個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第14話

 廊下でじりじりとにらみ合う僕と轟くん。僕は両手に確保テープを構え、轟君は右足を前に両腕を引き絞るような体制を取る。両者の緊張感は最大まで高まっていた。

 速さは僕の方が上。けれど、有効射程はあちらの方が遥かに長い。

 下手に仕掛ければ、隙が生まれる。それをお互いが理解しているのだろう。膠着状態が発生する。

 

 独特の緊張感の中、僕はふっと肩の力を抜く。

 

「やめだ」

 

 両の手に構えていた確保テープをくるくるとまとめるとそのまま放り投げる。

 スー、と軽い音を立てながら、確保テープが轟君の左側を滑っていく。やがてそれは、彼から5メートルほど後ろの位置で止まった。

 その様子に轟くんはピクリと反応するが、構えを崩すことはない。

 

 ……さすがにこの程度じゃ油断しないか。

 だが、これでいい。ここまでは作戦通りだ。

 

 僕と葉隠さんが立てた作戦は単純だ。

 まず、僕が轟くんの背後に確保テープを配置し、葉隠さんが迂回してその近くで待機。

 あとは僕が正面戦闘を、葉隠さんが奇襲を担当する。

 僕が轟くんに殴り勝てればそれでよし。あるいは、確保テープの近くまで誘導して葉隠さんが決めてもいい。

 勝ち筋なんていくつあってもいいんだ。人数の有利を取れている以上、その有利をフルに使う。

 あえて目の前で確保テープを手放して見せたのも、彼の意識を少しでも散らすため。ホラー映画でよくある手口だ。一度、頭からその選択肢を消してやってからのほうが効果は高い。

 それでもなお警戒するなら戦闘が、読み通りに切り捨てるなら警戒がおろそかになる。

 彼は強い。だからこそ、できることは全部やってやる。

 

 やるなら本気だ。本気で勝ちに行く。

 

 

「それ、捨てちまって良かったのか?」

 

 怪訝そうな表情でこちらに問う轟くんに構えながら答える。

 

「あんなものよりも殴った方が早い」

「ねぇ、よく脳筋って言われない?」

 

 だまらっしゃい。はやく配置につくんだ。

 小さな声で話しかけてくる後ろの葉隠さんのことは無視しつつ、ブラフを交えながら言葉を交わす。我ながらなかなかの名演技だ。予想よりもテープのほうが警戒されているけど、これでいい。あとは、葉隠さんが位置につければ完璧だ。こちらから勝負に出ることができるだろう。

 

「そうか」

 

 さして興味もなさそうな様子でそう言うと、彼は確保テープに右手をかざす。

 

「なら、こうしても問題ねぇよな」

 

 建物全体すらも凍えさせる冷気は、瞬く間に確保テープを氷漬けにしてしまった。

 

「…………」

 

 ……あれは、もう使えないな。

 

「あぁ、それといるか知らねぇけど葉隠。完全に不意打ちとなると俺もどうなるかわからねぇ。流石に殺すことはねぇが、奇襲を仕掛けるなら、少なくとも全身凍傷になるくらいは覚悟してくれよ?」

「ど、どうする、ウサト君。なんか、完全にこっちの手の内がバレちゃってるけど」

 

 背中に戻ってきた葉隠さんが不安げな声で話しかけてくる。

 こちらから返せるのは一言だけだ。

 

「万策、尽きたか……」

「アホォー!?」

 

 失礼な。

 

「こうなったら仕方がない! 葉隠さん、プランBだ!」

「プランB!? 何それ!?」

「殴って沈める! しっかりつかまってて!」

「あぁ、もう! 結局、脳筋戦法になってるじゃんかぁ!」

 

 葉隠さんの嘆きを聞きながら、僕は牽制用の治癒魔法弾と共に前方へと飛び出した。

 

 

 僕が飛び出したと同時に、轟くんも氷を展開する。初めに奇襲をかけた時と同じような壁がそびえ立ち、治癒魔法弾がかき消された。

 最初の壁と異なる点があるとすれば、道が完全にふさがっているわけではなく、壁の両側に一人なら通れそうな隙間が開いていること。

 

 なるほど二択か。氷を遮蔽として扱い、僕と逆方向からすり抜けるという魂胆とみた。正面からやるつもりはないってか!

 けど……!

 

「しゃらくせェ!」

 

 そんな選択肢、端からぶち壊してやればいいだろう!?

 開始直後の焼き直しのように、氷の壁を砕く。

 しかし、氷の奥にも両側のどちらにも、轟くんの姿は見つからない。

 

 あるのは……氷の足場!?

 

「ウサトくん! 上!」

「獲った……!」

 

 上からとびかかってきた轟くんの攻撃を、すんでのところで回避する。それでも、完全によけきることはできず、左肩に凍てつくような痛みが走った。

 

「ッツァ!」

 

 お返しに治癒パンチを返すが、氷と腕を差し込まれた上に、やけに手ごたえが軽い。そのまま、滑るような挙動で距離を取られてしまった。

 

「くそっ、しぶとい!」

「どっちがだ……!」

 

 お互いに、仕留め損なったことで憎々しげににらみ合う。

 距離を取った轟くんは、足を踏み鳴らすことで靴底の氷をたたき割る。

 先ほどの軽い手ごたえの正体が分かった。靴底を凍らせて滑るようにしていたのか!

 打撃は、抵抗があるからこそその効力を発揮する。風船を殴りつけてもなかなか割れることのないように、轟くんはこの氷の床をアイススケートのようにして滑ることで、殴られた衝撃を最小限にしていたのだ。

 

 攻めきれない。轟くんは予想よりもずっと戦闘に慣れている。技術だけで言えば、僕よりも遥かに戦いが上手いぞ。

 力不足に歯噛みしていると背中の葉隠さんが僕の裾を引っ張った。そのまま、耳元で何かしらをささやく。

 

「試したいことがあるんだけど________」

 

 葉隠さんからの『提案』を聞いた僕は、うっすらと笑う。

 

「……葉隠さん、それは『アリ』だ」

 

 

 葉隠さんの指示を聞いた後、僕は再び地面を蹴り一気に距離を詰めた。

 

「毎度毎度、突撃ばっかで芸がねぇな……!」

 

 対する轟くんは苛立ちを隠すことなく右腕を振るう。その手から冷気がほとばしった。一階のものと比べれば大したことはないが、廊下を埋めつくす鋭利な氷たちは、まるで近づくなとでもいうように僕に向かって迫る。

 

「ぬゥん!!」

 

 ひたすら愚直にまっすぐに、勢いそのままに迫りくる氷を殴って砕く。

 当たれば冷気に飲まれるだろうが関係ない! 冷気が伝わってくる前に砕いてしまえばいいだけのこと! 

 

「おぉおおお!!」

 

「嘗めるな! そんだけ真っ直ぐなら狙いもわかる……!」

 

 轟くんは、氷の厚さを一気に増やして、僕の攻撃を遅らせると、そのまま僕の手が届かない位置まで飛び退る。

 下手に拳の軌道をずらせば顔面から分厚い氷にぶち当たることになる。大した硬さではないとはいえ、ダメージは避けられないだろう。もしかしたら、脳震盪を起こすかもしれない。

 一方でこのまままっすぐいっても攻撃ははずれ、今度こそ轟くんの餌食となる。

 流石に戦い慣れているだけある。目も慣れてきて速いだけの僕の攻撃なんてお見通しってことか。

 だが、これでいい。僕は、何があってもひたすらまっすぐ進み続けるのみ!

 

 僕の拳が氷をぶち破って進む。氷は全て砕けたが、轟くんには紙一重で回避されてしまった。

 

「俺の勝ちだ」

 

 僕の拳の軌道を避けた轟くんは、そのまま右手を振り上げ___

 

「いいや……僕達の勝ちだ!」

 

 見えない何かに吹き飛ばされた。

 

 

 

「僕の攻撃を避けた瞬間に、背中の葉隠さんによる不可視のラリアットが叩き込まれる! これぞ必殺・インビジブルラリアット!!」

「ウサトくん、その技名はやめよう?」

 

 自身の腕をさすりながら、真剣なトーンで待ったをかける背中の葉隠さんに、思わず振り返る。

 

「……ダメかな?」

「うん。ダサすぎるし、それだと二人セットで化け物みたいになっちゃうもん」

「確かに、葉隠さんを僕の一部みたいに扱うのも化け物扱いするのもよくないか」

 

 聞こえない……! ダサいなんて言葉は断じて聞こえない……!

 

「化け物はウサトくんだけだもんね」

「おうこら小娘。お前、遠慮がなくなってきたな」

 

 気にするところそっちか……!?

 

 

『ヴィランチ―ム WIN!!!!』

 

 オールマイト先生のアナウンスが流れる。勝利したにも関わらずなんとも微妙な表情で、僕は背中の葉隠さんとハイタッチをした。

 

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