個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第17話

「で、結局、ウサトくんは誰に入れてたの?」

 

 席に着き、焼き魚定食に手を付けた葉隠さんが、箸だけで器用に骨を外しつつ、僕に問う。

 お昼時、食堂ではちあった僕たちはせっかくなら知り合いと食べようと一緒の席についた。その第一声がこれだ。

 

「誰にって、朝の委員長決めのこと?」

「そうそう! 誰? 誰に入れたの?」

 

 興味津々といった様子で、ぐいぐい聞いてくる葉隠さんに苦笑する。恋バナと同じテンションで話すことじゃない気がするんだけど。

 

「僕は__」

「私はウサトくんに入れたよ!」

 

 自信満々にそうやって宣言してきた彼女に思わず目をぱちくりさせてしまう。

 聞いておいて自分で話し始めるんじゃないとか、言いたいことはいろいろあるけど、それ以上に……

 

「僕に?」

「そう!」

「驚いたな。僕は、葉隠さんに入れたんだよ」

 

 本当に驚いた。まさかそんなニアミスが発生していたとは。

 

「え!? ほんとに!?」

「ほんとほんと。そんなところでウソつかないって」

 

 葉隠さんもかなりびっくりしたようで、口に手をあてオーバーなぐらい驚いて見せる。

 つまり、僕か葉隠さんのどちらかが自分に票を入れていれば、その時点で二票。八百万さんに並んで、副委員長候補になっていたことになるわけで。

 僕はもともとやるつもりはなかったけれど、一番最初に手を上げていた葉隠さんは十分に可能性があったということなのだ。

 

「ち、ちなみになんで私に入れたのかって聞いてもいいの!?」

「うーん、そんなに深い意味はないけどね……」

「それでもいいからー!」

 

 思わぬ得票だったのか腕をぶんぶんとして喜んでいる葉隠さんをなだめつつ、僕はこほんと一つ咳き込む。

 

「単純に話した回数が多い分人となりを一番把握してたから。ノリも合うしね。あとはまぁ、見てみたかったから……かな」

 

 そう、見てみたかった。

 昨日本人にも苦言を呈されてしまったけど、僕はどうしようもなく葉隠さんと先輩を重ねてしまっている。それは、完璧だったころの先輩じゃない。いろいろ残念になっちゃったけど、僕が人として大好きだったあの先輩に。

 先輩は、自分の本位で生徒会長になったわけじゃなかった。けれどもしも、先輩と似た彼女が自分の意志で、それを成したいと思っていたとするのなら、僕はそれを見てみたいと思ったんだ。

 本人には絶対言わないけどね。めんどくさいし。

 ……結局、自分に投票してなかったわけだし無駄になったけど、それはそれでよし。

 

「うえ~、結構興味本位な感じ?」

「うん、そんなところ。そういう君は、なんで僕に?」

 

 不本意そうな声を隠しもせずにうなだれる葉隠さんに、軽い調子で返しながら話題をずらす。これ以上は、ちょっとめんどうだからね。

 僕が話題をかえると彼女は、にひひっと声を漏らしながら顔を上げた。

 

「そりゃあ、ウサトくんが頼れると思ったからに決まってんじゃん」

「あざとい。30点」

「点数辛いなぁ!? ていうか、本気だって! 本気で頼れると思ったの!」

 

 そういうと、彼女は雰囲気をまじめなものに変える。

 

「ちょっとだけど分かったよ。どんなに辛くても、君は逃げないでしょ。私は、そんな人に皆を引っ張ってほしいなって思ったの」

「葉隠さんそれって……」

 

 この短い期間でそこまで僕のことを見ていたのか。そしてそれが意味することはつまり……

 

「……つまり僕の『ムキッ! クラス皆で筋トレ計画☆』に気付いて……?」

「違うよ!? そんなことするつもりだったの!?」

 

 当選しなくてよかったぁ!? と驚きの声を漏らす彼女。おや、違うのか。

 

「筋肉とかじゃなくってさ! なんというか心とか、もっとそういうのだよ!」

「ここ、ろ……?」

「なんで心がないバケモノみたいな反応してるわけ……!? ってそうじゃなくって! 作戦とはいえ、轟くんみたいなすごい個性に何度もまっすぐ突っ込んでいったりそういうの!」

 

 彼女は、ぽりぽりと頭をかくような動作をするとこちらに顔を近づけてくる。手でこちらをちょいちょいとしているし、やけに真剣な様子の彼女に僕もそちらに顔を寄せる。

 

「正直さ、ウサトくんは怖かったりしないの?」

「……そりゃあもちろん————」

 

 その後に続いた僕の言葉は、突如けたたましく響き渡った警報によって見事にかき消された。

 

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

 

 けたたましく鳴り響く警報。和やかだったお昼時の食堂は、一転して緊張感の走る空間へと変化した。優秀さ故か、それとも単なるパニックか。食堂にいた人々が大きな波となって出入口へと殺到する。

 この波はまずい。この中に葉隠さんが飲まれたら、朝のマスコミどころの騒ぎじゃなくなる。大けがで済めばまだいい。最悪死にかねない。

 僕は素早く葉隠さんの襟首を掴むと人混みから引っこ抜くようにして、こちらに引き寄せる。一瞬、苦しそうな声を上げるけど緊急事態なので勘弁してほしい。一応、治癒魔法をかけつつ腕の中に保護する。

 

「セキュリティ3って今朝言ってた雄英バリアの?」

「知らんのか一年!」

 

 そのまま人の波から葉隠さんを守りつつ、彼女に知っているか聞いていると隣にいた生徒の一人が驚いた様子で話しかけてきた。

 

「そういうあなたは何か知っていそうですね!? なにが起こってるんです!?」

「とにかくやべぇってことだ! お前らもはやく避難しな!」

 

 なんだこいつ……! 結局何の情報もねぇ……!

 とりあえず、避難を促してるあたり悪い人じゃないのだろうし、今はそれどころじゃないので、一旦放置することにした。

 周りの声を聞いている限り、何者かが校内に侵入したということらしい。

 制服を着てはいるけど、それでも存在感が薄い葉隠さんは危ない。彼女を抱えてジャンプ一番、天井近くにあった配管のひとつに飛びついて避難する。片手で配管を、片手で葉隠さんを支えているような状態で辺りの様子を見渡した。

 

「いてえ!」

「押すなって!」

「ちょっと待って倒れる!」

「押ーすなって!」

 

 食堂はパニックに包まれていた。

 怒号が飛び交い、人々が一斉に扉の方へ向かうせいで、今にも二次災害が起こってもおかしくない。

 切島くんやその他ヒーロー科と思われる生徒の数名が鎮静化を図っているが、焼け石に水の状態だ。

 考えろ。こんな時、ローズだったらどうするか。

 

 ……だめだッ、恐喝しか出てこない!

 

 あまりにも毒されすぎている思考回路に頭を抱えていると、人混みの中で麗日さんに手を伸ばす飯田くんを見つけた。

 手が届くと飯田くんがふわりと浮き上がり、空中ですさまじい勢いで回転しながら出入口の扉の

上部へ突撃。鈍い音を立てて、非常口表示の少し上の壁にたたきつけられた。

 

「大丈ー夫!!」

 

 特別なものではない。けれど、大きな声で、短く、端的に、それでいて大胆に発された言葉は、一発で混乱する群衆に届き、やがてパニックが収まってゆく。

 一時は人死がでるのではとさえ思った大混乱は、飯田くんの機転と体を張った行動によって見事に鎮火されたのだった。

 

 結局、今回の騒ぎは、マスコミの暴走によるものだったらしい。校内に侵入されることなど今までなかったがために、警報は異常事態としてそれを通知。なまじ賢かった故に事態を大きく捉えすぎた生徒たちがパニックに陥ったというのが事の顛末である。

 侵入したマスコミはすぐさま到着した警察によって無事撤退。さすがに犯罪者のレッテルを張られるわけにはいかなかったのだろう。おとなしく校舎から出て行ったらしい。

 

 さておき。

 

「かっこいいね! 飯田くん!」

「ね。完璧にパニックを収束させちゃった。」

「惜しかったよね~! 今朝の投票と今のやつ、タイミングが逆だったら、飯田くんに入れてたかも!」

 

 興奮した様子の葉隠さんが腕を振り回す。抱えられてる状態で暴れないで……マジで危ないから……!

 けれど、葉隠さんの言うとおりだ。少なくともこの場の誰もが成し得なかったことを飯田くんは成し遂げたのだ。ポーズは珍妙だけど、かっこいいじゃないか。

 

 この会話の通りというわけではないけれど、この後飯田くんは、あの時食堂にいたクラスメイト達の支持と委員長である緑谷くんの指名にのっとり、無事委員長へと昇格を果たした。

 収まるところに収まったという言葉が似合う、そんな一連の出来事であった。

 

 

 そんなことがあった一方……

 

(最新防衛システムを突破できるマスコミってなんだ……?)

 

 僕は、この世界の新しいカルチャーショックに脳を焼かれていた。

 

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