個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第11話

 演習開始1分前。ヒーローチームである轟と障子は、早々にブリーフィングを終え、正面玄関前にて待機していた。

 

 互いに寡黙な質であるため言葉少なにだが、必要なことを必要な分だけ共有し、作戦を組み上げてゆく。自分たちの個性とその使い方、昨日の個性把握テストから推測される相手チームの個性、そこから導き出される戦略。5分間という短い時間を有効に使ったチームアップだ。ヴィランチームとはえらい違いである。

 

 ヴィランチームは、「透明化」の葉隠と高強度の「増強型」のウサトの二人。

 ウサトについては、治療がどうのと言っていたので単純な「増強型」ではないのかもしれないが……考えてわからないことを議論するほど時間があるわけではなかった。

 さておき、どちらもシンプルながら強力な個性だ。

 今回の授業において、場合によっては一番の難敵となり得るチームだといえるだろう。

 

 しかし、そんなことは関係ない。

 

 強敵に対して導き出したヒーローチームの作戦は、小細工なしの正面突破。轟の相手をビルごと凍結させるというマップ攻撃による不可避の速攻である。

 ヒーローチームの表情には迷いがない。その根底にあるのは、轟への絶対的な自信だ。

 作戦を思案する障子に対し、端的に指示を飛ばす。

 相手の位置さえ把握できれば十分。あとは建物ごと凍らせてしまえばしまいだ。相手の位置情報すらも、万が一にもやりすぎてしまわない為の保険と、大まかな核の位置を割り出すためのものだった。

 

「弱くはない。けどそれだけだ。こんなところで苦戦するつもりはねぇ」

 

 轟の力強い宣言に、障子としても否やはなかった。

 

 

 屋内対人戦闘訓練、開始。

 

 ヒーローチームはあえて正面玄関からそのまま侵入する。葉隠に対し下手に対策をするよりも、最速かつフラットな状態で作戦を遂行するための行動だ。

 

 障子は、自らの個性を使用し、触手の先端に複数の耳を作成。建物内の索敵を開始____

 

「!! 轟! 右だ!」

 

 葉隠を警戒し耳を複製していた。それが功を奏した。

 一階の階段付近で爆発的な音を聞いた瞬間、轟に警戒を促す。

 

 瞬間移動じみた挙動で姿を現した白い影を捉えたか否かというタイミングで、轟が機転を効かせる。即座に氷を生成し、進行ルートを廊下ごと塞ぐ。都合3枚の厚い氷壁は、生半可な攻撃で崩れるものではない。

 

 両者共に完璧、あるいはそれ以上の対応。完全にヴィランチームの奇襲を回避した。このレベルの行動を咄嗟に取れるものなど、プロヒーローですらどれほどいることか。

 そう、モニタールームのオールマイトですら思っていた。

 

「甘いわァ!!」

 

 3枚の氷壁が一撃で粉砕されるまでは。

 

 

 勢いを落とすことなく氷壁の奥から姿を現したウサトは轟の真横に着地。

 体の反応が間に合わず、眼球の動きのみでなんとかその姿を追従する。

 目があった。

 高速で視界が動いているはずのウサトだが、その目は真っ直ぐと轟を捕捉している。

 射殺すような鋭い眼光は、これが訓練であることを忘れさせた。

 

()られる___!)

 

 本能的な恐怖がタガを外す。過剰すぎるほどの冷気がその右手に収束する。

 

 

 時を少し巻き戻して、訓練開始20秒前。

 

 壁面を蹴りながら降りることで階段をショートカットして、なんとか開始直前に一階の階段手前の位置に滑り込む。身を隠しつつ、一階のほとんどの侵入経路に2本以内の廊下だけで到達できるという絶好のスポットだ。

 

 この戦闘訓練では、それぞれのチームに勝利条件が設定されている。

 まず、両チーム共通の条件として、相手チームの全滅。

 そしてチームごと個別に、ヒーローチームは「核の回収」、ヴィランチームは「タイムアップ」という条件だ。

 

 つまり、ヒーローチームは「時間」、ヴィランチームは「核」という制約をそれぞれ抱えているわけだ。

 

 最悪の場合、一度も戦闘が起こらない形で、決着が着くこともありえる。それが今回のルールなのだ。

 

 ヴィランチームは「核」を守らなければならない。核をフリーにすれば、不測の事態によって負け得るからだ。

 

 僕たちの編成を見ればヒーローチームは考えるだろう。

 葉隠さんが妨害・遊撃で、僕が防衛。

 葉隠さんを生かそうとするなら、それが最適解。

 

 葉隠さんはこの手のルールにおいて、非常に強力な個性だ。

 爆豪くんも実際にやっていたけれど、遭遇戦が発生しうるシチュエーションでは、奇襲が有効な戦法となる。

 奇襲の利点は、その瞬間、1秒にも満たないような短い間ではあるけれど、それだけの時間、『敵に反撃の猶予を与えず、一方的に攻撃できる』点にある。

 殴り合って勝つも、一方的に勝つも結果は同じ。狙えるのなら、どんどん狙うべき。それが奇襲だ。

 だからこそ、曲がり角などの奇襲が成立しやすい位置は、その分警戒もされやすい。

 

 しかし、姿が見えない葉隠さんだけは、何もない場所での奇襲が可能なのだ。

 それだけではない。相手の位置を一方的に掴むこともできてしまうし、『彼女がいるかもしれない』ということ自体が、さまざまな行動の抑止力と時間稼ぎになる。

 『見えない』ということは、ただそれだけで非常に厄介なのである。

 僕たちのチームで警戒すべき相手は、単純に身体能力の高い僕よりも、圧倒的に葉隠さんだ。

 

 もちろん、彼女にも弱点がある。

 ひとつは視覚以外での探知には無力であるということ。もう一つは、無差別に放たれる範囲攻撃には関係なく当たってしまうということ。そして個性の内容が分かりやすいことだ。

 

 当然相手チームは何かしらの対策を取ってこようとする。

 葉隠さん用の対策を。

 

 だからこそ、最初は僕が行く。

 

 奇襲とは、単に不意をついた攻撃だけを指す言葉ではない。相手の思考の外からの攻撃だって、十分に有効な奇襲となり得るのだ。

 

 

 訓練開始直後、正面玄関の方向で足音を聞いた瞬間に飛び出す。

 

 正面玄関に続く廊下に一歩で到達し、その姿を補足する。

 

 間合いに入ったと同時に視界が氷壁に阻まれた。氷を操る能力か! 厄介な……!

 

 予想以上の動きによって、奇襲は失敗に終わったけれど、来ていたのが僕でよかった。

 複腕の先から耳を生やして(!?)いち早く僕の接近に気がついたのは障子くん。おそらく索敵が得意なタイプ。

 そして、即座に大量の氷で道を塞いだのが轟くん。個性の規模がでかい。意図することなく、攻撃が範囲攻撃になるタイプだ。

 どちらも葉隠さんの天敵ともいえる相手だった。

 あのまま偵察に行ってもらっていたら、そのまま捕縛されていた未来もあったかもしれない。

 そう思ってしまうほどの連携で、奇襲が阻まれた。

 

 だがな……!

 

「甘いわァ!」

 

 目の前を塞ぐ氷壁を右の一振りで打ち砕く。

 僕の知っているものよりも脆いそれらを、3枚とも貫通して轟くんの近くに着地する。

 

 この程度で凌ぎ切ったと思われているのは心外だ。阻まれたなら正面から押し通るまでのこと。

 

 ヒーローチームは、信じられないものを見るような目で、こちらを見ることしかできていない。

 

 まずは厄介な氷壁を作る轟くんから!

 

 轟くんの右手に凄まじい冷気が集まってゆく。

 余波だけで氷が生成され始めているその一撃は、放たれれば凄まじい威力になるだろうけど、僕の方が早い!

 

 治癒魔法を纏った拳を引き絞る。

 治癒パンチ。相手を殴りつけると同時に治癒魔法で回復することで、無傷のまま衝撃で気絶させる不殺の一撃だ。

 轟くんに叩き込もうとした瞬間、横から飛び出してきた影に視界が遮られる。

 これは!? 障子くんの皮膜か!

 障子くんが轟くんを庇うようにして飛び出してきたのだ。

 

「轟、やれ!」

 

 決死の表情で叫ぶ彼に驚愕してしまう。

 自分ごと凍らせる気か!?

 

 轟くんの右手から急速に生成されてゆく冷気は、かつて戦ったミアラークの龍人、カロンさんを想起させるほどのもの。

 彼と同等以上だというのなら、湖すらも氷漬けにする絶対零度の一撃だ。

 そんなものを食らえば僕はまだしも障子くんが耐えられるとは思えない。

 

 僕は咄嗟に障子くんを出口方向へと蹴り飛ばし、その反動で自分も階段方向へと離脱する。

 

 直後、ビル一階が圧倒的な質量の氷によって埋め尽くされた。

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