個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第15話

 しばらく様子を見たけれど、轟くんは動かなかった。どうやら気絶しているらしい。不意打ち気味だったこともあって、思ったよりもダメージが大きかったのかもしれないな。

 彼に治癒魔法を施しつつ、モニタールームへと向かう。腕には轟くんを抱えて、背中には葉隠さんを乗せて、わっせわっせと大所帯だ。

 

 凍り付いて滑りやすくなっている階段を注意しながら降りて行くとやがて完全に凍り付いた一階を発見した。そういえば、えらいことになってたな。

 

「わ、すごい。下はこんな風になってたんだ」

「すごい能力だよね。僕も巻き込まれていたらどうなっていたか……」

 

 それにしてもどうしよう。砕きながら進むか……?

 僕が迷っていたところで轟くんが目を覚ました。

 はじめは僕に抱えられていることに混乱していたけど、すぐに訓練が終わったことを悟ったらしい。彼は思いつめた表情で立ち上がると、左手で地面に触れる。

 するとそれほど時間を置くこともなく、建物全体の氷が溶かされていった。

 すごい。さっきまで冷凍庫みたいだったのに今度はサウナみたいになってる。

 

 轟くんの便利な個性に感心していると、ふと気がついてしまった。

 この能力を使われていたら、かなり厄介だったのでは?

 

「ねぇ……」

「なんだ?」

「あっ、いや、なんでもない……」

 

 しゃがみこんでいる背中に話しかければ、じろりと睨みつけるようにこっちを見てきた。

 怖い。なんか訓練中よりもピリピリしてる。すっごい不機嫌だ。

 僕は知っている。こんなふうに相手が不機嫌なときはうかつなことをしてはいけない。ローズと暮らしていれば、嫌でも身につく教訓だ。しばらく触れないでおこう。

 

 やがて、轟くんは全ての氷を溶かし切ると、すくりと立ち上がり、そのままスタスタと歩き出してしまった。

 気は乗らないけど、向かうのは同じモニタールームだ。無言で着いていくと、不意に彼がこちらを向き直った。

 しばらく触れないようにしようと思ってたのにぃ……!

 

「ウサトと葉隠だったな」

 

「「う、うん」」

 

「次は負けねぇ」

 

 そう言って真っ直ぐとこちらを見る表情は、先ほどまでとは違って少し柔らかいものだった。その目に宿るのは、純粋なライバルへの対抗心。

 

「お、おうよ……!」

 

「次も負けないよ!」

 

 少し呆気に取られたけれど、なんとか笑って返す僕と無邪気に笑う葉隠さんに、彼はふんと鼻を鳴らして再び前に歩き始めてしまった。

 

 

「さて、講評といこうか!」

 

 既に目を覚ましていた障子くんと合流してモニタールームに辿り着くと、早速振り返りが始まった。

 

「待ってくれよオールマイト! 最後のやつって一体なんなんだ? 俺たちからだと、突然轟が吹き飛んだように見えたんだけどよ!」

「む、確かに、何が起こったのかわかっていない状態でフィードバックをしても意味がないな! ウサト少年!」

 

 赤髪の少年が手を上げる。彼は……切島くんだったな。オールマイトは中断されたこと自体は特に気にした様子もなく、一つ頷くとこちらに振ってきた。

 ほほう、技の解説が必要か。しょうがないなあ……!

 

「あれはインビジブルラリ___」

「ウサトくん?」

「背負ってた葉隠さんの腕です!」

 

 音もなく近づいてきた葉隠さんに慌てて訂正を入れる。

 躊躇なく首に手を伸ばすのやめない……? よくないよ?

 

「葉隠を背負ってって……! そっか見えねえから!」

「間合いと攻撃位置を誤認させたのか!」

 

 一気に盛り上がるモニタールームにうんうんと思わず頷いてしまう。即興の合体技だ。みんなも好きだよね……!

 

「ちょっと待てぇ!」

 

 そこに待ったをかけたのは、ブドウ頭の少年、峰田くん。すごい剣幕だ。あまりの圧に思わず少し後ずさってしまう。

 

「葉隠を背負ったってんならよぉ! オイラには聞かないといけないことがあるぜ!」

「お、おぉ。どうしたの?」

「ずばり、葉隠のおっぱ__フベっ!?」

「ケロ、先生、続けて頂戴」

「うむ!」

 

 言い切る前に綺麗な放物線を描いて峰田くんは飛んで行く。

 下手人のカエルっ娘は何事もなかったかのようにオールマイトに振りなおした。

 大丈夫か彼。自業自得な気もするけど、鼻血がすごいことになってるし、一応治癒魔法弾を放り投げておいた。

 

 

「全体的に上出来だったぜ少年少女! だが、それぞれ問題もあったな?」

 

 まわりをざっと見渡したあと、オールマイトはこちらに向き直った。

 

「まず、ウサト少年! 驚異的な身体能力と手に治癒をまとった拳は見事だった! よく鍛えられているな!」

「ありがとうございます」

 

 ペコリと頭を下げる。

 この世界には疎い僕ではあるけど、オールマイトがすさまじい存在であることくらいは見れば分かる。それほどの人物に正面からほめられるってのは単純にうれしい。

 

「ただし! 少々行動が行き当たりばったりなところと動きが直線的なところがあるからそこは注意だな! 次回は、作戦方面をもう少し頑張ってみようか!」

 

 言われて、脳裏をよぎったのは、時間切れになって慌てて飛び出した最初の打ち合わせとすぐさま轟くんに看破された最終戦闘の作戦だ。障子くんを見つけたのも、偶然みたいなところがあったし、確かに全体的にがばがばだったな。

 そして直線的な動きは、僕自身も自覚していた部分だ。あっちの世界でも実力がある人には通用してなかったし、今回も轟くんに対応されかかっていた。早めに解決策を見つけないと……。

 さすがNo.1ヒーロー、この短時間でしっかりと僕の弱点が看破されてしまった。

 

 それにしてもアドバイスというのは新鮮でいいな。ローズはもっぱら体に覚えこませてくるタイプだったから、こういう理論的なのは少し面白いと感じてしまう。

 

 

「轟少年も素晴らしい動きだ! 建物全体の氷結や氷壁を使った防御に目くらまし。自分の個性をよく使いこなしていた! ……だが少し焦ってしまった部分が見て取れたな。早いタイミングで障子少年との連携を諦めてしまったことが敗因だ」

「君は、ウサト少年と自分が勝負の行方を左右すると考えていた。そして、最後の瞬間、1対1なら君が勝っていたかもしれない。しかし、君が取るに足らないと考えていた葉隠少女が勝敗を分ける結果となった」

「プロの現場では協力が大前提! それはいかに強力な個性であっても、絶対的な存在であっても変わらない。今すぐにではなくとも、必ず身に着けてゆくべき能力だ! 期待しているぞ!」

 

「あぁ。分かった」

 真剣な表情で聞くのは轟くん。

 

「さて、続いて障子少年! 索敵や大技を放とうとしていた轟少年をかばう、最後も防御よりも轟少年にウサト少年の位置を伝えることを優先するなど、献身的な行動が目立っていたな!」

「次は、自分たちの目的に関与した動きだな! 自分はどう動くことができるかを考えてみよう!」

 

「承知」

 触手の先に口を複製して返事をしたのが、障子くん。

 

「葉隠少女! 一番最初にコスチュームを捨ててしまったのはうかつだったな! 透明であることは非常に強力だが、同時に君自身が無防備であるということが分かっただろう!」

「だが、その後の諦めない姿勢と最後の発想は見事だったぞ!」

 

「はーい!」

 元気に返したのは葉隠さんだ。

 

 すごい、一気に全員分やっちゃった。なにか焦ってる……? やっぱりさっき八百万さんにほぼ全部言われたの、ちょっとショックだったのかな……。

 

 その後、すぐさま次の試合へと移る。順調に、各々の訓練がこなされていき、無事全ての工程が終了した。

 さすがに大人げないと感じたのか、三回戦以降は生徒に意見を求めていた。それでもやっぱり巻き気味だったけど。先生ェ……。

 

 

 放課後。校庭から部活動にいそしむ生徒たちの声が聞こえてくる中、僕たち1-Aは教室に集まってワイワイと話し合いをしていた。

 

「放課後は、皆で訓練の反省会しねぇか?」

 

 という切島くんの呼びかけに応じて、クラスメイトのほぼ全員が参加する大反省会、もとい交流会が開催されたのだ。

 無言のまま帰った爆豪くんと用事があると断った轟くん、保健室でオールマイトから講評を聞いているであろう緑谷くんをのぞいた全員が参加という驚異の割合だ。訓練に対するモチベーションが高いのはうれしい。僕も思わずニコニコしながら参加した。

 

 どの個性がすごかった。あそこはどうするべきだった。等々、さまざまな話題が飛び交う中、不意に教室の扉ががらりと開く。立っていたのは片腕を吊った緑谷くんだ。

 

「おお、緑谷来た! お疲れ!」

「アツかったぜ! お前!」

「よくよけたよー!」

「一戦目であんなのやられたら俺らも力が入っちまったぜ!」

 

 あっという間に、彼はクラスメイト達に飲み込まれる。ガッツあふれる戦いに加えて、圧倒的な不利から状況を覆した彼に、誰もかれもが、賞賛を送る。

 そんななか、麗日さんは保健室に行ったのにいまだ治っていない腕を見て心配をしていた。

 

「デクくん怪我! 治してもらえなかったの!?」

「あ、いやこれは僕の体力のあれで……それよりもかっちゃんってまだ残ってる……?」

「みんな止めたんだけど、黙って帰っちゃったよ。3分くらい前だから、まだ学校にはいると思うけど……」

「そっか、ありがとう!」

「あ、ちょっとまった」

 

 それだけいうと、走り出そうとしてしまう緑谷くんの肩を掴んで呼び止める。そのまま治癒魔法をかけて傷を治す。包帯の下は確認できないけれど、先ほどまでぼろぼろだった緑谷くんの頬の傷などがものの数秒で直っていった。

 

「これでよし。怪我したままだと走りづらいでしょ」

「ウサトくん! ありがとう!」

 

 彼は邪気の一切感じられない笑顔でお礼をいうと、そのまま走り去っていった。あの分なら学校を出る前に追いつくだろう。

 満足して、振り返ると全員分の視線がこちらに集まっていて思わずたじろいでしまった。

「な、なに……?」

「ウサトってさ、ほんとに治癒の個性なんだな」

 

 切島くんのぽかんとした表情に、思わず笑ってしまう。

 そらそうか、治癒魔法使いでこんな人なかなかいないもんね。

 

「そうだよ。個性:治癒。自分も他人も、傷も毒も感染症も疲労もまとめて治癒できる優れものさ」

「いやぁ、俺はてっきり増強型の個性なのかなって思ってたからよ……ほんとにちげーんだな」

「昨日の成績みたらそうなるって!」

 

 そこに金髪の少年も入ってきた。上鳴くんだっけ。

 

「普段どんな事したらあんなになるんだよ?」

「いっぱいはしった」

 

 ワクワクとした声色で聞いてくる上鳴くんに対し、こちらは地獄の訓練を思い出し語彙力が消失していた。

 

「へ?」

「いっぱい、はしった」

「ど、どういうこと?」

 

 困惑する上鳴くん。だが、事実だ。事実をいうとこうなる。

 

「僕の個性は『治癒』。それを自分に使いながらひたすらに走るだけ。簡単でしょ?」

「そうか……! 超回復! 治癒は全ての傷も疲労も治す。それは筋肉の損傷にも有効だ! 治癒ができる限りだったら、どんな無茶な訓練だってできるのか……!」

 

 しっぽの付いた尾白くんが顔を青ざめさせながら、解説をしてくれる。

 この一瞬でそこまで辿り着いたあたり、彼もなかなかの訓練好きと見た。仲良くできそうだ。

 

「ってことは、あの身体能力は努力の結晶ってことかよ! 漢だぜ!」

「く、狂ってるよ……」

「人の所業に在らず……」

 

 各々が思い思いの反応を見せるなか、葉隠さんがピンと手を上げた。

 

「はいはーい! でもさ、どうしてそんなに鍛えようと思ったの? やっぱりNo.1ヒーローになりたいから?」

「ううん。それは違うよ」

「じゃあ、どうして?」

「体を鍛えてるのは前線で人を助けられるようにするためだよ。いつも前線で皆を守ってくれている人たち。その人たちを助けたいって思うんだ」

 

 これは、この世界にやってきても変わることのなかった本音だ。

 守りたい人たちのために鍛える。その心は、世界を越えても変わることがなかった。

 多分、この世界の僕も、そうだったんじゃないかな。

 

「もともと、戦うのは得意な方じゃないしね」

「「「嘘つけぇ!?」」」

 

 付け加えるようにいうと、全員からツッコミが叩きこまれた。

 そこまで総ツッコミしなくてもいいじゃないか。心は傷つくんだぞ。

 

 ともあれ、こうしてワイワイと話をしているとあっという間に時間は過ぎていき、僕たちは帰路へと着くのだった。

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