個性『治癒』の間違った使い方 作:のーし
PM0:50
1-Aの一同は、教室に入ってきた相澤先生に目を丸くしていた。
次の授業はヒーロー基礎学。予定では、オールマイトが講師を務めるはず。しかし、こと相澤先生となると、授業を間違えるなどという初歩的なミスをするとは思えない。何か意図があるのだろうか?
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイトそしてもう一人の3人体制で見ることになった」
生徒たちの疑問に答えるように、相澤先生が事情を説明する。
ふむ、三人体制か。ということはなにか人手がかかるような訓練だったりするのかな?
疑問に思っているとちょうど瀬呂くんが質問をしてくれた。
「ハーイ! なにするんですか!?」
「災害水難なんでもござれ、
人命救助。その言葉を聞いて、体がうずく。
人の命を助ける。僕の個性において最大の見せ場といっても過言ではない。
人のことを治すことができる。言ってしまえばそれだけの個性。だけど、この個性のおかげで助けられた命がいくつもある。僕はその重みを知っている。
それを今日はプロに指導してもらえるのだ。ここでたぎらずいつたぎるという内容である。
みんなも思うところはあるようで、クラスが一気に盛り上がる。
「レスキュー……今回も大変そうだな」
「ねー!」
「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!? 鳴るぜ! 腕が!」
「水難なら私の独壇場。ケロケロ」
「おい、まだ途中」
ぎろりと睨みつける先生に、震えあがる一同。毎度毎度、度が過ぎるんだよなぁ……。
訓練にて使用する専用の施設が少し離れた場所にあるということで、僕たちはバスにて移動をすることになった。
コスチュームの着用は任意という話だったけれど、前回の授業でコスチュームが破損した緑谷くん以外は、皆コスチュームで行くようだ。葉隠さんも手袋と靴を装備(?)している。災害といったら、尖った岩とか、火とか、色々出てきそうなものだけど、やはりヒーローとしての活動となるとコスチュームははずし難いものなのかもしれない。
そういう僕も例に漏れずコスチュームだ。というか、今日こそはこの格好でなければ。
白服を身にまとい、集合場所へ行くと、少し離れたところにいた轟くんが目に入った。戦闘訓練までは頭部まで氷で覆っていたけれど、以降は顔を出すようにして氷で体を覆っている。何か心境の変化でもあったのだろうか? それがポジティブなものならいいな。
そんなことを考えつつ、飯田くんの指示に従って列に並ぶ。
それにしても……学校の中をバスで移動するってなんだ……?
●
訓練場へと向かうバスの中で、僕は目をつむっていた。
なんだか落ち着かない。バスに乗ってからずっとだ。リングルでこの手の乗り物を使うのなんて、大事な用事しかなかったからかな? 自分の中で何かがざわざわとうごめいているような嫌な感覚に僕はさいなまれていた。
嫌な感覚を消そうと息を大きく吐き出す。けれど、なかなか胸のざわめきが息を潜めることはない。
しばらくの間、瞑目しつつ心を鎮めていると、前方からクラスメイト達のにぎやかな会話が聞こえてきた。
『派手で強ぇつったら、やっぱ轟と爆豪だよな』
『そんで、頭のおかしいのがウサトくんだね』
ほほう……?
「喧嘩なら買おう……上鳴くん」
「俺じゃない! 後半言ったの俺じゃないだろ!」
突然耳に飛び込んできたあんまりな物言いに思わず指を鳴らす。上鳴くんは突然目覚めた僕に激しく動揺していた。
けど妙だな。切島くんの言葉を引き継ぐように話していたから上鳴くんだと判断したものの、彼は自分ではないと言い張っている。これは嘘か誠か。僕もさっきまで別のことに気をとられていて判断がつかない。
「嘘はよくないよ、上鳴くん」
「葉隠!?」
僕の悩みは、葉隠さんの密告によって一気に解消された。やはり持つべきは友だ。あらかじめ葉隠さんを前側に配置していたのはこのための策よ! 嘘だけど。
謎が解けた僕は上鳴くんににっこりと微笑みかける。
「なるほど。どうやら、間抜けは見つかったらしいね」
「そうだな! 今俺の目の前でドヤ顔してるわ!」
「ウサトちゃん落ち着いて。さっきの言葉、後半は女の子の声だったわ。つまり、上鳴ちゃんではないのよ」
「なん……だと……!?」
「なんでショッキングみたいな顔してんの!? クッソ! 茶番だこんなもん!」
突如蛙吹さんの口から告げられた衝撃の事実。これにはこちらもパニックだ。
何が真実だ? 何を信じればいい?
ええい、こうなれば!
「……い、いや、最初からわかってたけどね……?」
勢いでごまかす!
「上鳴落ち着け! お前の個性じゃ、周りも巻き込んじゃうだろ!」
「ええい、止めるな切島! こいつは! このバカだけは一発ぶん殴んないといけないんだ!」
激昂して立ち上がろうとする上鳴くんを切島くんが必死に抑えているのがとても印象的でした、まる。
結局、相澤先生が止めるまで続いたバカ騒ぎは、僕の胸中にあった嫌な感覚を忘れさせるには十分なものだった。
ちなみに、上鳴くんにはあとでちゃんと謝った。ごめんね。
●
やがてバスはとてつもなく大きなドーム状の建物の前で止まった。入り口近くだとちょっと遠近感がおかしくなるほどに大きい。このサイズの建物って、一高校が保有していていいものなの……?
ここまでのものを用意できるとなると、もはや小国に匹敵するレベルの予算を持っているのではといぶかしんでしまうほどだ。ルクウィズの学園都市と同じようなものと考えればあるいは……?
魔法という無二の技術を研究するため各国が資金を出し合ってようやく成立させていた学園都市と比較して、なお異様に見えてしまうのは、やっぱり技術レベルの差とかそういったものなんだろうとなんとか自分を納得させる。
先生の先導にしたがって中に入ると、ただの広い空間というわけでもなく、いくつもの建造物、おそらくそれぞれが訓練施設であることがうかがえるそれらが入れ子のようにして収納されていた。
「すっげー! USJかよ!?」
切島くんが驚きの声を上げるとおり、まるでテーマパークのような出で立ちだ。ここで行うのはアトラクションではなく命を掛けた訓練であるとは分かっているのだけれど、それでもどこか高揚してしまう施設設計である。
興奮しっぱなしの僕たちの元へ、ぽてぽてという足音が似合いそうな丸っこい宇宙服の人がやってきた。マスコットにしか見えないけれど、あれがまさか……
『ようこそ! 1-Aの皆さん! ここは僕が作った演習場! その名も……』
『ウソの災害や事故ルーム!(USJ)』
「「「ほんとにUSJだった!?」」」
版権は大丈夫なのかと心配になりそうな施設紹介をしてくれたのは、スペースヒーロー:13号。今回のレスキュー訓練のメイン講師に当たる人物だという。ゆるきゃらとかその類にしか見えない見た目をしているが、災害救助のエキスパートとして目覚ましい活躍をしていると同時に、その紳士的な対応が大人気のヒーローなのだとか。
このUSJも名前はアレだけど、その施設は充実の限りを尽くしている。水難事故・土砂災害・火災……etc.etc.あらゆるシチュエーションでの救助を想定された設備は、極めて実践に近い形で救助訓練を取りなせる。訓練に使用する施設としてはこれ以上ないと言っていいかもしれない。少なくとも、僕自身は新しい形の訓練が楽しみでならない。
緑谷くんと麗日さんも訓練が楽しみなのか飛び跳ねて……いや、あれは単純に13号先生のファンだな。なんにせよ気合が入ってるのはいいことだと思うよ。うん。
『えー、始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……』
(((増える……)))
出るわ出るわ。指折り数えていたのがあっという間に伸ばす方のフェーズに入った。さすが専門分野を持つヒーロー。普通とは違う視点でいろいろと思うところがあるんだろう。
『皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます』
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
緑谷くんがすかさず補足を入れる。なるほど、遠く離れている人も、その人の場所にたどり着く為の障害も、全て無視して救助に迎えるわけか。現場では一分一秒を争う事態が多い。そうした中でその踏破力と打開力は非常に有用に働くわけだ。
それはそれとしてヘドバンのような勢いで頷く麗日さんは大丈夫なの……? 大丈夫? あ、そう……。
ただ補足に入ってくれた緑谷くんのものとは対照的に、13号先生の声は明るいものではなかった。
「しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう」
その言葉に轟くんや爆豪くんをはじめとした何人かが思い当たる節があるように顔を歪める。そのほかの生徒たちも設備や先生に浮かれてしまっていたところを現実に引き戻されたように真剣な表情を浮かべる。僕だってそうだ。というか、僕に至っては個性なんて使うまでもなく拳ひとつで人を殺すには十分の力を持っている。そのために振るうことは決してないけれど、その危険性は僕自身が誰よりもよく理解していた。
「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる
相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。
この授業では心機一転! 人命のために個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。救けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな!」
改めて、自分自身の力について再認識させてくれるような13号先生の演説に生徒たちから歓声が上がった。僕も決意を新たにしたような感覚で拍手を送る。
そんな時だった。広間に異変が訪れたのは。
それははじめ、黒い点のように見えた。
黒い点は渦を描くようにして広がり、やがてその中身があらわになる。
黒い靄の中でこちらを覗くのはナニカの目。そして、その奥にある途方もない悪意だった。
ぞくりと、その目を見た瞬間に肌が粟立つ。なりやんでいたはずの胸騒ぎが止まらない。
右腕の籠手を展開して前に躍り出る。
「一かたまりになれ!!」
「下がってください! 早く!」
相澤先生とタイミングはほぼ同じだった。
余裕がない。つい戦場にいたころの口調が出てしまう。
尋常でない様子に気が付いたクラスメイトたちに動揺が走る。
「な、なんだありゃ!? また入試のときみたいなもう始まってんぞパターン?」
違う、あれは——
人を殺せる連中の目だ。