個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第22話

 衝突の勢いで舞い上がった土埃が晴れる。僕が繰り出した一撃は、手だらけ小僧ではなく、僕を吹き飛ばしたガングロ男によって止められていた。先ほど同様一切堪えた様子もなく僕の前に立ちはだかっている。

 そうだよな。自分が危なくなったら、そいつを動かすよなァ……!

 

 それを……待っていた!!

 

「ここだ!!」

 

 魔力を限界まで集中させた右腕に、限界を越えて魔力をつぎ足す。

 右腕を肘まで覆う籠手が、緑色の極光を放つ。

 

「治癒破裂掌!」

 

 瞬間、あたり一面が緑色の眩い光によって掻き潰された。

 

「ぐぁあ!? 目がぁああ!?」

 

 技を放つことを初めから決めていた僕以外は皆一様に視界を奪われる。

 系統発破、極限まで魔力を集中させることで、自身の魔力を意図的に暴走させ、魔力の爆発を起こす技術。言うなれば暴走した力だ。間違った使い方と言ってもいい。見た目は爆豪の個性に近く、やっていることは緑谷のそれに近いかもしれない。

 もっとも、その威力は比べるまでもない。治癒魔法を強化した魔力の暴走を利用している性質上、最終的な攻撃力はゼロだ。ローズに殴られたと錯覚するようなバカみたいな痛みと衝撃があるだけ。

 

 だが、今重要なのはその威力よりその暴走した魔力から繰り出される激しい光だ。

 名付けて強化・治癒目つぶし。治癒目つぶしの範囲技で、一帯の視界を優しく奪う、優しさに満ち溢れた技だ。

 

 どこぞの悪役のようなセリフを吐きつつ目を抑えている手だらけ小僧共は一旦放置。まずは、戦えない皆をあいつらから引きはがす!

 あっけにとられる水場の三人組と倒れ伏す相澤先生を回収すると僕はさっさと駆けだした。

 視界を奪って全員救出する。それが、脳無に碌なダメージを与えられないと分かった瞬間から考えていたプランだった。

 

「ハッハァ! バカが! はなからテメェらみたいなめんどくさそうのと、まともにやりあうわけねぇだろ間抜けェ!」

「ケロ、助けてくれてありがとう。でも顔が最高にゲスいわ、ウサトちゃん」

 

 目潰しを食らった馬鹿どもを煽り散らかしつつ一目散に逃げる僕に、蛙吹さんがどこかジトっとした目を向けてくる。やめてくれ。その視線は僕に効く。

 くっ、苦しい! 話題を変えないと!

 

「そっ、それにしても! さっきのヤツ何か分かる? 僕の攻撃を食らってダメージがないことといい、あのパワーといい、本当に人間か怪しいんだけど」

「ウサトちゃん、ひょっとしてそれはギャグで言ってるの? そっくりそのままあなたに帰っていくけど」

「…………」

 

 やばい。あまりの正論にさっきまで折れてなかった心が折れそう。

 

 やったこと自体は悪くなかったはずなのに……と、少しいたたまれない気持ちになりながら、担ぐ四人に治癒魔法を掛けつつ、安全そうな場所まで足を進めるのだった。

 

 

 まわりに人がいないところに辿り着いたところで四人を降ろす。相澤先生は完全に気絶している。脳にダメージがあったのかもしれないな。傷は治したけど、これはしばらく起きないぞ。

 このあたりが限界だろう。そろそろあいつらの視界も復活する。

 

「三人とも、相澤先生をお願い。できる限り接敵を避けて皆に合流するんだ」

「……ウサトちゃんは?」

 

「僕はあいつの足止めをする」

 

 誰かが、やらなければならないことだ。なら、その役目は僕でありたい。誰かが悲しむことなどないように、守りたい。僕の行動原理は、昔から何も変わらない。

 あいつのことを放置すれば、際限なく犠牲が増えてゆくことになる。

 そうさせないために、僕は死ぬ気であいつらを足止めする。

 

「まって、ウサト君! さすがに一人じゃ無理だ! 僕も行く!」

 

 決意を固めていると、緑谷くんが助力を申し出る。けれど、僕は首を横に振った。

 

「いいや、僕一人で行く。その意図がわからないわけじゃないだろ」

「でも……!」

「君が付いてきたらどうなる」

「足手まといなのはわかってる! 僕じゃあ、すぐにやられ……

「あの化け物の前に、僕が君を殴り飛ばす。何よりも優先してね」

……ちゃうのはわかってるけど、ってええええええぇッ!?」

 

 当たり前だろう。君は攻撃を受けても攻撃をしてもとんでもない怪我をするんだから。コントロールもできない状態でついてこさせるつもりもそんな余裕もない。

 

「もう一度言うけど緑谷くんたちは相澤先生をお願い。まだほかのヴィランたちもいるから、迎撃できる体制を整えて」

「でも……」

「次言ったら本気で殴る」

「……こっちは任せて!」

 

 納得いってなさそうな顔をしてるけどよし。

 

 これ以上ごねられても困る。僕は振り返ることもなく、奴らのいる方に向けて飛び出した。

 

 

「黒霧ィ……作戦変更だ! あの白服だけは殺す! 殺してから帰るぞ……!」

「し、しかし……!」

「うるさい! 粉々にするぞ……!」

 

 なんか戻ってきたらあっちが仲間割れしてる……?

 

 とりあえず、奴らのターゲットは僕に向いていることがわかった。これは好都合だ。あとは、僕が生き残るだけ。

 

「ずいぶん嫌われたものだなァ……? 思春期か、手だらけ小僧ォ?」

 

 奴らの前にわざと足音を立てて姿を表す。

 正対して分かる。強い。この三人とマトモにやりあったら、十中八九勝てない。

 あくまでも僕がやるのは、時間稼ぎだ。この場では、僕は倒せない。そうやって認識させることだけが、僕に残った勝ち筋だった。

 となれば、やるべきは奇襲ではなく会話だ。余裕がないことを悟らせてはいけない。時間を稼げ。プロヒーローたちが到着するまでの時間を。プロに目の前の大男が倒せるのかは分からないけれど、とりあえず話はそこからだ。

 勝てないなら勝てないなりに、全力で防御に回っていく手を邪魔してやる……! しぶとさと、すばしっこさと、あきらめの悪さと、往生際の悪さにかけては僕の右に出るものはいないぞ……!

 

「てめぇ!! よくものこのこ出てこれたよなぁ!」

「騒ぐなよ。うれしくなっちゃったのか?」

 

 細身の男、確か死柄木というらしい男は、僕の煽りにわなわなと震えていたが、やがて冷静さを取り戻したのか、嗤いはじめる。

 

「お前もバカだよなぁ……。こいつは、オールマイト用の兵器だぜ? それに勝てると思ってのこのこ出てきちゃうあたりよぉ?」

「その程度で勝てると思ってるお前のオツムの問題じゃねぇか?」

「っ殺す!! 脳無、やれ!」

 

 思ったよりも沸点の低かった男の言葉をきっかけにして、脳無と呼ばれた大男が飛び出してくる。

 もう少し時間を稼ぎたかったけどしょうがない。

 

 さぁ、しのぎ切るぞ。ここからは、小細工なしの正面戦闘だ。

 飛び出してきた脳無と僕の右腕が同時に振りかぶられて、正面からぶつかった。

 

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