8番出口から脱出するベルとレフィーヤ   作:37級建築士

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※ショックな表現あります、注意されたし


(3)

 

 

 

<<0番通路>>

 

 

「異変は無かった、みたいですね」

 

「……ッ」

 

 

 またふりだしにもどってしまった。

 

 注意深く観察したはずなのに、異変だと疑いを寄せていたのはただの思い込み、勘違い。

 

 なぜ気づかなかったのか、それはきっと、まともな精神状態じゃないからだ。

 

 

「……いや、もう嫌……帰りたい」

 

 

「レフィーヤさん……大丈夫、まだ終わってない」

 

 

 間違っても、ただ振出しに戻るだけ。

 

 やり直せばいい。あきらめなければ、きっと

 

 

「…………でも」

 

 

「行きましょう、さあ」

 

 

「!」

 

 

 少し強引に袖をつかんだ。怯えて震えて、顔色に蒼さを見せるレフィーヤさん。

 

 急に袖を掴まれても、嫌がって怒るどころかむしろ手を握り返してきた。

 

 

 

「……ごめん、なさい」

 

 

 

「いいです、気にしていません」

 

 

 

「で、でも……さっきの、私が」

 

 

 私が、その先の言葉はわかっている

 

 

「……言わないでください」

 

 

 少し強く、立ち止まり、顔を見て言い返す。

 

 言い切って、これは良くないやり方だと苦い後悔を噛みしめた。噛みしめて、無理やり嚥下して、続けて気丈に振る舞った。

 

 かなり参っているのはレフィーヤさんだけど、僕も正常じゃないみたいだ

 

 

「行きましょう、次で正解すればいいんです」

 

 

「……え、えぇ」

 

 

 

 異変を見つける、ただそれだけ

 

 わかりやすい回答もあれば、かぎりなくわかりにくいものもあるし、そしてなによりありもしない異変を見てしまうこともある。

 

 それらの原因は、単に疑心暗鬼になっているだけで説明が尽きない。

 

 それは、この状況に二人で挑んでいるということが原因だ。

 

 

 

 

……責めたらいけない、それは悪手だ

 

 

 

 

 二人いるから意見も割れる。これが異変か、見渡す目は二人で発見も二倍になると思うが、実際は違う。二人いるからこそ、間違える可能性も増してしまっている。

 

 さっきのにしても、僕が少し強引にレフィーヤさんよりも意見を強く出していれば。

 

 相手の意見を無視して自分を信じれば、正解に近づけていた

 

 

 

 

……駄目だ

 

 

 

 頭を振って良くない考えを散り散りにする。今、この状況で抱いてはいけない考えだ。

 

 二人いる状況で、衝突し合って感情的になってしまえば余計にミスを重ねる。ここは、不合理でも落ち着いて、冷静に思考の温度を保たないといけない。

 

 異変を見つける、ありもしない異変に惑わされない。

 

 ただ、その二つを守ればいい。

 

 

 

<<1番通路>>

 

 

 

 表示が変わった。一番になった。

 

 正解を引いた。まっすぐ進んだから正解。

 

 

 

「次、行きましょう」

 

 

「……はい」

 

 

 レフィーヤさんは黙っていた。

 

 

<<2番通路>>

 

 

 

 左にはポスターが並ぶ。右には扉。

 

 天上の照明も問題ない。向かってくるおじさんにも異変は無い。

 

 

 

「ひッ!?」

 

 

 

 首を絞められたような声を上げて、レフィーヤさんは僕にしがみついた。

 

 一見異変は無かった。だけど、扉が少し、ほんの少しだけ空いていた 

 

 

 

「大丈夫、レフィーヤさん……戻りましょう」

 

「……はい」

 

 

 引き返す、踵を返さず、後ずさり引き返す。

 

 異変は見つけた。これで次に進める

 

 

 

 

 

……チ、ヂヂ

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 音がする。扉を経過したけど、隙間から覗くソレは、特に何もしていない。

 

 見ているだけ、違う、異変は

 

 

 

……チチ、ヂヂヂ

 

 

 

 

「レフィーヤさん、急いで逃げ」

 

 

 

 

……ブヂンッ

 

 

 

 

 

「「!」」

 

 

 

 

 光が消えた。窓のない通路は、照明の灯が無ければ残るは闇のみ。

 

 一点の灯さえない。見渡しても、どこも闇。

 

 

 

 

「い、いや……いやぁあああああッ!!」

 

 

 

「————ッ」

 

 

 

 突然の暗転、パニックになるレフィーヤさんを落ち着かせようとその肩に触れる。

 

 震えている。恐怖ですくんで、自分が何者かさえ忘れてしまっている。それ程に戸惑って、見失っているのだ。

 

 

「大丈夫です、落ち着いて……明かりが消えただけ、です」

 

 

 

「ち、違う……消えた、だけじゃない」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 怯える姿に気が動転したと思ったが。

 

 その言葉に、聞き逃してはいけないことがあると本能的に察してしまった。

 

 

 

「来る、来る来るッ……出ようとした、扉が開いたッ」

 

 

 

「……まさか」

 

 

 

 とっさに、レフィーヤさんを抱きしめて、そのまま右手にはナイフを持つ。

 

 音は、反響する自分たちの発する音だけ。

 

 けど、いるのか。音もなく、今この暗闇で近づいているのか?

 

 

 

…………。

 

 

 

………………。

 

 

 

 

……ッ

 

 

 

 

「……————ァ」

 

 

 

 漏れ出る息を噛みつぶす。

 

 何も聞こえない。あるのは暗闇だけ、だけど、どうして僕はナイフを手放せないのか

 

 

 理由は明快だ

 

 

 

 

 いるのだ、この闇の中に溶け込んだ、何かが

 

 

 

 

 

「————……ッ」

 

 

 

 腹をくくるしかない。

 

 これが異変であるなら、戻ればいい。

 

 だけど、それはどこに?

 

 

……やるしかない

 

 

 動転して、方向感覚を失ったまま暗闇に落ちている。動けないレフィーヤさんを抱えて、今この場から脱するには

 

 

 

「……——————ッ」

 

 

 

 歯を浮かせ、わずかに開いた隙間から流れ込む空気。静寂の息継ぎで、肺の引き金に指をかける。

 

 瞬間だ、瞬間が勝負だ。

 

 

 

……やれ、やるしかないッ

 

 

 

 

「………………ファイヤボルトッ」

 

 

 

 

 

 稲光、ジグザグに走る炎雷が天井を穿つ。

 

 迸る爆炎、振って舞い散る火の粉、淡い赤光が暗闇を照らす。

 

 

 

 

 

『ヂヂ……ヂァ』

 

 

 

 

「ファイヤボルト!?」

 

 

 迫るソレに躊躇わず発射。

 

 焼け焦げたそいつは、いやそいつらは皮膚なんて無い。頭も手も足もある姿をしているが、全身が溶けて腐った血肉が辛うじて人の形をしているモノだった。

 

 輝きの中で見たその顔は、異様なまでに眼球が大きく、そして耳まで開く大口から覗く人間の歯が異常に発達していて恐怖を抱かせる。

 

 食らいつく。囲んで、僕らを生きたまま貪る。そんな恐怖が胃の奥から沸き上がる。

 

 

 

 

 

 

「走れッ!!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 無理やり抱え上げて、急ぎレフィーヤさんを急かす。

 

 周囲を囲むソレらの一角が空いている今、走って抜けるしかない。

 

 

 

「走れッ!走れぇえッ!!」

 

 

 手を引いて、引きずるように僕はレフィーヤさんの手を取る。一歩、二歩、だけど重く引っ張られる。

 

 

 

「ぁ、いやぁああッ!!噛まないでぇえええッ!!?!?」

 

 

 

「やめろぉおッ!!」

 

 

 ナイフを一線、囲うそいつらの頸部をまとめて切り裂いた。

 

 腐った果肉を切り裂くみたいにあっさりと切れる。レフィーの腕にかみつくそいつも、引き離せば簡単に肉がちぎれて離れた。

 

 

……こいつら、脆いのか

 

 

「……ッ!!」

 

 

 囲んでいるだけ、こいつらは襲ってきても問題はない。

 

 あのタイル男とは違う。あいつには殺意を感じたが、この異変はそういう趣旨ではない。

 

 物理的に殺すんじゃない。ただ、精神を削り減らすだけなんだ。

 

 

 

「!」

 

 

 

 退路を遮る腐敗死体の壁、腐り汁をこぼし溶けながらも迫ってくる壁だ、不快で、恐怖に耐える精神だけを狙って削る脅威だ。

けど、脆い。死ぬわけじゃない。

 

 

……ぐしゃ、ぐしゅずしゃぁああッ

 

 

「————ッ」

 

吐き気を催す不快感、だけど構わず突き進め。

幻みたいなものだ。だから、進め。

 

 

 

『ヂィアアァアアアッ————ッッ!!??!』

 

 

「っく、どけぇええッ!?」

 

 腕を伸ばし、飛び掛かり、牙を向ける。けど、突っ込んで腕を振り払うだけで肉は弾けて汁が飛び散る。

 

 遠い、多い、集団の隙間を掻い潜るなんて考えるな。潰して、乗り越えて、無理やり進めッ

 

 角を曲がれ、もうすぐで、異変は終わる。

 

 

 

 

 

…………ヂヂ、ヂリリリ

 

 

 

 

「!?」

 

 

 角を曲がって、少し抜けた瞬間明かりが再点灯した。

 

 光、照らされた通路は何の異変も無い。振り返っても、そこには何も来ていない。

 

 ぐちゃぐちゃの死肉と液体も、徘徊する化け物もいない。

 

 何もない。異変は消えている。

 

 

……今のは、幻か何かだったのか

 

 

 まとわりつく腐肉も腐液もない

 

 体は清いまま。レフィーヤさんも僕も怪我一つ負っていない。噛みつかれた腕も、怪我は見えない。

 

「……ぁ、はああぁ」

 

 

 力が抜けた。相変わらず立ち止まるおじさんの前で、僕は深く多く、そして何よりもうるさく息を繰り返した。

 

 腐敗した肉の海を描き分ける中、結果論だが幻だとわかったと言えど息は吸いたくない。

 

 

「ぁ……ああぁ、もう……こりごりだ……あんなの、もう」

 

 

 

 どっと噴き出る汗、念のため左を見るが壁には案内板が見えた。2番になっている、次は3番

 

 けど、すぐにはダメだ。まずは、落ち着かないと

 

 

 

 

「………ぁ……ァ」

 

 

 

 

「レフィーヤさん、少し休みましょう……少し」

 

 

 

 荒く呼吸を繰り返す。レフィーヤさんの心も限界が来てしまう。

 

 

 

 

「少し、少し休んでから……レフィーヤさん、大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 返答が無い。

 

 膝と膝をくっつけた女の子座りの姿勢で、うつむく。

 

 息は、しっかりと繰り返している。呼吸で大きく揺れる様子からして、余程怖い思いをしたは明らかだ。怯えて、精神に傷を負った女の子にかける言葉、僕は迷ってしまった。

 

 

 

「ぁ、あぁ…………ぅ、うぁあ、あああぁあああッ」

 

 

 

「!」

 

 

 

 泣いた。

 

 大粒の涙をたくさん流して、嗚咽を交えながら泣いている。

 

 

 

 

 

「れ、レフィーヤ……さ」

 

 

 

 

 

 

……しょあぁ

 

 

 

 

 

 

 広がる、真っ白なタイル床に広がってしまった水たまり。

 

 恐怖のあまり、竦んだ体は耐え切れず決壊した。つまりは、そういうこと

 

 

 

 

 8番出口へ続く通路で、レフィーヤさんは壊れてしまった

 

 

 

 

 

「……ぁ、ああぁ……嫌、嫌嫌ッ……ぁ、あぁ、ウァアアア、アァアアアアアアッ」

 

 

 

 

 

 恐怖、恥じらい、不快感

 

 15の少女の心を壊す。極限状態が、冒険者であること認識を阻害する。

 

 彼女は、レフィーヤさんは、ただの女の子としてそこにいた。

 

 

 

 




今回はここまで、3話で終わりそうにないのでまだ続きます。思い付きで書いてみましたが中々楽しい、ベルレフィで健全な作品を書けて楽しい。次回も健全内容でお送りします。



感想・評価などあれば幸い。反応が伺えますと今後の参考になりますので。



※すみません、4話の投稿は明日になりそうです

【追記】

もうしばしお待ちください。健全なおもらし絶望レフィーヤを書くために

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