個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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敵だ! USJ襲撃事件編
第16話


 暖かい陽の光が降り注ぎ、小鳥がさえずる素晴らしい朝。春眠暁を覚えずという言葉に従うならば、思わず二度寝を決めてしまいそうな気持ちのいい気候の中……

 

「やばいやばいやばい!?」

 

 僕は、街中を疾走していた。

 

 現在、AM8:15。朝のSHRが始まるまで残り10分。

 まずは違うんだと言い訳をさせてほしい。これはなにも僕が寝坊をかましたという話ではない。

 こちらの世界にやってきてからも、僕の生活は健康優良児そのものだ。今日もきっちり5時には目を覚ましていた。

 ただちょっと、朝のトレーニングがはかどりすぎてしまっただけで。

 昨日、ついに念願の新しい重りが通販で届いたのだ。県内のお店では重すぎて取扱をしていなかったという悲しい理由で通販を頼らざるを得なかったそれは、莫大な運送料とともに僕に適切な付加を与えてくれる優れものだった。財布は傷んだけど、それすらも忘れてしまうほど素晴らしい代物だ。

 

「で、はしゃいでトレーニングに打ち込んでいたらこの時間になった……と」

「まぁ、そうなるね」

「やってること子供じゃん。ウサトくんって結構おバカ?」

 

 ため息をつくのは先ほど合流した葉隠さんだ。学校までもう少しという場所で何故かもじもじしていた彼女は、僕を見つけるなりこっちに駆け寄ってきたのだ。

 

「そういう葉隠さんだって、ここにいたじゃないか。同罪だよ同罪」

「私は違うよー! ほらあれ!」

 

 そういって彼女が指さしたのは校門前の人だかりだった。その数はざっと100名ほど。

 No.1ヒーローであるオールマイトが雄英の教師に就任したというビックニュースは、全国を驚かせるには十分だった。新しく教師に就任したオールマイトの様子やその意図などを聞こうと校門には連日マスコミが押しかけている。

 話には聞いていたけれど、いつもは早朝に登校するのでこれほどまで多いとは知らなかった。

 すごい数だな。物理的に道がなくなってしまっているし、もはや登校に支障が出るレベルだ。

 一分一秒が命運を分ける生徒にとっては致命的だろう。

 

「う〜、時間ないのに〜!」

 

 そう、今の僕や葉隠さんのようにね。

 

 『透明』という絶望的なまでに画面映えしない個性を持っている葉隠さんは、マスコミによって相手にされることもなく、しかしマスコミ群のスクラムに阻まれ続け現在もここにいたということらしい。

 服を着ているとはいえ、本体が透明な彼女は人混みにめっぽう弱い。何せ顔が見えないから、無自覚に手が当たってしまったり、シンプルに押しつぶされそうになったりと苦労が絶えないんだとか。

 透明人間の意外な弱点である。

 

 仕方ない。もう時間もないことだし、背負っていこう。

 僕は、カバンを前に掛けると彼女に背中を向けてしゃがみ込む。

 

「ほら、葉隠さん。乗って」

「え〜、私を背負いたいの〜? 癖になっちゃった? 昨日ので癖になっちゃった!? かー! ウサトくんのエッチさんめ!」

「置いていく……か」

「ごめんうそ冗談! お願い乗せてって〜!」

 

 カバンを背負いなおすと足元に縋りついてきた。さすがに、単独での突破は厳しいと理解しているようだ。

 わかればいいんだよ。わかれば。

 もう一度、葉隠さんの方に背中を向ける。しばらくそうしていると、ゆっくりと背中に人の重さがのっかった。

 ……昨日もちょっと思ったけど、軽いな。大丈夫? こんなに軽いと何かしら生活に支障出てこない?

 僕の密かな心配を他所に、背中に乗った葉隠さんは既に遅刻はなくなったと余裕綽々だ。さてはこのまま教室まで乗っていく気だな? 重しにすらならない体重しかないし別に構わないけど。

 

「いけ! ウサトくん! 筋肉バカのフィジカルを見せてやれ!」

「それ、ただの悪口だからな! 覚えとけよ!」

 

 マスコミの人たちの頭を飛び越えるようにして、門を潜る。

 そこで、対応に来ていたのであろう相澤先生と目があった。

 先生の真横に着地すると、先生もちょうど対応が終わったところだったのかこちらに踵を返した。

 

「おはようございます」

「おはようせんせー!」

「はいおはよう、校舎内では走るなよ」

「ちょっと!! 少しでいいのでオールマイトに……!」

 

 跳躍に対するおとがめは特になく、相澤先生にしては珍しい普通の会話をしていると、気が済んでいなかったらしいマスコミの一人が更なる話を聞こうと校舎内へと一歩踏み込んだ。

 

 とたん、けたたましい音とともにシャッターが閉まる。

 

「「え……?」」

 

 思わず、びっくりして足を止めてしまった。

 いや、シャッターというかもはや防壁じゃない? 下手したらリングルのお城以上のセキュリティをしてるんだけど。

 

「な、何あれ」

「雄英高校の誇る最新防衛システム。通称雄英バリアーだ。通行許可IDを身に着けていないものが門をくぐれば、即座にセキュリティが発動するって寸法だ」

「すっごいセキュリティ……」

「もはや何用なの……?」

「今回のような不審者への対応はもちろん、災害時などもここは最高レベルのシェルターになる。そのための備えだよ。……それより、君らいいのか?」

 

 僕らの少し前を歩く相澤先生がじろりとこちらを睨む。

 

「このまま俺が教室に到着すれば、君らは遅刻扱いとなるわけだが?」

「失礼します!」

「相澤先生、また後でー!」

 

 慌てて、横をすり抜けて教室へと早足で向かう。後ろで、相澤先生の大きなため息が聞こえた気がした。

 

 

 僕たちが教室に辿り着いて数秒としないうちに、相澤先生が到着しSHRが始まった。

 開口一番、昨日の戦闘訓練について、数人に苦言を呈する。

 感情に振り回されていた爆豪くんに個性のコントロールが上手くいかない緑谷くん。

 両者が思い思いの反応を示していたものの、爆豪くんの意外にもおとなしい様子に何かあったのかといぶかしんでいると、後ろの席から何やら噛み締めるような声が聞こえてきた。

 

「男の因縁……なのです」

 

 腕を組んで頷くのは麗日さん。

 昨日の戦闘訓練とその後の様子を見ている限り、緑谷くんと爆豪くんのことなんだろうけど……君はどのポジションの誰なんだ……?

 

 謎が増え混乱していると、教壇の相澤先生がまとう空気を一変させる。

 

「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに……」

(((何だ……!? また臨時テスト……?)))

 

 教室の空気がざわりと揺れる。やはり、先生のイメージは初日の除籍宣言だ。警戒する生徒たちだったが……。

 

「学級委員長を決めてもらう」

「「「学校っぽいのきたーーー!!!」」」

 

 予想以上に普通の宣言に一気に緊張が緩和したのはいうまでもないことだろう。

 ほんとにびっくりするからその雰囲気やめてくれないかなぁ……!? 遅刻関係かと思ってビビったぶん損した気分だよ。

 とはいえ、教室の空気が温まったのは、単に緊張からの解放感だけではないようだ。

 

「委員長!! やりたいですソレ俺!!」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!!」

「…………!!」

「ウチもやりたいス」

「僕のためにあるヤツ☆」

「リーダー!! やるやるー!!」

「俺にやらせろ!!」

 

 ……人気高すぎじゃない? 全員立候補してる勢いだよこれ。

 僕のイメージだと雑務って感じで誰もやりたがらない役職だった気がするんだけど……。

 

「ウサトくんはやらへんの?」

「むしろ、なんでこんなに人気なの……? 委員長特権みたいなのがあるとか?」

「そういうのはないんやないかな……」

 

 麗日さんの話によると、ヒーロー科においての委員長は、集団を導くリーダーとしての経験を積める機会に他ならないんだとか。トップヒーローたちは自分たちで事務所を持っているから、そういった経験を早いうちに積んでおきたいというのがこの異様なまでの人気につながっているらしい。

 説明してもらっておいて悪いけど、やっぱり僕は自分がリーダーをしている姿が思い浮かばなかった。

 

「特権なしならいいかな……」

「ちなみに、何をするつもりやったの?」

「筋トレ」

「自分そればっかやな!?」

 

 どこかデジャブを感じる会話と共にドン引きする麗日さんが残った。

 

 

 

 その後、飯田くんの提案もあり、自己推薦ありの投票形式で委員長決めは行われ、緑谷くんが三票、八百万さんが二票を獲得して、それぞれが委員長・副委員長に決定した。

 

 そして、発案者の飯田くんは……

 

「ゼロ票……分かってはいた……! さすがに聖職といったところか……!」

 

 無念のゼロ票に沈んでいた。なんというか、まっすぐな男なんだろうな……彼は。

 

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