個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第2話

 街を駆け回って、危なくなっている人を見つけては拐って治す。やることはリングルにいた頃と何も変わらない。

 

「モクヒョ———」

「ふんっ!」

 曲がり角で殴りかかってきたロボットを、一撃で沈黙させて駆け抜ける。

 このくらいの相手なら奇襲でも問題なさそうだ。拳を見てからでも僕の方が早い。

 

 合図から3分ほど経った。

 思った以上に市街戦が厄介だ。死角が多く、見えない位置に味方がいるかもしれない。敵が潜んでいるかもしれない。さまざまな無視できない可能性があって、どうにもスムーズに動けないでいる。

 

「トマ———ウゲェ!?」

 進路を塞ぐように飛び出してきたロボットがおもちゃのように吹き飛んだ。

 避けられないタイミングだったから覚悟を決めて突っ込んだけれど、案外軽いな……?

 

 前線もなにもあったものではない陣形もやり辛さの一因だ。魔王軍との戦いでは前線に飛び込みさえすれば、ほぼ必ずと言っていいほどに怪我人がいた。だから、怪我人を探すということにそれほど意識を割く必要がなかった。

 だが、今回は何故か誰一人として協力というものをしようとはせず、市街地全体に広がるようにして戦闘を行っている。カバーという概念がないのか、ミスをすれば必ず危ない場面になってしまう。

 助けに入る判断が鈍る。

 大丈夫かもしれない、けど、必ずやられないで済む方法があるなら、僕はそちらを選ばずにはいられない。

 こんな形でローズからの教えを破ることになるとは思わなかった。

 

「チョッ!?」

 ロボットの足元で倒れていた女の子を目の前で掻っ攫う。

 後ろで何か慌てるような声が聞こえたが関係ない。これが僕の仕事だ。

 

 加えて、いやらしいのがその人数だ。入り口でざっくり確認した限りでは、仮に全員が負傷したとしても、ギリギリ一人でカバーし切れるということが、見捨てるという判断を鈍らせる。死者が出ないことはいいことに違いないが、何かしらの意図を感じる人員のさかれ方だ。

 まだまだ体力には余裕があるけど、この分では平原で戦う時よりもずっと早くにへばってしまうだろう。

 いや、今はそんなことはいい。とにかく、集中力を切らさずに怪我人を探さないと。

 

 あ、その奇襲はダメ。

「プゲラッ!?」

 金髪の青年に飛びかかろうとしていたロボットに、治癒魔法弾をぶん投げる。

 真横から突然飛んできた緑の豪速球に、ロボットは錐揉み回転をしながら墜落した。

 

 更に3分ほど経った。手傷を負う人数も増えてきているし、正直対応が間に合っているとはいえない。

 わかっている。自分が全てを守ることができるほど強くはないことなど、痛いほどにわかっている。

 それでもなお、自分の力不足が口惜しい。

 

「くそう、やりにくい……!」

「「「ドコガダッ!?」」」

 上から飛びかかってきた三体を一振りで弾き飛ばしながら、思わず呟く。

 ……にしても、バリエーション多いなロボット軍団。

 

 

 怪我人を探して走っていると、奇妙な人物を見つけた。

 紫色の髪で、目の下に黒々とした隈をこさえた少年だ。

 他の子達が多少危ない場面を作りながらも一体のロボットに苦戦している様子を見せない中、彼はただ一人だけそこらの一般人のように生身でロボットと戦っている。

 否、戦っているというのはやや不適切か。少年は、逃げ回りながら半ばやけになったかのように辛うじて抵抗しようとする意思を見せているだけだ。

 あれでは長くは持たない。僕がそう思ったのとほぼ同時、少年はロボットの攻撃を正面から受けてしまった。

 

「よっと」

 

 吹き飛ばされた少年を、壁に打ち付けられる前に掻っ攫う。

 少年に治癒魔法をかけながら町を駆ける。少年の体は多少鍛えられてはいるものの、お世辞にも戦闘に向いているとは言い難い。

 しかし妙だ。ロボットに殴られた割には傷が浅い。思えば、ここまで攫ってきた人たちは皆、戦闘の続行は厳しいものの致命傷には至らない程度の怪我で済んでいた。てっきりうまく衝撃を逃したとかそういうのかと思ったが、この少年の様子を見る限りでは違うらしい。

 致命傷は与えず、しかしながら、続行は許さず。そんな「手加減」が施されている。ぶっころすなどと、随分荒っぽい言動をするかと思えば、殺さない程度に手ごころを加える。あのロボットとその制作者の意図がまるでわからない。

 

 いろんなことに思考が引っ張られつつ、もう片方の腕で、2人回収して、1人を治癒魔法弾で弾き飛ばして攻撃を回避させていると、肩口から、うめき声が聞こえてきた。

 

「うぅん……?」

 

 どうやら紫髪の少年が起きたようだ。目が覚めたならここからは自分で逃げてもらうこととしよう。

 

「治療はしてあります。厳しそうなら前線から離れてくださいね」

 

 そのまま少年を下ろして走り去ろうとすると、後ろから声がかかった。

 

「待て!」

「あ?」

 

 その声に応えたと同時、奇妙な感覚に襲われる。

 なんだ……? 頭にモヤが……ってこれ目の前のこいつの能力か! 第3軍団長のような能力。このタイミングで僕に使ってきたってことは、こいつは敵なのか?

 ……分からない。とりあえず、いったん解除しよう。

 

「ふんっ!」

「なっ!?」

 

 いつも通り、力めばもやが晴れた。精神の抵抗力には自信がある。やけに動揺しているようだが、まずはこの人がなぜこんなことをしたのか聞き出さないといけないな。

 

「……どうした? 今の、お前がやったのか? お前は、敵か?」

 

 いつでも臨戦体制に入れるようにプレッシャーを与えながら話しかけると、相手はやけに動揺した様子を見せた。

 

「っ!? な、なんで喋れる!?」

「うるせぇ、お前に構ってる時間はないんだ。さっさと答えろ」

「待て! 違う! 敵じゃない! びっくりして個性を使っただけだ! というか、敵味方なんてシステムじゃないだろこれ!?」

「敵じゃない? 個性? ……すみません。早とちりでしたか。治療はしておきました。ここは任せます」

「お、おう。って違う! お前こそ、なんでいきなり俺を連れてきた!? 俺はまだやれたぞ!」

「ごめんなさい。防げてたんですね。でも、死んで欲しくないんです。最初の場所にいた人たち、誰にも」

「死!? 何言ってるんだお前!?」

「すみません、もう行きます!」

 

 何故か取り乱す少年を置き去りにして駆け出した直後、凄まじい破砕音が鳴り響いた。

 戦場に動きがあったと見ていいだろう。味方が勝負を仕掛けにいったか、あるいは……。

 

 破砕音を頼りにたどり着いた現場で僕が見たのは、巨大な体躯をもって街を破壊するロボットの姿だった。

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