異変見つけて生き延びろ!
「なんですか、これ……異変?」
「……」
案内板を見る。その文面を呼んでも、困惑は解消されない。
いきなり置かれた状況で、半端な手がかりだけ与えられて
「……異変、進む……引き返す?」
出る場所は8番出口
そして、今いるここは
「0番……って、ことになるのかな」
だけど今のところ僕達が行きつくのは0番だけがループしている。
道は、分岐することも無い。地続きであるのなら、123、と続くはずだ。
「……」
口元に手を置き、考えをめぐらす。未知は、不自然に同じ。その上、戻ったレフィーヤさんは、反対方向から何事もなく戻ってきた。
直線、角はあるがそれでも一本まっすぐに伸びた道だ。湾曲して円になっているとは思えない。
起きている。今、僕達が立つこの通路では超然的な何かが働いている。受け入れがたいけど、これはもう
……何故こうなっているかはわからない
何故を追求しても意味がない。だから、危険でもとにかく進まなければ、異変があれば引き返せ?
今出来ることは、案内板に従うだけだ
「……指示に、従いましょう」
「————ッ……えぇ」
顔色が悪い、困惑して、震えているレフィーヤさんを見ると見ているこっちも不安になる。
たった一人、仲の良いファミリアの仲間ではない、僕なんかといっしょで、心を落ち着くわけがない。
「ごめんなさい……ぼくなんかが、そばにいて」
女の子にとって、男の存在は良いように働かない方が多いというのは世の常だ。
ここは、いうなれば閉鎖された環境。
僕がいるから大丈夫、なんて考えは当てにならない。レフィーヤさんの精神状態、そこにも気を遣わないと
……気を引き締めろ、ベル・クラネル
「……後ろにいてください、僕が前に行きます」
「ぇ……でも、それは」
かけるべき言葉は、ベル・クラネルの言葉よりも、一冒険者としての取るべき行動から出る言葉。
思い出させる。それが、今取るべき最適解のはずだ。
「冒険者です、僕も、あなたも」
「……ッ」
冒険者であること、その揺るがない事実がレフィーヤさんに勇気を与える。
「武器を持っているのは僕だけです……前衛の仕事を果たすだけですから、レフィーヤさんは堂々と後方支援に備えてください。頼りにしています」
出来るだけ平時の気持ちでいる。
僕も、レフィーヤさんも、この状況に飲まれてはいけない。
ダンジョンと重ねればいい。気を払い、予想の外からの攻撃、緊急事態、想定外に備えるのは冒険者の常だ。
だから、ここも同じだ
「行きましょう、レフィーヤさん」
「……は、はい……わかりました、えぇ……そうですね、今は」
進むしかない。
看板が示す矢印の先、見るべきは、あの長い通路、異変を見つければといったが、きっとそれはあの通路のこと、かもしれない。
確かめないと
× × ×
「……ま、また……あの人?」
「下がって……後ろに」
身構える。今度は、ナイフはしまったまま。けど、何時でも備えて、動けるように。
おじさんは、変わらず前に進んでいる。白い服と黒のズボン、皮の靴に、カバンをもって。
目は、こっちを向いていない。
ただ、当たり前のように、通り過ぎて
僕らが曲がった道へと、消えていく
「……ッ……進みましょう」
「え、でも……これって異変ですよね」
「……いや、たぶん違います……きっと、最初の道は、引き返すべきだったんです」
僕らは進んで、そして引き返した。
異変はどこまでが異変か、それはきっとこの長い通路なのだと思う。
「間違っていなければ」
進んで、角を曲がり、そしてまた至る。
看板は、正しく左奥に
「数字が!」
「……ッ」
看板の数字が1番
0番から1番に
進めている。と、考えるのが妥当か。
「……異変、だったんです」
「あの、あの男の人が来なかったのが」
「……おそらく」
なるほど、わかってきた。
今いる状況、それは一種のゲームだ。子供の頃に、遊びでやったことのない人の方がいない。
今僕らは試されているのだ。この、間違い探しを
<<1番通路>>
何もない、何も変化はない。
向こうからおじさんが来る。通り過ぎて、そして、角を曲がった。
「異変は、無い?」
「いや……よく見て、これ」
「……ひっ!?」
思わず背中に隠れてしがみついてきた。
通路の左、並ぶポスターの中で、人の絵が描かれている。4頭身に簡略化された人の絵、前掛けを付けた男の顔。
不自然にインクが溶けているようで、おどろおどろしい不気味な絵に変わっている。
「……引き返しましょう、すぐに!」
「はい」
迷うことなき異変。だけど、それに待ったをかける。
「少し、見ていきましょう」
「嫌です、私はお化け屋敷が嫌いなんです」
手を振って元気よく回答した。目の端に小さな宝石を付けている、そんな顔に愛らしさを感じてしまう。
うん、申し訳ないけど
「……異変の判断を出来るように二人でこの通路を覚えましょう」
運の悪いことに書けるものは無い。頼りになるのは記憶力だけだ。
「ポスターの文字は読めない……細かすぎる異変だったりしたら、きっと見過ごしてしまう」
「……そ、そんなの、引き返せば」
「引き返しても意味はない、はずです。意味が無いはずです……おそらくですが、これは連続で正解し続けなければいけない、ゲームみたいなものです」
<<2番通路>>
異変は無い、前に進む
<<3番通路>>
異変は無い、前に進む
<<0番通路>>
「え、どうして……異変なんて、どこにも」
「……見逃し、だと思います」
「————ッ」
悔しそうに地団太を踏む。
異変があった2番通路、異変が無かった3番通路、そして4番通路も無いように見えて、じつは見逃しがあったようだ。
0番通路に戻ってしまった。
からくりが見えてきた。
「挑もう、レフィーヤさん」
「……ええ、わかってます。見極めるしかないのですね……異変を」
「引き締めましょう」
「……そっちこそ、足を引っ張らないでください」
<<1番通路>>
通路に出る。タイル板の張られた真っ白な床、と黄色い線の床。
右を見て煙草を禁止する張り紙、右にポスター、天井の8番出口を指し示す案内版。
左側のポスターには何もない。向かって来るおじさんにも問題は見当たらない。
「何もな『ガチャ』……い?」
開いた。
右側の壁の二枚の扉が開く。
「!」
扉が開いたことにも驚いた。けど、それ以上に背中の声に驚いた。
背後に隠れたレフィーヤさんが、震えながら早口で嫌だ嫌だと泣いている。
「……や……もう、嫌ッ……帰りたい、帰してッ」
「レフィーヤさん……大丈夫、ただの扉です」
見せないまま、道を引き返していく。
扉の奥、明かりのない真っ暗な部屋、目を向けてはいけない。
開いた扉の奥から視線を感じる。反応しちゃいけない、反応したら、どうなるかわからない。
「……大丈夫です、もう……ほら、おじさんが立ち止まってます。看板も
見えた……正解です」
「ぁ……はあぁ……って、すみません、わたしッ」
「気にしないで、僕の背中ぐらい好きに使っていいから」
「……ちょ、調子に乗らないでくださいねッ!」
赤面しながら精一杯叫ぶ。怖くて怯えて、けど安全となるといつもの調子。
うん、これでいい。これがいつものレフィーヤさんだ。
「よかった、いつものレフィーヤさんだ」
「……なんだか、悪口じゃないのにイライラします。生暖かい目で見るな!変態!」
「うん、うんうん……頑張りましょう、レフィーヤさん」
「ぬ……ん~~~~ッ!!?」
<<2番通路>>
「見つけました、不気味ですね」
「引き返しましょうすぐに」
一面同じポスターだ。わかりやすい異変でラッキーだ。
<<3番通路>>
「ここは……なにも」
「待ってください……これ、動いてるッ」
レフィーヤさんが見つけた。
目のポスターがこっちの動きに合わせて追ってくる。
不自然に、こっちを見ている。絵なのに
当然引き返す
<<4番通路>>
異変を見つけず、通り過ぎて次の道。
何もない。扉も問題ない。ポスターも、6枚とも変な所は無い。
「み、見逃しは、無いですか?」
「……たぶん、いや」
「あ、ありました?」
「…………引き返しましょう」
「え?」
うっすら、遠く
壁に擬態している。けど、凝視すればわかる。
人がいる、人の姿が。
「……あそこ、奥に何かいます」
「え、どこに」
「あ、レフィーヤさん」
好奇心が背中を押した。レフィーヤさんがほんの少し、僕の隣から半歩前に
タイルの床を踏んだ、よく見ようとして、その瞬間
『——————ッ』
……ダダ、ダダダダダッ!
「逃げろッ!!」
「……ッ!?」
踵を返す。突然擬態を解いて駆け出したタイル壁の男。
早い、追いかけてくる。かなりの速さで向かってくる。
……捕まったら、どうなる
……いや、考えるまでも無い。それは、最悪の結末だ
「い、いや……来ないでッ」
「!」
走り出した瞬間の差、レフィーヤさんの後ろ髪に男の手が届きそうだ。
躊躇うな、撃て。
「ファイヤボルトッ!!」
「!?」
詠唱無しで放てる速射砲。標準も甘いが稲妻のように折れ曲がって進む炎に男は自ら引っかかった。
炸裂する。瞬間爆ぜる炎が男を包む。
『■■■■————ッ』
「ひぃ!?」
「走って、速く!!」
止まったのは一瞬だけ、僕はレフィーヤさんの手を引いて振り向かず前を突き進む。
距離が長い、明らかに進んだ距離の何倍も道が遠くなっている。
踏んでしまったからか、理由は何でもいい。とにかく走れ
速く、速くッ!!
「減速せずに曲がりますッ!」
「ベル……って、ひゃあぁあッ!?」
レフィーヤの体を抱える。走るだけなら抱えながらでも僕だけの方が早い。
ぶつかる寸前、床を蹴って慣性をそのままに左折。
瞬間、反転して背中を壁に打ち付けながら、勢いをそのままにおじさんの横を通り抜けた。
看板のある通路に入った。
表示は4番、引き返して正解に至った。
「ベル!?」
「大丈夫、もう来ない……止まっている、おじさんと同じだ」
間一髪、床に転げて坐した僕らはそいつを見上げている。
不自然に立ち止まっている。まるで、見えない壁があるように、こっちには踏み込まない。
「……痛ッ」
「ちょっと、だいじょうぶですかッ……あなた、いきなり背中を」
「……痛いです。でも、大丈夫です。すぐ、慣れます」
全速力の疾走。その勢いのまま壁に自分を叩きつけた。多少は分散したけども、それでも背中には鈍い痛みが残っている。
「……ごめんなさい、私が前に出たから」
「いえ、気にしないでください……それに、レフィーヤさんが原因だって確証はありませんよ」
「で、でも……それは」
状況的に、過失は間違いない。
わかる。けれど、それでも、僕はバレバレな嘘をつく。
「わかりません、僕にはまったく……もう、引き返して確かめるわけにもいきません」
「……ッ」
「進みましょう……二人で、一緒に」
「……はい、そうですよね……そう、思うことにします」
起き上がる。痛い背中に鞭を打って、僕らは4番通路の先へ行く
うまくいけば、あと4つ、それで出られる。あの、案内板の言葉が正しいなら
「信じますか?」
「……少なくとも、数字は進んでいます」
信じるしかない。立ち止まっているだけじゃ現状は変わらない。変えないといけない。
「出ましょう、こんな所から絶対」
「えぇ、必ず」
レフィーヤさんと一緒に、8番出口を目指す
帰るんだ。オラリオに、皆がいる場所に
次回、クリア予定
感想・評価などあれば幸い。モチベ上がって執筆の調子が良くなります。