個性『治癒』の間違った使い方 作:のーし
第1話
どうもみなさんこんにちは。僕の名前は兎里 健。みんなからはウサトと呼ばれているよ。
異世界に召喚された勇者のおまけで、救命団という組織の副団長をやっています。
さて、突然ですまないのだけれど一つ質問がある。
……ここ、どこだい?
三度目の魔王軍の侵略に辛くも勝利を収めた僕たち連合軍は、しかし魔王による超大規模な魔術攻撃によって甚大な被害を受けた。
……受けた……んだと思う。たぶん……。
なぜ僕がここまで曖昧な言い方をしているのかといえば、僕が今、リングル王国でも、元の世界でもない、不思議な世界にいるからだ。
魔王の攻撃を防いだ後、魔力が完全に底をついた僕は、そのまま気を失った。
ここまではいい。いや、よくはないけど、あくまで僕の鍛錬不足が原因のことだ。不甲斐ない限りだが、甘んじて受け入れるしかないだろう。
それよりも、目が覚めたら、というか気がついたら、何やらピリついた人達とともに、一体何を通すつもりなのかと疑問になるほど大きな門の前に立っていたのはどういうことなのか。
おかしな点は他にもある。
たとえば、足元に敷かれているアスファルト。
そう。アスファルトだ。少なくとも僕が知る限りではリングルにこんなものは存在しなかった。
たしかに地球では特別珍しいものではなかった。見ればこの世界の文化圏は元の世界のそれにかなり近いものらしい。だが、元の世界だとすると、今度は別の問題が湧いてくる。
全員とは言わない。だが、明らかに僕の知る現代人とはかけ離れた外見をした人たちがちらほらと見える。
ピンクの肌をしたものや、腕が全部で六本生えているものなど、救命団の奴らの方がまだ人間に近い見た目をしているぞと言いたくなるような姿を持つ彼らは、間違っても元の世界の住人には見えない。
本当に不思議な場所、としか表現のしようがない。
また異世界転移をした……ということなのだろうか。
……いまいち状況が掴めないが、雰囲気のせいでまわりに聞こうにも聞けずにいた。
引き絞られた弓のようにピンと張り詰めた空気。
周りを見渡せば、緊張を顔に滲ませるものや精神統一を図るものなど、これからやってくる『何か』に備えるようにしている。
なんとなく今の空気だけはわかる。これから何かの戦いに臨むようなひりついたそれだ。
皆一様に動きやすい格好をしているし、中には得物を持っている人もいる。
もしかしたらこれから本当に戦いがあるのかも……?
いや、流石にこんな歳の子供たちが主体になる軍隊なんてあるわけないか。
『はい、スタートー!』
思考をうまくまとめられずにいると、唐突に何かが開始する宣言があった。
??? なんの掛け声だろう?
突然の合図にわけがわからず周りを見渡すと皆一様に頭にクエスチョンマークを掲げている。先ほどまでのなかば殺気立った感じはなく、純粋に困惑しているといった様子だ。
『どうしたどうした! もう賽は投げられてんだぞ!』
そんな、スピーカーから流れるアナウンスに、皆慌てて飛び出す。
未だに状況が掴めていないことがどう考えても致命的な気がするが、みんなで一斉に走り出しているあたり、きっとマラソン大会とかに違いな———
「「「「モクヒョウハッケン! ブッコロス!」」」」
そんな甘い考えは、角から飛び出してきたロボットのやけに好戦的な言葉によって容易く粉砕された。
……マラソン大会であって欲しかったなぁ。
とはいえ、これでやるべきことははっきりした。慣れたいものじゃないけど、僕はこの感覚を知っている。
薄々は気づいていたんだ。ただ、気づかないフリがしたかっただけで。
戦争だ。理由はわからないけど、この世界に転移してきて、僕はまた何かしらの戦いに臨もうとしている。
ここに僕の守りたかったものは、一緒に居たものは多分ひとつもない。
でも、少なくとも今だけはがむしゃらに動こう。そうすることで守れるものが、きっとあるはずだから。
街を駆け回って、危なくなっている人を見つけては拐って治す。やることはリングルにいた頃と何も変わらない。