8番出口から脱出するベルとレフィーヤ   作:37級建築士

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高評価ありがたや、あと感想で知ったんですけど開けてくださいの人、ヒカ〇ンさんだったんですね。それを私は


……し、知らない、私は何も知らないマン



(5) 8番のりばで降車したいベルとレフィーヤ

 

 四番目の車両は異変が無い。その言葉に偽りはなく、半刻ほど時が過ぎても未だに何も起こらない。

立て続けのことに僕らは疲れて、腰を上げるのが重く感じて、つい長く休んでしまっていた。

 

長椅子に座って、隣り合い密着して心地よいひと時を過ごしていた。

 

 男女が二人、落ち着いて二人きり、二人しかいない、二人を見る者は誰もいない。

 

 そのせいで、僕らは少し気を抜いてしまった。

 

 

……ぽふん

 

 

「————……ん」

 

 

 いい匂いがする。

 

 女の子の甘い匂い、これが良い匂いだって教えられた。この匂いが、一番いい匂いだってレフィーが僕を躾けた。

 

 一応、僕らの関係は彼氏彼女、に該当する。口外せず、誰にも言わないで、傷を舐め合っている。でも、舐め合う仲でついつい普通に色恋の営みをしてしまった。

 

 レフィーは、かなり責めてくるタイプの女の子だって、僕は知った。わからされた。

 

 

……いい匂い、本当に

 

 

「……ぅ、はぁ……ん……ぅ」

 

「くすぐったい……えっち」

 

「ぅ……ほ、ほへん(ごめん)」

 

 小言は尽きない。でも、同時にその手が僕を撫でてくる。横並びに座った椅子、膝をこすり合わせて、抱きしめ合っている。

 

 レフィーヤの胸に顔を埋めて、抱きしめられて、ちょっと責めっ気のある言葉を貰う。

 

 無条件で甘やかしてくれる彼女、とは言い切れない。

 

 甘やかしをしている一方で、レフィーヤに僕は何かを捧げている気がする。

 

「————……ッ」

 

 表を上げてみる。けど、抱きしめる手がそれを遮る。

 

「ダメ……気にしちゃダメ。ぽふぽふして気持ちいいでしょ、遠慮しないで無抵抗になっちゃえ。ベル、私に甘やかされてください」

 

「……ふぁ、ふぁい」

 

 有無を言わせない。抱きしめる手が緩むと、ちょっと苦しく感じる。お胸で息を止めるのも自由自在だ。

 

 ちょうどいい、谷間で空間が出来る、そんな息を吸いやすい抱擁をしてもらうには素直にならないといけない。

 抵抗は意味なし、強がりは許さない。

 

 今は、ちゃんと休みなさいと、レフィーは言っているのだ。行動で告げている。

 

「座り心地良いから、時間忘れちゃいますね」

 

「……ん」

 

「揺れてるのも良い……景色でも見えたらもっと良いのに」

 

「……ん」

 

「そう、ベルも同じなんだ……これ、結構乗り心地いいですね。変なことが起きなきゃ、オラリオにも欲しいなぁ……なんて」

 

「…………ん」

 

 言葉が胸の中に溶けて消える。でも、何故か会話が通じている。

 

……居心地良いのは、確かにわかる

 

座り心地の良いふわふわの椅子、そして心地よい揺れ、この乗り物はきっと良いものだ。僕たちの世界にもいつかできて欲しい。

 

 馬車や船よりもずっと揺れが落ち着いていて、それに等間隔だ。負担がない、きっと長旅にも都合がいい。

 

 

 

…………トクン

 

 

 心地よい揺れと等間隔の音が染みる。

 

 規則正しく響く音は、本当に耳心地が良い。

 

 

 

…………トクン…………トクン

 

 

 

 音が鳴る、等間隔で鼓動が響く。

 

 

「……ふん……ふふん~♪」

 

「————……ッ」

 

 

 ニットの布越しに、感じられる下着の感触とその隔たり越しで十分伝わる柔らかな反発。

 

 包み込みながら淡く押し返す。抗えない癒しに、僕は強がるやり方を忘れてしまった。

 

 

……むぎゅ、もみゅ

 

 

「!」

 

 少し大きく揺れた。

 

 揺れて、深く胸の中に鼻先が刺さる。

 

 ちょっと申し訳なくて、顔に恥ずかしい熱が浮き出る。

 

「……ぁ」

 

 ごめん、条件反射的に出てくる謝罪の言葉。けど、帰ってくる反応はさらに強い甘やかし。

 

 息が、しづらい。

 

 もみくちゃにされている。強く抱きしめられている。柔らかさが頬を突き抜けて口内まで染み入ってくるみたい。

 

 ふわふわで、もちもち。

 

 それに、やっぱりここで吸う空気が落ち着く。

 

 

…………良い、匂い

 

 

 

「大丈夫です、大丈夫ですから……よし、よしよし」

 

 

 耳を撫でる心地の良い声。落ち着いた、それでいて艶やかな透き通る音色。

 

 竪琴を引いても、鍵盤を弾いても、きっとこの音色には及ばない。声が奏でる安らぎの音色に、優る者なんて無い。

 

 痛みが無い、でも心は削られている。

 

 正気を取り戻すために、僕は施しを受けている。レフィーは、僕に施している。

 

 

 

「怖くない、怖くないですよ~……大丈夫です、大丈夫ですからね~」

 

 

 

「————……うん」

 

 

 

 極限状態なのに、こんなことをしている僕らはきっと愚かに映るかもだ。でも、必要だからこそ求めあって密着している。

 一度の死、吐き気を催す体験、無力な僕達は傷を負っている。心削がれた痛みを癒さないといけない。

恩恵も無い。知恵も必要としていない。役に立つ武器もない。

 

必要なのは咄嗟の判断と行動、そして削られていく正気を少しでも守り抜くこと。

 

「…………ッ」

 

 休息できるなら、少しでもするべきだ。

 

 僕も、レフィーも、互いに互いを感じて癒される必要がある。

 

 

……恥じらっていられない、出し惜しみする余裕がない。

 

 

 僕らは二人だ。

 

 二人でいること、それが僕らに残された唯一の武器だ。

 

 

「……ッ」

 

 

「ん……ベルッ」

 

 

「!」

 

 

「……少し痛いです」

 

 

「ご、ごめん……間違えちゃった」

 

 

 抱擁が解ける。

 

 出で立ちを直して向き合う。恥ずかしくて、視線を逸らそうとして正面を向いた。

 

「……もう、いいんですか?」

 

「う、うん……キリがないから、抑える」

 

 正面を見る。

 

 ガラスの反射に映るレフィーは、なんだかおもしろげが無いって顔で、向かってきた。

 

 頭を抱き寄せて、また胸に置こうとする。そんな一部始終の動きを向かい側のガラス窓の反射で僕は見ていた。

 

「ほら、ちゃんと顔こっち」 

 

「……ん、んむ」

 

 いい匂い、結局これに落ち着く。

 

 なんだろう、本当にレフィーはこういう形にしたがる。

 

 しつけ、何だろうかと時々思う。それぐらい、覚えさせてくる。

 

「はぁ、ほんといつもこれですよね」

 

「……ふがふが(レフィーがそうさせてる)」

 

「知りません。貴方が嫌がらないから悪いんです……知ってますか?あなたみたいな人、おっぱい星人って言うんですよ。神さまたちが言ってました」

 

「せ、星人?」

 

「意味は知りません……でも、情けなくて可愛い響きで、私結構気に入ってます♡……や~い、おっぱい星人のベル・クラネル~♡」

 

「……ッ」

 

 押し付けながら揶揄ってくる。

 

 甘く優しくしながら、囁く言葉はくすぐったい。落ち着かない。

 

「素直にな~れ……はい、素直に~な~~れッ!!」

 

 

 レフィーの手が僕の後頭部を掴む。そのまま、引きずり込まれていく。

 

 息が、息が本当に出来ないッ

 

「ほら……反省、おっぱい星人でごめんなさい、って言いなさい」

 

「お、おっはひへいひんへ、ほ、ほへんははい!」

 

「はい、よろしい」

 

 

……ドサッ

 

 

「!」

 

 解放された僕は天を仰いだ。いっぱい揉みくちゃにされて、そして落ち着いた場所はまた柔らかい場所。

 

 柔らかい椅子に座って、柔らかい枕に頭を預けて、そして柔らかいクッションが顔を覆い隠す。

 

 全部、柔らかい。柔らかすぎる。

 

 

 

「甘えて良いですよ~だ……男の子って、本当に膝枕が好きですよね。えっち」

 

「……ん、っぷは……ぁ、レフィー……それ以上はダメ、ほんとダメ」

 

「嫌なんですか?」

 

「い、嫌じゃない……ごめんなさい」

 

「ふふ、奇遇ですね。私も嫌じゃないです。嫌なんて一言も言ってません、ちょっとエッチなぐらいじゃ、もう怒りませんから……むしろ、私が満足できません♡」

 

 

……する、くしゅしゅ

 

 

「……ん」

 

 

「黙って良い子に甘えましょうね……ほら、撫でてあげますから♡」

 

 

「…………ふぁ、ふぁい」

 

 撫でられる。もう、ずっと撫でられている。

 

小言が耳をくすぐって、それ以外はどこもかしこも柔らかくていい匂い。

 

 ここまでされたら、もう本当に抵抗できない。されるがまま、でも息がしづらい。

 

 

「……撫でて欲しい」

 

「ん?」

 

「横向いていい?」

 

「……ふふ、いいですよ」

 

 

 素直に甘えれば、ちゃんと要望を聞いてくれる。

 

 顔からクッションが外れた。僕は、横向きになって、って

 

 

「……あ、あの……こっち?」

 

「えぇ、こっちです……ほら、お腹で息吸っていいですから」

 

「……ぅ、うん」

 

 撫でられる。頭を支えて、お腹にふわっと顔を埋めさせる。

 

 拘束は緩まったけど、それでも結局柔らかいまま。でも、息はしやすい。お腹の暖かい熱を帯びた空気が肺に満ちる。吐き出しても、熱がそのまま中に残っている。

 

 一番落ち着く状態になった。

 

「……お腹もおっぱいだった?」

 

「それ、お腹出てるって聞こえるから二度と言わないでください……痩せててもお腹は柔らかいんです。私、太ってないですよ」

 

「……知ってる」

 

「なら、よろしい」 

 

 満足したのか、いっぱい頭を撫でてきた。

 

レフィーの手がこめかみから前髪、側頭部、後頭部、頭皮をほぐすように髪を漉き始める。優しくグルーミングが続く。ずっと、終わらないで欲しい。

 

 頭で感じる指先の点が四つ。クシュクシュ髪が擦れて音が鳴る。

 

掻いて漉いて、やさしく撫でまわす。

 

「……ん……ぅ、んッ」

 

 心地よくて、口が閉じなくなって、声も出てしまった。レフィーがくすりと失笑して、楽しく声を出す。

 

 カワイイ、素直、良い子、そんな言葉をちりばめて、撫でて撫でて楽しんでいる。

 

「……母性って、赤ちゃんが出来なくても芽生えるものなんですね」

 

「れ、レフィー」

 

「嫌ですか?……もう、ほとんど赤ちゃんプレイですよこれ」

 

「……ち、違う、よ」

 

「違わないですよ~だ……くすす、ははッ……ぁ、あ~あ、帰ったら大変。私の彼氏、甘えん坊で手のかかる系なんて、ほんと疲れちゃう」

 

 

 楽しそうに、本当に楽しそうに笑っている。

 

 揶揄いながら甘やかす、そうすることでレフィーは心の平穏を取り戻して保つ。

 

「……赤ちゃん、良い……ふふ、良いですねッ……ぁ、あはは……はぁ、はあぁ」

 

「————ッ」

 

 けど、ちょっと怖い

 

 僕の恋人、少し厄介な癖に目覚め始めている。

 

「私、おままごとでママ役は上手なんですよ……いっぱい、バブバブ言わせますから。覚悟、しちゃっててくださいね♡」

 

 

「……ッ」

 

 

 母性というには、すこし責めっ気のある、どこかサディスティックなレフィーについ身構えてしまう。

 

 肩肘に力が入るけど、それは恐怖に対して怯えて防御を取るものとは違う。

 

 

……ガタンゴトン

 

 

 心に、平穏の色が戻っている。ぼくにも、レフィーにも

 

 休んだ成果は出ている。休むというには、少々睦ましすぎるかもだけど。気を抜きすぎてるかもだけど、ちょっと羽目を外し過ぎてるかもだけど

 

「……撫でられて、落ち着きました?」

 

「うん……かなり、助かったよ。レフィーのおかげ、でも……ちょっとやりすぎ」

 

「ふふ、やりすぎましたよ。わざとです……で、起きれますか?」

 

「……起こして欲しい」

 

「はぁ……仕方ないなぁ、もう♡」

 

 

「……ぁ、あ」

 

 優しく触る手が、僕の頭をそっと上に起こす。

 

 席を立とうとするレフィー、そして僕の前に来て優しく抱き起す。

 

 頭が上がった。目線が胸の位置、そして顔が映った。

 

「!」 

 

 脇から手を入れて、介護で起こすみたいなやり方で僕を起立させた。やり遂げて、レフィーは満足した顔を見せる。

 

 2人、向かい合って立って、そしてされるがまま僕は手を握られた。

 

「……そろそろ、行きましょうか」

 

「う、うん……ッ」

 

 呆気に取られている間にリードされた。

 

「……息、止まってる」

 

「ん、ぁ、はぁ……ぁ、あぁ……ぁ……ぁ……ん…………えっと、ぁぁ」

 

「しゃきっとする」

 

「……うん」

 

「返事は、はい!……ほら、言って」

 

「…………はい」

 

 

 いっぱい甘やかされて蕩けた神経の管に、溶けた鉛が注がれた。

 

 抜けた力が体に満ち溢れる。柔らかく弛緩した肉に、張りが戻ってきた。

 

 立って、動ける。

 

……パシンッ

 

「!」

 

 背を叩かれた。けど、少し揺れただけで僕はこらえられた。

 

「癒し過ぎて骨抜きになってないか心配でしたけど……その様子なら大丈夫ですね」

 

「……うん、もう平気。大丈夫になった、と思う」

 

「なら、もう大丈夫です。私も、ちょっとすっきりしましたし……さ、行きましょ行きましょ。あと三つ、三つです」

 

「三つ、そう三つだ……よし、行こうッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

>>四蝸川>五ッ原>>

 

 

……ガタンゴトン

 

 

 揺れる連結部分の狭い空間、意気揚々と進みはしたけどすぐに立ち往生。

 

 仕方ない、困惑を解消しないままドアを開けることはできない。

 

 

「ベル、これっていったい?」

 

「……わからない」

 

 連結部分の狭い中で、僕らはガラス越しに次の車両の状態を確認。

 

 車両の様子は車両を隔てているとまだ見えることはない。でも、この連結部分まで来ると見えるようになる。

 

 見える景色は、想定を超えた異常がひしめいていた。

 

「……人がいっぱい、それに明るい」

 

 ガラス越しに見る車内、今までと比べて何もかもが違う。

 

 スーツ服を着た人、私服を着た人、まるで日常生活の光景に見えてしまう。

 

 窓辺から見える景色も、広々とした街中を見渡している。

 

 違う世界が、見えている。

 

 

 

 




今回は癒しフェイズ、次回は異変起きます。お楽しみに

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