個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第10話

「始めようか、有精卵ども! 戦闘訓練のお時間だ!」

 

 オールマイトの声が聞こえたことから、ついに授業が開始すると悟った皆が背筋を伸ばす。

 

 これから行われるのは屋内での対人戦闘訓練。

 

 『ヴィラン組』と『ヒーロー組』2対2のコンビに分かれ、それぞれが条件達成で勝利となる。

 「ヴィランがアジトに核兵器を隠していており、ヒーローは核兵器の回収を、ヴィランは核の防衛を目指す」というなんともアメリカンな設定だ。

 

 ヒーローチームの勝利条件は、時間内の核の回収(タッチでOK)。

 ヴィランチームの勝利条件は、時間内の核の防衛。

 その他、両チーム共通の勝利条件として、相手チームメンバー全員の『確保』がある。

 各チームに確保テープが支給され、それを相手に巻きつけた時点で確保となるのだ。

 

 コンビはくじで決定される。

 僕は『I』を引いたので、同じく『I』を引いた透明な少女とコンビだ。

 入試のときに幽霊と間違えてしまった女の子である。

 

「おー! 入試のときに助けてくれた人だ! あのときはありがとう!」

「久しぶり。そっちも受かってて何よりだよ」

「私、葉隠透! ウサトくん、だっけ!? よろしくね!」

「よろしく、葉隠さん。あれ、僕名乗ってたっけ?」

「ううん! 昨日一人だけ呼び出し食らってたから勝手に覚えちゃった!」

「できればその件は早めに忘れて欲しいかな……」

 

 見えはしないけれど雰囲気だけでにこやかに笑っていることがわかる彼女の様子に、僕は思わず顔を引き攣らせた。

 

 

 白熱した一戦目が終わり、いよいよ僕らの番がやってくる。

 僕たちIチームはヴィラン側。対するヒーロー側はBチーム、派手なツートーンカラーの轟くんと腕が多くてシンプルに強そうな障子くんだ。

 

 一戦目の両者には思うところがないわけじゃない。

 ないけれど、これは彼ら同士の問題だということぐらい一目でわかった。

 そして、彼ら自身が解決していくべき問題なのだということも。

 それならば、僕からいうことなどひとつもない。

 拳を交えなければわからないこともきっとあるだろう。彼らがぶつかり合うことを選ぶなら、存分にやらせればいい。

 なに、訓練で死にかけるなんて良くあることさ。それに、いざという時は僕がいる。

 

 

 さて、彼らについてはスパッと切り替えるとして、目下の問題は目の前のこの少女だ。

 

「ウサトくん、ウサトくん! 私、本気出すね! 靴と手袋脱ぐわ!」

「お、オーケー。ただ、それは、なんというか、人として大丈夫?」

 

 見えてないだけで、全裸なんだよねこの子……?

 多分余裕でアウトだと思うんだけど。

 

「見えないからセーフ!」

「え? そう言う問題?」

 

 予想以上にアグレッシブな子だ。万力女子(八百万さんというらしい)といい、この世界ではこのくらいが普通なのかもしれない。

 

「あ、でも、あんまり見ないでねっ!」

「ははっ、ねーわ」

「!?」

 

 悪戯っぽい雰囲気でこちらをからかってくる言葉をさくっと切り捨てる。今のでわかった。これは世界がどうのとかじゃないわ。単にこの人が先輩と同じタイプなだけだ。

 

 

 それにしても戦闘訓練か……。

 脳裏に浮かぶのはひたすらに吹き飛ばされ続ける僕、当たらないこちらの攻撃、受けるたびに意識が飛びそうになるローズの拳……思い出すとろくな記憶がないな。

 

「……これも訓練なら頑張らないとな」

「私たちはヴィラン役だから、それっぽい感じを出せると、実戦向けの訓練って感じがしてなおいいかもね。ほら、ロールプレイ? ってやつ」

「ヴィランっぽく……」

「怖い人って感じを出してもいいし、卑怯な手段上等って感じで姑息な雰囲気を出すのもいいと思うよ!」

 

 戯けて、「ガォー!」と怖い人(?)のアピールをしてくる葉隠さん。正直言ってあまり怖くない。というか普通にあざとい。面倒だからここは無視でいいや。

 

「怖い人……か」

「あれ? 無視?」

 

 真っ先に浮かんだのがローズ、次いでコーガだ。バトルジャンキーのコーガか、威圧で人が殺せそうなローズか、とりあえずは真似し慣れているローズにしてみようかな。

 

「おーい、聞こえてるー?」

「嘗められないようにすればいいんだよね?」

「ねぇ知ってる? これ、結構恥ずかしいんだよ?」

「なんでやったんだよあんた」

「やっと反応してくれたね! それじゃあ感想をどうぞ!」

 

 もじもじとした声に思わずツッコミを入れてしまうと、嬉しそうにその声が跳ねる。ほんとに何がしたいんだこの人。

 

「わかった。それで、嘗められなければいいんだよね?」

「君は今何がわかったの!?」

「嘗められなければ、いいんだよね?」

「あ、はい。そうです。その通りでございます」

 

 にこやかに圧をかけながら声をかけると葉隠さんは素直に頷いてくれた。

 うんうん。素直なのはいいことだよね。

 やや声が震えている気がするがきっと気のせいだろう。

 

「じゃあ——」

 

 ローズの姿を頭に思い浮かべて、雰囲気を寄せていく。

 左手で髪をかき上げ、薄い笑みを貼り付けながら視線を鋭くさせる。

 あっちの世界でも交渉事の際に重宝したものだ。マネするだけで他を威圧するあたりやっぱりローズの鬼っぷりは伊達じゃないね。

 

「よし、これで嘗められることはないな。訓練中はこれで行こう」

「ぴぃ!?」

「葉隠さん、どう? ……ってなんか遠くない?」

「そ、そそ、そげなことなかとですたい?」

「なかと? どうしたの?」

「ひゃぁ!? やめて、その顔のまま来るのはよして! ごめんなさい! 謝る! さっきふざけたことは謝るからぁ!」

 

 うん。ガチビビリだ。これなら大丈夫だろう。

 ただ、こんなに怖がられるとは思ってなかった。本気でびっくりしたのか宙に涙が浮かんでいる。

 

「ごめんごめん。泣くほどとは思ってなくて。でも、こんな感じでいいんだよね?」

「し、心臓持たないよぉ………」

 

 

 一方その頃モニタールーム。

 その時、1-Aの心は一つになった。

『いや、誰だあいつ!?』

 

「ま、まぁ、ウサト少年だね。いやはや、これはかなりの変わりようだ」

 しかし、そこは流石のオールマイト、数々の凶悪ヴィランを見てきただけあって、1-Aの面々程には動揺がなく、冷静に質問に答えている。ただ、完璧にいつも通りとはいかないらしく、その笑顔はやや引きつっている。

「変わるってレベルじゃねぇだろ!? 別人だよ別人! 見た目はそのままだけど中身がごっそり入れ替わっちゃってるよ!」

 切島が、敬語すらかなぐり捨ててツッコミを入れた。

 

 

 そろそろ時間もなくなってきたので、それぞれの得意分野から具体的な作戦を擦り合わせていくことにした。

 

「なるほど、葉隠さんは隠密と奇襲が得意、でも直接の戦闘能力はそれほど高くない……か」

「ウサトくんは近接戦闘が得意で、治癒持ちだから耐久力が高め……ね」

「どっちも遠距離攻撃を持ってないのがネックかな。入り組んでる地形でよかった」

「え、そうなの? ウサトくんは適当なもの投げるだけでかなり強力な遠距離攻撃になると思うんだけど」

 

 意外そうに驚く彼女に、頭をかきながら補足する。

 

「コントロールがあんまり得意じゃなくてね」

「お? さてはドッチボールとかあんまり得意じゃなかったタイプ? 運動神経いいのに珍しいね」

「ああ、いや、流石に体くらい的がデカければ当たる」

「え? それならいいんじゃない?」

「でも、体のどこに当たるか分かんないし、いい具合の加減がまだうまく出来なくて、石ころとかだと普通に体に穴を開けちゃうんだ。最悪、頭とかに当たった日にはもう、『ッパーン!』だよ。『ッパーン!』」

「だから怖いよぉ! なんで会話の所々でちょっとずつ恐怖を与えようとするの!? なんでなの!?」

 

 いや、反応が面白くてつい……ね?

 

 

「まぁ、一応安全な遠距離はあるにはあるけど、あくまで牽制と近接の補助程度にしか使えないと思ってくれていい」

「い、一応聞くけど、どんなのなの?」

「治癒ま……」

「治癒魔?」

「治癒弾だよ?」

「え……あ、うん。なんの『ま』だったの?」

「……噛んだだけ!そう、噛んだだけだから!」

「…………ねぇ、嘘が下手ってよく言われない?」

「いや、見た目が何よりも嘘ってよく言われるけど」

「…………確かに」

「納得されちゃった……」

 

 ちょっとしたジョークのつもりだったのに、さもありなんと言わんばかりの表情を浮かべるのはなぜ……? この短期間でそこまでのことをした覚えはないんだけど……。

 

「そんなことはどうでもいいの! どんなのか見せてもらっていい?」

「了解。行くよ」

 

 僕は立ち上がると治癒魔法弾を作り出す。

 

「おぉ、名前からしてそうだと思ってたけど、個性を体に纏わせるだけじゃなくて分離させて使うこともできるんだ」

「重さはないに等しいから、攻撃手段としての運用はかなり限られるんだけどね。元々、僕から離れた位置にいる味方を回復させるためのものだし」

「なるほど、それで牽制にしかならないって言ってたのか。それは手から発射するの?」

「いいや、こうする」

 

 いうや否や、僕は治癒弾魔法を握り潰さんばかりの強さで握りしめる。

 

「ぬゥん!」

 

 そして大きく振りかぶると、思い切り壁に叩きつけた。

 壁に激突した治癒魔法弾はパァン! と乾いた音を立てて破裂した。

 

「び、びっくりした〜! どう見ても物理的な威力を持ってんじゃんかぁ!?」

「いや、全部治癒からできてるから結果的には相手が吹き飛ぶだけで、ダメージどころか回復される」

「そもそも、ほとんど重さのないもので人間を吹き飛ばしていること自体に疑問を持とう!? というか、なんで重さがないのにそんなスピードで投げられるの!?」

「筋力」

「その言葉だけで全て通ると思ってたりしてないよね……?」

「……通る!」

「通らないよぉ!?」

 

 

 そんなこんなしているうちに、時間は過ぎてゆき……。

 時計を見ればあと30秒で演習開始になっていた。

 

「ど、どうする!? 私、偵察行ってこようか!?」

 

 葉隠さんが慌てた様子で部屋を飛び出そうとする。

 

「いや、それなんだけどさ」

 

 僕が行ってもいいかな?

 

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