8番出口から脱出するベルとレフィーヤ   作:37級建築士

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ここが最新話です、8番出口ベルレフィ完結。


甘々のベルレフィをどうぞ。そして、今夜中に最終話も投稿します。


(8)

 鳥の声を聞きながら、眩しい日の光に手を掲げた。

 

 降り注ぐ陽光、翡翠の覆いをくぐりぬけて降り注ぐその光に、遮る手は不粋だとすぐに改めた。

 

 光は余すことなく体で浴びた。

 

 一糸纏わぬ、この体で

 

 

 

……カポーン

 

 

 

 

「……」

 

 桶を落とした音がした。

 

 人がいないと聞いたから、もしかしたら壁の向こうから、女湯でレフィーヤさんがこけたのかもしれない。

 

 

「れ、レフィーヤ、さん……大丈夫ですか?」

 

 

 

 壁の方に向かって声をあげる。帰ってくる返事は、無い。

 

 代わりに、返礼の

 

 

 

 

 

……カポンッ

 

 

 

 

 

 

「いたッ!?」

 

 

 硬い返礼、投げられた桶が頭に直撃した。

 

 露天風呂だから、天井はないのだ。うん、だとしても、何で当たるのだろう。透視でも、いやまさか。

 

「……ベル・クラネル」

 

 恨めしそうな、聞こえる声で名を口にした。

 

 続く言葉は無い。ただ、湯のあふれでる音が耳を撫でる。

 銭湯で、まったり湯に浸かる。

 

 僕とレフィーヤだけ。貸し切りじゃないけど、たまたま二人きり。

 

 

……話、駄目かな

 

 

 惜しむ気持ちを口の中で留めて、僕は顔半分を湯に沈めて吐き出した。泡となって消える言葉。

 

 暖まった体とは相反して、冷めるものもあるということかもしれない。

 

 

「……」

 

 

 夢じゃない。間違いなく僕らは、あの異空間とも言える迷宮に、8番出口に続く無限通路に閉じ込められていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 階段を上って、外に出た僕らはダイダロス通りの、比較的知っている商業区の路地に出た。

 

 人目のある場所、そして外に出た以上当然問題がある。レフィーヤさんの服装だ。

 

 下着と僕の上着だけ、アマゾネスと言い張るにしても隠しきれない組合せのファッション、丸出しのショーツは嫌でも人の目を集めてしまう。無論、見せるわけにいかないので、即刻避難。

 

 僕らは運が良かった。そこは少し裏路地を歩けば人目に付かずにある場所へ、ここオラリオにいくつもある公衆浴場、極東風に言う銭湯がある。

 

 僕らは運が良かった。近くに銭湯があって逃げ込める上、その場所は何度か訪れていて、店主である極東出身の神さまはタケミカヅチさまとも顔見知り、つまりはうちの神さまとも顔見知り。

 手荷物も無い。お金も無い、そしてレフィーヤさんには服が無い。そんな状況の僕らに、店主の神様は快く親切心から振る舞ってくれた

 

 改めて、ここは神様の知り合いが営んでいる、ちょっとした穴場の銭湯施設。名前は酷いセンスなのが傷、その名も地獄銭湯だ。

 

 

 

……なんだか事情は知らないけどよ、取り敢えず風呂に入ってきな!心配せずとも金は取らねえよ!暖まって上の休憩所で休んで、飯も食ってけ!支払いはツケといてやらぁ!!

 

 

 粋な計らいのおかげで、僕らはゆったり休まった一時を過ごしている。

 

 入浴を終えて、食堂で料理を食べて、今はまったりと畳一面しかれた大広間で、ゆったり、まったりだ。

 

 食事を終えた後、レフィーヤさんはマッサージチェアーなるサービスを受けに。一方で僕は眠気の誘惑に誘われるままくつろげる休憩所へ。

 

 そこはまさしく幸福な死屍累々、銭湯を満喫して寝てしまえばもはや帰ることは苦痛、地獄銭湯の由来たる光景が広がっていた。

 

 

 

「……あ、ここよさそう」

 

 

 

 結構広い、まばらに人はいるけど皆寝ころんでイビキをかいている。ちゃぶ台に座ってお酒を飲んで気持ちよさそうにしていたり、入浴と食事で皆気楽、周りの目なんて気にしていない。

 

 

 

……クッション、ソファの代わりかな?

 

 

 

 広間の隅にいくつも置かれたソレを一つ拝借。体よりも大きいそれはとっても軽く、壁際に置くとちょうどいいソファ兼ベッドみたいなものが出来上がる。

 

 

 

「……うわ、これすごい。だめになるぅ」

 

 

 フィットして包み込むクッションで体の力が抜ける。一瞬で瞼が重くなってしまった、恐ろしい。これはまさしく異変

 

 

 命をすり減らして危険地帯から脱出した上で、極上の入浴とそこそこに良い食事、そしてこのクッション。

 

 今この身を包む快適な幸福を得るためなら、またあの通路に行っても、いやそれはない。ないない。

 

 

 

「ふひー…………」

 

 

 

 

    ×    ×    ×

 

 

 

 

 まったり、心地よい。

 

 眠って起きてを朧げに繰り返していた。

 

 そんな僕の意識を覚醒させたのは、透き通るように美しい声だった。

 

 

 

「気が抜け過ぎです、おじさんですかあなた?」

 

 

 

 

 綺麗な声、温かくて柔らかくなったレフィーヤさんの声色、だけど発する言葉は安定の諫め口調。

 

 目を開けて、言葉を発した貴方を見るも、その顔は完全にとろけきっていた。胸元も緩んでいて、なんだか、色々と防御力が低くなっている。

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「ほぁ、はわぁぅ……しちゅれい、しましゅ」

 

 

 

……ふわり

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 躊躇いなく、そうすることがまったく普通な行動とばかりに

 

 僕の上に、クッションに腰掛けた僕をさらにクッションにして、レフィーヤさんが吸着。

 

 

 

「ん……ふふ、あたたかい」

 

 

 

「……ぁ、えっと」

 

 

 

 

 吸着、なんて表現が本当にふさわしい。

 

 飼い続けて依存するぐらい懐いてしまった猫よろしく、このほどよく温まったふわふわゆるゆるな生き物は僕のお腹の上で、胸に頭を預けてだらんと溶けて、そうくっついてしまった。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 驚いて、声に出すのがきっと、前の僕だ。

 

 今のレフィーヤさんの行動が、あの通路を経験する前とあまりにも乖離していることはわかっている。わかっているから、きっと、受け入れてしまった。

 

 レフィーヤさんは、いや

 

 

 レフィーは、もう

 

 

 

 

「……ん」

 

 

 

 

 言葉に出して、説明する過程はいらない。

 

 つまるところ、吊り橋効果の延長で始まった結果、僕らは仕上がってしまった。

 

 だから、この胸に綺麗な貴方の顔があるのなら、撫でやすいように長い髪を置いているなら、躊躇わず触れてしまえばいい。

 

 触れて、撫でて

 

 

 

 

「…………レフィー」

 

 

 

 

 口にして、少し強く抱きしめた。

 

 戻ってきた僕らは、もう以前の僕らじゃない。

 

 

 近づいて、ぶつかって、吐き出して、見せあった。

 

 

 距離感は、もうとっくに壊れていた。

 

 

 

 

「……ん、んぅ……背中、むずむずする」

 

 

 

「?」

 

 

 

 もぞりもぞりと、僕の上で身をよじらせて、そして顔の位置がすぐそばまで上がってきた。

 

 トロンと溶けた表情、赤みがかかった頬、それを僕の頬と擦り合わせてくる。猫の様に、猫のしぐさで、素直になって猫甘えをしている。

 

 もう怖いことは無い、だけど包まれる快感を知っている。だからもっともっとと欲しがる。

 

 

「……背中、もっと触って欲しい」

 

 

「レフィー」

 

 

「寂しいの、触られてないと……落ち着かない。ベル……お願い…………さわって」

 

 

「……わかった」

 

 

 

 

 知っている人は周りにいない。レフィーは、素直になって、甘える

 

 猫になって、解けて、ほぐれているから、全部打ち明ける

 

 

 

「…………ここ?」

 

 

 

 布越しに、だけど満足してくれない。

 

 

 

「ベル……左手、貸してください」

 

 

「うん、いいけど……あ」

 

 

 ゆったりした着物を着ている。袖口も大きい。

 

 だから、僕はレフィーの右手の袖口から、腕をこすり合わせて左手を挿し入れた。

 

 そうやって、二の腕と、腋に指先が触れて、肩の関節軸、そして背中の肌に至る。

 

 

 

……するる、くしゅり

 

 

 

 

「ん……かいて、ベル……背中、そこ……ん、な……な、ゃ……ひゃぅ」

 

 

 

 

……くしゅ、ずず、ずずず

 

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

 

 布のこすれる音、立てた指先の腹で、指圧するように背中を刺激する。

 

 マッサージでされたことを、もう一度して欲しかったのだろうか、なんて思ってしまう。レフィーの背中は、綺麗ですべすべで、痒みの垢汚れなんて全くない白磁の肌だ。

 

 かいてほしい、ではなく揉み解して欲しい、かもしれない。

 

 

 

「……んぅ、にゃぅ……んふぅ」

 

 

 満足げに声を出している。

 

 吸いつくように体全体を寄せて、背中を直に触れられて心地よくなっている。

 

 安心して、穏やかになっている。

 

 

 

「大丈夫です、もう大丈夫です」

 

 

 

 今の心地よさは、あの通路の出来事があったから。

 

 終わった後でも、この安心感を僕は注ぎ続けないといけない。

 

 

 

 

「約束、しましたからね」

 

 

 

 

 通路で貴方は僕に言った。恥ずかしい所をいっぱい見せた、でもそれはもう気にしないと。

 

 僕に心を許す。素直になって、負担になるぐらい依存してやると。

 

 

 

…………甘えさせてください、落ち着くまで、私が満足するまで。

 

 

 

 

「……ここまでとは、思わなかったなぁ」

 

 

 

 

 約束は履行中。今仮に終わっても、まだ続いてしまうかも。いや、続くだろう。

 

 

 8番出口の通路で僕らの関係は変わってしまった。繰り返すが、距離感はとっくに壊れている。

 

 素肌に触れて、内側の、柔らかい部分にも指が届く。

 

 ぽかぽかで暖かい、触れあって、抱きしめて、何をしても貴方は喜ぶ。より身を預けて、幸せ中鳴き声を上げるのだ。

 

 

 

……可愛い

 

 

 

「可愛いなぁ、レフィーは」

 

 

 

「————……ん、にゃぅ」

 

 

 

 

 恥じらいながら額をこすり付ける。愛らしすぎるエルフの女の子、顔に耳が触れてくすぐったい。まるで猫のひげだ。突き刺すようにあたって、くすぐったい。

 

 それぐらいに、今のあなたが近い。

 

 距離感は壊された。あの、8番出口によって、僕らはもう以前の僕らに戻れない。

 

 

 

 

「……少し、眠る?」

 

 

 

「…………横向き」

 

 

 

 寝返り、モゾりと動けばクッションも動く。

 

 斜めに寝る僕らは、互いに向かい合って添い寝の形に落ち着いた。

 

 

 

「抱きしめて、ください……ベル」

 

 

 

「……おいで、レフィー」

 

 

 

「————……ん、んん……ぅん」

 

 

 

 こすれ合うて、着物の袖口から通って、素肌で触れあっている。

 

 互いに互いの背中に触れて、抱きしめ合って、僕らは瞼を降ろした。

 

 

 

 悪い夢から覚めた今も、僕らは恐怖が残っている。

 

 安心しながら眠りたい。密着して、吸着し合って、心地よく眠ろう。

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 穏やかに、生きて脱出した僕らは、正直良い思いをしている。

 

 その事に罪悪感は、僕らは何も悪くないけども、うん、流石に少しは感じてしまう。レフィーではなく、僕だけが

 

 未だ、あの通路に残されている人を想うと、やはり胸が痛くなる。

 

 

 

 

……どうしようか

 

 

 

 

 言っていないこと、気づいたこと、気づいて、でも確信は無いから予感。

 

 だけど、今思えばアレは正しいと、あの通路の悪辣さを想えば、これぐらいの予想は正しいはず。

 

 

 

 

……気づいたこと

 

 

 

 

 

……レフィーには黙っていた。黙ったまま、急がせた

 

 

 

 

 

 聞かれないから、口にしなかった。

 

 あの通路で、たまたま気づいた一点。それは異変ではなく、安全な場所で見つけた事実。

 

 

 

 

 

…………あの通路全体、僕らには制限時間があったことなんて、別に知らなくていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本編はここまで、脱出後の8番出口のちょっとしたお話を今夜にも投稿します。ベルレフィの関係について感想があればこの話の感想機能から推奨、今の内だけですのでね、ベルレフィいちゃつきで砂糖を吐けるのは。

8番出口ベルレフィ完結、二人は無事生還、形のある報酬はありませんが変わった二人の今後については皆さまの想像に任せます。いちゃつきますぜ、こいつは



最終話の(∞)は12時に投稿予定、そんなに長くないです、さらっと読めるちょっとした軽いお話です。お楽しみに

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