だとまた狂ってしまう、僕が一緒にいないと

 

 

「…………」

 

「ベル・クラネル……君には果てしないゼロがあるだけだ。希望はない、絶望もない……ただ永遠に彷徨い、精神が持たなくなる時が来るまで永劫を飲み干し続ける。それだけだ、だがしかしだ」

 

「助けてはくれないでしょう」

 

「あぁ、助けられないとも……これは、君を助ける方法とはまったくもって是とは言えないことさ」

 

「……そうですか、そう」

 

「まだ話は終わっていない、腰掛けたまえ」

 

「……ッ」

 

 

 

 助ける、助けない。

 

 この人は何を言っている。

 

 今言ったじゃないか、抗うことなんてできない、受け入れるしかないと。

 

 もとより、遭遇してしまったことが最大の過ち、過去はどれだけ悔いてもひっくり返らない。

 

 何も戻らない、僕は、僕とレフィーヤは終わっている。

 

 取り返しのつかない失敗をしてしまった。そうだろう、そうなんだろうッ

 

 

 

「あぁ、そうともさ……しかしだ、罪は償えるものだ」

 

「————ッ」

 

「信じて欲しい……といっても、ただ子供を見捨てるのは忍びない程度の、その程度の情だよ」

 

 それでもいいなら、と付け加えて

 

 

 

 

「……君に教えるのは、この現状をほんの少しだけ変える方法だ。上位存在の興を削いでしまった罰を、その罰の形を変える代案だよ」

 

 

 

 

 

 

「決して君は救われない、今の永劫よりも過酷な運命に合うだろう。それも、長い長い時の中でそれを繰り返すのだ」

 

 

 

 

 

「選びたまえ、ベル・クラネル」

 

 

 

 

「……君は、何故歩き続けてきた?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~∞番通路~

 

 

 

 

 戻ってきた。レフィーヤのいる場所に、そして言われた通り僕は最初の罪を犯した。

 

 レフィーヤを殺すことを。

 

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

 

 永遠の牢獄に人を閉じ込めて興を得ているナニカ様、その方は僕らに罰を下した。

 

 その罰は決して償えない。永遠を彷徨い続ける罰は、どれほど時間が経っても終わらない。

 

 だから、願った。

 

 どうか、終わりのある罪にしてくださいと。その為なら、より劣悪な地獄に頭のてっぺんまで浸かってみせると

 

 

 

 

「……別れは済ましたかね?」

 

「————はいッ」

 

 

 

 

 カーターさんと一緒に僕は銀の鍵を使用する。

 

 銀の鍵、世界を渡る神秘の道具、しかしそれを僕に託すことは無い。

 

 僕は、これからこの足で全宇宙を彷徨う。彷徨い続けて、またここに戻ってくる。それが叶えば、僕はレフィーの遺体を抱えてオラリオに帰って来られる。

 

 

 永遠を彷徨い巡る通路の地獄と、これから僕が行く限りなく無限に近い旅路。

 

 そこに差異はない、数字でも見ればどちらも共にゼロだ。無限の迷宮でいつか精神が壊れ存在も消え去る道も、ここではないより劣悪な世界を渡り続ける旅を無量大数ほど続ける道も、数字にすれば差異はない。どちらも等しくゼロだ。

 

 ゼロ、だけど同一ではない。今この迷宮に留まる道が完璧に一つのゼロであるなら、もう一つはゼロに始まり更にゼロが連なる。

 

 

 0.0000000……果てしなくゼロを連ねる数字。だから、完璧にゼロではない。

 

 

 故に、この差異をナニカ様は見逃した。取るに足らない可能性と断じてくれた。果てしないゼロを並べた先にある限りなく小さい1を、大いなる存在は見ることが叶わなかった。それは、きっと矮小過ぎて見えなかったのだろう。

 

 しかし、これは決して救いとは言えない。カーターさんの言葉は、正しい。

 

 

 これこそが、無限に続く牢獄にとらわれた僕らが救われる方法ではある。だけど、決して救われる術だなんて、まったくもって言えない。

 

 より酷い破滅に身を投じる道、カーターさんが示したその選択に、僕は乗った。乗ると決めた。全てを承知した上で、僕は、選んだ。

 

 だからこそ、レフィーヤをこの手で、殺したッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「……カーターさん」

 

「先に行かせてもらうよ、君は私の後に行くといい。そして、鍵の使い方はわかっているね」

 

「……はい」

 

「結構」

 

「あの……ありがとう、ございます

 

 

 扉の前で、僕はカーターさんに礼を告げる。

 

 きっと、金輪際逢うことはない。それほどに、矮小な数の可能性だ。

 

 

「……礼を言われるほど、私は善を成していないがね」

 

 

「それでもです、僕には……それだけで」

 

 

「……そうか、ならばこれ以上は言うまい」

 

 

 鍵を手に、カーターさんは先に世界を起ってしまった。

 

 後に残るのは、自分一人、そして動かなくなったレフィーヤが一人。

 

 

 

 

 

 旅路に行く前の決別。これだけは避けられなかった。

 

 あの通路で、不変の空間でレフィーヤの死体はいっさいその形を損なわずに残っている。

 

 死んでいる、死んで魂が残ったまま、その体で置いて行くのだ。レフィーヤは連れて行けない、けれど待たせてしまえば永劫の時間が精神を殺す。

 

 

 

 だから、殺した。

 

 救うために、必ず迎えに行くために。殺す許しも得た。

 

 

 

 

 

 すぐそばに、眠るように静かになったレフィーヤがいる。たった今、僕が殺した相手。

 

 もう、あと何年、何万年で、いやもっと途方もない。それこそ、人が知覚できる時間の限界を超えた期間を、一人で寂しく過ごすことはヒトには耐え切れない。

 

 だから、必要だからと、理解したとしても痛みは避けられない。壊れた心でも、貴方はきっと痛みを覚えている。

 

 謝ることはたくさんある、いくら生き返らせると誓っても、僕は許されない。許されるべきではない。

 

 あぁ、なのに、僕はまだこんなにも身勝手な、悪い男なんだろう。

 

 大好きだと、愛していると、好き勝手に言葉を吐いてしまっている。

 

 

 

「さようなら、レフィー」

 

 

 動かなくなった彼女への口づけはもう氷の様に冷え切っていた。

 

 温度のない唇、だけどその感触は紛れもなく女の子のものだ。僕が知っている、レフィーの唇だ。

 

「身勝手でごめん、勝手に決めてごめん」

 

 

 永遠の牢獄よりも過酷な道だ。それに、失敗する可能性もある。だから、死なせるのは最低限の救いだ。

 その上で、僕が全てを背負ってもう一度挑戦に挑むのだ。

 

 救いのある未来が欲しい、何も変わらない世界を変えたい。

 

 今度こそ、二人一緒に帰るために、僕は銀の鍵を手にすると決意したのだから

 

 

 

 

 

————死者をよみがえらせる方法も、この宇宙には存在する。不可能はない、どんなことも可能性はちりばめられているものだ

 

 

 

 

 

——君が、旅を終えてこの場所に帰りつく可能性、それもまたある。しかし、それは果てしなく矮小な可能性だ。星の中からたった一粒の石を見つける様な、そんな永劫に等しい苦行だよ

 

 

 

 

 

 比喩なんてない、どこまでも無情が現実を織り交ぜてカーターさんは忠告を言い渡してきた。

 

 それでも、最後は僕の旅の幸運を祈ってくれた。

 

 

 

 

 

———幸運を祈るよ、君が人として彼女と再会できることを

 

 

 

 

————幸いと言うか、不幸にもと言うべきか、君にはこの通路で負った罪がある。不老不死の罪だ、それ故に多少の無理は出来るだろうが、それは同時に投げ出すことを許されない。君は、あの通路以上の地獄を見る、避けられない地獄だ。

 

 

 

——すまない、年寄りはつい注意してしまう。だが、これほど言っても君は進むのだから、やはり、そうなのだな

 

 

 

 

 

 

————ベル・クラネル、君は、正しく英雄そのものなのだな

 

 

 

 

 

 

 

 銀の鍵を手に、僕は通路の先を行く。

 

 扉を開けてその先へ、果てしない旅路の第一歩を踏み出した。怖れは無く、不思議なぐらいに落ち着いて明るい別世界を歩いていく。

 

 会わないといけない方がいるらしいから、気を引き締めて行こう。

 

 

 

 

 

 

 

「たくさん、謝って……いっぱい叩かれて」

 

 

 

 

「決めたこと、命を奪ったこと……許してくれるなんて思えないけど、それでも」

 

 

 

 

「レフィー、君が許してくれるなら、望んでくれるなら」

 

 

 

「僕は…………ッ」

 

 

 

 

 扉はない。無機質な通路も、看板も消えた。黄昏の草原、紫と朱色が混ざる夕闇の大理石が天を覆いつくす。

 

 遠く、どこまでも広がる天上、麻痺した目は空を認識することさえ一時遅れてしまった。

 

 紛れもなく、ここは通路の外だ。

 

 無限の行き詰まりはない。果てしない、どこまで行ってもゴールが見えない、変化のある世界。

 

 始まるのだ。果てしなく続くゼロの先に在る、矮小な1を掴み取る旅路。

 

 久遠に連なる世界の道程でで何を見るか、何を手にするか、旅の苦楽の最中どこまで僕は僕自身を保つことが出来るか。

 

 

 

 いや、いまさら何を憂うか。これは、全て僕が背負うべき罪だ。

 

 

 

 

 失敗した罪、救えなかった罪、だけど取り返せないわけじゃない。もう一度だ、もう一度僕は最低最悪の遊戯に身を投じる。

 

 レフィーと僕が生きて帰る未来を取り戻すためなら、僕は何度だって地獄を繰り返そう。

 

 

 

 

 涙は置かない、元気よく出立をしなければ。

 

 

 

 

 冒険を、また始めるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「すぅ…………ッ、いってきます!!」

 

 

 

 

 

 

Fin

 

TRUE-BAD-END 罪滅ぼしの巡礼

 

 

 




感想・評価などあれば幸いです。読了お疲れさまでした。


急に出てきたクトゥルフ要素、ダンまち世界でなぜ八番出口が現れたのか、そのアンサーとして今回語る予定になかったバックボーンをバッドエンドにて公開しました。クトゥルフ知ってる読者以外にはポカンかも知れませんが、一応そこは番外編ということでお許しください。

一応本作、ダンまち二次であることを基本にしてますので、そこまで深く濃すぎない程度のクトゥルフでまとめました。なので具体的な用語は少な目です。

伏されている部分は皆さまの知っている知識で予想していただけると楽しんでもらえるかと。


これにて本作は完結、完了です。ここまで読了お疲れさまでした。そしてありがとうございます。

37級建築士のダンまち二次は他にもありますので、良ければ別の作品もお楽しみいただければ幸いです。なお、メインは成人向けコンテンツなので未成年はご注意あれ

長々と語りましたが、これにて以上です。読了、お疲れさまでした。


感想、評価などあれば幸い、モチベ上がって他の作品のモチベにもつながります。
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