暖かい毛布で身をくるむ。
部屋は明かりをつけたまま、僕もレフィーも暗いのが苦手になってしまった。冒険者という荒事に携わる身としてあまりよくない甘ったれだ。
でも、平時ぐらいは平穏にしていたい。
だから、明かりは付けたまま。
……くちゅ、ちゅ
「————ッ」
「ぁ……ん……ぁ、ベル……ぅ、ん……ぁ、ああぁ、唇……震えてます、またですか?」
「……ごめん、今日は少し……思いだしちゃって」
「大丈夫ですよ、いいですよ……遠慮なんてしないで、甘えても。この前は私の方が甘えちゃったから……だから、いいんです。ベル……ほら、好きでしょ。ここ、好きにして」
「…………うん」
情事も、明かりに照らされた部屋でしてしまう。
暗闇が怖い、暗闇で叫ぶ声も怖い。
未だに消えない、僕らの心はあの通路から逃れられていないのかも、そう不安で大げさに考えてしまう。
暖かいのが欲しい。
レフィーヤは暖かい、柔らかくて暖かい。
駄目になってしまう。最上の鎮痛剤を求めて、このやさしさに甘えてしまうのは申し訳ない。
でも、本当に落ち着くから、ここで吸う息が一番心を穏やかにするから、今は甘えていよう。
レフィーの胸に抱かれて、今日も僕は安眠の為に息をする。
以前を想えば、本当にあり得ないことをしているな。こんな関係、以前は思いもしなかった。あり得ない未来の結果に僕らはいる。
「……これじゃ、私まるでお母さんですね」
「それは、ごめん……後で謝る」
「別にいいですけど……ふふ、いっそのことママぁって呼んでみますか?」
「……流石に、それはダメな気がする。ぼくにも、その……プライドが」
「今更ですね、まあお互い様ですけど……でも、本当に呼びたいなら良いですよ。その代わり、私も貴方のことをパパって呼んじゃいますから」
「よ、呼ばないから……あと、なんだかそれすごく犯罪的に聞こえる。良くないことをさせてるみたいで、捕まりそう」
「通報はしないであげます……その変わり、いっぱい要求しちゃいますから覚悟してくださいね、ね……ベル・クラネルさん」
わざとらしくフルネームで
いじらしい、見上げる顔は蠱惑的で身が震える。
関係が変わってから、随分と知らないレフィーを見て知って触れて覚えてきた。
僕に対して、不安にさせないようこういうことも言ってくれる。でも、でも本当は貴方も不安なままだ。
不安だから、守ってくれる。
自分も不安だからこそ、僕を気遣っている。それがわかるのは、やはりレフィーも震えているから。
「寒いね」
「……じゃあ、暖めてください」
依存の二文字が頭をよぎる。
でも、仕方ない。こうしないで済む方法があるなら教えてくれ。僕らは、ずっと孤独なのだ。
× × ×
密会を続けるのには理由がある。そうしないと、僕らの心が持たないから。
理由が出来た原因もある。でも、話しても理解されない異常な原因だ。
行方不明者数、568人
オラリオから行方不明者が出た。その話を聞くたびに周りは悪派閥の暗躍を疑い不安を口々に並べる。
僕たちだけは、そのことに心当たりがある。しかし、話しても誰も信じてはくれない。
その上不思議なことに、話をして翌日に同じく報告してもまったく聞いていない話を聞かされた素振りをする。
人も、エルフも、誰であっても、さらには神さまであっても変わらない。
……8番出口、いったい何の話だよ
……人が消える、そのことに心当たりがあるなら聞かせてください
……昨日も話しただって?君たちはいったい何を言っているんだ?
駄目だった。
僕らがこの身で体験したことは、結局夢だったのか。
僕もレフィーヤも、白昼夢を見ていた、いやそんなわけがない。あるはずがない。今だって、僕らはあの時のことを夢に見る。
不安になって、眠れなくて、だから二人こうして手を繋いで夜を過ごす。
レフィーの肌に触れて、レフィーも僕の肌に触れて、そうやって互いの人肌を思い出さないと怖くなるのだ。
……また、聞いたか?
……治安が悪いな、ギルドは何をしているんだ?
聞こえる話に耳を塞ぎたい。八番出口にたどり着けず、帰られなかった人たちの数が今日も更新されている。
街は理由の知らない行方不明事件を共通した一つの事件であるとは思っていない。僕らだけが、その真相を知る
「…………ッ」
進んでもまた繰り返し、戻っても進んでも変わらない。
異変
異変が起きる、異変が見えなくてもまたそこにあるかもしれない。
通路を曲がるだけで意識が強張る。
中年の男性が向かって歩いて来るだけで身構えてしまう。
「ひ!」
「お、おい……んだよ、リトルルーキ。感じ悪いじゃねえか」
「……そ、その服」
「あ?……ぁ、これか……いや、カジノに行くんでな、ちょっくら良いおべべ着てるだけだっての。や、最近のトレンドは見過ごせねえな。これ、中々クールだぜ」
オラリオの衣装、いやこの世界の意匠とは異なる服。
止めて欲しい、いったい誰が考えたのか、僕とレフィーには嫌な気分しか得られない。
「気を付けろよ、最近人攫いが多いって聞くぜ。市民も冒険者も関係なく消えてるって話だ。あ~怖い怖い、くわばらくわばら」
「……ッ」
簡単に言い切ってくれる。
けど、それを説明したところで僕たちは周りに知らせることもできない。あの世界、八番出口に続く無限の通路の迷宮はこの世界と相いれない。
異常な、それこそ異変なのだ。この世界にあれは存在してはいけない。
だから、僕達が何を言っても、その情報すら残らないのかもしれない。
いや、だとするなら、知っている僕らは大丈夫なのか。
やめよう、考えるだけ怖くなる。
「また、ですか」
「……ごめん、聞いたんだ。今日も、たくさん」
「部屋にどうぞ……今の時間なら、人目も無いです。私の部屋で休みましょうか」
「……ごめんね、レフィー」
「謝らないでください。辛いのは、お互い様です」
寝よう、今はゆっくり
危うい行為を繰り返すのは良くないけど、それでも僕らは二人会わないと。真相を知る僕らだけが、共に傷を舐め合えるのだから。
…………ガタン
「レフィー、おやすみ」
「……ベル、おやすみなさい。キスは、もういらないの?」
「ごめん……このまま、抱きしめてくれるかな」
………………ゴトン
「やっぱり、ほんと男の人って好きですよね。まあ、いいですけど……私のでよければ、いっぱい感じてください。ベル、大丈夫ですから……もう、大丈夫ですからね」
……ガタン、ゴトン
「今は寝ましょう、不眠症はゆっくり治していけばいいです……大丈夫、私達はもう出られたんですから」
…………ガタン、ゴトン……ガタン、ゴトン
「……本当に駄目になったら、二人で遠くに行きましょうか。そうしたら、気兼ねなく貴方も私も一緒に過ごせますね」
……ガタン、ガタンガタン
……ガタン、ゴトン
……次は
………………零山(L0)
今回はここまで、続きはもう少し書き貯め出来てからの予定。しばらくお待ちください。
8番出口をクリアした二人、きっと8番のりばでもうまくやれるはず。お楽しみに、特にレフィーヤの失k……ゲフンゲフン
健全です。本作はとっても健全なベルレフィ作品です。