8番出口から脱出するベルとレフィーヤ   作:37級建築士

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投稿遅くて申し訳ない


(3) 8番のりばで降車したいベルとレフィーヤ

 

 

……熱い、熱を感じる

 

 

 

「————ッ」

 

 

 手がある、足がある。体が動く、立ち上がってもふらつくことはない。

 

 バタバタ体で音を出して、生きていることを実感する。死んだなんて思えない、嫌そもそも死んだと思える時点で僕はもう死んでいない。

 

 死んだことは確か。なのに体は至って確かなまま。

 

 生きている、鮮明に生存を感じている。

 

「……な、なんで……どうして?」

 

 僕は生きている。弾け飛んでなくなった手もある。

 

服こそ破れているけど、怪我の痕跡はどこにも見当たらない。

 

 

「ベル!」

 

 

「!?」

 

 

 手を握った。上目づかいで、涙目を僕に向ける。怯え、困惑、歓喜、安心、全部混ざって大粒の涙が頬を滑り落ちる。

 

 グチャグチャの顔を隠したいのか、飛びついてきて僕が受け止めた。

 

 

 

「うぅ、うぅぁああああああッ!!」

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

 泣きじゃくるレフィーを胸で受け止めた。熱い、熱くて震えている。

 

 生きている。

 

 死んでいない、首も曲がっていない。

 

 無事な姿で生きている。

 

 

……わけがわからない、けどッ

 

 

「れ、レフィ……っく、ぅ、ううぅッ」

 

 

 今は、泣きたくて仕方ない。

 

 

「……良かった、本当に良かったッ」

 

 

 

レフィーも僕も泣いた。顔が崩れるぐらい涙で濡らした。

 

 怖い思いをして、本当に終わりだと感じた。でも、助かった。理由はわからないけど、今は、今はただこの熱を感じていたい。

 

 生きている、僕達はまだ生きている。

 

 

 

 

 

 

 

>>次は、零山(L0)>>

 

 

 

 8番のりば、その車両の中で僕たちは異変と相対して、そして殺された。その事実は何度も確認し合った。殺された時の体験は幻なんかじゃない。

 

「死んだ、それで間違いないと思います」

 

「……やっぱり」

 

「服も破れてる、血の跡も……私もベルもあの時死んだ。それは、間違いない……こと」

 

 

 互いに涙をぬぐい、冷静になって話を始めた。議論すべきは、確かめるべきは未だに消えないあの光景の真偽

 

 触れることすら許さない、理の及ばない超常の化け物。存在証明すらあやふやな、ただ人の形をしている危険な領域。目を離したことで、僕達は被害を受けた。

 

 まったくもって理不尽な初見殺し、でも2度目はもう間違えない。

 

 

 

……ジジジジジジジジジ

 

 

 

「もう、行きましょう」

 

「……ええ」

 

 

 零山行きの表示がなされた車両から移動、表示には一ヶ崎が映る。

 

 確認は悠長に取れないから一瞬、僕らは早く歩を進めながら後ろ歩きで次の車両へ向かう扉に手をかける。

 

 瞬きすらきっと許されない。そうじゃないかもしれないけど、試して死んだらもう後がない。

 

 

「……はあぁ、息も止めちゃいましたッ……ぁ、目が痛い……うぅ、しょぼしょぼします」

 

「一回落ち着こう。たぶん、ここは何もないから……ここを休める場所にしようか」

 

 

 視線を離さない。車両の真ん中に立つソイツに僕らは目を向けながら、後ろ歩きで次の車両へと進んだ。

 

 扉を超えたら、ガラス越しに見るともうソイツの姿はいない。

 

 二つの車両を繋ぐ連結部分の隙間で、僕らは大きく息を吐いた。

 

 ここが安全地帯だ。

 

 

 

 >>一ヶ崎>>ニノ塚>>

 

 

 

「…………ッ」

 

 

 少し揺れるけど、ここなら安全だ。落ち着いてから次の異変に挑むことが可能だ。

 

 レフィーも僕も肩をこすり合わせて、深く何度も息を整えた。自分たちを一度でも殺した相手にまた相対したのだから、瞬きだけじゃなく息も心臓も止まってしまいそうになった。

 

 

「血が、付いてました……きっと、ベルのですね」

 

 

 再び会ったあの男、顔が霧散した男の手や胸周りには血が付着していたのを確認した。

 

 ソイツに手を伸ばしたら弾けてしまった僕の、僕の手の肉片と血液がべったりソイツにかかっていた。

 

 レフィーが首を折られたであろう場所には、その、液があった。首折からの吊り下げのせいで体外に出てしまった液。

 

 生々しい証拠があった。

 

 僕らはやはりあそこで死んだのだろう。

 

 でも、死なずにやり直しが出来た。それはいったい何故なのか?そこには明確な理由と、物証もある。

 

 何時の間に持たされていたのかわからない物。それは僕のポケットに入っていた。

 

 

「これのおかげ、ってことかな……切符、だよね」

 

 

 書いてある文字が読めない。でも、8番を意味するだろう言葉が書いてある。

 

 それが全部で3枚、けどそのうち1枚は焼け焦げている。

 

「……二回までなら、死んでやり直せる。いや、ここは少なく見積もった方が良いか」

 

定期船に乗る時だって切符が無いと降りれない。だったら、僕らはこの切符が無くなった時点でこの乗り物から降りられない。

 

そういう風にも考えられる。

 

あと一回、そのつもりでいるべきだ。

 

「無くなったらどうなるか、考えるまでも無いですね……降りられない。ずっと、ずっとここに」

 

「……大事に使わないと、だね」

 

 八番出口の時にはなかった。明確な変更点だ。

 

「間違えていいのは、少なく見積もって一度だけ……あんな初見殺しみたいな異変が何度も来たら、それこそこんな切符じゃ足りない……ッ」

 

 

 不安から、レフィーの声が震えている。

 

 無理もない。ぼくだって同じ気持ちだ。あと、こんなことが最低でも6つは控えていると思うと、身が竦む。

 

 この、安全視点である連結部分から出られなくなりそうだ。

 

 死んでも生き返られることに何も安心が出来ない。理不尽に殺してくる異変を用意されている前提で挑まないと

 

 はっきり言ってかなり厳しい。前回の方がまだ楽だ。

 

「……あぁ、嫌だな…………本当に、悪夢であってほしい」

 

 

 揺れる結合部の狭い空間で、僕らは知らぬ間に抱き合っていた。

 

 互いの温度を欲して、きっと心を落ち着けるぐらいしかできる準備は無いから。

 

 何が来るかはわからない。全部、その場その場のアドリブだ。

 

 

「……ベル、ちょっと苦しいです」

 

 

「ごめんなさい……でも、もう少しだけ」

 

 

「…………もう、仕方ないですね」

 

 

 落ち着けるだけ落ち着いて、それからしばらくして起き上がった。

 

 挑むしかない。

 

 停滞していたら、もう前には進めない。

 

 

 

「ごめん、ちゃんと立つから。ちゃんと歩くから……だから、行こうか」

 

 

 

 トラウマを克服したい。

 

 僕たちは傷ついて、治り切らないままここに来た。また同じ傷を負う、そう考えると足がすくむ。目もくらむ。

 

 だけど、前向きに見るならこれは好機だ。

 

 

 

……乗り越えないと、僕もレフィーも

 

 

 

 怖い思いをした。帰ってからも苦い味を噛みしめている。

 

 ずっと消えないのだ。僕らは勝ったのだから、そのことを自覚しないといけない。

 

 なのに、恐怖は後ろ髪を引っ張ってばかり。慰め合っても、体を重ねてもそれは変わらない。

 

 荒療治が、きっと必要だ。

 

 

 

 

 >>ニノ塚>>

 

 

 

 

 

 ダンジョンに潜れなくなった僕達が、もう一度前に進むには克服が必要だ。

 

 そして、この八番のりばがきっとその特効薬になる。どれだけ辛かろうと苦かろうと、飲み干して糧にするんだ。

 

 僕たちは、冒険者なんだから。

 

 




今回短め、次回異変に挑みます。お楽しみに

感想・評価など貰えますと幸い。モチベ上がって執筆の励みになります。
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