8番出口から脱出するベルとレフィーヤ   作:37級建築士

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レフィーヤをイジメるのは楽しいゾイ


(4) 

 

 

 

 

 

 

「いや、もういや……やだ、やだやだやだッ……怖いの、いやぁッ……もう、嫌ッ……いや、いやぁああッ!?」

 

 

 

 子供の様に泣きじゃくる姿、実際その精神は幼く下がってしまっている。

 

 休日のお出かけに選んだふんわりした私服姿、それ故にただの普通の女の子として姿が映える。

 普通の女の子、何の罪もない女の子が、酷く理不尽な目に遭って、絶望して、抱くべきでない悲しみを与えられている。

 

その上、今は尊厳を壊してしまった。失禁という、恥をさらす己を意識するだけで毒を含むのと同じだ。内側がただれて、吐き散らして苦しむ。

 

嗚咽を重ねて涙を流す。そんな様を、僕はただ黙って見ていた。

 

 

……じわ、しょあぁ

 

 

「いや、もう嫌ッ……ぁ、ああぁうぅぅ……うぅ、ひっぐ……ぁ、ぁあ、うわぁあぁああああああッ」

 

 

 下着も、スカートも、タイツもパンプスも、自らの恥ずべき液で汚してしまった。

 

 15の歳で、異性がいる場で、理不尽を恨み己を攻める。感情は濁流になって坩堝を作る。

 

 宝玉の様に煌びやかな少女の瞳も、曇天の黒い空の如く重い色で染めてしまう。見ていられない、思わず目を背けてしまう惨状が目の前でうずくまっているのだ。

 

 

 

「……み、見ないで……わたしを、見ないでッ」

 

「!」

 

 

 目を見たから、視線を察してそんな言葉を吐くのだろう。

 

 怯えるレフィーヤさんの拒絶の言葉、それはなんとも、心が痛む。

 

 どうするべきか逡巡している暇はない。わからなくても、とにかく触れないと。このままじゃ、レフィーヤさんは本当に壊れて崩れ切ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ……ぁああッ、うぅ————ッ」

 

 

 

「大丈夫、大丈夫です……僕がいます、頼りないかもですけど、僕がいっしょに」

 

 

 

 差し出したハンカチ、涙をぬぐおうと顔に触れる。

 

 力なく、されるがまま。もはや感情を荒げて裏手ではたくことすらできないのだ。

 

 動けない。このままじゃ、本当にここで終わってしまう。

 

 

 

……今は、無理やりでも

 

 

 

 顔に触れた。柔らかい頬が熱い並みで濡れて、火照っている。

 

 あげた顔は、くしゃくしゃになっていて、そんな泣き顔にハンカチをあてがう。

 

 

「帰りたい、もういや……帰して、皆のところに帰りたいッ……うぅ、ひっぐぅ……あぁ、うぁぁああああぁあああああッ」

 

 

 拭いても拭いても涙は溢れ出る。

 

 濡れたハンカチで何度拭っても、あふれる涙は止めどなく流れ続ける。

 

 

 

 

……いいのか、これで

 

 

 

 心折れた女の子をもう一度立ち上がらせる。優しく声をかけて、それではい元気になったなんて、希望的観測に過ぎない。

 

 僕は知らない。人の心、異性の心に精通しているわけでもない。ましてや、レフィーヤさんの怒りっぽさにも、未だによくわかっていないところがある。

 

 だから、寄り添うだけじゃ、きっとだめだ。

 

 

 

…………このままじゃ

 

 

 

 一人だけなら、きっと出ることは叶う。

 

 だけど、そんな選択肢は無いのだ。わりきれないからとか、そういう次元じゃない。

 

 魂が、初からそんな選択肢を消している。

 

 

 

……わがままだ、これは僕の傲慢だ

 

 

 

 

…………それでも、僕はッ

 

 

 

 

 助ける、その選択肢しか選ばない。

 

 その為なら、腹をくくれ。嫌われたって、嫌悪されたっていい。激を入れろ。思い出させるんだ。

 

 貴方は、ここで終わって良い人じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

「……聞いて、レフィーヤさん……ぼくは、君を助ける」

 

 

 

 恥ずかしくてもいい、気取って良い。

 

 今は、この弱り切った妖精を立たせるために、今までのベルクラネルよりも違う自分を見せる必要がある。

 

 

「……助ける、約束する。だから、立てッ」

 

 

「!」

 

 

 強い言葉で、その背中をぴしゃりと叩く。

 

 支えが必要だ。その為なら、命令でもなんでも、この冷え切った体に熱を注がないといけない。

 

 

 

「思い出して、帰る場所を……あなたは、こんな場所で死んでいいと、本気で思うのか?」

   

 

「……ぁ、それは」

 

 

「泣いていい、恥ずかしくてもいい……でも、諦めたらだめだ。それは、僕が許さない」

 

 

「でも、私は足手まといにしか」

 

 

「それを決めるのは僕だ……僕だから、あなたが決めなくても、僕はッ」

 

 

「……でも、でもわたし」

 

 

「レフィー!!」

 

 

 

「!?」 

 

 

 

 乱暴に、痛いぐらいに、その小さな体を抱きしめる。

 

 熱を注げ、生きたいという執念を、思い出させろ。

 

 

 

「……ぼくがいる、だから……信じて」

 

 

 

 臭い台詞でもいい。いま、たった一人怯えて動けなくなっている女の子を救うには、僕が英雄にならなくちゃいけない。

 

 足手まといだからとか、そんなのは論外だ。

 

 

 初めからもとより、レフィーヤさんを見捨てて一人助かるなんて未来は存在しない

 

 

 

 二人で死ぬか、二人で生きるかだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 汚れた体。今、レフィーヤさんが着用しているのはいたって普通の私服、下はミニスカートで、長めのタイツを履いてパンプスを着用している。

 

 けど、今はそれを見ないようにしている

 

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

 

 後ろに引いた手

 

 

 

 

 指先を絡める程度に繋いで、僕の跡を歩いている。

 

 静かに、押し黙って

 

 

 

 

……間違っても、聞けないよね

 

 

 

 

 ズボンを貸そうか、なんて聞くこともできない。

 

 指摘できない。その姿は、漏れだして汚れたタイツも、下着も

 

 指摘できない。できないけど、足取りに少しだけ水気のある音が混じっているのは、どうか気のせいであってほしい。

 

 

 

 

「……異変は無い、なかったら3番通路ですね」

 

 

 

 

 確認を取るように話しかける

 

 返事はない、代わりにギュッと手を握られた。

 

 

 

「進みましょう」

 

 

 

 異変は無い。問題なく、通路を抜けると3番の案内板が表示されていた。

 

 

 

 

 

<<4番通路>>

 

 

 

 

 向かってくるおじさんを見る。

 

 おじさんはいつも通りのおじさんだ。

 

 ポスターも、夜目はしないけど模様や大きさ、どこにも変化はない。右に並ぶ扉も、通気口も

 

 

「……ッ」

 

 

 残るは天井、問題は無いかと見えた。

 

 けど、異変は起きた

 

 

「レフィー!」

 

 

「————ッ」

 

 

 

 手を握った。またナイフを構えて異変を見極める。

 

 けど、起きた異変は

 

 

 

…………ぽた、ポタポタポタ

 

 

 

「?」

 

 

 

 

……しゃぁああああああああ

 

 

 

 

 

「引き返して!!」

 

 

 

 

 急ぎ、濡れた床で滑りそうになりながらも走って、角を抜けきった。

 

 びちょびちょの体、すっかり濡れてしまった僕の体、顔もかかったけど

 

 

 

「……ただの、水?」

 

 

 

 異変、起きる異変は様々。

 

 わかりやすいものと分かりにくいもの以外に、あるのは有害なのと無害なのがある

 

 そして、これは無害なのだろう。

 

 

 

 

……雨が降る異変、っていうことかな

 

 

 

 

 

 無害でよかった。胸をなでおろして、ふと手の中の空白に気づく。

 

 

 

「って……レフィーヤさん」

 

 

「————ッ」

 

 

 何も言わずに飛び出して、異変が起きているおじさんの後ろへと踏み込んだ。

 

 大雨が降る中、レフィーヤさんは水を浴びている。つまりは、そういうことだ

 

 

 

「……ぁ、うん」

 

 

 

 

 当然だ。いくら非常時とはいえ、その不快感を抱えたまま、ましてや異性がすぐ近くにいる状態でそのままなんてわけにはいかない。濡れてしまったスカートのも下着も、パンプスもソックスも、

 

 それ以外も、全部ずぶ濡れになって、洗い流した方が楽だろう。

 

 

 

 

「……ベル」

 

 

 

 

「ぁ、うん」

 

 

 

 

 濡れた髪、絞りながらこっちを見て話しかける。

 

 濡れた服が肌に張り付いている。レフィーヤさんの華奢な体のラインが、けど出るところは健全に肉が付いているそんな体つきが、濡れた服越しに確認できてしまう。

 

 水も滴る良い女、その言葉を全身で表現している光景だった。見目麗しいエルフで魅せる濡れ姿は、もう艶姿と言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

   

    ×    ×    ×

 

 

 

 

 

 

……きゅぅぅ、ビチャビチャビチャ

 

 

 

 

…………バッ、バッ

 

 

 

 

 

「……————」

 

 

「あの、向こう見てます?」

 

 

「見てる、大丈夫だからッ」

 

 

「……そう、ですか」

 

 

 

 絞り出して、床に散る水の音。

 

 少し、ほんの少し離れた距離、背後で行われている音が想像力を駆り立てる。

 

 レフィーヤさんの姿を、脳裏が正確に再現しようとしてしまう。

 

 

 

 

……ま、まずい、色々とまずい

 

 

 

 

 

 

「……乾かない、ですね」

 

 

「それは、仕方ないですよ」

 

「あなた、炎出せますよね……こう、撃たずに掌に留めて、熱い空気だけ手から出したりできませんか?」

 

「暴発して服を燃やす未来が見えます」

 

「……かも、しれませんね……あなたの、魔法」

 

 

 途切れる会話、妙な体言止めから続く会話は無い。

 

 気まずい。

 

 あれだけ詰めよって、だけど今はインモラルな空気で脱衣を背に感じている。

 

 トラブルで逆立つ神経が、今は別の意味で剥き出しに荒くれている。

 

 

 

「……ベル」

 

 

 

「?」

 

 

 

「お願いがあります……服を、貸してください」

 

 

 

「……えっと、今着ている服は」 

 

 

 

「乾きません。動きが遅くなるぐらいなら、捨てます……足を、引っ張りたくないから」

 

 

 

「…………わ、わかった」

 

 

 

 自棄になったわけじゃない。考えた上での決断。羞恥もあるだろうに、今得るべき利を考えて、レフィーヤさんはその言葉を打ち出した。

 

 ならば、その言葉を払う行為は、とても嫌なことだ。

 

 

「……上、だけなら」

 

 

「ありがとう、ございます」

 

 

 

 後ろを見ないように、上着をレフィーヤさんに渡す。

 

 触れた手、濡れた指の冷たさでドキッと胸の奥が揺れた。

 

 

 

「……あと、それともう一つ」

 

 

 

「な、なにかな?」

 

 

 

 

「…………あまり、見過ぎないでください」

 

 

 

「?」

 

 

 

 

「……いいですよ、振り向いて」

 

 

 

 

 二呼吸程間を置いて、そう許しを出した。

 

 言われてすぐ、振り返り僕の服を着たレフィーヤさんを見る。

 

 ブラウンの上着を着用している。そんなレフィーヤさんは

 

 

 

「……な、なな……それ」

 

 

「————……別に、普通です……い、意識し過ぎですよ。あなた、どうせこんな姿いっぱい見てますよね……あなたの周りには女の子ばっかりだし……どうせ、見てるくせにッ」

 

「……な、ないはず」

 

「ほら、やっぱり……エッチです。あなたって、そういう男ですよね…………だったら、驚かなくてもいいじゃないですか。し、下着ぐらい、見てるくせに」

 

 

 洗濯物で目にすることはあれど

 

 こうして、下着姿だけのあなたのような姿は、無い、無いはず。

 

「い、いやいや……だって、それ」

 

 

 

「————……し、下着ですが、何か?」

 

 

 

 赤面したまま強気な顔で、だけど取り繕えない真っ赤な色ばかり目に留まる。

 

 そう、今レフィーヤさんはすごく生足をオープンにさらしていて、上着で上こそ来ているけど、それ以外は、うん……下着が、見える。薄いピンクの、可愛い布が、見えている。

 

 そして、足元には脱ぎ捨てたブラウスやら、スカート

 

 今、レフィーヤさんは下着とクツしか着用していないのだ。

 

 

「……み、身動きを優先しました。ぬ、濡れた服は……機動力を、下げます……冒険者だから、割り切るんですッ……あ、あなな、あなたが意識しなければ……これは、問題ないッ」

 

「も、問題あります……ありますよね?」

 

「いいんです……ほら、次の通路に行きますよ!」

 

「……れ、レフィーヤさん」

 

 

 あまりにも強行、というか狂行。

 

 怯えすぎて気が狂ったのかとも考えたけど、やはり羞恥を抱きながら揺るがない決意のような、そんな腹をくくった印象が受け取れてしまう。

 

 堂々と歩く様、異変が待つかもしれない先の道を行く、その姿にさっきまでの怯えで竦んでいた痕跡はない。

 

 あの雨の中で何か蹴りを付けたのか、聞いてみることもできるだろうけど、今は触れない方がいいだろう。

 

 

「……い、行こう。レフィーヤさん」

 

 

「————……」

 

 

 覚悟を決めて、冒険者としての自分を取り戻したレフィーヤさんの後ろ姿を見る。

 

 助けるなんて傲慢にならなくても、自分で踏み出したレフィーヤさんが、素直にうれしく思えてしまうから。

 

 だから、今は触れない。

 

 進むだけ、この八番出口の攻略に勤しむだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 

 

 

 

 

    ×    ×    ×

 

 

 

 

 

「……レフィー、でいいです」

 

「え」

 

 

「……呼び方、今はそれでいいです……あなたにそう呼ばれると、むかつきますけど」

 

 

 握る拳、そして活を入れんと両の手で自分の顔をはたいた。

 

 

 

「……ぅ……ああッ!!?」

 

「!」

 

「気にしないで、とにかく……今は、レフィーと呼んでください……その方が、心強い」

 

「……れ」

 

「————ッ(ギロ)」

 

「…………れ、レフィー」

 

「わかればいいんです…………ベル」

 

 

 

 




今回はここまで、読了感謝です。


いちゃらぶも十分曇らせもたっぷり、あとは出口まで駆け抜けるだけ。


次の話からサクサク進みます。
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