昔の友達がイケボでアトミックしてる俺はどうすりゃ良いですか? 作:富竹14号
事の発端は、それはもう単純なものだった。
シドと食事を共にしたあの日から、シドは内心嫌々ながらも王女の恋人としての生活を送っていた…まぁ、実際は単なる男避けとして使われていたようだし、当の本人はそれはそれで哀れなモブらしくてアリ…等と喜んでいた節はあったが。
そんなウチの馬鹿に対して肝心の王女が何を思っていたのかは知らないが、気になって覗いてみた時はまぁまぁ悪くはない関係を築いていたらしかったので、俺は特に何をするでもなく二人の芝居関係をのんびり眺めていたのだ。
そんなある日のことだ…王女が行方不明となった…いや、正確に言うなら誘拐されたと言うべきだろう。
一日丸々寮に戻らなかった…王女の失踪だ、当然騎士団側が調査に動いた…結果として見つかったのは片方だけ落ちてたローファーと付近に残る争った形跡…騎士団は容疑者探しを始めた。
結果…最後に出会っていたらしい俺の友人が最有力候補として騎士団にドナドナされていった…まぁ、当然と言えば当然だし、俺は上辺で言えばアイツとの関係性など皆無であったこともあって、擁護らしい擁護もしてやれなかった…そこは悪いと思ってる。
そうして騎士団にドナドナされていったアイツが戻ってきたのは五日後、全身傷だらけになりながら戻ってきたアイツは珍しくくたびれていた。
指の爪とかが剥がされていたので、恐らく拷問なりされていたのだろう、傷なんてさっさと治療なりなんなりすれば良いと思うというかそう言ってみたのだが…当の本人はそんなのモブじゃないからと言ってやらなかった…馬鹿なんじゃないかこいつ、馬鹿だったわ。
まぁ、兎にも角にもそうこうしている内に物事は進んでいくもので、やれウチの友達を犯人にしようとする動きがあるだとか、騎士団の中に教団の人間が入り込んでいるだとか、王女を誘拐したのは恐らく教団の人間であろうとか…これまた面倒臭そうな案件が入り込んでくるのである。
そして…そんな状況になったとした場合、俺達もといシャドウガーデンのやることなんて、結局のところ一つだけなのである。
まぁ、とどのつまり……殲滅である。
そうして、今に至る。
作戦は一言で言うなら同時襲撃…各地に点在していたディアボロス教団のアジトへと同時に襲撃を仕掛け、それと同時にアレクシア・ミドガルの魔力痕跡を調査、居場所を突き止め次第に確保に向かう……そんな作戦だった。
全体指揮をガンマが行い、アルファはその場での現場指揮、後方支援をイプシロンが行い、デルタが先陣もといいの一番に得物へと喰らいつく…そして俺は、全体指揮のガンマを除いた他の部隊の援護及び補助を担当する…そういう段取りだった。
援護や補助と言っても精々が形だけ、そんなことをするまでもなく教団の人間は次から次へと一掃されていった為、俺はただ目の前にやってきた教団の人間をひたすら斬り殺すことに終止することとなっていた。
逃げるようにやってくる男やら女やらの首を斬って、掻き切って、捩じ切って、ただただそれをひたすらに繰り返す…そうこうしている内に見つけた白髪の怪物、悲鳴を上げるように暴れまわる哀れな異形。
哀れに思った、可哀想に思った、その内に奔る激痛と魔剣士達に刻みつけられる幾多の傷…そしてそれが勝手に治ってしまうが故に死ぬに死ねないその生き地獄…それをどうにかしてやりたいと、そう思ってしまった。
後はもう言った通りだ…痛みの原因と魔力暴走を鎮め取り除き、痛みを和らげてやろうと思った、楽にしてやろうと思ったのだ。
幸いにも俺は魔力を血液を流し込むことで操るという手法を用いていた…血液の中に存在する毒性を持つナニかを取り除くくらいは訳なかったのである。
そして、その結果として───
「───んっ…すぅ…すぅ」
なんか、女の子が生えてきた。
布を被らされた少女、穏やかな様子で眠りにつくその幼い姿に俺の口から再び大きなため息が吐き出される…びっくりするくらいの予想外な展開に何をどうするべきなのかがさっぱり分からなくなってしまった。
「…ヴラド」
背後から響くアルファの声、冷静沈着な様子を感じさせるその声に俺は困ったように頭を軽く掻きながら振り向いた。
「悪いな、アルファ…一人、居候が増える」
そう告げるなり、俺は少女の身体を抱き抱えた。
生きている以上は殺すという選択肢は取れなかった、生かしてしまったのが俺である以上は見捨てるという選択肢も無かった。
このまま此処に置いていけば、騎士団に預けてしまえばきっとまた同じことをされる…いや、俺が治したという事例から新たな研究材料としてより苛烈な実験が行われるかもしれない。
作戦が開始されてから現れたという時点でこの少女は教団の被害者であろうことは確定なのだ、それを放っておくことが出来る程、俺の良心は死んではいなかった。
迷惑を掛ける…そういう意味での言葉だった…それに対してアルファは薄く微笑んだ。
「構わないわ…何時ものことよ」
「そうか…助かる」
言葉少なに交わされた会話、アルファに感謝を述べた俺はその場から走り出した。
流石に、こんな大雨の中で布切れだけっていうのは身体に悪いからと…そんなことを思いながら。
何も変わらない…アルファはふとしたようにそう思った。
走り去っていく恩人の片割れの姿、屋根を伝って家宅から家宅へと移っていくその姿をアルファの目は捉えていた…きっと、子供に負担を掛けないようにしているのだろうと…そんなことを考えながら。
何時もそうだった…シャドウが悪魔憑きを拾ってくる度にせめて事前に教えとけよと文句を言う彼ではあるが…その実、そう言った被害を受けた子供達をいの一番に保護し、拾ってくるのは何時だって彼だった。
現在のシャドウガーデンは派閥が二つ存在し、その内訳がシャドウへの忠誠を誓う人員とヴラドへの忠誠を誓う人員で分かれていることを、恐らく彼は知るまい。
生かしてしまったから…そう言って助けた人間の数は数知れず、そうして助けられた彼等彼女等は彼に対する恩義を決して忘れることはない。
親元に返した子供も居たが…そうした場合はほぼ確実に教団がその実態を知ろうと擦り寄って来る為か、結果として親元共々組織に引き込んだこともあった…その結果として、組織が大きくなっていったのだから、彼女はそこに文句を言うつもりは無い。
諜報が入り込む隙を作るだけではないか、その甘さが組織を瓦解させる恐れがあるのではないか…なんてことを言う人間は組織には居ない…何故なら入り込もうとした人員の尽くをヴラド本人が皆殺しにしてしまうからだ。
中には寝返った人物も居たが…結局の所、敵を内側に入れたことがまるでないのである、ヴラドという傑物は。
だからみんな信頼しているし信用もしている、おんぶに抱っこは嫌だからと毎日毎日研鑽を重ね続けている…誰が言ったか、シャドウガーデンの兄やら父親だとか、そう言った愛称というべきか異名と言うべきなのか…それに対して酷く困惑した顔を浮かべていたヴラドの顔は、今でもアルファの脳裏に残っている。
「貴女は…貴女達は……」
くすりっと脳裏の記憶を呼び起こしたが故に生まれた笑みの背後から、ふとしたように声が響く。
赤毛の髪を揺らして、何が起きたのか分からないと言いたげな表情を浮かべながら女は…アイリス・ミドガルは抑えきれない困惑を滲ませながらも問いかけるように声を絞り出した。
何が起きたのかが分からない…化物が現れたと報告があったから急いで来てみれば既に終わっていた…そうとしか言いようがないのだ。
紅い輝きと共に崩れていく化物の身体、そこから現れた幼い少女の姿、それを抱えながら一言二言交わして走り去っていった謎の存在…全てがアイリスを悩ませた。
そんなアイリスに、アルファはただ一言告げる。
「───アルファ」
無愛想…ただ一言告げたソレは自身の名を現す名、ヴラドとアルファの会話を聞いていたアイリスだからこそそれが名を表すものであると理解出来た…それほどまでに簡略化された言葉だった。
用事は終わったとでも言う様にアルファはアイリスへと背を向ける、興味を失ったように早々にその場を立ち去ろうとしているらしいアルファの姿にアイリスは咄嗟に叫んだ。
「待てっ!! 一体何のつもりだっ! 先程のアレと言い王都での異変と言い、貴女達は一体何を───」
「───知らなくていい」
断ち切るようなアルファの言葉…アイリスの問いかけ全てを問答無用に切り捨てるような冷たさを含んだその言葉にアイリスは思わず口をつぐみ───
「───知ればきっと、戻っては来られない」
続けて放たれた、警告とも言えるその言葉にえっ…と小さく声を漏らした。
羨ましいものを見る目だった…まるで、遠い日に失った何かを思い出したような、そんな悲しみを含んだ瞳がアイリスを見つめていた…その瞳に、アイリスは最早何も言えなかった。
「貴女はそこにいなさい…大切な誰かのいる、その場所に」
その言葉を最後に、アルファは完全にその姿を消した…雨の降りしきる音だけが周囲を包むその中で、アイリスは呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
何れ混沌は収まるであろう…一つの陰により放たれる、大いなる一撃と共に。
Q:なんかアルファの態度柔らかくない?
A:元の家族を殺してでも任務を達成したヴラドの姿に思う所があったから。